[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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8歳までに経験しておきたい科学体験の作法

カテゴリ[科学に佇む2007年] 2007/12/11
この本スゴイ。

◆左表紙

 『8歳までに経験しておきたい科学』
 J.D.ハーレン, M.S.リプキン (著)
 北大路書房 (2007/09)
 [ Amazon ] [bk1]

 これはすごい有益なコンセプトじゃないか。
 科学に限った話じゃない。
 「自主的に学ぶ面白さを体感させるのはどうすればいいか/自主的に学ぶ面白さを実感する環境はどうやれば醸成できるか」
 将来の思考力・探究力を培うにはどうすればいいか、具体的な方法を教示してくれる。
 抽象的じゃない、理念がどうのじゃない、すごい具体的なんだよ。

 テーマは「植物/動物/ヒトの体/空気/水/天気/岩石と鉱物/磁石/重力/簡単な機械/音/光/環境」と、「ええっ8歳までにこんなに体験できたらもうワンダーランドじゃない! 感性や才能が伸びなかったらおかしいよ!」ってなほどに多岐に渡る。それぞれについて、何種類もの体験授業のやり方を記してある。

1.こんな体験をさせてみよう
2.何を学習させる目的かを確認
3.用意するもの 道具
4.事前にしておく準備
5.斑活動をさせる
  作業をさせ、体験や考えを語らせる
  結果をまとめさせる
リンク 「8歳までに経験しておきたい科学」の目次 こんなにたくさんの実験体験コースが紹介されているんだよ。

 かといって、「科学ショーを見せてあげよう」のごとき浅薄なノウハウものではない。
 児童の体験感性を伸ばす実践の伝授が目的であり、教師の演芸やスタンドプレーのスキルを伸ばすのが目的の本じゃない。
 子どもを「どうなっているんだろう!?」探究に導く方法が書いてある。

 先月、日本の理科教育についてこんな記事が流れていたよね。
小中学生理科、考える力身につかず 国立教育研究所調査
2007/11 【日本語記事】朝日新聞 
http://www.asahi.com/science/update/1127/TKY200711270366.html

 理科の実験で、結果が予想と違った場合、原因を調べようという子どもは、小学校より中学校の方が少ない::: 8割以上の子どもが「実験や観察が好き」と答えたが::: 実験結果から考察したり活用したりする力はあまり定着していない::: 

 その反省に読む本として、これは最適じゃないか。

 思考促進、参加促進のコツ。
●正解が一つしかない質問と、いろいろな意見を出しあうための質問、それぞれはこう使い分けよう。p.44
●生徒の誰かが決定的な答を言ってしまっても、そこでおしまいにせずに参加児童全員が意見を言うまで、堂々巡りになってもいいから思う存分参加させる。誰かが答を言ったら終わりじゃない、萎縮させない。

... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

 思う存分参加させる。
 日本じゃどうなんだろう。
 カリキュラムに余裕がないと段取りを進めるのに精一杯で「クラスの誰かが答を言ったら終わり、次へ行く」になりがちだよね。これはカリキュラムに余裕がある場合でしか成り立たない段取りなんだろうか? いや、週一でもいいから「全員で存分に合議する」という体験は、やらないよりは無理してでもやったほうがいいかもしれない。
 いまどきの幼いお子さん達、「全員で存分に合議」してますか?
 そして、これはアメリカでのみ有効な結果ですか? 日本のお子さんもこれで伸びますか?
p.46
 鍵となる情報をある子どもが言ったからといって,そこですぐに意見交換をやめてしまわないことが重要です。同じ考えがくり返されるようになっても,参加している子ども全員が考えを言うまで,話し合いを続けてください。
 子どもは質問の答えを考え出すまでに多少の時間がかかることを,大人は見落としがちです。質問への答えが即座に返ってこないと,うまく指導できていないと考える人が多いようです。しかし,メリー・バッド・ロー(1996)の研究結果によると,その逆なのです。彼女が調査したところ,教師たちが子どもに与えていた回答時間の平均は1秒以下でした。そこでその教師たちに3秒以上待つよう指導しました。そうすると,子どもたちからの回答数が増え,より長い回答や,より多様で正確な回答が得られたのです。さらに長く教師が待つと,子どもたちはお互いの意見を聞き,それに対して意見を言い始めるようになりました。また,クラスで「優秀」と思われていない子どもたちもその話し合いに参加し始めたのです。これは何人かの子どもが答えただけでグループでの話し合いをやめてしまうと,多くの考えが未開拓のまま打ち切られるかもしれないということを意味しています。これでは,多くの子どもが,考えることや学ぶことに自信を失ってしまいます。幼い子どもは特に,考えを練り,それを表現するための時間が必要です。


 えこひいきをしないよう、クギも刺されている。
●女子や弱者の子にも平等に参加の機会を与える。
●ロールモデルになる科学者は、白人や男性ばかりに偏らないようにする。
 あちらは差別対策の先進国だしね。wink

「人はみなかけがえのない存在です。 自分はどのように見えるでしょうか」
 班のメンバーでお互いに体のサイズを測定させるんだけども、
「子ども1人ひとりの身長と体重を測ります。結果をノートの最初のぺ一ジに記録させましょう。(体型をからかうことは子どもを傷つけます。決して許してはいけません)」
 ナイス釘刺し。

 子どもへの目配り。
 この場面でこんなリアクションをする子の軌道修正はどうするべきか。
 地域への目配り。
 体験を裏支えしてくれるような、ご家庭や地域のサポートはどのように手配すれば好ましいか。
 すごいよ、教育現場だけじゃなくて、家庭や地域との連携がデフォルトで織り込まれているんだよ。
 これは日本向けにアレンジしてもっとコンパクトに新書で出してみるといいかもしんない。アレンジしなくても即戦力に使えるたいした本だ。

「人はみなかけがえのない存在です。 指紋は何を表わしているのでしょうか」
 それぞれ指紋を採って、「自分たちがとった指紋の模様は,自分だけのものであることを話しましょう」
 ふつうなら、へぇー指紋って面白いね、だけで終わりそうなところを、
 「「自分について」のノートに「私だけのもの〔右)」と「私だけのもの(左)」と書いて、指紋を貼りましょう。子どもたちの手形を掲示板に貼っておくと,保護者との懇談のときに一人ひとりのかけがえのなさを表わすよい掲示物になります。」
 すごい、道徳観形成から親御さんとの視点共有にまで。段取り熟してる。プロの手並みだ。

「私たちは感覚を通じてものごとを知ります。 聴覚で何がわかるのでしょうか」
 この体験の狙いは、「聴覚障害のある人を思いやる気持ちが育つ」。
 もう科学教育を超えてます。全人的な道徳教育になってます。

 本書のタイトル「8歳までに経験しておきたい科学」は、こうなるとかなり「間違っているんじゃないか」と思えてくる。だから微妙に本項は「8歳までに経験しておきたい科学体験の作法」と題してみたりした。
 うーん、もしかすると、西欧で言う「Science」と、日本で言う「科学」にはズレがある?
 「Science」は「科学」より広い射程を持った概念なんだろうか。
 「サイエンス」という概念が世の中に登場してきた黎明期の頃の話や語の由来/定義をどこかにメモっておいたはずなんだけれど、ちょっと今探し出せない。orz

 あと、「自分の歯を大切にすることに誇りをもつようにする」とか「空気の力を利用できることを誇らしく思う」「空気の動きでものが運ばれることを知り自信を深める」とかの「プライド強調」、self-esteem/自尊心を礼賛しまくる西欧的流儀が鼻につくところもあるけれど、対象が8歳までということだし、そんなには気にならない。

cover
Science Experiences for the Early Childhood Years: An Integrative Affective Approach

原書●幼小期のための科学経験:統合感情アプローチ
  Jean Durgin Harlan, Mary S. Rivkin (著)
 Prentice Hall College Div; 8 Sub版 (2003/4/21)
書籍情報と書評:アマゾン     .


 原書は第8版。ながく愛され、版を重ねるごとに洗練の度を深めてここまできている。
 知的栄養がたいへん豊富な本でございます。

リンク 「8歳までに経験しておきたい科学」の目次

 幼いときに接したものによって、その後の世界観が大きく変わってしまうよ(偏見含め)という話は、過去に → 『 原体験をこしらえる:進化心理学から環境教育』 あたりで。

 教師だけに読ませておくのはもったいない。 まずは親御さんにお勧め。goo


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