21世紀COE新自然史科学創成セミナー「有機分子が記録する過去の地球環境」
第165回 北海道大学 総合博物館セミナー
2007年 2月24日
講演: 天羽美紀(あもうみき:北海道大学大学院理学研究院 COE博士研究員)
概要
過去の地球環境を復元する手段として、近年、起源生物に特異的な有機分子(バイオマーカー)が用いられるようになってきた。バイオマーカーは古環境あるいは古生態系を復元するうえで、従来の古生物学的な手法に比べて、多様な生物相の情報をより広く、普遍的に反映している。このため、過去の生物活動の変遷がより詳細に解明されるようになってきた。本講演では過去の地球環境をバイオマーカーから復元した研究について紹介する。

かなり面白い話だった。
内容はシンプルで、把握しやすい良い流れだったのだが、なにぶん日常には縁の極めて薄い主題なので、専門用語や抽象的な話に、来場者(ほとんどは高齢者)はちょっとおいてけぼりっぽかった。
天羽さんは現場に出ることはないまま、届いたサンプルの解析だけをなさっているのかな。採集に行っているとは思うのだが、ボーリング現場の話や画像があればそれなりに盛り上がりも作れただろうに。
・ ・ ・ ・ ・
話のメインは、「分子化石の解析でわかること」。
生物由来で発生する特殊な分子の存在を検出することによって、
・その時代にその生物がいた
・その時代の気候が、生物が残した分子の種類によって推察できる
というお話。
古代DNA解析でも、化石の調査でもない。
生物が残した”成分”で、古代を知る。 面白い。
検索してみると、10年以上前に下記のような表題の書籍が出ている。
『よみがえる分子化石 有機地質学への招待』
秋山 雅彦 (著)
共立出版 (1995/04)
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それなりにすでに歴史が培ってある分野なんだね。
●真核生物は「ステラン」(ステロールの仲間)という成分を残す。
シアノバクテリアは「ホパン」(2メチルホパンなど)を残す。
真核生物は14億年前くらいから存在したのだろうと思われていたのが、27億年前時点ですでにステランが検出されるので、真核生物の登場はその頃までさかのぼるのではないかという見解がある。
ステランは酸素濃度がじゅうぶんないと作れない。
従来は酸素濃度がアップするのは22億年前くらいからではないかとみられていた。
でも27億年前からステランがあったということは、局所的に酸素濃度が高いエリアが発生していた可能性もあるのではないか。
で、ステラン=真核生物、という前提で進んでいた話は、「真核じゃないシアノバクテリアでもステラン作ってる種類おるやん」という指摘があったりして微妙なんですね、と。
... 以下つづき...

真核生物の系譜 〜渡邊 誠一郎
バイオマーカーとしてのステラン(真核生物のみが作れるステロールが変質した安定性の高い物質)17億年前小出(1999)による生命起源に関する研究動向』(525-527p)から
真核生物の出現は、化石では21億年前(Han and Runnerger, 1992)、分子時計では18億年前(Doolittle et al., 1989)、有機分子化石(ステラン)では17億年前(Summons et al., 1988)である。2000年日本財団図書館(電子図書館) 「海洋科学から見る水惑星の多角的視点にたつ基礎研究」研究報告書?
18億年前の地層からは、 [〜中略〜] 真核生物に特有のステロイドという有機物が変化したステランという物質も発見され、これが真核生物最古の記録でした。ところが、最近になって21億年前のグリパニア・スピラリス(Grypania spiralis)の発見によって最古の真核生物の化石記録は3億年も古くなりました。2006年 化石研究会の歴史についての私見 秋山雅彦
光合成細菌や真核生物すでに27 億年前の出現していたことが,2-メチルホパンやC28-C30 ステランの存在から,1999 年にP.E.サモンズらによって立証された.【蒲郡情報ネットワークセンター・生命の海科学館】Science News 2003年10月「生物のルーツを求め技術開発」
堆積岩中に残る、微生物の細胞膜の一部と思われる分子化石の分析から、およそ27億年前に真核生物が既に出現していたとする説もありますが、十分な証拠が揃っていないのが現状
1999年に27億年前説が出て、意見が割れている状態、ということか。
ステラン。
「ステラン」だけでぐぐると、関係のない人名がごっそりひっかかってきてたいへん検索しづらい。
かといって、「真核生物」をつけると、今度は全然出てこない。
ステラン 真核生物 の検索結果のうち 日本語のページ 約 14 件
ステラン 生物 の検索結果のうち 日本語のページ 約 556 件
ステラン ホパン の検索結果のうち 日本語のページ 約 65 件 …う〜ん、寂しい。

海洋プランクトン珪藻綱のRhizosoleniaについても、
rhizosolenia の画像集 化石では登場が7000万年前頃なのだが、Rhizosoleniaが作る「HBI」という成分に着目すると、9000万年前頃から検出されるので、登場はそれだけさかのぼるのではないか、とか。(2004年の論文らしい)

●水温の推定
特定の藻類のみが作る成分「アルケノン」。
この物質は水温によって藻類が作る分子の二重結合バリエーションの比率が変わってくる。ゆえに古い地層に含まれるアルケノンの種類比率を調べることによって、当時の水温を推定することができる。
アルケノン 温度 の検索結果のうち 日本語のページ 約 158 件 

●古一次生産力(光合成による有機物生産のこと)を調べるバイオマーカーの種類としては
珪藻:ブラシカステロール
ブラシカステロール ウィキ百科 円石藻:アルケノン
渦鞭毛藻:ディノステロール
などがあるらしい。

【海洋への鉄の降下量】
で、講演者の 天羽さんが抱えている研究主題は、分子化石の研究の中でも、海洋における渦鞭毛藻の活動量調査であるらしい。
平成16年度 有機分子マーカーを用いた渦鞭毛藻生産量の定量方法の確立 ・海洋への鉄の降下量調査(砂塵が海に降り注いで鉄を供給すると藻などのプランクトンが栄えて豊かな海になる)。
・氷期には風送塵が多くなり、表層水中のクロロフィル量(光合成活動量)もアップする。
・古代の渦鞭毛藻の一次生産力(光合成による有機物生産量)は、渦鞭毛藻に特有のバイオマーカー「ディノステロール」の検出で推定できるのではないか。
・渦鞭毛藻には何種類かあって、すべてが「光合成オンリー」で生きているわけではなく、光合成二の次の補食性渦鞭毛藻もいる。調べてみると、まずいことに、よりによって「ディノステロール」は補食性ウズベンがたくさん作るらしい。そんなこんなで、ディノステロールさえ追えばストレートに「渦鞭毛藻生産量の定量方法の確立」ができるかなと思っていたところが、ちょっとまずいみたいで… のようなことになっていたのかな。
・気を取り直して、「メチルコレスタン」という成分に着目してみました。この「メチルコレスタン」なら、一次生産をしているウズベンにのみ含まれていて、補食性ウズベンにはないから。
とりあえず、私は講義の内容をこう受け取ってしまった。
フリスクかじりながらなんとか聞き取っていた状態なので、間違っていたらごめん。
鉄分と海に関する追記:ガラパゴス沖に100トンの鉄粉を投棄するという”エコ”な民間企業の計画
プランクトンの異常繁殖を誘発して地球温暖化ガスを吸収させよう
2007/06 New Scientist Company plans 'eco' iron dump off Galapagos
海(の上層)に鉄をぶち込むと、プランクトンがワッと湧いてくる。
鉄とプランクトン、と言えば。
中国の奥地からはるばる強風で運ばれてくる砂塵(ex.黄砂)、それに含まれている鉄分が太平洋の広範囲でプランクトンの繁殖量を左右しているという、さらには光合成→二酸化炭素の吸収→地球温暖化ガス減少/エサとなるタンパク質量の増加→水産資源が潤沢に。なんか「黄砂をもたらす風が吹けば寿司屋がもうかる」みたいな図が描かれているわけで。想像通りに行くのかな。
あと、こちゃこちゃしたお目汚しな余談は、楽屋ブログのほうに置いてきました。
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