そうか、進化学にうとい場合、これなかなかマイナーな語なのかも。
脳とネットワーク/研究留学日誌 スパンドレルとは。
・古典的西洋建築、柱の補強にアーチをつけていました。
・アーチと柱のスキマに三角形の余白ができるね。
べつに三角形を作るのが目的じゃあなかったんだがね。
・アーチの三角形スキマに「スパンドレル」と名前を付けちゃった。
・スパンドレルにいろいろ飾りをつけるのが流行っちゃった。
・メインの柱やアーチより、おまけだったスパンドレルのほうが
人気が出ちゃったぞ。
そんな、「ナニカの機能のおまけに生じたナニカが、のちにすごい重要な機能として発展してしまう」現象を、スパンドレルになぞらえることで、進化の論争上ひところ盛り上がった。
p.193-194
スパンドレル
ヨーロッパの教会建築において、四角い壁にアーチ型の窓をつけると、壁のすみとアーチとの間には三角形の平面ができる。そこをスパンドレルという。スパンドレルは独特な形をしており、そこに見合った装飾がつけられることが多い。進化生物学者のスティーブン・ジェイ・グールドとリチャード・レウォンティンは、生物の形質をすべて適応論的に解釈する傾向に対し、スパンドレルのたとえを使って警鐘を鳴らした。スパンドレルにはそこに見合った装飾がつけられるが、スパンドレル自身は、四角い壁にアーチ型の窓をつけたときに必然的に生じる副産物であり、その形自体が適応的であったから生じたのではない。このように、生物の多くの形質は、系統的な歴史上の偶然によってもたらされているものがあり、特別に適応的であったから淘汰によってそのように形成されたのではないものがたくさんあるはずだ。彼らは、これをスパンドレルになぞらえて論じたのである。
ジェフリー・F.ミラー著 「恋人選びの心 性淘汰と人間性の進化 1」 岩波書店 2002/07(2000/The Mating Mind)

さて、元になった「スパンドレル」って実物はどんな形なのか。
古典的な西欧建築ではたくさんお目にかかれる。
Spandrelの画像集 日本語の「スパンドレル」で画像を検索すると、進化学で引き合いに出された「アーチのスキマ」スパンドレルとはかなりかけ離れた「鉄板」のような建築資材がずらずら出てくる。

グーグルの「スパンドレル」画像集 ここにスパンドレルの画像例あり。
Spandrel - 英語のウィキ百科事典 1.梁・柱の角とアーチ構造とのスキマ
2.梁・柱の角とアーチ構造とのスキマにほどこされた飾り
3.梁・柱の角とアーチ構造とのスキマにほどこされた飾りのような、飾りパネル
ははは。
そうか、スパンドレル自体、時代につれ、大元から意味がずれて拡散していってるのか。
スパンドレルを画像検索すると、販売資材の画像が多く出る。
今の日本で需要があるスパンドレルは「3」のタイプ。
「1,2」はそりゃ消費需要は少ないのであまり見かけませんわな。

進化学で沙汰されたスパンドレルは「1,2」。(3も外適応に含まれるかな)
去年撮影した北大総合博物館の屋内天蓋、これ原点に近い「1」タイプのスパンドレルかな?

... 以下つづき...

ほかの部分も読み合わせると論説の襞が立ち現れておもしろい。
p.11-12
スティーヴン・ジェイ・グールドがルウォンティンとの共著論文「サンマルコ聖堂のスパンドレル」をロイヤル・ソサエティ(英国学士院)で発表する
「社会生物学論争史 誰もが真理を擁護していた 1」 ウリカ・セーゲルストローレ著; みすず書房; 5000円 2005/02 (2000/DEFENDERS OF THE TRUTH)
p.195
人間の言語の進化によって社会性が促進されたのは明らかだが、この社会性が政治能力に発展したのは進化の結果だ、とは考えにくい。スティーヴン・ジェイ・グールドが「スパンドレル論」で述べたように、別の理由によって進化したものの、全体に結びつくと新たに主要な目的が見つかった、というようなものだ。人間の政治は、人間に先立つ動物の社会性にも、動物の言語にも還元できない。
フランシス・フクヤマ著 「人間の終わり―バイオテクノロジーはなぜ危険か」 ダイヤモンド社 2002/09(原書2002/04)
p.94-95
グールドとルウォンティンは一九七九年に、適応概念全体を攻撃する論文を出版した。『サンマルコのスパンドレル』という題は、あるヴェネチアの寺院のフレスコ画からとったものだ。スパンドレルとは、二つの交差するアーチでドームを支えたときに「残る」小さな箇所のことを言う。スパンドレルはそうしたアーチの副産物として、幾何学的必要によってのみ出現する。サンマルコ寺院の天井壁画を描いた人物はこの部分を彼の壮大なデザインに取り込み、すばらしい結果を生みだした。それはスパンドレル本来の目的であったかのように見えるのだが、もちろんそれは誤った考えである。その目的は原因と同じではないのだ。
グールドとルウォンティンは、建築物だけでなく動物にも、適応的な機能から必然的に生じた副産物だが、それ自体は適応的な機能をもたない「スパンドレル」のようなものがあるかもしれないと論じた。彼らは人間に関するあらゆる興味深い事実に適応にもとづく説明を見つけようとする社会生物学者たちの野心を嘲ったのだ。
アンドリュー・ブラウン著 「ダーウィン・ウォーズ 遺伝子はいかにして利己的な神となったか」 青土社 2001/04(1999)
p.247-248
グールドとハーバード大学の同僚リチャード・レウォンティンは「三角小間/スパンドレル/」と呼ばれる進化的発展の第三のタイプについて考察した。それは特殊なタイプの外適応で、ある特徴から意図されることなしに生み出された副産物である。外適応がもともとは適応として生まれ、その後むりやり別の機能をもたされたのに対して、三角小間には最初から適応機能がない。もともと三角小間とは、建物の構造によって余った空間を指す言葉だ。 [〜中略〜]
人間の精神の特徴が適応、外適応、三角小間であるかどうかを判断することはむずかしく、現代の心理学と生物学の世界では、激しい論争の的になっている。 [〜中略〜]
進化心理学を批判する人々は、グールドを含めて、人間の精神と行動の発達を適応説や自然選択説に合致するような説 −− 「ただ、そうなった」説 −− に結びつけるにはまだ早すぎると考えている。グールドは、人間の精神が現在もつ特徴の多くは外適応と三角小間 −− 読み書き能力や信仰 −− であって、それらは現在の人類の心を形づくる上であまりにも強く影響しているので、「もともとはただのもぐら塚だったのに、適応の結果、山にまでなってしまうようなものだ」と主張している。
ダニエル・L.シャクター著 「なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのか 記憶と脳の7つの謎」 日本経済新聞社 2002/04(2001/The Seven Sins of Memory)
p.355〜「スパンドレルの親指」の章あり
ダニエル・C・デネット 「ダーウィンの危険な思想:生命の意味と進化」 青土社 2001/01
(1995/Darwin's Dangerous Idea : Evolution and the Meaning of Life)
p.386-387
進化心理学者は、人間の脳の中のスパンドレルにすぎないものを精緻な適応として説明しているというのが、グールドの批判である。 [〜中略〜]
「人間の本性に不可欠で自己認識にとって重要なスパンドレルを備えた状態で、人間の脳が出現したことはまちがいないでしょう。しかしそれらは、非適応的なものとして生じたものです。ですから、進化心理学の守備範囲外なのです」と、グールドは語る。
カール・ジンマー著 「「進化」大全 ダーウィン思想:史上最大の科学革命」 光文社 2004/11
(2001/Evolution)
ということで、進化学における「スパンドレル」は、故スティーブン・ジェイ・グールドと進化心理学(社会生物学)、セットで論じられることが多い。

日本では進化のスパンドレル話どのくらい知られているのか。
グーグル検索
「スパンドレル 進化」 の検索結果のうち 日本語のページ 約 186 件 この中には「建築資材の進化」もまざっているので、グールドのスパンドレルは日本的にはかなりマイナーっぽい。
由来があいまいなまま、他の進化学関係者の論とゴッチャにされていることもある気配。一部には「デネットのスパンドレル」と記載しているサイトもあったりしてグールド影薄し。
以上、なんぞ「スパンドレル」の参考になれば。
何か楽しいスパンドレル・サイトをご存じの方いらっしゃいます?

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p.355〜「スパンドレルの親指」の章あり
p.386-387 













