
『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』
テンプル・グランディン, キャサリン・ジョンソン著
日本放送出版協会 (2006/05)
[ Amazon ] [bk1]

原書 2004年
Animals In Translation: Using The Mysteries Of Autism To Decode Animal Behavior
●動物という存在を翻訳する:自閉症のミステリーから解析できる動物行動
書籍情報と書評:アマゾン 日 米 英.
実にみのりの多い書。
知の楽しさが詰まっている。
ただでさえ、人間は人間のことさえろくにわかっていないのに、いかに我々は「異なる種の生物」のことについて無理解な状態であるかを、人間以外の生物の世界がいかに多様で広いかを、広範な分野からの研究成果をあますところなく網羅しながらこれでもかと見せつけてくれる。
異国の人との文化慣習の違いを考える異文化研究・指南に近い、いや、前世紀後半に流行った地球外生命体とのコンタクトシミュレーションSFのリアル研究版みたいな。
メインキャストは自閉症アスペルガー症候群女性の草分けテンプル・グランディン。
彼女の言葉を一般出版物用に翻訳(書き下し)したのがキャサリン・ジョンソン。
この二人についてはすでに過去にひとしきり。
ご本人のお姿、インタビュー音声、関連サイト、著作リストなど


●動物の訓練や行動操作で使われがちな「罰」。
罰は学習に有効なのだろうか?
動物行動を考える際に(人間の子どものしつけや教育においても同じことが言えるのかもしれないが)、罰を中心に考えるとマトハズレなことになりかねない。
野生の世界では「罰を経験したら回避することを学びます」などと悠長なことは言っていられないことが多すぎる。
失敗や罰を経験したときには、
「おまえはもう死んでいる」
とうに食い殺されてますよ
だったりするわけだから、「罰で学習」はかなり意味がなかったりするわけで。
●動物行動を考える際に「好奇心」は重要。
エサでも好待遇でも過保護でもなく、単に好奇心が満たされること(周囲が自由に確認できること)自体が、動物にはごほうびになりうる。p.130

【動物たちのコピー文化】●もうひとつ踏み込んで考えると、動物としては、罰やほうびを直接経験しながら試行錯誤で学ぶよりは、「誰か先輩の行いをコピーする」ほうがはるかに効率的だったりしている。
ボノボのカンジやパンバニーシャにしても、チンパンジーのアユムにしても、直接人間から教えられるよりは、「誰か先輩の行いを自主的に見まねで習得する」ほうが手っ取り早かったり。
フランス・ドゥ・ヴァール著 『サルとすし職人』 職人の技を「見て学ぶ」霊長類出色なところでは、近年世界的に知名度抜群になったヨウム(オウムな鳥)のアレックス。
「アレックス・スタディ オウムは人間の言葉を理解するか」
Irene Maxine Pepperberg著
共立出版
2003年
文法も概念も使いこなすオウムのすごさ!
そしてソロモンの指輪がない状態の人間って、なさけない。オウムのアレックス、ゼロ概念がわかっているかも!
2005/07 EurekAlert African grey parrot is first bird to comprehend numerical concept akin to zero
2005/07 【日本語記事】ワイアードジャパン ゼロの概念を習得した「天才」オウムオウムのアレックスが30回目の誕生日(孵化記念日)を迎えたよTシャツ
本物の「アレックスの羽イヤリング」も売ってるよ!
2006/08 Retrospectacle: A Neuroscience Blog African Grey Parrot Apparel for a Good Cause
「人間がやること」を見て察して先回りして言葉を使う。
抽象的な概念もあっさり使いこなして、教える前から質問もしてくる!
さらには、誰も教えていないのに「単語の綴りの伝達」までいつのまにか習得してしまっているという、世界を愕然とさせたはかりしれない ミニミニ脳みそ の底力!
教育されるより、勝手見習いのほうががぜん得意な動物たち。
なんせ、お魚でさえ「仲間の行動をすばやく見習い学習できている」わけで。
『お魚のお魚的能力あれこれ:社交的なお魚の暮らし』
サカナがテレビでお勉強 養殖魚でも危険な捕食者の回避方法をビデオで学べるんです
他の魚の動向から危険を学ぶ魚たち
仲間の行動を見るほうが、自分で試行錯誤をするよりずっと手っ取り早い。
仲間の行動をまねるほうが、自分の血の安全を守るためには効率的。p.278
p.149
猫でさえ、人間が思っているよりはるかに社会性がある。猫の姉妹は、たがいに出産の手伝いまでする。_どの家畜にも、仲間が必要だ_。餌や水と同じくらい重要な要素なのだ。
本来は群れて生活する馬や牛を、孤立させたり独房に入れたりするだけで、じゅうぶん彼らは精神を病んでしまう。p.143,211,216
... 以下つづき...


【行動主義、条件付け】当該書を「動物は基本的には刺激に反応する機械にすぎない(p.21)」とみなす行動主義心理学者の著作と読み比べてみると、その視野の違いが大きいことにあらためて感嘆させられてみたり。
カレン・プライア著 『猫のクリッカー・トレーニング』 二瓶社 2006/11
カレン・プライア著 『犬のクリッカー・トレーニング』 二瓶社 (2002/10)
カレン・プライア著 『うまくやるための強化の原理:飼いネコから配偶者まで』二瓶社 1998(原書:Karen Pryor/1984/Don't Shoot The Dog!: The New Art of Teaching and Training)夫や子どもの人間行動まで強化子・好子(アメ)と嫌子(ムチ)であやつりまくりという、(効果があるとしても)思わず思考停止してしまいそうな、ほかの可能性を摘み取ってしまいそうな、行動主義心理学の強力な単純論理。

「なぜその行動を採っているのか」ではなく、「その行動をやめさせるには、この行動をさせるには」。
このようなアプローチは、飼育獣や人類への「伝達」や「操作」には有用かもしれないが、飼育獣や人類の「理解」からはほど遠いことになりかねない。
行動主義心理学の源流である「畜生はただの機械、からくりだ」観は、18世紀のいにしえの西欧ですでに市井が「動物機械論」をうのみにしていた実例もあるわけで、
一神教的な「動物は、人間が管理するべき添え物として神がこしらえたアイテムにすぎない」観とあいまって、西欧ではかなり根深いものになっている。
●本書冒頭では、テンプル・グランディンさんが昔、ほかならぬ行動主義心理学の権化スキナーご本人と面会し、その考え方に強い違和感を覚えたというエピソードも紹介される。p.21〜

【ビジュアル思考】
●動物たちの思考は、おおまかな概念や言語をたよりにして展開するのではなく、”絵図カード”をめくりながら思考する様式だと考えるとわかりやすい。
言語以前の世界。
言葉や構文ではなく、「場面」が思考の手がかりとなる。
これは自閉症にもみられる思考様式例であり、自称「ビジュアル思考」人間であるテンプル・グランディンご自身ならではに、
『自閉症の才能開発』(原題は Thinking in Pictures「絵で考える」)なる著作もお持ち。●言語以前の世界に生きていた人間の実例も紹介される。p.338
抽象概念を知らずに育った人間にも、どうやらデフォルトで「信仰心」は備わっているらしいという指摘は興味深い、…というか、西欧的には「人間以外の動物にも信仰心があったとしたら人間はどうしたらいいんだ!?」という恐ろしいジレンマが脳裏をよぎってツボだったりするのかも。
●なぜ動物がそんな行動を採るのか、理解するには彼らの視野や色覚の違いから考えるとラク。
フツウとは異なる色の世界。
色弱の人間が見る世界は、異生物の感じる世界を考える上で、たいへん良いヒントになる。p.64
追記:
2008/02 PLoS Biology Are Animals Autistic Savants
2008/02 ABC@オーストラリア Do animals think like autistic savants?
動物の思考は自閉症サヴァンのようなものだろうか?
そうみなす学者もいるけれど、実際はだいぶ違っていそうだよ

【見えないゴリラ、バカな健常者】●動物は、人間より高い機能の五感を駆使してそれなりに効率的に生きている。
人間の健常者は、五感やリアル思考を犠牲にして、不正確な抽象思考の世界に生きている。
どちらが上だということでもない。
ケースバイケース。適不適。
要は、人間は、動物のように、ほかの生物種が見ている世界が見えていないし、動物なみに、ほかの生物のようには思考できていない。p.350
それぞれに、それぞれの異なる知覚世界の中に生きている。
●当該書では、2004年にイグノーベル賞を受賞し、最近巷でも何度かテレビネタに取り上げられて有名になっている「見えないゴリラ」が、例に挙げられる。p.39
光学迷彩ならぬ注視迷彩の見えないゴリラがイグノーベル賞をかっさらう
2004/09 New Scientist Invisible gorilla steals Ig Nobel prize
2004/10 【日本語記事】ワイアードジャパン 『イグ・ノーベル賞』:カラオケ発明の日本人も受賞「ゴリラが見えなかった」パターン、酒が入ると激増
2006/06 EurekAlert 'Ape-earances' can be deceiving for many under the influence of alcohol
フツウの人間は、モノが見えていない。
目の前をゴリラが通っても気づかないほど、節穴の目をしているフツウの人々。
沖に黒船が現れても、それが見えなかった現地人の例もあるし。
ダーウィンが訪れたフェゴ島の住民は解釈のための枠組みをもっていなかったために、自分たちの目の前にある停泊している船を「見る」ことができませんでした --- ただし、ビーグル号の上陸隊員が岸まで乗ってきた小さなボートを見て興奮しましたが。L・J・シェパード『ヴェールをとる科学:科学と女性性』 誠信書房 p.117
ほかの生物種(動物たち)が簡単に気づいて大パニックを起こすような場面に出くわしても、フツウの人間は何も気づけない大バカ者だったりしている。
p.81
人間が大きな前頭葉をもつためにはらった代償は鈍感になったことで、ある意味では自閉症の人や動物は鈍感ではない。ふつうの人は絵を構成している細部を見ずに、絵の全体だけを見る。それがふつうの人の前頭葉の働きだ。動物は絵の中の細部をなにもかも見る。

【共感、快感、思い込み】
フツウの人間が見えていない、見過ごしているのは、視覚だけではない。
人間は「共感能力」を発達させすぎたために、他者の心の中を理解できているという「思い込み」でめくらましされまくっている。
ペットに異様な自己投影をして不適切な飼育をしまくる例。
他人に異様な共感投影をして社会的に不適切な言動をしまくる、いわゆる 「人格障害」。
そして、フツウの人は、「共感されているという想定に共感をして、さらに共感用に考え方や感じ方を自動的に変え、共感を表出しかえす」というたいへん深い相互思い込みのループの中に浸った状態で日々生きている。
そこには「共感をする」行為から心的快感が得られるという、脳内報酬機能が関わっているのだろう。
共感で、快感。
p.152
社会的な触れあいは脳内のオピオイド値を上昇させ、人は快感を感じる。
そして「わかりあえた」という共感快感を求めて、実際にわかりあえていてもいなくても、共感行動を追い求め続けるフツウの人々。(男の場合は「やりこめることができた」という快感から攻撃行動が目立つこともある)
共感のチャンネルがずれていると、境界性人格障害や、演技性人格障害のように、周囲の人の共感能力を過剰にかき乱してえらいことになったりするが。
人類は、人間相手基準でのみ、もっぱらコミュニケーションが進化してきてしまったからか、異種生物の扱いがメインになるべき場面でも、動物より先に人間の扱いと相互評価が先に立ってしまい、なおかつそれで「何が間違っているのか」自覚できもしないという(屠殺場や牧場、養鶏場などでのトラブル)… そんななさけなくも使えない、人間という動物の心のバカさもいろいろ記されている。
フツウの人がそんなであるならば、フツウでない人ではどうなのか。
一つの仮説として、自閉症では「他者に共感をしても快感はない」という可能性が出てくる。p.153
共感で、快感が、ない。
つまり、他人とつきあってもなんということもない、快感も何も味もそっけもないので、社交(人づきあい)に向かう動機づけが起きてこないのだと。
フツウの人は、人間とつきあうと「楽しい」が、自閉症では人間と関わっても水道管をいじる程度の感覚しか生じないので「社交をしよう」という発想が起きてこない…
追記しておく。
共感能力はあるが _共感の経路に障害があるために_ 共感したいのに共感できない、条件さえ整えば共感できる、そういう脈で「共感の仕方が違う」のだと解釈する方が妥当だろう。
関連記事はこちら参照。
アスペルガー症としてくくられる者には、いろいろなタイプがある。それを一緒くたに扱うことの危険性は忘れるな。

【過剰特異性/過般化】
共感できているという想定に快感を覚えるフツウの人たち。
彼らは「ヒトは**のときには○○のように感じているに違いない」とデフォルトに決めつけるのが好き。(過般化 p.296)
そして、そういう決めつけが効かない人が、自閉症には多げだという気配。(過剰特異性 p.288)
他人の心をデフォルトに決めつけることができないとどうなるか。
他人とつきあうたび、「あちらの人は、ああ考えてこう受け取っていたけれど、こっちの人はどう感じどう受け取っているかわからない、さっきの人と同じに感じているという保証はない、別個だ、それぞれの人はみな別個だ、同じだという保証はない、ではどうすればいいのかわからない、一から確認し直していかなければならない」
逆にいえば、「共感されているという想定」に合わせて自分の思考や態度をフツウの人みたいに自動的に変更させていくこともないので、自分に対する言及に「ああ、そう思ってくれているのか、ではそれに合わせてこうしよう」ではなく、「なぜ実際に確認もせずに勝手にそう決めつけるのか、なぜ他人に平気でまとはずれな解釈を押し付けることができるのか」とリアクションする。
フツウの人は、「相手はこう考えているはず」的思い込みが快感がつながるという安直な仕様。
そういう、なんぼかはしょったようなバカげたコミュニケーションをかわすように、進化してきた人類。
自閉症アスペタイプの中には、相手のことを「こう考えているはずだ」とデフォルトにはしょるような失礼(?)な行為はできない人がいたりする。
勝手な投影をしない。
勝手な投影もされたくない。
2008/02 追記:自閉症の子には「他人を紋切り型に扱っていいのだ」と教え込むのも、手らしい。
2007/06 EurekAlert Autistic children could learn through stereotypes
自閉症の子は、ステレオタイプを通すと他の人々を理解しやすいよ
2007/06 EurekAlert Autistic children recognize stereotypes based on race and sex
「無垢な子には偏見を教えると人つきあいがうまく行く」という皮肉な図・・・?
自閉症や、動物では、「**は〜〜のはずだ」の仕組みが少なからず違っている、フツウからはかけはなれている。
フツウの人は、「概念」から「〜〜のはずだ」という過般化(過剰な一般化)を行う。見た目や五感でどうあれ、「**という概念に属するもの」はすべからく「〜〜のはずだ」とやる。
ところが、「概念」に縁遠い世界に生きているものでは、「見た目が**」「音が**」「臭いが**」などの直接的な刺激だけをたよりにして、思考とリアクションが発生する。(過剰特異性)
その違いをうまく察してやるだけで、かなり彼らとのコミュニケーションはラクになる可能性。p.296,311
まあ、自閉症という呼称自体、症状の軽重や知覚の差など、たいへん多様な性質を持つ人達をおおざっぱにくくっただけの失礼な概念ではあるけれど。

【人為淘汰というモンスター製造行為】著者テンプル・グランディンの生業は、畜産業における動物福祉アドバイザー。
人の手で育てられ、人の手で殺され、人の腹におさまる生き物たちを大量に扱うさまざまな産業現場を見てきた当事者の蓄積も分厚い。p.352

●成長が早い個体を選んで加速させたら、心臓が体についていけずに頓死するニワトリが増えてしまった。
●胸肉の厚さを選んでいたら、足腰が弱くすぐ折れてしまうニワトリが増えた。p.99
生物の性質は、あちらを立てればこちらが立たず。
下手にいじくると、バランスを崩してモンスターが生まれる。
モンスター度合いは、体のみならず、心や行動にも表れてきたり。(p.313:ロシアの飼いキツネ実験)
●特定の性質を選んで繁殖させた結果、自然界ではありえないメス殺しおんどりが大量に発生した養鶏場。p.97
●エサのわりによく卵を産むニワトリを求めてかけ合わせていった結果、羽根が貧弱で神経症的なうえ、期待されたほどの卵効率ではないニワトリばかりになってしまった例。p.108
●特定の性質で固められた「純粋種」のイヌは、攻撃的な性格になるなど神経症の問題を抱えやすい。p.115
●脂肪の少ないヘルシーブタは神経過敏で扱いにくい。神経細胞で脂肪が不足している可能性。p.137
性質を選んでいるつもりでなくとも、人為的な繁殖環境下では限られた条件の中、いつのまにか人為淘汰が及んでいたりする。
●特定の性質を選んでいたつもりでもないのに、同じ血統でありながら、世代を経たのちにAの研究所とBの研究所とではマウスの性格が大幅に違ってしまっていたという怪談。p.104
●いつのまにかおとなしい血統のブタばかりを育ててしまっていた養豚場。
たまたまその養豚場の体重計がきゃしゃだったために、暴れるブタをもてあまして排除しちゃっていた結果だと判明。p.111

【人間牧場】こうも簡単に人為淘汰や育成環境で生き物の性質がうにゃうにゃになってしまう実例をいろいろ列挙されてしまうと、思わず「人間モナー」じゃないかとか思ってしまう。
ヒト遺伝子、ごく最近進化したものけっこうあります
代謝、皮色、脳機能、生殖で必要とされる人類遺伝子は、最近の環境の変化に応じて進化した
2006/03 New Scientist Many human genes evolved recently*
2006/03 news@nature.com Human selection is alive and kicking
2006/03 National Geographic Human Genome Shows Proof of Recent Evolution, Survey Finds遺伝子差と文化差* ※ 文化と心理のニスベット
東アジア人での淘汰結果の平均年代は、6,600年前
今と過去は文化だけでなく人間自体が違っていたのか
人間性質はもともと不変不朽ではないのだ
オキシトシンの民族差、フランシス・フクヤマの信頼社会
ナポレオン・シャノン Napoleon Chagnon とヤノマモと性格の遺伝
アシュケナージ・ユダヤの遺伝病は知性の淘汰に付随したのか
2006/03 The International Herald Tribune Cultural differences: A DNA link?
By ニコラス・ウェイド The New York Times
科学なポッドキャスト:Still Evolving?MP3ファイル 27分
New Scientist 2006/03/10 冒頭〜12分:現在も進む人類の進化(遺伝的変化)
科学なポッドキャスト:Recent EvolutionMP3ファイル 12分
サイエンス・フライデイ Science Friday Podcast - 2006/03/10
ジョナサン・プリチャード インタビュー
A new survey of the human genome indicates that there may be as 700 genetic variants that have undergone changes within the past 10,000 years.
人類の、自己家畜化。
家畜化の科学 同じ血統でも、環境でこんなに変わる性格
経世代実験:ネズミ、キツネ… そして自己家畜化した人類再考
2006/07 New York Times Nice Rats, Nasty Rats: Maybe It龝 All in the Genes*
By ニコラス・ウェイド
当該書にいろいろ挙げられている動物の扱い方、これらは、見ようによっては動物という各種マシンのマニュアル(取り説)のようにも見えてくる。
そして人間も、ほかならぬただの動物の一種類。
学校、家庭、職場、異文化交流、mixi、それぞれ、どんなシステムでどう人間を飼えばどんな人間を育成できるのか、けっきょくそれすらいまだにおぼついていないんだよね。
我々は、おのれをどう飼えばいいのかさえ、ろくにわかってはいない。

【ラセンウジバエ解決法】p.45〜に、ラセンウジバエのエピソードが紹介されている。
人畜に害を及ぼすラセンウジバエを、「大量の不妊オスを放虫することによって子孫を絶えさせ絶滅させることに成功した」アメリカの例。
ラセンウジバエ 
この話を聞くたびに思い出すのが、ティプトリーJr.のネビュラ賞受賞短編
「ラセンウジバエ解決法」。なんらかの力の介入によって、人類の、オスが、メスを、出会いしだい殺すようになる。
簡単に、人類は、絶滅していく。
夫も友も避けて、森の中に独り逃げ込む主人公。
遠くからの夫の声。でも、どんなに互いに愛し焦がれていて、会いたがられても、ヒトのオスはみな、メスの姿を目にしたとたんに、強烈な衝動に駆られて殺人鬼に変貌する…
そういう、スマートな、解決法。

しかし、名のある自閉症者としての、草分け的存在として、これまで長年やってきなさったテンプル・グランディンさん。
多様な状態の人々をひっくるめた「自閉症」という看板を、一身に背負ってきた部分がある。
コミュニケーションがフツウではない人が、コミュニケーションがフツウではない多様な人々の代表にされる、代表として言動しなければならない、そんな、なんともいいようのない枷をはめられたポジションを背負いながら、職業人としても大きな成功をおさめてきなさった。
フツウの人々には動物を理解する能力が欠けているからこそ、伸びることができたのがテンプル・グランディンさん、そう理解していいのだろうか。
【女はもとより翻訳業】「自閉症の特質を生かして動物をより的確に理解する」。
このスゴイ本を著したのが、なぜ、男ではないのか。
そも「自閉症の特質」(この場合はアスペルガー症候群)を生かして、なのであれば、アスペは女より男のほうがずっと症例が多い。
なぜ、男のアスペが「自閉症の特質を生かして」動物行動の解釈を打ち出したものではなく、これを彼女がものしたのか。
性別にまつわりやすい役割や意味合いとして、
男 人工物 加工 整然 力 理論 右・上
女 自然界 ナマ 混沌 情 気分 左・下
男と女、それぞれにこのようなカテゴリー属性を帯びやすいとされている。
ロンダ・シービンガー著 『女性を弄ぶ博物学―リンネはなぜ乳房にこだわったのか?』 工作舎 1996(1993/NATURE'S BODY)
アードナー/オートナー 『男が文化で、女は自然か?:性差の文化人類学』 晶文社 1987科学においては、昔から女は男より自然や未開に近いポジションに置かれがちで、…とか思い起こしていくと、本書(もしくはテンプル・グランディンさんのポジション)もまた「自然の動物を、男にわかるように翻訳する女」というジェンダーロールが影を落としている例の一つかなぁ、などと思えてきたり。

【自閉症を翻訳する】いまひとつ、本書の特色をあげるならば、この特徴的な文体について述べておきたい。
アスペルガー症候群のテンプル・グランディンさんが記すナマ文は、かなりそっけなく&くどくて読みづらいものであるらしい。
それを、相方の キャサリン・ジョンソンさんが、一般向け書籍用に書き下している。
書き下ろしてくれてはいるが、ベースに透け見えるのは、妙なジョークや回りくどい言い回しもなく、じゅんじゅんと素直に情報をこれでもかと列挙する、がちがちの報告書か、お経めいた書き物。
読みやすい、わかりやすい、これはジョンソンさんの功績だろう。
じゅんじゅんと素直にこれでもかと情報を列挙なさるのは、おそらくグランディンさん。
そんな想像をしながら思い出すのは先日読んだこちらの一冊。
『わかりやすさの本質、見たことがないゆえの壁』
身内に知的障害者を持つ新聞記者が、障害者を読者に想定した新聞を編む作業に携わった、その現場叩き上げの感覚で「どう記せば彼らに伝えることができるか」、個人の思いを綴った一冊。
わかりやすい文章の書き方。
わかりやすい焦点のしぼり方。
わかりやすい省略のしかた。
わかりやすい表現のコツ。
この中に挙がる、知的障害者とのコミュニケーションに有効な、素直さとくどさ。
回りくどい表現はせず、話も飛躍や比喩を避け、すなおな流れで、短く、何度も同じ名詞を出してもいいから代名詞はさけて…
そんな基本的なすなおさとくどさを、本書の構成と文体にも感じる。

しかし、日本の動物福祉はどうなっているんだろう?
グランディンさんのような、屠殺方法込みの動物福祉向上にかまけてくださっている専門家はいらっしゃるのだろうか?
それ以前に屠殺における動物福祉に関した法律は日本にはあるのだろうか?
社団法人日本動物福祉協会 イヌネコペット愛護がメインらしいどうも現況をぱっと概観できるサイトは…

もう時間がないのでこのあたりの掘り返しはまたの機会にしよう…。

当該書に戻って。
いや、こんなに長々書けてしまうほど、話題の宝庫。
そのほか、複雑な言語を駆使するプレーリードッグの話 p.363、音楽は言語に先立って存在した気配だというp.365、遊びは戦いの練習ではないこと p.164、攻撃性には感情に駆られた攻撃と食欲に駆られた攻撃の2種類があること p.180、などなど、興味尽きない知見がこれでもかと網羅されている。
最近の動物の心研究の成果をまとめて読みたいなと思う人はぜひ。
フツウではない才能にあふれた目明きさんが、別世界の窓から見えるワンダーランドを、鈍感脳のフツウな人にものみこめるように、詳しくていねいにご披露してくださいます。

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







次の記事 
オウムのアレックス、ゼロ概念がわかっているかも!













