[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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サトシ・カナザワが厳しい道を選ぶ理由

カテゴリ[科学に佇む2007年] 2007/11/23
地雷原を走る男のウージー炸裂本です。トラタタタタタ。

◆左表紙

 『女が男を厳しく選ぶ理由』
 アラン・S.ミラー/サトシ・カナザワ著
 阪急コミュニケーションズ (2007/7/28)
 [ Amazon ] [bk1]


 この本を読んで、なぜ彼が、サトシ・カナザワが意気込んで地雷原を歩き回っているのか、わかったような気がします。
 → 2006/11 『 科学の地雷原を走る男:サトシ・カナザワ Satoshi Kanazawa 』

●右画
 昨日紹介した→『迷惑な進化』では、医学の徒が進化がらみの言説の向こうに、自分なりのあるべき姿を構築しようとしていた。
 シミュレーションプログラム研究では、文化の知見の薄いガジェット遊びの中で、模倣材料としての進化心理学の可能性を堪能していた
 感情科学では、進化心理学では見解が固まってきている論点を血肉にする以前のレベルで研究を進めている
 アンドロイド開発では、ユーザの感情反応の進化的由来に無頓着なまま無邪気に心理学とコミットメント
 社会心理学では、文化語りを、文化側との切り結びスキルを、欠いたまま社会に向けて進化心理学を説こうとしている
 教育学(教育現場当事者)では現場感覚優先で、厳密な論理よりは、いささかうさんくさかろうが気にせず「使える」論理を前に打ち出す

 そんな、それぞれがふつうに侵されたり偏ったりしている「分野の特色」の範疇ではないか。

... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

●画

 もともと、進化心理学という単独の分野は存在しない。さまざまな分野がさまざまな視点で「進化的に見たらヒト心ってのはこう見えるよな」と沙汰しさえすれば、分野問わずどこにでも発生してしまう、学際的ゲリラも可能なバトルフィールドだ。
 最初から進化心理学を専攻してここまで来ました、という層はまだ僅少。たいがいは各自、先に何かの分野に枠づけられてから、進化心理学に手を出しに来ている。お里が違えば流儀も違う。
 それぞれの論者が持つ分野のルーツを見てみるとおもしろい。
 何から進化心理学を語ろうとしているのか。

 サトシ・カナザワは、この本の中で再々自分の出自を語っている。
 社会学から進化心理学に参入したのだと。
 社会学は、往々にして受け手の心理を逆撫でする物言いをなさる。”社会の実態”を描き出すことができればそれでよし。
 炎上があっても気にしない、もしくは炎上するほどの「再考」を促すことをよしとする。
p.165
私たちはともに社会学の出身なので、ミクロな問題より、マクロな問題に関心がある。進化心理学の視点でマクロな問題を論考することは、社会学の分野で訓練を受け、進化心理学に転じた私たちにはうってつけの仕事と言える。

p.220
私たちはロバート・ライトの一九九四年の著書『モラル・アニマル』のたった一つの文章、「肥沃な土地がたくさんあるのに、それを耕す農夫はあまりに少ない −− 今のところ、これが進化心理学の現状である」を読んで、社会学から進化心理学に転じた。私たちは農夫になり、肥沃な土地を耕し始めた。今では状況は大きく改善されている。学部段階では心理学や人類学を専攻した多くの若い才能ある研究者が、進化心理学に進んでいる。進化心理学はいま最も成長めざましい学問分野と言えるだろう。

 これは彼なりの進化心理学宣言なのか。
 鬨の声をあげているのか。

 うーん、ほかに社会学出身で進化心理学をアジトにしている論者っていたっけ? 宮台真司はなんぼか進化心理学を論拠に使って持論を展開していたけれど、あくまで社会学からとしての物言いだし。

追記2008/01:

サトシ・カナザワ
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス経営管理・調査方法論講座の上級講師(準教授に相当)。
ワシントン大学社会学部を卒業後、アリゾナ大学で社会学博士号を取得。
社会学に進化心理学の視点を持ち込んだ初めての社会学者。
〜 ttp://item.rakuten.co.jp/book/4442187/


〓〓〓 EP 〓〓〓

 冒頭、まずは社会科学と進化心理学の対比をいきなりリストアップ。p.19〜

●人間の本性に対する社会科学の見方
 原則1 人間は生物学の対象ではない。人間だけは自然界の例外だ。
 原則2 人間の精神、脳だけは進化に影響されていない、別格扱い。
 原則3 人間はまっさらな心をもって生まれる。人間だけは生まれつきの本性を備えていない。
 原則4 人間の行動はほぼ100%環境と社会化によって形成される。
●人間の本性に対する進化心理学の見方
 原則1 人間は動物である。ちっとも特別な存在ではない。
 原則2 脳は特別な器官ではない。体の他の部分と同じ進化の産物だ。
 原則3 文化・学習も含めて、人間には生まれつきの本性がある。
 原則4 人間の行動は生まれもった人間の本性と環境の産物である。


 こう、違いを強調する(単純化する)ことによって、続く進化心理学的「なぜなぜ話」に向けてストレートにアクセルを踏み込む。
 でも、強調した違いは「前提」であって、論じる著者の流儀はたいへん社会学的なままだ。
挿画

 金髪女性がいつもいい思いをするのはなぜ。
 極端に黒い目の人が敬遠されがちなわけは。
 男性のペニスのカリは女の浮気が形作った。
 若い女性が虐待されやすいのは進化のせい。
 一夫多妻の社会では女の子は初潮が早まる。
 女は出世に必死にならぬようにできている。
 ・・・・・・・
 参照→ 2006/11 『 科学の地雷原を走る男:サトシ・カナザワ 』

 いかん、よく進化心理学は「なぜなぜごっこのような、こじつけだらけの分野だ」と悪口を叩かれるのだが、この本はまさにその、なぜなぜごっこの様相がスゴイ強くなっちゃってるじゃないか。
p.14
 この本では、「-であるべき」という議論をいっさいせず、「-である」に徹することで、この二つの誤謬[ ごびゅう:自然主義的な誤謬と道徳主義的な誤謬 ]を避けたいと思う。「あるべき姿」について語らなければ、どちらの誤謬にも陥ることはない。私たちはこれから述べる経験的な事実から道徳的な結論を引き出そうとはしないし、道徳律に導かれて観察を行うこともしない。
「ただ事実を述べ、説明する」
p.17
 この本では、多くの例外があっても、現段階で入手できる科学的な証拠から事実と考えられる観察と現象を指摘し、説明したいと思う。 [〜中略〜]  私たちはそのような事実から何らかの帰結なり結論を導きだすことはしない。ただ事実を述べ、説明するだけだ。

 そうスタンスを決めた、その結果がこれだ。
 偏った見解だけを紹介する結果になっている項、さほど確実ではない見解でも紹介してしまっている項、明らかに西欧ローカルな言説をユニバーサルであるかのように書いてしまっている項・・・
 臆せずこれだけ並べてくれると壮観だ。
 要するにすべては社会学の流儀が底にあるからか。

 「ただ事実を述べ、説明するだけだ。」
 この言がすでにヒト性質を錯誤しているようで空しい気がする。
 「ただ事実を述べ、説明」する行為の結果がどのようなものになるのかを見越せていても、「ただ事実を述べ、説明するだけだ。」と切り捨てるポーズ。いかにも社会学だなあと思えてしまう。

科学には「-すべき」という表現が入る余地はない。p.17

●右画
 いやいや。
 「〜したいのであれば」という前提があれば、「-すべき」という表現は、科学においても可能なのだ。
 そして読み手はたいがい「〜したいのだが」というテロップ付きの色眼鏡を通して科学言説を読みに来る。
 そも、たいがいの人間は、「〜したいのだが」という色香付きの色眼鏡なしでは、科学言説を読みには来ないだろう。

 科学言説を読めば「他人より有利に立てるのではないか(貶めるべき他者は存在する)」、科学言説を読めば「この世の不幸を解決できるのではないか(不幸は解決するべきものだ)」云々・・・価値言説抜きでは無理だ。
 カナザワもわかっているはずだ。わかっていながら、「ただ事実を述べ、説明するだけだ。」としらんぷりで気軽になろうとする。

●いや、もしかしてほんとに芯から『「ある」書きすればそれだけで正しい』というような科学的誤謬(もしくは科学的傲慢)の中にいるのだとしたら、これは・・・コミュニケーション上、重篤な状態かも。
●いや、いやいやいや。これはもしかしたら、「社会学的には」全く無問題なスタンスなのかもしれない。「社会学的には」たいへんお行儀の良い書きようなのかもしれない。
●いやー、そうではなくて、もしかしたらこれは「科学の人称性の問題」だろうか。
 → 『 科学における人称性:シリーズ物語り論 』
 「科学論文の記述に於いて、語りの「主語」をどうするか」そういう人称性設定の、範疇?


p.272  謝辞
 この本が日の目をみるまでには長い時間がかかった。扱っている問題が一部の激しい反発を招くおそれがあり、「政治的に正しくない」とみなされるような事柄も多々あるため、出版に際しては各方面の反対にあい、壁にぶつかった。三社の出版社から次々にオファーがあったものの、いずれも後になって契約を解消したいと言ってきた。

 各方面は、「この内容じゃまずいだろ」「そんな本は出せない」とエンガチョしまくってくれた。
 最終的には「気にしない」奇特な編集者がたいへん出版への力になってくれたとのこと。なにせその編集さんが、原書のタイトルを「Why Beautiful People Have More Daughters 」(どうして美しい人々には娘が多く産まれるの?) にしてしまったわけで、たいへん「気にしてない」もしくは「喧嘩上等」である雰囲気濃厚。(著者カナザワは、編集のせいでこんなタイトルになってしまったんだよごめん、とD.バスに謝っている p.272)

※2007/02 【日本語記事】 UK Today (JAPAN JOURNALS) 両親の容姿の美醜が、男女の産み分けを左右する!?
 容姿の美しい両親には、第一子として男児ではなく女児が生まれる確率が36%も高い:進化心理学者らロンドン大学経済政治学院の研究チーム

 _作品的には_正直言ってあまりおもしろくはない。(巷間向けに記すのであれば、もっとおもしろく記せるはずの内容だ)
 構成にしゃれっけはないし、提示は事務的だし、・・・ディスペンサーみたいだ。
 で、ぺっぺと示される見解・データを「そうか?」と検証思考をせねばならない(せずにはいられないような書きようである)のもかなり読んでいて面倒くさい、すらっと読めない。(検証をする癖がない人は、すらっと楽しく読めるのかもしれない。あ、実際すらっと読めているっぽい感想がアマゾンにあがっている

 ネタ的には、ためつすがめついじくって遊べる面白い話題が数々並べてあるので、チェキしておいて損はない。

〓ライン〓

補足その1
サバンナ原則-私たちの脳は石器時代のままだ p.29

 サバンナの話については
 → 『 人間の自然認知特性とコモンズの悲劇 』
のほうが、初心者にやさしくわかりやすい図解入り記述をしてくれているのでオススメ。

〓ライン〓

余談その1
サトシ・カナザワと、ジェフリー・ミラーの、公開書簡。
2006/07 Evolutionary Psychology 4:
Commentary
Miller, G. F. (2006). The Asian future of evolutionary psychology.PDF Evolutionary Psychology, 4:107-119.
Commentary
Kanazawa, S. (2006). No, It Ain't Gonna Be Like That  Evolutionary Psychology, 4:120-128.
Commentary
Miller, G. F. (2006). Asian creativity: A response to Satoshi Kanazawa. PDF  Evolutionary Psychology, 4:129-137.


〓ライン〓

 著者カナザワはひところ(2002年頃)ペンシルバニア(アメリカ合衆国東部)にいて、2003年にはニュージーランド、今はロンドン大学経済学部に落ち着いている。
 → 2006/11 『 科学の地雷原を走る男:サトシ・カナザワ Satoshi Kanazawa 』
 ・・・何人だ?米国人?英国人? ああ、アメリカ生まれのアメリカ育ちさんであるらしい。
 リンク Dr Satoshi Kanazawa

 「ペンシルベニア州西部で知的障害者のためのコミュニティー・カレッジで年間契約の準教授を務めていた」と記した上で、「私が象牙の塔から締め出されている間」と続ける。p.274
 締め出されていた?
 ペンシルバニアからニュージーランドあたりの時代はホサれていたゆえのドサまわりだったんだろうか? 何があったんだ? すでに進化心理学がらみの物言いで何かバッシングを喰らっていたんだろうか。

 つまり、・・・この本はリベンジ?

 トラタタタタタ。
 社会学者が新しいツールを連射して遊んでいる。
 そう最初から腹をくくって読むのであれば、それなりにおもしろく鑑賞できる一品。かも。


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メタル


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