遺伝の数奇なイタズラと、それらにまつわる言説のかずかず。

『ヒトの変異 人体の遺伝的多様性について』
アルマン・マリー・ルロワ
みすず書房 (2006/06)
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『ヒトの変異』は、数多くの、さまざまな、人体の異常形態を、古今東西にわたって豊富な図版とともに採り上げる。
生きては産まれえない極度の変形から、かなり症例の多い一般的なミュータント形態、潜伏ののちに成長してからおもむろに重篤な形態異常を招く遺伝子変異まで、幅広く、人の体は「どんな様態になりうるのか」あげつらってくれる。
筆者は科学者であり、読み進めるだに「なんとたくさんの人体形成メカニズムがわかってきていることか!」遺伝子の要因、代謝の異常、胎児発生の段階などなど、2003年の段階で把握されているさまざまな科学的知見を披露してくれる。
筆者はアメリカ以外の西欧言説の影響を濃く受けている人であり、線虫の研究からこの道に入ったにしては、文化面への目配りが生きている。ややもすると文系的に冗長・情緒的な記述が目立つところもあるけれど、時代によって当時の見解がどのように変遷し、それぞれの研究者や症状の当事者がどのような思いとドラマを残したのか、思いをはせることができる部分が抑えた筆致で数多く織り込まれている。好感度高し。
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... 以下つづき...

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・結合性双生児(いわゆるシャム双生児)
・内臓逆位(全臓器反転症)、 カルタゲナー症候群
・顔の要素間の幅を制御するソニックヘッジホッグ遺伝子が関わる単眼症(全前脳症) 隔離症
・シレノメリア症候群( 人魚症/人魚症候群)
・多指症
・歯牙異常を伴う 鎖骨頭蓋異形成症
・骨硬化症
・肉が骨に変わる病気 FOP / 進行性化骨性繊維異形成症
・ 偽性軟骨形成不全症のオーヴィッツ一家 Ovitz family
・画家 ロートレックの障害
・ 致死性骨異形成症
・ プロテウス症候群(エレファントマン)
・民族によって出現頻度が大幅に異なる アルビノ
・ 多毛症
邦訳書の表紙は、単眼症(一つ目)の症例を描いた大昔の図版。
原書の表紙は、多毛症の肖像。

原書:「ミュータント:遺伝学的な変種と人体について」
『Mutants: On Genetic Variety and the Human Body』
Armand Marie Leroi (著)
Viking Pr (2003/11/6)
人体とは何なのか。人体の違いとは何であるのか、遺伝とは、変異とは。蒙(もう)を祓(はら)ってくれるという意味で、すこぶる啓蒙的な一冊。
●p18大意: 新しい胚には両親になかった変異が、およそ100個は見られる。遺伝子変異の発生はふつうに多いものである。
そも、人間50人に一人は、「先天異常」に分類される身体で生まれてくる。
著者はこうメッセージする。
「p.304
肉体的な多様性の研究にもう一度しっかりと目を向けるべきだという主張には、じつは差し迫ったわけがある。肉体的な多様性そのものがなくなりつつあるからだ。」
過剰な流動性が、隔離された民族やその多様性を消し去るその方法は、伝染病による全滅であったり、 森林開発業者がこっそり行う意図的な皆殺しであったり、故郷から追われて離散し胡散(うさん)消滅するのであったり。
それを、「人類が貧弱になる」と見るか、「人類が豊かさに近づく」と見るかは、それぞれの視点の変異しだいでもあり・・・

【人類最後のタブー】

『人類最後のタブー バイオテクノロジーが直面する生命倫理とは』
リー・M.シルヴァー (著)
日本放送出版協会 (2007/3/26)
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この本も、第2部で延々「ヒトの変異」について紙数を割いてくれている。
こちらの著者の目的は、ヒトの発生や人体のさまざまな変異を紹介することによって、正常・異常の既成概念を危うくさせること。なぜなら、生命倫理を考える上で旧来の「人間観」ではうまくなかろうと、「正しい」事実を普及させることによって人々を啓蒙する、そんなポーズをとるため。
『人類最後のタブー』 p.233
ある種の遺伝が「変異」か「遺伝的多型」かを決めるのは、世界的に数多く見られるか、人間の益になるかの二点にかかっている。「変異」は希少で害になるが、「遺伝的多型」はたいがいそのどちらでもない。
『ヒトの変異』でとり上げられた症例の多くについて、この本も言及しているわけで、読み合わせると状況がより立体的に見えてくる。

そして、さらに「ヒトの変異」について、動物も含めた広い視野で知識を深めるのに適した本がこちら。
【シマウマの縞 蝶の模様】

『シマウマの縞 蝶の模様 エボデボ革命が解き明かす生物デザインの起源』
ショーン・B・キャロル
光文社 (2007/4/24)
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原書:2005, Endless Forms Most Beautiful
●p.28 大意:
遺伝子の作動のさせ方を変えるやり方はたくさんある。
人間の体にあるおよそ25000種類のタンパク質をコードしているのは、ヒトDNAのおよそ1.5%というごくわずかな部分にすぎない。
残りの大部分のおよそ3%、およそ一億ビットに相当する部分は、「調節」遺伝子である。
この調節DNAは構造を構築するための指令を含んでおり、調節DNA内の進化的変更が、形態の多様性をもたらす。
ヒト以外の生き物にも共通しながら、形態の多様性をもたらす大事な遺伝子がいろいろと登場する。
アイレス遺伝子、 アニリディア遺伝子、 スモールアイ遺伝子、 パックス6遺伝子、ソニックヘッジホッグ遺伝子、ティンマン遺伝子・・・
それら遺伝子のイタズラがもたらす、ヒトの単眼症、多指症、言語障害・・・
虫から人間まで、共通する遺伝子が、どんな「同じ」働きをし、どう「違う」結果を出してしまうのか、「エボデボ」(進化発生生物学)研究で数々のヒットを飛ばしてきた著者が、この意欲的な著作でつまびらかに紹介してくれる。

以上、ヒトの変異がらみ三冊。
人間は、おのれらの遺伝子を変異させながら繁殖してきている。
えんえん、太古の昔から、自分とは違う子をこさえ続けて、今に至っている。
その違いに、どういう意味を見取るかは、存在自体とはまたべっこの話だ。
話や意味はどうあれ、自分とは違う存在が、この世にはたくさん存在するし、そも何かが「違わない」という部分からして存在自体とはまたべっこの一方的な「想定」でしかないのであり、本来、存在はみな「違うもの」なのであり。
違いの程度が大きいものは、往々にしてヒト感情を動かすスイッチに作用してしまうからみから、損得正邪や時代環境にも関係なく、むやみに忌避や隠匿の対象に持って行かれてしまったりする。
身体に乗る魂は、身体の奴隷にすぎないのか、それとも身体とは別の存在として尊重するべきものなのか。
文化的差異や科学史におずおずとした
ナイーブな言説を、いやおうない事実で政治的に蹴散らそうとする
自分の研究と科学の成果にすなおにワクワクとしている
それぞれの視点を読み合わせて、立体的な絵図をつかみ取れれば吉かもしれない。
3Dの顔面スキャンで、乳幼児の遺伝障害をチェックせよ
2007/09 BBC News 3D face scans spot gene syndromes

生物の形態については、今年のこちらの本も面白かったんだよね。
[主要目次] 序章 エヴォデヴォの興隆 1.発生と分子進化 2.クモから見た発生プログラムの進化 3.海産無脊椎動物の発生と進化 4.脊索動物の進化:原索動物から脊椎動物へ 5.脊椎動物の発生と進化 6.脊椎動物の有対付属肢の多様性と進化
細菌のコロニーの形や、蝶の羽の目玉模様、魚のシマ模様の成長・・・ 遺伝子に限らず、どんなメカニズムが作用して「この形」が立ち現れてくるのかを、おおぜいの生物研究者が紹介してくれている。
ただし、専門家向けにタフな記述である上、ヒト考察からはちょっと遠めなので、ここではおまけ扱い。
ということで、「ヒトの変異」3冊と、プラスアルファ1冊のご紹介でございました。
それぞれ個別の本についてのさらなるメモ書き:

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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