
『何が社会的に構成されるのか』
イアン・ハッキング
岩波書店 (2006/12/22)
[ Amazon ] [bk1]
原書1999/ THE SOCIAL CONSTRUCTION OF WHAT?
気分は二次創作物。きっちり訳されてはいない。
どっちかというと、同人誌のノリで勝手改訳されている、みたいな。
元本のありようを尊重するよりは、機能優先で再構成されているかのような文面。
原書が”皮肉やジョークまみれの軽妙洒脱な文面”であったことからの苦肉の策というか、仕方がなかったろうとはいえ、おおむね同じではあるけれど、元を尊重する感覚の薄い自由改変つき模写であり、模写がめんどうな章やペイしないっぽい章は平気でカット、索引もなし。
山形氏が大先輩デネットを邦訳する際、 バリバリくだけた若者言葉で違和感テンコのファーストフードにしてくれていた、あれに近いものを感じる。原書出版時点で63才のカナダ人であるハッキングの書き物が、「ビビッた p11」だの「えげつない p146」「オレオレ詐欺 p216」だのというえらいフレッシュな言い回しで訳される。訳者は40代。どうも、訳者側の趣味でテキトーに改変されている感が否めない。
8年前の古い本をいまさら訳すからには、邦訳でしか接することができないレベルの読者対象なのであって、テキトーな仕事でかまわなかったとか、あるのだろうか? 軽妙洒脱さの再現を優先すると、こんな感じが妥当なもんなのだろうか。
そんなこんなの微妙に困った状態の邦訳書に仕上げてられているけれど、それはそれとして、原書の力量か訳者の芸風か、できあがった邦訳書はこれでまた十分おもしろい読み物になっているからどうしてくれよう始末に悪い。
... 以下つづき...

ネタはひととおり(訳出で割愛された章を除き)そろっている。わかっている人間はニヤニヤしながらカリカチュアやパロディを楽しむ感覚で読めばいいし、入門者は「こんなことになっているのか」と”サルでもわかる社会構成主義入門”的な見取り図としてありがたがってもいいだろう。”社会構成主義世界の簡単地図帳”のような、ハッキングなりの思いきりのいい裁断がサクサクふるわれていて、たいへん見通しがいい。(あくまで、8年前の感覚での見取り図だ)
この面白い一冊を、札幌市内の図書館はどこも収蔵してくれていないぞ。札幌市民この本借りれません。
自分は札大の図書館から取り寄せたのだが、札大の誰一人、この本を読んではいないという新品状態だった。札大の本は取り寄せるたび、毎度「誰も読んでいない」美麗な書籍ばかりなんだよな〜。もったいない…。(へ〜、札大は昔の勤め先の近所にあるのか)

p.15
社会的構成というアイディアを用いるほとんどの人たちは、彼らが社会的構成物であると主張する何らかのXを、今日の体制におけるそのありようを含め嫌悪しており、それを批判したり変えたり潰したりすることに躍起になっているのである。
いや、「批判したり変えたり潰したり」したいから、ちゃぶ台返しの便利ツールもしくはトリックとして「社会的構成」を引っぱり出し喧伝(けんでん)する。「批判したり変えたり潰したり」する必要を感じない者は、わざわざ「社会的構成」のような不用意かつ不安定な撹乱要因を安易に弄(もてあそ)んだりはしないだろう。
イアン・ハッキングについてのひととおりの情報:
Ian Hacking@英語圏のウィキ
イアン・ハッキング氏のお写真
イアン・ハッキングの似顔絵 
イアン・ハッキングの手による書評群 〜ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックスハッキングの邦訳書はほかに4冊出ている。

『The Logic of Statistical Inference』 Ian Hacking (1965)
『A Concise Introduction to Logic』 Ian Hacking
『The Emergence of Probability: A Philosophical Study of Early Ideas About Probability, Introduction and Statistical Inference』 (Cambridge Paperback Library) Ian Hacking (1975)

邦訳
『言語はなぜ哲学の問題になるのか』 勁草書房 (1989/05)
『Why Does Language Matter to Philosophy?』 Ian Hacking (1975/9)

邦訳
『表現と介入 ボルヘス的幻想と新ベーコン主義』 1986/12
『Representing and Intervening: Introductory Topics in the Philosophy of Natural Science』 Ian Hacking (1983/9)

邦訳
『偶然を飼いならす 統計学と第二次科学革命』 1999/6
『The Taming of Chance (Ideas in Context)』 Ian Hacking Tim Hacking (1990/9)

邦訳
『記憶を書きかえる 多重人格と心のメカニズム』 1998/4
『Rewriting the Soul: Multiple Personality and the Sciences of Memory』 Ian Hacking (1995/5)
『Mad Travelers: Reflections on the Reality of Transient Mental Illnesses』 (Page-Barbour Lecture) Ian Hacking (1998/11)

当該邦訳書 『何が社会的に構成されるのか』 (2006/12)
『The Social Construction of What?』 Ian Hacking (1999/5)
『An Introduction to Probability and Inductive Logic』 Ian Hacking (2001/7)
『Historical Ontology』 Ian Hacking (2002/4)目を通したことがあるのは 『記憶を書きかえる 多重人格と心のメカニズム』と 『偶然を飼いならす 統計学と第二次科学革命』。
『記憶を書きかえる』は、めっさ面白かった。メディア環境に左右されまくりの、心の病。

『偶然を飼いならす』は、まじ、さっぱりわからなかった。著者ハッキングは各章ごとに親切にもまとめをつけてくれていた、それでも理解できなかったというか乗れぬまま、自分の脳は全然受け入れてはくれなかった。自分はなんと頭が悪いんだ…と腐っていたところ、この本が難物だと感じるお方は他にもいらっしゃるとのことで、なんぼか安心したりした覚えがある。
もとよりハッキングの書き物は難物であるという評判があるらしい。
当該書『何が社会的に構成されるのか』は、そっけない邦訳題になってしまっているけれど、原題は 『The Social Construction of What? 何が社会的に構成されてるって?』だ。そこからしてもう、軽妙なノリ。面白さは『記憶を書きかえる』のほうをも軽く超える娯楽もの水準。 …でも、原書の出版から8年近く経ってから訳す意味は?
賞味期限を越えると、おいしさも半減なんですが。
岩波書店の『何が社会的に構成されるのか』情報
〈サイエンス・ウォーズ〉として脚光を浴びた〈社会的構成〉をめぐる論争は,いかなる哲学的意味を持つのか.該博な知識と犀利な分析と軽妙な語り口によって錯綜した議論の状況を解きほぐすハッキングの腕が冴えわたる.現代の代表的な科学哲学者が渦中から距離を置き,冷静な態度でいち早く著した定評ある分析.
とりあえず、おさらいにも入門にも目を通しておいて損はなかろう一冊。

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







次の記事 














