10年くらい前、北山忍氏が文化アフォーダンスなる概念を提唱なさっていると知り、いたく興味を惹かれる。 関連分野の人間が集う場所に文化アフォーダンスについての情報を求める言葉を投げたところ、アフォーダンスの説明をされた(そんな初歩の話をしてるんじゃねぇ!)。その場は諦めた。
2002年に北山氏の話を拝聴する機会があったのだが、他の有力教授によって 北山氏が一方的にこきおろされるその場の状況 があまりにいたたまれず、また新たなトラウマに。
北山氏は日本を去って海外で研究を進めていなさる。
今年出た感情〜心理に関する本を三冊拾ったところ、三冊とも文化心理学の最新動向が記されていて乙。北山さん、帰っておいでよ。日本じゃ研究しにくいかい。



『集団生活の論理と実践 互恵性を巡る心理学および人類学的検討』 煎本孝、高橋伸幸、山岸俊男・編 北海道大学出版会 2007/01 [ Amazon ], [bk1]
『感情科学』 藤田和生・編 京都大学学術出版会 (2007/08) [ Amazon ], [bk1]
『朝倉心理学講座 10 感情心理学』 鈴木 直人 (編さん) 朝倉書店 (2007/09) [ Amazon ], [bk1]

【文化心理学】
文化心理学。
文化圏によって、国や地方によって、ヒトが特定の条件下で選ぶ行動はどう違ってくるのか。
さらには、文化的な条件が人間の心理に影響をした結果、影響された人間によってどのように文化的な条件が構成されていくのか。
さしあたり有名なところでは、欧米では個人主義的な独立した存在扱いが多く観察され、東洋や日本では他者との関係を重視したような行動様式が多く観察される。
一言で言うならば、おかげさま(東洋)vs.おれさま(西洋)
... 以下つづき...


おれさま文化では、まわりの関係より、自分の価値を高めることを優先して言動する。
●援助行動の文化差
日米を比較した場合、アメリカ人は自尊心を高めるタイプの援助行動を好む傾向がある 【1】
●児童のやる気の文化差
アングロ系アメリカ人の子は、自分の考えで自発的に課題を選択できるとやる気が高まる
アジア系アメリカ人の子は、自分にとって重要な他者(母など)が課題を選んでくれるとやる気が最大になる
(Iyenger,&Lepper,1999) 【1】
●自己紹介の文化差
アメリカ人は、自分に関する抽象的な性格特性をとりあげる傾向がある
日本人は、自分の社会的な地位や役割を述べる傾向がある
(Cousins,1989) 【1】
文化(生育環境とか)は、世の中のものの見方、世界観も支配する。
おかげさま文化の人間には、個々がどんななのかより、それらの関わり合い方のほうが、印象強く見えている。
●分類のやり方の文化差
(ウシ、ニワトリ、草、仲間はずれはどれ?)
アメリカ人の子は客観的カテゴリーに注目し,牛と鶏を同じ「動物」グループとする
中国人の子は関わり合い方を重視し,牛と草を同じグループ(牛は草を食べるから)にしがち
(Norenzayan, Smith, Kim, & Nisbett, 2002) 【1】
●光景のどこを見るかの文化差
欧米は、注意すべき対象にのみ集中しがちでまわりのことがお留守になる。
東アジアでは、背景情報との関係性も込みで対象を扱う傾向。
(Kitayama,& Duffy, 2004; Nisbett,&Masuda, 2003)(Masuda,& Nisbett, 2001)(Masuda,& Nisbett, 2005) 【1】
●会話の受け取り方の文化差
例えば、肯定的な内容の話(対象)を否定的な話し方(環境)で聞かせたりすると・・・
アメリカ人は、話し方より話された語の意味(対象限定)を強く受け取る
日本人は、話の内容より話し方(環境・状況の情報)のほうに影響を受けやすい
(Ishii, Reyes,& Kitayama,2003) 【1】
この2003結果の追認かな、さっきこれが出ていた。
平成19年11月「 社会心理学研究 」 第23巻 第2号
資料論文(Report)
石井けいこ(北海道大学)・北山しのぶ(ミシガン大学)
主に大学生を参加者として行われてきたこれまでの文化心理学の研究によると、日本人は、対象のみならずその文脈情報に対しても包括的に注意を向けやすい。本研究では、この傾向が果たして大学生ではない一般社会人においても追認されるのかどうかを検討した。
社会心理学含め、やっぱ学生以外での検証は少なめなんか
「おれさま文化」と「おかげさま文化」。
文化は、未来の想定、人間が将来をどう見通してしまうか、も左右する。
■どんな行動が幸せにつながるかの文化差
ヨーロッパ系アメリカ人では個人的な目標(自分の喜び,楽しみを得ること)が達成されると幸せだろうとみなす
アジア系アメリカ人では、自分よりまず関係的な目標(親や両親を喜ばせること)を達成することが幸福につながるとみなす 【2】
■どんな要素が人生を幸せにするかの文化差
アメリカでは、個人的な自尊心のみが人生の満足感の予測因
香港では、自尊心に加えて周りの人間との良い関係も同程度の予測力をもつ 【2】
その人が何を幸せだと感じるか、そんな人生を根本から左右しかねない部分まで、ヒトは文化に影響されている。
もちろん、感情反応も文化で違ってきてしまう。
■感情的な経験の文化差
アメリカ人は、個人的な「誇り」や「自尊心」などをより強く感じる
日本人は、個人完結的な「誇り」や「自尊心」より、他者との関わりで生じる「親しみ」「尊敬」などを強く感じやすい
(Kitayama et al.,2006) 【2】
■罪悪感と羞恥心の文化差
集団主義・相互協調的自己観をもつ文化では恥をわりと肯定的にとらえる傾向がある
(Kitayama et al., 1995;Rusch, 2004) 【5】
周囲との良い関係を重んじる東洋型は、羞恥心(しゅうちしん)を経験しやすく、恥を感じると自己反省がうながされる
個人の主体性で独歩する西洋型人は、他人の目をあまり意識しないが、恥(コミュニケーション上の不安)を感じると攻撃的になりがち
(Kitayma,Markus,&Matsumoto,1995)(Arimitsu,2002) 【5】
■感情察知の文化差
アメリカ人の子どもの方が,日本人の子どもに比べて怒りを示す反応が早め
(Camras et al., 1992) 【4】
あなたが何になりたいかも、これからどうなるかも、文化しだい。
●向上心の文化差
米国人は自己の良い部分をさらに伸ばそうとする、自己促進的
(Heine, Kitayama, Lehman, Takata, Ide, Leung,& Matsumoto,2001)
日本人は自己の悪い部分に注目しそれを直そうとする、自己向上的
(Oishi, & Diener, 2001) 【1】
■未来予測の文化差
(折れ線グラフを示してその後の変化を予測させると)
アメリカ人は同じ変化をし続けるだろうと予測しがち(増加を示すグラフは、その後も増加するとみなす)
中国人は、それまでとは逆に変化すると考えがち(増加を示すグラフなら、その後減少すると予測する)
(Ji et al.2001)【2】
アメリカでは、現状がまんま持続すると考える傾向がある。行ったら行きっぱなし。おおざっぱ。
東洋圏では、現状が特定の方向に行きすぎると、遠からず元の方向へふれ返すだろうとみなしがち。浮いたら沈み、沈んだら浮き。状況が反転するおそれが頭から離れない。
包括的認知傾向 〜(ニスベット,2004) 【2】 p.195
包括的認知傾向とは,対象間,または自己と対象の関係を全体的にとらえようとする傾向で,日本や中国などの文化で優勢であるとされている.包括的認知傾向では,より多くの文脈や,物と物とのつながりに注意を向けるため,プラス面とマイナス面がひとつのものに同時に混在するとか,「いまあるものは変化する」といったような思考傾向をもつ.「幸せは長くは続かない」といった意味記述は,このような変化の認識についての思考様式にもとづいていると考えられる.
陰陽あざなえる太極図がまさにこれ。
■幸せの意味の文化差
アメリカでは、幸福はストレートに幸福だけであって、そこに不幸はよぎらない。
東洋文化では、幸福は不幸を招くものである、という観念が強め。幸福は不幸の裏返し、あざなえる縄のごとし、「陰陽思考」「バランス志向」がみられる。
(Kitayama & Markus,1999; Peng & Nisbett, 1999)(Bagozzi et al.1999)(Kitayama et al.2000) 【2】
アメリカでは、ハッピーだと感じればそれはハッピー。いくらでも無限のポテンシャルを見る螺旋(らせん)族、のような開かれた系。「おれさま」だから、どこにでも行ってしまえるから、開かれているから、周囲を気にしなければならないほど逼塞(ひっそく)していないから。
日本では、幸福は不幸も招きうるという観点が入ってくる。盥(たらい)の中の資源は限られている、アンチスパイラル的な閉じた系。「おかげさま」だから、周囲との関係がうまく行ってないと、一人で行き過ぎると、あとのしっぺ返しが恐い。逃げ場が少ない逼塞した世界。
以上、前編。
「おれさま文化」と「おかげさま文化」。これは雨崎が便宜的につけた呼称なのだけれども、そんな「おれさま文化」と「おかげさま文化」の違いは、どこから来たのか。なぜ維持されてきたんだろう。

【1】仲間大輔「実験で見る心と文化 相互作用と心の文化差」 〜『集団生活の論理と実践』
【2】北山忍・内田由紀子・新谷優「文化と感情 現代日本に注目して」 〜『感情科学』
【3】渡部幹・小宮あすか「感情と集団行動社会的適応性の観点から」 〜『感情科学』
【4】山田寛「表情:文化差および社会的文脈」 〜『感情心理学(朝倉心理学講座10)』
【5】有光興記 「罪悪感と羞恥心」 〜『感情心理学(朝倉心理学講座10)』
【6】鈴木直人「包括的認知の発生メカニズムに関する実験研究」 〜『集団生活の論理と実践』
引用した各書籍に関する個別エントリ
・『アンドロイドの「不気味の谷」と感情の科学』
・『感情心理学史と表情認識の日韓差』
・『集団生活の論理と実践:心理学〜人類学』
![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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