[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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裏社会の日本史:日本の現場を見聞する異人たち

カテゴリ[科学に佇む2007年] 2007/05/12
視点がストレート、記述が厚い、現場と切り結んでじかに組み合っている、たいへん面白い読み物。

◆左表紙
『裏社会の日本史』

 フィリップ・ポンス(著) 筑摩書房 (2006/03)
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 すごいですよ。
 実に厚く・熱く日本に取り組んで下さっている。その厚い内容が、暑くはないクールさに仕上がっていて好印象。
目次
序 漂泊 貧困 犯罪

第一部 日陰の人々
 周縁民たち
第一章 中世における周縁民
 良民と賎民 穢れと差別、穢れなさと権力 「えた」共同体の発展 漂泊と差別 非人 漂泊の立役者
第二章 江戸期下層のヒエラルキー
 社会統制 賎民統制 境界的領域の支配と序列化 周縁の混沌 就労 差別・支配・反抗 「月の友」
プロレタリアートの巣窟
第三章 国民国家の周縁で
 天皇の下、結集される国民 「新平民」、差別と貧窮 あからさまな差別から潜在的な差別へ 「定義不可能」な「部落民」
第四章 大変容
 都市の漂泊民たち 近代的貧困の発見 プロレタリアートの東京、貧困の東京 産業化初期の貧困
第五章 大日本を支えた労働者たち
 労働者階級の周縁へ 時代の転換点における下層民とその諸相 親方 日雇労働者たち 炭鉱労働者・港湾労働者・肉体労働者 寄場 不安定な生活
第六章 どんづまりの街
 遺産 −− 呪われた界隈の歴史 壁なき城砦 リズム 「ここでは、裸一貫」 終点 路上 −− 年老い、家もなく 下層民 −− 危険かつまつろわぬ階級

第二部やくざ
 無法者
第一章 江戸の犯罪
 都市と犯罪 監視と懲罰 職業的無法者 博徒
第2章 義賊
 男伊達 社会的盗賊行為? 愛国的やくざ やくざ・マフィア・カモッラ
第三章 敗戦期のやくざから暴力団まで
 新しいやくざ、新しい極右 「黒幕」の支配 「親分」の物語
第四章 やくざの組織・権威・伝統
 一家 関東のやくざと関西のやくざ 大規模組織と新たな活動町逆境の若者たち 陰なる文化 社会的統合 民衆的想像力におけるやくざ 〈マフィア・モデル〉
第五章 あたらしいやくざ
 「舎弟企業」 「カジノ経済」・やくざ・過激主義と政治 1992年の暴力団対策法以後の再編成 周縁的秩序と社会の暗部 行商人
第六章 露天商
 神農崇拝の人々 江戸時代の行商人・大道芸人・露天商
第七章 路上の花火師たち
 祭の仕掛人 堅気社会の襞の中で
第八章 テキヤ −− 帰属と拒否
 伝統 組織 テキヤかやくざか? テキヤの流謫

 これらの多様な項目が、日本の「裏から逆照射した歴史/周縁民の変遷」が、誰宛ともなくただ厚く叙述されている。誰に向けてでもなく、どこへ向かわせるでもなく、ただ記録する、そんな書きようが新鮮で、すんなり読める。
 国内ネイティブの人間が記すと、なんだかんだ、国内諸派諸団体の意向に配慮して、ちょくちょく「彼方はこうみなすのであろうが」「かような意見もあるようだが」などと牽制したり揶揄したり自己防衛したり、そういう、他人の目と自分の姿を気にするような腰引けやカケヒキが混ざり込んできて、どうも読みづらいことがある。そのカケヒキ部分がないぶん、すんなりラクに読める、というか把握すべき点を理解しやすい。

他人の目と自分の姿を気にするようなカケヒキ:例えば、

◆左表紙

 『世界屠畜紀行』
 内沢旬子 (著)
 解放出版社 (2007/01)
 ウシ、ブタ、ヤギなどの屠殺解体を各国に取材し図解。イラストレポート
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 『裏社会の日本史』となんぼかかぶる、周縁の民にからんでくる主題なのだが、畜獣解体の現場レポートとダイレクトな好悪(+理解できないリアクションに対する牽制)が先に立ちすぎて、一歩引いた文化的な解題にまでは目配りしきれていないのが残念。
 初出は『部落解放』誌だったらしいのに…、いや、それだからこそ、なのかな。


 『裏社会の日本史』の著者・ポンス氏は、長年にわたる日本特派員としての深い見識と、山谷ホームレスへの実施取材経験などを下敷きに、おそらくフランス人を読者に想定して、みごとに日本の非主流の歴史を描きあげた。
 これだけのコアな日本論(全然日本入門じゃなさすぎ)を読みこなせる層がフランスにいるであろう事にも驚くが、類書というか、この手の視点で賤民・ホームレス・やくざを貫き編んだ本が日本側になかったらしいことにも驚かされる。

... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

 異国の書き手が日本の現場と直接渡り合って報告をする書籍には「スゴイ」と思えるモノがけっこうある。
 (ヒドイものはもちろん邦訳される以前に邦訳候補からふるい落とされるだろうから、邦訳されること自体、すでに一つの関門を越えた水準以上である率が高めとみなせる)

 例えば

◆左表紙

 『水子 “中絶”をめぐる日本文化の底流』
 ウィリアム・R. ラフルーア著
 青木書店 2006/01
  [ Amazon ] [bk1]
 原書1992 Liquid Life: Abortion and Buddhism in Japan


◆左表紙

 『脳死と臓器移植の医療人類学』
 マーガレット・ロック著
 みすず書房 2004/06
  [bk1]
 原書:2001/Twice Dead

◆左表紙

 『更年期 日本女性が語るローカル・バイオロジー』
 マーガレット・ロック著
 みすず書房 (2005/09)
 ENCOUNTERS WITH AGING, 1993


 対象が異国であれ、現場と切り結び、耳を傾ければ、これだけの把握と記述をものすることができる。

 現場を直接見ずに、伝聞と先入観だけで異文化を語ると、
◆左表紙
 『知的会話のための英語』 CD book
 カール・R.トゥーヒグ著
 ベレ出版 2004/06

みたいなひどいことになる。
 無理解偏見『知的会話のための英語』は、異文化誤解の根をまっこう指摘した●本ミニ ロジェ=ポル・ドロワ著『虚無の信仰 西欧はなぜ仏教を怖れたか』 と読み合わせると面白い。

●●●小玉7●●●

 異文化が日本を記した『裏社会の日本史』『水子』『脳死と臓器移植の医療人類学』は、ほかならぬ日本の異世代・若年層への伝達にも便利かもしれない。国内諸派諸団体の意向に配慮してのカケヒキ牽制がないぶん、入門に。資料に。
 いや、カケヒキ牽制が全くないというわけではない、異国ではそこの異国なりの諸派諸見解への配慮がある。でも、そういうカケヒキ牽制も、自分側ではなくあちらさんの事情においての内輪もめなのであれば、他人事として軽く参照程度に読み飛ばすことができて、ラク。

 ●本ミニ 『裏社会の日本史』に話を戻せば、いや著者スゴイですよ、日本を呼吸しすぎ。そこらのネイティブが預かり知らないような日本をたくさんご存じだ。
 日本の階級制度史、江戸の漂泊民、山谷(サンヤ)の由来変転、義賊の系譜、裏街道抗争の歴史、ヤクザのマフィアとの比較に今昔イメージ変化。中盤には文学的な響きに満ちたホームレスフィールドワーク、現地レポもたんまりと。はんぱない分析と情報量。
 冒頭の目次をじっくりご覧下さい。これだけ広い射程を持った本だ。どこかしら、この国に住まう上で得るものを見せてくれる。

●●●小玉7●●●

 フランスといえば。
 …新しいフランスの大統領は、どっちかというと異文化無神経系?
フランスでは人類学が終焉を迎えているって!?
 人類学者を150人雇用しているフランスの大手研究機関、「研究論題から人類学を削除することを考慮中」
2006/01  The end of anthropology in France! | Anthropology.net

 フランスの人類学とアメリカの人類学(異文化の扱い全般含む)は、それぞれかなり毛色が違うと耳にしたことがあるんだが。
 各国の人類学の動向をさらっと見渡せるような情報を備えたサイトはどこかにないのかな。




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