[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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古代ジュゴン:サッポロカイギュウのカケラを物語れ

カテゴリ[科学に佇む2007年] 2007/10/23
 9月。
 地学の出し物が多かった先月、「サッポロカイギュウ」についての講話を2回、拝聴してまいりました。

 漢字で書くと、札幌海牛。ウミウシじゃなくて、カイギュウ。
 海牛、要するに海に棲んでいたジュゴンやマナティの巨大版、その化石が札幌で発掘された。大昔、札幌は海だった。(もしくは海岸が奥地まで入り組んでいた)

挿画


 講話は2回とも、「札幌市博物館活動センター 古沢仁」氏。

 サッポロカイギュウについては、札幌市博物館活動センターのサイトでひととおりのあらましが読める。
 先方のサイトは、もったいないことに、えらいたどりにくい階層構造になっている。たどりやすい形に以下、リンクを並べてみる。
■連載 豊平川に眠る人魚 〜 札幌市博物館活動センター 古沢仁
 リンク (1)海牛→海獣→怪獣?
 リンク (2)海牛が“人魚”になった理由
 リンク (3)世界で最初の人魚
 世界最古の海牛化石はジャマイカ産で、5000万年以上前の新生代古第三紀始新世のもの。これはまだ四本足で歩いていた。
 リンク (4)海牛はなぜ海にいるの???

 サッポロカイギュウの発見は、わずか4年前のことだった。
 このまごうかたなき巨大化石を、いきつけの近所の川で発見なさったのは、化石に詳しい親子。
 リンク 2003/10 豊平川の大海牛−札幌初・発→世界へ−

 リンク (5)札幌カイギュウとの出会い
 「豊平川からは貝の化石やサンドパイプという巣穴の化石が発見されることはよく知られていた」

 札幌豊平川の岩は海底であった履歴を持つものが多い。それらの岩には、化石もどきというか、貝や軟体動物などの「海の生物が掘った穴の跡」がウネウネたくさん化石のような姿で刻まれている。そんなモドキ状態の中から、「これはどうやらマジに巨大化石らしいぞ」という品を小学生の女の子が見分けてしまったという、おそるべき僥倖(ぎょうこう)というか、なまら天才小学生。wa

... 以下つづき...

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 リンク (6) おどろきは発見だけではなかった!
 「数ある哺乳類の中で肋骨(ろっこつ)だけを見てこれは○○だ!といえる動物は海牛だけかも」

 発見されたサッポロカイギュウの化石は、全身じゃないのです。「ろっ骨4本と胸つい2個」ぽっきりなんですよ。(それ以外の骨は、豊平川に削られ流されて失われていた)
 だのに、サッポロカイギュウの全身模型が完成し展示に供されている。

サッポロカイギュウ

 この茶色に着色された全体骨格の中のちょこっとだけ「白い肋骨少々」が、サッポロカイギュウの出土化石に該当する部位。あとの茶色はぜ〜んぶ想像。ase
 そのあたりのチカラワザ度は、サッポロカイギュウ復元の音頭取りをやった古沢仁氏ご本人もわかっていらっしゃるようで、「たったこれだけから全部作ってしまうんですからねぇ」と聴衆の笑いを誘うネタにしなさっていた。

 古沢氏は、先に北海道滝川で発見されていた巨大な全身骨格タキカワカイギュウ(北海道初のカイギュウ、1980年8月)の研究担当者でもあるわけで、サッポロカイギュウの全身は、タキカワカイギュウをなぞる形で造形されたのだとのこと。
骨格を作る作業過程の写真がいっぱい:
 リンク 世界最古の大海牛化石復元骨格製作(2005-2006年)  〜沼田町化石館(北海道雨竜郡)
「原型になったのは,同じ仲間のタキカワカイギュウ」


 日本で最初にカイギュウの化石が発見されたのは1970年代。日本で古代哺乳類化石の研究が「始まった」のがその頃だと思っていいのかもしれない。それ以前は、例えば1960年代に見つかったが「なにこれ」と中学校の倉庫にほったらかされていたという不幸なカイギュウ化石もあったらしい。
 リンク 2003/07 親子の海牛−ショサンベツカイギュウの発見−
 日本最北の海牛化石ショサンベツカイギュウは、なんと暖かな海に棲む海牛だった!しかも、世界初の親子の海牛だった!!!
 化石は1967年に発見され、その後初山別村豊岬小学校理科準備室に長い間保管されていました。
 化石が研究者の目に触れたのは、発見から22年後のことでした。理科室の岩の中から新発見が生まれるとは誰も想像していないことでした。

 日本で発掘調査がまともに取り合われるようになってから、まだたかだか30〜40年くらいしか歴史がないということなのか。
 以降、特に北海道では1980年代から続々と化石が見つかるようになり、カイギュウ類だけですでに22体(日本全体で30体だから約7割?)が出土しているという。
 発見されてからまだ4年のサッポロカイギュウ。その前に80年代からの北海道産カイギュウ研究の蓄積はあるとはいえ、材料は少ない、手がかりも少ない、どうもそんなに厚い話は蓄積できていない気配を感じた。

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●〜北海道最初に見た古沢氏のサッポロカイギュウ講演は、
>9月9日 日本地質学会 市民講演会
>「発掘!眠れる地質遺産 マチ起こしの目覚まし−ジオパークの試み−」

だった。
 → 『 世界地質遺産:ジオパーク構想と北海道 』
 このときは、持ち時間15分の中、サッポロカイギュウにどのような意義があるのか、マチ起こしにどのような可能性を秘めているのか、コンパクトに積極的に語られ、面白く拝聴することができた。

●〜北海道二度目の拝聴は、
>2007年09月22日【札幌】21世紀COE・新自然史科学創成セミナー
>「人魚が海で牛になった日 北太平洋カイギュウ類の進化におけるサッポロカイギュウの重要性」

 持ち時間は一時間以上。
 「厚い話は蓄積できていない気配」なのに一時間以上。
 すまん、途中で寝てしまった。 sleep 疲れもあったのだけれど。
 このセミナーにはビデオカメラが据えられていて、どうやら、のちのち使う目的でぜんぶ録画されたのかな、講演なさる古沢氏本人もそれを意識してか、聴衆(市民)よりは、録画講演としてのポーズで内容を構成なさっていたのかもしれない。つまり何を言いたいのかというと、こちらのCOE講演は長尺なわりにジオパーク講演より訴えてくるものが少なかったような気が。
 それにしても、一時間以上とは、つらい尺。
 同じカイギュウとは言え、おかど違いの「ステラーカイギュウ」の話に延々時間を割いてみたり。
「ステラーカイギュウ」=18世紀、カムチャッカやベーリング海峡の調査に派遣された西洋人が食いつくしてしまった、かわいそうな絶滅カイギュウ。
 リンク 春分亭備忘録:ステラー海牛を巡る話(2)
 リンク 春分亭備忘録:ステラー海牛を巡る話(9)

 ステラー海牛の里を見るために現地(カムチャッカ方面)にも赴いたという話も、ステラー海牛の想像図や想像生態の話もして下さるけれど、ではネイティブの伝承にステラー海牛の説話が残っていないか調査したのか? 北大の文化人類学従事者に話を振ってみたことはあるのか? 微妙に浅いまま、ぬるい話で時間稼ぎに水増しされているという印象が残る。

 メインはステラー海牛ではない。サッポロカイギュウの系統推理や、年代割り出しの経緯、海外や国内の発掘状況などひととおりお話なさる。(カイギュウにおける歯の形状と食餌の変化についてはまだこれから先の連載で出てくるのかな、博物館サイトでは言及を見付けられなかった)
 リンク (7)“なぞの空白期間”のカギ
 リンク (8)見える化石? 見えない化石?
 リンク (9)日本でカイギュウが大きくなった日

 でも、それらも「業界のほう(録画しているカメラ?)を向いた話」というか、学術的な解明と意義に向きがちで、「地元で発見された化石に地元の人間が参加する方法は」「化石発掘のおもしろさは」のような部分は、ジオパークでの話と比較すると欠落に等しい。お年寄り中心の一般観客は「サッポロの化石に地元が」という部分に惹かれて見に来ているだろうのに。数週間前に地元の観客に熱くアピールしてくれた、その熱かったアレは。

 「公開発掘の際には、あなたがたも参加する機会がありますよ」と何か振ればいいのに、

 リンク 市民といっしょに調査しました!古沢仁 「カイギュウとクジラの棲む札幌の海」 2006年3月4日 大型動物化石総合調査公開報告会  

発掘・札幌・博物館つながりで、 翌週に予定されていた札幌北高校の縄文時代遺跡一般公開イベントの話も出せばいいのに、録画ビデオを見る将来の聴衆を想定しているからには、そういう配慮は無用だったか。
 いざないを期待したぶん、おいてけぼりを食ったようで、残念。
 自分が寝ている間に振っていたならごめん

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アンカー【北海道のカイギュウ】


 北海道は暖地系カイギュウと寒冷地系カイギュウの両方の化石がいろいろと出土する。
 リンク 「カイギュウ」:北海道人
 北海道の産地一覧あり。

 北海道で初めて発見されたタキカワカイギュウは、サッポロカイギュウとは桁違いの、みごとな全身化石だった。
 リンク 「タキカワカイギュウ発掘物語」:北海道人

 タキカワカイギュウほか、カイギュウに関する資料を一堂に展示している博物館。
 リンク カイギュウの魅力満載「滝川市美術自然史館」:北海道人

 「夕張メタボツアー」 に対抗して、化石博物館めぐりツアーってのはどうだろう。フィールド(発掘ごっこ)もオプションにつけたりして、けっこう楽しいかも。
 リンク 北海道の「化石博物館マップ」:北海道人

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アンカー【北海道の化石:木村方一】


 札幌でカイギュウと言えば、この古沢氏ともうひとり木村方一(キムラ マサイチ)氏のお二人だけであるらしい。

●木村方一(キムラ マサイチ)氏は札幌の化石オーソリティ。
 元札幌学院大学教授で、今は北海道教育大学の名誉教授、なのかな? 教職を卒業なされた大先輩。
 ほぼ毎年、札幌で一般向けの化石ツアーをなさって下さっている、ンだと思う。一回参加したことがある。おもしろかったよ。goo
 → 『 北海道で探そう ビルの化石 』

◆太古の北海道 この本の編集もなさっている。
 もち、北海道の各種カイギュウも登場。
 『改訂版 太古の北海道』 北海道新聞社 (2007/08)


●かたや、今回講演をなさった古沢氏は、「札幌市博物館活動センター」の職員。
 サッポロカイギュウの研究は、ほぼこの人一人が独占状態というか、オーソリティとして確立しているらしい。
 ・・・札幌市博物館活動センターって、たしか職員数人しかいないんだよね。博物館も作れない札幌市で、「いつか博物館を目指して」アスナロ状態(博物館未満)の小さな職場。

 教職ではない。 そのぶん、市民と対するスキルが教職ほど外向きではない、だったりするんだろうか。

●●●小玉7●●●

 昨日言及した本、『知られざる日本の恐竜文化』は、このサッポロカイギュウについて話を書くにあたって、なにか化石研究を取り巻く状況の確認になるかなと読んでみたものだった。
 カイギュウは、恐竜ではない。化石界隈(かいわい)では恐竜よりさらにマイナーな、哺乳類の化石だ。(北海道の哺乳類化石といえば、→ 『 デスモスチルス 』 ってのもいたね)
 サッポロカイギュウにたずさわる層は、『知られざる日本の恐竜文化』で指摘されていた【日本には恐竜化石は稀にしか産出せず、それを手に研究ができる恵まれた立場の人も数人しかいない。】 それと似たような、・・いやそれよりもっと層が薄い状態なのだろうか。

 今後、もっとカイギュウの化石が出土することはあるだろうか。
 サッポロカイギュウの白い肋骨は、大きな謎に包まれたまま、影が薄く寂しそうではないか。よみがえれよ、エゾのカイギュウ化石たち。




今回の講演について言及されているブログ
 リンク 新・北海道田園生活

追記:こんな報告書が出ていた。
●本 『札幌市大型動物化石総合調査報告書 サッポロカイギュウとその時代の解明』  札幌市博物館活動センター編 札幌市 2007.3

追記:その札幌市大型動物化石総合調査報告書を拝読した後日譚はこちら。
●● 2008/01 『大丸札幌にサッポロカイギュウがいるよ』




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筆者:雨崎良未
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