[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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樹の中の虫の不思議な進化

カテゴリ[科学に佇む2007年] 2007/02/16
◆左表紙

 『樹の中の虫の不思議な生活 穿孔性昆虫研究への招待』

 柴田叡弌, 富樫一巳 (編集)
 東海大学出版会 (2006/09)
 [ Amazon ] [bk1]


 これはナイスに面白い本だった。goo

●右画
 木の幹ン中、食い進む虫が、実はほとんど樹液で溺れ死んでいるぞ!とか。
 木の幹ン中、せっせと育児をするクワガタムシがいる!とか。

 木の幹ン中で育つ昆虫にはいろいろな種類がいる。
 クワガタ、カミキリ、ちっこい甲虫もいれば、シロアリさんもおたかりになる。
 生きた木の幹ン中でないとダメな虫、枯れた木の幹が好みの虫、腐った木が大好物の虫、それぞれに、身体の仕組みも生態も分布も違ってくる。

●産み付けられたらそれがさいご、引っ越せない

 因果なもので、穿孔性昆虫(木に穴あけて暮らす虫)はたいがい、
  ・親が木に卵を産み付ける
  ・生まれた幼虫はその木を食べ進む
 幼虫は、つべこべ言ってられないんですよ、産み付けられたその木を食べるしかない。
 何か異変があってもヨソには引っ越せない。p4
 いきおい、卵や幼虫に少々何かがあっても、どれかが生き残ってなんとかなるほどの数だけ卵を産み付けるような性質を持つ血筋が、生き延びる。


●●●小玉7●●●

アンカー【樹液で溺れる!】

 生きている元気な木の幹は、たいへん栄養が豊富。
 栄養が多いということは、虫にも狙われやすいということで。
 スギカミキリさんたちは、生きている木の幹が大好き。
●ネット 森と木のミニ講座2005.3月  〜岡山県
 スギカミキリは、最もポピュラーで最も危険なカミキリ。人工林のヒノキをポツポツ枯らす犯人。

●ネット ヒノキにおけるスギカミキリ被害 〜藤田和幸/森林総合研究所関西支所
 生きた木のみを加害し,枯死にいたる確率が高いことで最も重要視されている。

 木のほうは、生きたまま腹の中食われてはたまらないので、なんとかスギカミキリを撃退したい。
 動けない木は、どうやってスギカミキリを撃退するか。

 樹脂(ヤニ)を出す。

 食われた傷に、どんどん樹脂をしみ出させる。ねばねばベタベタで、殺菌能力もあり、しまいにはガチガチに固まってしまう、強力な樹脂(ヤニ)。
 なんと、スギカミキリの幼虫は、そんな樹脂をものともしない、どころか、
p.20
 生きているスギ樹幹内では,外樹皮から内樹皮に穿入する過程で約99%の孵化幼虫が樹脂によって死亡する。また,うまく内樹皮へ穿入できても,その後すべての幼虫が形成層を通過するときに同じように樹脂によって死亡していた。 [〜中略〜] スギカミキリ幼虫の主要な死亡要因は樹脂である.

えええっ! 死にまくってんじゃん!
 杉の中で育つくせに、実はほとんどが杉に殺されている!!!
 まるで特攻隊!achar2

●ネット 林業にいがた1999年7月号 スギカミキリの新防除法:新潟県森林研究所
 ふ化した幼虫は、最初粗皮の中を横方向に食害しながら、ヤニの出にくい部分を探します。これをみつけると、甘皮と材の部分を縦方向に稲妻型に食害します。この過程で、ヤニにまかれて死亡するものが多ければ微害に、少なければ激害になります。


●右画
 スギカミキリの幼虫は、生きている木の栄養がたより。
  ・枯れ木では飢え死にしてしまう。枯れ木には栄養分がないらしい。
 生きた木には、枯れ木とは比べものにならないほどすばらしい栄養があるからこそ、どんなに殺されまくってもどっかこっかで生き残ってなんとかなるくらいに、スギカミキリさんは大量に卵を産みまくるらしい。
  ・冬では杉の栄養の供給が止まっているから生きていられない。
  ・夏では樹脂の出が良すぎて生きていられない。
  ・春先の、栄養出始め、でも樹脂の分泌は活発ではない時期を狙え!
ものすごいタイミングが重要な上、
  ・スギカミキリがぎょうさんいる木では、樹脂の出が弱まっている
てな関係で、ヨソの木に広がらずに、樹脂の出が弱くて棲みやすい同じ木に、いっせいに集中してたかる傾向が出てくるんだそうだ。

 へぇ〜 へぇ〜 へぇ〜

 この虫にやられると、材木的に、林業的にたいへん痛い。
 損害がでかい。

 当該書『樹の中の虫の不思議な生活 穿孔性昆虫研究への招待』にあるスギカミキリの項目は、詳しく害虫の性質を調べて効果的に防除や駆虫をする方法はないだろうか、と調べている研究者さんたちからの報告であるわけで。


 行政からは「スギカミキリをやっつけようとするのもいいが、スギカミキリにやられない木、を選抜するのもいいかもしれない」という方策案も出ていたりしたらしい。
●ネット スギカミキリに強いスギ 〜独立行政法人 材木育種センター 関西育種場
 1985年から国の事業としてスギカミキリに強い品種の育成を図る取り組みが始まり、スギカミキリ抵抗性候補木を選抜・認定

●ネット 林業にいがた2004年9月号「スギカミキリ抵抗性品種の開発」:新潟県森林研究所
 スギカミキリの加害に対するスギの抵抗力発現には、気象条件の中で特に春季の降水量が関係しており、降水量が少ないと抵抗力が劣り、被害を受けやすくなります。


 へぇ〜 へぇ〜 へぇ〜

 春先の樹脂の量が、スギカミキリ幼虫の死亡率に直結している。
 雨が少ないと、樹脂が出づらく、幼虫は生き延びてしまう。
 特に樹脂が出やすい性質を持つ木を選抜していくと、スギカミキリ幼虫の死亡率はアップする。

... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

 ちょうど春先だ。
 春先の一時期でしか、スギカミキリの成虫にはお目にかかれない。
 スギカミキリ狩りに出かけよう。

●ネット 2002年度 採集記(茨城県 カミキリ編 -10-)  〜るどるふ 甲虫採遊記

●●●小玉7●●●

 スギカミキリ同様、樹脂と闘いながら、生きた木をお食べになる「ヒノキカワモグリガ」の話も登場する。
 こちらの虫は、ちょっと潜っては外に出て場所を変え、またちょっと潜っては別の場所に移動、を繰り返す。樹脂がしみ出てくる前に、場所を変えてしまおうというちゃっかりものらしい。
●ネット ヒノキカワモグリガの生態と被害実態  〜佐藤重穂 森林総合研究所九州支所
 この虫は,内樹皮を食べているときにヤニが出て来ると外に出て,別の場所に潜り込んで内樹皮を食べるということを繰り返すのです。

 樹脂に殺されるリスクは減るけれど、逆に移動時に天敵たちに食われるリスクがアップする。p74
 どちらのリスクをとれば生存率がアップするのか、そのカケヒキとバランスが昆虫の生きざまを支配する。

●●●小玉7●●●

アンカー【枯れ木も虫のにぎわい】

 生きた木で、樹脂と闘いながら生き延びるスギカミキリは、適度に弱った木が棲みやすいので、スギカミキリに食われた木に集中しやすい。

 一方、枯れた松の木をおいしく食べる幼虫「マツノマダラカミキリ」は、大人になってからは元気な松の木をカジルらしい。
 元気な木は好みじゃなかったはずなのに?
 早く「おいしい枯れ木」になってくれよと、傷つけているのか。
 実は結果的に、そうなっている。
 松の木を枯らす「線虫/センチュウ」がマツノマダラカミキリの身体にはすみついており、かじられた元気な松の木は、センチュウに取り憑かれて死んでしまう。
 大人が、子どものために、松の木を枯らしてあげている。p23
 いわゆる「松くい虫/マツクイムシ」だ。
●右画
●ネット マツノマダラカミキリ  〜岡山理科大 植物生態研究室(波田研)
 成虫はマツ類の樹皮や葉を食べる。その際にマツノザイセンチュウがマツの組織内に侵入し、マツを枯損させる。夏に衰弱したマツを選んで産卵する。

●ネット マツノマダラカミキリ 〜身近の生き物−森林害虫シリ−ズ(1)
 羽化してから外界に飛び出すまでの数日間に「マツノザイセンチュウ」が数千頭〜数万頭の規模で「マツノマダラカミキリ」の体に乗り移る

●ネット なぜマツが枯れるの? 〜松くい虫関連データ集
 センチュウがマツの幹の中で増えてくると水の通りが阻害されるため枯れてしまいます。マツノマダラカミキリに寄生して元気の良いマツに運ばれます。

 また、マツノマダラカミキリはおいしい枯れ木を求めてどんどんヨソへ移動していく傾向も強い。
 生きた木につくスギカミキリでは
  ・仲間と同じ木にいると、適度に木が弱るので樹脂による死亡率が下がって安全
 枯れ木につくマツノマダラカミキリでは松ヤニの問題がないので、
  ・仲間と同じ木にいると天敵が寄ってきて危ない、食い物も減るだけだ
ということで、お引っ越し推奨となるらしい。

●●●小玉7●●●

アンカー【見えない相手にどうやって寄生する?】

 木の中に棲んでいる穿孔性昆虫に、卵を産み付ける寄生バチがいるらしい。
 それも、木の外から、産み付ける。
 どこに獲物がいるのか、どうやってわかるんだろうか?
 これがけっこうナゾらしい。p128
 排泄物や木屑のにおいが、木の外にまで漏れていてそれをかぎつけるんじゃないか。
 おおまかに見当をつけたら、あとは振動を察知するんじゃないか。
 なかには「温度」をたよりにするのでは、という推察もあるらしい。
●ネット 穿孔虫に寄生するハチ類の生活史  〜浦野忠久 森林総合研究所関西支所
 これらの寄生バチの母親は寄主の大きさに合わせて雌雄を産み分けたり,寄主の発する音や熱などの刺激に反応して居場所を捜し当てたりと,様々な興味深い性質を持つ

 え?温度違うの?
●ネット 雌雄を産み分ける寄生バチ  〜浦野忠久 森林総合研究所関西支所
 キタコマユバチが寄主サイズに応じて雌雄を産み分けている可能性が高い

 え!? 木の外から、獲物のサイズまで見きわめているの!?
 すげ。arama

●●●小玉7●●●

アンカー【菌と共生している虫もいる】

 木の中に、種を撒いて、食い物を育てる。
 そんな農耕民みたいな昆虫たち「養菌性昆虫/アンブロシアビートル」てぇのもいるらしい。

 ナガキクイムシやニホンキバチの体には、「マイカンギア」と呼ばれる特殊な袋が備わっていたりする。彼らはこの袋に共生菌の胞子を入れて運んでいく。
 取り付いた木に穴を開けて潜り込む。
 穴の内壁に、運んできた「アンブロシア菌」が乗り移って繁茂する。p168
 幼虫は、木の中にいながら、木を食べるのではなく、穴の中に育った「アンブロシア菌」を食べてお育ちになるという。

 まずいことに、その「アンブロシア菌」は材木の変色の原因になったり、木を枯らす結果をもたらしたりするらしい。
●ネット ニホンキバチとAmylostereum 属菌類によるスギ・ヒノキ生立木の材部変色

 なかなか問題が山積している上に、
p.168
 バクテリア相が詳細に調べられた養菌性キクイムシは,皆無といっていい.

 あああ、ここもたいへん研究が遅れております。

 どうしてこんなに「生態」の研究はたちおくれているのかなぁ。
 → 『生き物は、なんでこんなにほったらかされてしまっているのか』

●●●小玉7●●●

アンカー【子育てクワガタ】

 木の中に棲む昆虫の中には、「子育てをするクワガタムシ」なんてのもいらっしゃる。
 その名も「チビクワガタ」。
 親が幼虫にせっせと餌をあげて育てていなさる。
 世の中、「子育てをする昆虫」自体、めっさめずらしいわけで。
 子育て昆虫にはアリやハチなどがいるけれど、それらは社会性昆虫という分業を伴った大集団。「チビクワガタ」のような、核家族みたいにご両親がお子さんの世話をする、なんてことをなさる虫は、そうそうはいらっしゃらない。

 …でもね。「チビクワガタ」を検索すると、やっぱ世間的には単にクワガタ扱いなのか「飼育方法」ばかりが出てきて、「子育て」の生態についてはろくに情報が出てこない。なんだかなー。

 なお、この「チビクワガタ」たち、オスとメスはほとんど同じ形。ほかのクワガタのようなオスメスの違い、オスだけアゴ、はない。
●ネット クワガタの系統分類  〜荒谷邦雄
 チビクワガタやツノヒョウタンクワガタなどでは性的二型が二次的に退化した


 へぇ〜 へぇ〜 へぇ〜
 昔はオスメス違う姿だったのが、性差がなくなる方向に進化したんだね。

 いやいや、いろいろと勉強になる。osmashi

●●●小玉7●●●

◆左表紙
 目次
  まえがき
柴田叡弌 1章 穿孔性昆虫とは
柴田叡弌 2章 穿孔性昆虫の樹幹利用様式 問題の提起
柴田叡弌 3章 スギカミキリの樹幹利用様式
伊藤賢介 4章 スギカミキリに対するスギの防御反応
讃井孝義・吉田成章 5章 ちょっと変わったスギザイノタマバエの生活
加藤一隆 6章 ヒノキカワモグリガの生活
富樫一巳 7章 マツノマダラカミキリの生活
中村克典 8章 枯死材をめぐるオオゾウムシの生活
浦野忠久 9章 穿孔性昆虫を利用する寄生バチ
福田秀志 10章 キバチ 共生菌との複雑な関係
梶村恒  11章 養菌性キクイムシ類の生態 昆虫が営む樹内農園
小林正秀 12章 ブナ科樹木萎凋病を媒介するカシノナガキクイムシ
荒谷邦雄 13章 幹を食べる苦労 腐朽材とクワガタムシの幼虫
大村和香子 14章 樹を使うシロアリの生活
富樫一巳 15章 宿主の生理学的状態と穿孔性昆虫の生活史 まとめに代えて


Box1 富樫一巳 マツ材線虫病の発病機構
Box2 富樫一巳 林内と地域におけるマツ材線虫病の発生拡大機構
Box3 梶村恒  昆虫の社会性
Box4 小林正秀 キクイムシ類の配偶システム
Box5 小林正秀 ブナ科樹木萎凋病


 内容は、論文を少し一般向けに加減した程度、みたいな、かなり噛み砕けていない記述が続く。
 表紙の画像のフレンドリーさから、中身にも表紙なみのフレンドリーさを期待してしまうと、お堅い展開に消化不良を起こしてしまうかもしれない。
 でも、取っつきは悪いかもしれないけれど、読みこなせれば、興味深い話がぞろぞろしていて「通好み」と言うのかな、好きなお方にはたいへんおいしい一品になっております。


へぇボタン:へぇ〜 と押してみるもよし


●情報庫: 動物行動 進化








メタル
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