
『スポーツ心理学入門』
マット・ジャーヴィス著 新曜社 (2006/07)
(1999; SPORT PSYCHOLOGY)
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日本語で言うスポーツと、英語の「sport」が指す対象は、なんぼかずれている。
そのあたりについては、
試合、運動のみならず、お遊戯や儀式までをも場合によっては sport に含まれたりする。
で、「スポーツ心理学」と一言で言っても、その内実は、たいへん広い人間行動や心理を含めて扱うことになるわけで、教育・訓練のみならず、「競技場の設計・デザイン」や「観客の心理」を対象にしているものもあったり。
p2
「スポーツ」という言葉は、FEPSACの示したスポーツ心理学の定義においても本書全般においても、競技、レクリエーション、教育、あるいは健康のために行われるすべての身体活動を含む、広い意味で用いられている。
日本では、スポーツというと、英語の sport よりは指す範囲がかなり限られてくる。
「体育」「試合」「運動」「競技」「選手」周辺になるのだろうけれど。
その中、「スポーツ心理学」は、特定の目的の元での、人間操作や行動コントロールのための心理学として立ち現れやすい気配。
当該書はまず、古今、様々に登場した理論や仮説の紹介に紙数をさいてある。
どんな理論が入れ替わり立ち替わりしてきたか。
「スポーツ心理学」は特に前世紀末から盛り上がり、今では多岐多様な分野切り口で研究が進められており、全体を概観するのは難しいほどであるらしい。
●「スポーツ心理学」は、大別すると学問的スポーツ心理学と応用スポーツ心理学に分けられる。p2
学問的スポーツ心理学=スポーツヘの参加とパフォーマンスに影響するさまざまな要因の研究
応用スポーツ心理学 =スポーツ選手のパフォーマンス向上をさぐる心理学
●「スポーツ心理学者」の仕事は大きく3つに分けられる。p6
・研究:スポーツにかかわる心理的側面について研究する
・教育:スポーツ心理学が得た成果を当事者に教える
・応用:当事者への心理的アドバイスやカウンセリングを行う

スポーツに関わる心理についてのトリビアをいろいろツマミ読みしたい向きには、本書は肩すかしな内容かもしれない。
でも、さほど数は多くはなけれど、理論の合間合間に手がかりとしてトリビアは拾うことはできる。入門書だしね。
●観客がいるとハイになる。p115
熟練した選手は、観客がいるとノリノリにハイになって良い結果を出せる。
初心者は「しくるんじゃないか!」と萎縮方向にハイになってしまう(アガル)。
●おおかたのスポーツでは、トップレベルの選手になると技能の差はほとんどない。p78
●では何が勝敗を決するのか。
本番で、平常心以上に、ノリノリになれるか否か。
ストレスがかかり、アドレナリン出まくりのドキドキに観衆が見守る中、アガらずに能力を発揮できる者が、当然有利になる。
その関係もあって、「メンタルトレーニング」を! などとなるわけなのかな。
日本で「スポーツ心理学」をぐぐると、やたら「メンタルトレーニング」関係がひっかかってくる。
●最も良い結果を出せる不安レベルは、個人個人で違ってくる。p92
最適な不安の度合いを超えて不安に襲われると、成績は急にガタガタになりやすい。
スポーツマンにとって不安を克服する『儀式』は重要
新人くんも、手練れのプロも、不安が手にあまるとガタガタに
2007/01 EurekAlert Athlete's 'rituals' important for overcoming performance anxiety
●観客数や応援の声が大きいほうが、良い成績が出せる。p115
某科学情報系バラエティ番組で「観客が選手の名前を連呼する応援は、選手をハイにして良い成績を引き出すことができる」みたいな話をやっていたっけ。
(…最近は、科学情報系バラエティ番組で見聞した話は、論文で得た知識とはきっちり弁別して扱わないといけないような風潮で、けっこう微妙。)
●体育や運動で良い思い出が少ないと、伸びない、スポーツ嫌いになったりする。p136
選手の親御さん、子どもの足をひっぱってはいませんか
2006/05 EurekAlert 'Significant number' of parents of junior athletes adversely affect their child's development
●暗示や思い込みは重要。
実際より「高度な結果を出したぞ」(例えば実際より長い数値や重量、早いタイム)と伝えると、「前はやれたんだ」思い込みで次回高い成績を出せてしまったりする。p138
心で健康になれますか−「あなたは十分に運動をしているよ」と言われるだけで身体が健康になる理由
2007/02 EurekAlert Mind-set matters -- Why thinking you got a work out may actually make you healthier
●すぐれたリーダーが備える8つの性質。p121
おおっ。
誰をリーダーにするか選ぶ際に、これを基準に選出するとうまくいくっぽいとのこと。
... 以下つづき...


【面白かったこと:自由意思が二の次】p10
性格についての主要な理論的アプローチの中で、自由意思(すなわち、私が考えたり、感じたり、行動することをどのように選択するのか)を重視するものはない。自由意思は、心理学において問題の多い考え方の一つである。行動を決めるのは他ならぬ私自身だと信じていても、遺伝や経験からの影響は不可避である。
あらまー。
一神教文化圏=自由意思至上主義かよと、このところ色々あきれることが多かったので、これは新鮮。しかも1999年の記述。
ふと調べてみると、著者はオックスフォード大学からHertfordshire大に移られたとのこと。
Dr. Matt Jarvis 英国人だ。
そのぶん、どこかさんよりは、 自由意思の呪いからはなんぼか自由、みたいなことがあったりするのかな。
●面白かったこと:集団主義と個人主義
p107
トリアンディス(1991)は文化を集団主義を基礎にするものと個人主義を基礎にするものとに分類した。中国や日本など集団主義の傾向がある文化では、チームなど集団に重きをおく。ヨーロッパや北米など個人主義の傾向が強い文化では、個人の役割が強調される。
ええっ? どうなんだろう、1991年になるまで集団主義文化と個人主義文化の枠組みで研究はなされていなかった? 文化心理学はそんなに歴史浅かったっけ? 単に「スポーツ心理学」では、という話?
●集団指向の日本人は、言われなくてもチームワークが上手。p107
西洋文化圏の人間たちにチームプレイをさせるには、まずチームビルディングから訓練しなきゃなんない。
団体スポーツ、勝利のカギはチームワーク
チームスピリット、信頼関係、安定性が良いと強いチームになる
2001/07 Yahoo! News Psychologists Uncover Clue to Sporting Success
金メダルの理屈もお国しだい
アメリカ人は、メダリスト個人の強さや技量で語りがち
日本人は、メダリストが積んだ修練や理論を持ち上げる
選手の心構えやコーチの腕にも言及したがるのが日本のメディア
2006/02 EurekAlert Culture shapes the winner
2006/02 PhysOrg.com Culture shapes people's view of winners
●よく問題を起こす選手には、心理的な契約を取り交わさせると効果的。p74
やめるべき行動、やっちゃったときの罰、やらずに行儀良かったときのごほうびを、明確に取り決めておくと効きめあり。
へぇ〜 へぇ〜 へぇ〜。

【スポーツ心の男女差】当該書では言及なかったけれど、「スポーツ心理学」の男女差面について、手元の記事。
野郎の徒党の進化心理学
「共通の敵」を想定すると仲間に対してだんぜん親切になる男ども
女では敵がいようがいまいが差はないんですよ@信頼ゲーム
2006/09 BBC News Why men at war will pull together
女の子において不健康な摂食行動を引き起こしかねないスポーツとは
体重コントロールに重きを置く種目でリスク高め
2002/07 EurekAlert Some sports linked to unhealthy eating behaviors in girls

【観客の心理学】観客の心理についてもほとんど言及はなかったけれど、手元の記事は以下。
スポーツ観戦サポーター、暴れやすいのは負け組より勝ち組
2005/03 BBC News Winning 'triggers sport violence'
フーリガン対策
2003/09 BBC News Psychologists aid football policing
UK psychologists are to advise the Portuguese police on how best to handle England's football fans during Euro 2004 - assuming the team qualifies and is allowed to compete.
仲間が30人くらいいればスタジアム全体にウェーブ起こせます
2002/09 Ananova Handful of fans can create Mexican wave
2002/09 BBC News Mexican Wave secrets revealed
2002/09 Nature 419, 131 - 132 Social behaviour: Mexican waves in an excitable medium
2002/09 Nature Science Update Bored fans prompt Mexican wave
2002/09 cnn.co.jp ウェーブは、退屈な試合がきっかけ? ハンガリー研究
所属中毒 スポーツ観戦好き人間の心理を探る 〜Christian End
2004/01 ScienCentral Sports Esteem
所属中毒。

なぜ縁もゆかりもないのに、ジャイアンツだの、イチローだのと同じ側に自分はいるのだと想定したがるのかな。
スポーツ観戦好きさんと、興味のない人の、違い。
サッカー、野球、バレーのようなチームプレイより、ボクシングやK1のような個人対戦の観戦を好むタイプとか。
それぞれに、異なった心理機序や、性格が働いているし。
で、プレイされるスポーツショーに、熱に浮かされたように血まなこで大枚の金をはたいて釘付けになる観衆さんたち。
きょうび、スポーツは巨額の金を集める集金装置になっている向きがある。
いきおい、勝つための操作にも大金が関わってくるわけで、「スポーツ心理学」は純粋な学問と言うよりは、当事者に近い部分ではなんぼか、きな臭い・うさんくさい色を帯びがちになっていたりする。
追記:
ラグビー試合の観客においては、祝って飲むより、攻撃性に駆り立てられたほうがたくさん酒類を消費する
2007/03 EurekAlert Aggression, rather than celebration, drives alcohol consumption in rugby spectators

【日本のスポーツ心理学】ちょっとぐぐってみた。
メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会 最終更新日が2006年8月。 メーリングリストは停止中。
生きているんだろうか。
あ、掲示板は動いている気配。掲示板の日付に「年」がないのでわかりづらいけど。
スポーツ心理学 入門 〜心理学総合案内・こころの散歩道ページの一番下で「スポーツ心理学」を白文字で連呼していて、SEO対策なのかな、ちょっと気持ち悪い。
日本では「体育心理学」とも言うのか。
日本スポーツ心理学会 日本のサイトを「スポーツ心理学」をぐぐるとやたらひっかかってくるのが、「メンタルトレーニング」。
「メンタルトレーニング」でぐぐるとまっさきに出てくるのが「スポーツ心理学」。
「メンタルトレーニング」はスポーツ分野でだけの話ではないだろうのに。
「金」とは、「人の欲の量」を具体化した記号。
欲を集めやすいスポーツ。そして欲を左右するのは、心理。
もっとも金が良く動く分野に収斂していった当然の結果なのか、それとも単に「メンタルトレーニング」の発祥の地が「スポーツ心理学」だったのか。

部室やトレーニングルームに、数冊は「スポーツ心理学」本を置いておこう。
トレーニングの成果を無駄にしないためにも。

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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