自閉症児では、あくび(欠伸)の伝染が観察されない
2007/08 news@nature.com Autistic kids don't catch yawns
Yawning isn't contagious for some of the socially impaired.
東大の千住淳(Birkbeck College in London)
2007/08 Absence of contagious yawning in children with autism spectrum disorder
DOI: 10.1098/rsbl.2007.0337
Atsushi Senju, Makiko Maeda, Yukiko Kikuchi, Toshikazu Hasegawa 長谷川寿一, Yoshikuni Tojo, Hiroo Osanai
自閉症に限った話ではない。
自閉症を取りあげる意義はそれなりにあるだろうけれど、統合失調症でも、うつ病でも、赤ちゃんでも、他者の表情や感情の察知は機能不全であることは、平行して押さえておこう。

2000年以降に拾った「アクビの連鎖」についての記事を、古い順に並べてみよう。
あくびは社会的サイン
サルの間でも、あくびはうつります
サル社会に見られるリーダーの意思表示&了解としてのあくび
近しい間柄ほどあくびは伝染しやすい
2000/12 THE SUNDAY TIMES If you yawn, you're a human dynamo
あくびが伝染するのはなぜ
あくびビデオを見せたら半数くらいの人はあくびしてしまうね
あくびがうつりにくい人は、どうも協調性が低い人のようだよ
例えば、何が不作法かとか、失礼をいたしてないかとか、他の人の気持ちに無神経っぽい人たちだ
そういえば、統合失調症の患者では、あくびがうつりにくいらしいんだよね
2003/07 Guardian Why you yawn when other people do
... 以下つづき...

チンパンジーでも「あくびがうつる」
あくび伝染には「入眠時間の同期」の効用があるんじゃないかとは言われているけれど
ヒト幼児が鏡に写るおのれを認識できるようになるのは2才から
そしてあくびの伝染も、2才頃までは観察されないわけで
2004/07 New Scientist Yawning is catching in chimps
賢い証拠、チンパンジーも「あくび」伝染 京大チーム 、人間以外で初めて確認
2004/07 朝日新聞 読売新聞 共同通信
2004/07 毎日新聞 あくび:チンパンジーも伝染 京大霊長類研が発表
2004/08 Jabion あくびの伝染は共感する知性のあらわれ チンパンジにおけるあくびの伝染
どうしてあくびはうつるかな
チンパンジーどうしでも、あくびがうつっているよ
模倣担当のミラー・ニューロンは関係ないみたいだね
模倣じゃないとしたら、脳内でどうやってあくびはうつるのかな?
2005/03 WORLD SCIENCE Why is yawning contagious?
強く活動を示すのは、脳の上側頭溝だ でもそこはあくびとは関係ない部署だよ
もう一つの候補はperiamygdalarだね ここは逆に非活性化するほど「あくびをしたくなる」場所だ
periamygdalarは、顔に出る感情を無意識に分析する機能を持っている
でも、なんでperiamygdalarが沈静化するとあくびがうつるのかは、よくわからない
とりあえず、理解や理性の経路とは関係なく、あくびはうつるっぽい
あくびがうつると何が良くなるのか
覚醒レベルの調整に関わっているっぽいことから「ねんねの時間をいっしょにする」効果があったのではないかな
あくびで結束が高まる
あくびをするのは、脳内血流を増加させて脳の温度を下げるため→脳にアクセルがかかってしゃっきり
あくびは共感の対象から感染しやすい=あくびの伝染は感情移入のメカニズムから発生する
ということは、「あくびがうつるのは、所属集団のアテンションを高める効果があるゆえ」という機能解釈に帰結するじゃん
〜Andrew Gallup and Gordon Gallup ニューヨーク州立大
2007/07 New Scientist Yawning may boost brain's alertness
2007/07 BBC News Yawning may keep us 'on the ball'
注目すべきは、あくびの伝染は「模倣回路」を使っていないらしいこと。
「自閉症は模倣がダメだから」という論法は効かない可能性がある。
しかし、あくびの伝染には「寝る時間を仲間と合わせる」くらいしか効用がないのかなと、ちょっと寂しくも思うけれど。

あくびの伝染は模倣回路を使っていないとしたら、何なのか。
自閉症以外に、統合失調症でも、うつ病でも、赤ちゃんでも、あくびはうつりにくい。
他者と同期するにはけっこう脳力が要る。
脳力に不調が出ると、「他者と同期する」能力は損なわれやすい。
単に疲労困憊しただけでも人間は「同期」しづらくなったりする。
そのほかに、脳力不足で不調が現れやすい機能としては、嗅覚や睡眠なども挙げられる。
例えば「嗅覚」。けっこう脳力を必要とする感覚であるわけで、脳に不調が起きると、匂いを嗅ぎ分けることができなくなったりする。アルツハイマー病、統合失調症、うつ病などで、病状の初期から「嗅覚が働かなくなる」現象が観察される。
例えば「睡眠」。統合失調症でもうつ病でも、脳の不調が軽度なうちから「眠れない」「睡眠時間が異様に短くなる」「眠りすぎる」などの変調が出やすい。
〜「Q&A 知っておきたい睡眠障害質問箱100」 大熊輝雄監修 メディカルビュー 2003年
p.19
長眠者は、一般に心理学的に正常ですが、特徴的な人格をもっています。短眠者に比べて、社会的に内向性で、軽度のうつ状態かまたは不安状態を示しており、心配性とされます。眠りが多いために、家族や社会との関係がうまくいかなくなり、当人もかかりつけの医者も何か病気があるのではないかと疑うのです。しかし、内科あるいは精神科的な疾患は何もなく、睡眠のパターンは非常に安定しています。
あくびの伝染には、生まれつきの脳回路が関わっている。
学習や訓練の結果であくびがうつるようになるわけではない。
〜「ミーム力、とは?:ヒトからヒトへ広がる不思議なチカラ」佐倉統監修 清水修/石黒謙吾 数研出版 2001年
p.144
誰かが悲しい気分になって涙を流している時、そばにいる人がつられて悲しい気分になり涙を流すということは日常生活でたまに見受けられる。外から見ると、真似をしているように見える行為である。が、ブラッックモア/まま/は「これは模倣ではない」と言う。この行為は「伝染」によって広まった行為であるからだ。「伝染」という現象は涙だけでなく、あくび、咳、笑いなどにも見られる現象である。これらは皆、外から見ればまるで真似しているように見える行為だが、実は、目の前の人からその行為が移っただけだというわけである。ここで、彼女は「ある行為の仕方を、それがなされたところを見て憶える学習」というE・ソーンダイクの模倣の定義を挙げ、「伝染」、「社会学習」、「真の模倣」を明確に区別している。そして、伝染により発生するあくび、咳、笑いは生得的な行動と位置づけている。
ここではあくび以外に咳(セキ)、笑い、悲しみも、伝染しやすい、とされているけれど… 咳って伝染したっけ? いや、風邪がうつるんじゃなくて。
「模倣」と「同期」は違う。
機能(効用)も脳内回路も違っているらしい。
他者と同期できなくなっていた者が、ある日、他者とピントが合って睡眠が正常になる瞬間。
そんなときに象徴的に出る大あくびというものも、一部で知られているらしい。
〜「救急精神病棟」 野村進著 講談社 2003年
p.74
たいがいの精神病は、睡眠の乱れで始まり、睡眠の復調で快方へと向かう。
おもしろい例がある。ふだん人と面と向かって話をしているとき大あくびをするのは失礼きわまりないことだが、精神科医には患者の大あくびが「吉兆」に見えるそうなのだ。たとえば、なかなか話が通じない患者に自分の言葉が届いたと思った瞬間、それまで中空をさまよっていた患者の視線が焦点を結び、表情がいったん引き締まったあと、すぐにゆるんで、大きなあくびが出ることがよくある。そのまま眠ってしまう患者もいて、たしかにこの大あくびを境として病状は改善していく。
まぁ、そんな大きなくくりの中で「あくび(欠伸)の伝染は自閉症で…」の報も見てみれば。

●情報庫:睡眠・サーカディアンリズム特集

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