[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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ブレインダメーぢ:失語症の世界

カテゴリ[科学に佇む2006年] 2006/11/22
この本は好き。グッジョブ。

◆左表紙

 『失語症のすべてがわかる本』
 健康ライブラリーイラスト版
 加藤正弘 (監修), 小嶋知幸 (著)
 講談社 (2006/07/11)



 テキカク。
 わかりやすい。
 絵がたいへんストレートで適切。
 必要十分。

 失語症患者さんに接する可能性がある人すべてにひととおり配って、この症状がなんであるかを理解してもらう、その理解してもらうツールに最適な感じ。

 失語症の状態は、あらかじめ知識がない人にはたいへんわかりづらい。
 「自分」という機能がどのように成り立っているのか、医学的に把握できている人なんか、世の中そうそうはいない。
 見た目は正常なので、実態も困りどころもなかなか理解してもらいづらい。
 意志疎通がかなりしんどいので、いろいろなことができるのに、何もできないだろうと片づけられてしまいがち。

 そんなこんなの、いろいろな「理解しておくべきこと」「理解するとラクになること」がややこしくなくスパッと説いてある。

 まず一般の人がどのくらい失語症というものを理解していないか、どのくらい誤解していうるかを見せつける。
 ツカミは簡単なクイズ。
  1・ぺらぺらしゃべっている人
  2・人の言うとおりに動作できる人
  3・漢字を書いている人
  4・キーボードで文章が打てる人
 この中のどれが、失語症には ありえない 状態なのか。

 正解は4のみ。
 1,2,3は、いずれも失語症である可能性がある。
 さて、どうしてだ!?

... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

 脳の、言語処理をつかさどる機能は、いくつかの機能が連携してはじめてフツウに動作する。

1:音を言葉として聞き分ける機能がやられた場合、音自体を聞くことはでき、自分からしゃべることもできるが、人間のしゃべりことばが全く意味不明で聞き分けられないという状態に陥る。その場合、自身がしゃべる内容も、言葉の処理に障害が生じた程度によって意味不明のぺらぺらだったり、言葉の使い方が妙だったり多様なな異変を見せる。

2:言葉にあらわす機能がやられた場合、他者が語る内容は理解できても、自分が言葉をあやつることはできない。

3:言葉を扱うことはできなくても、代わりに絵を描くことでイメージの表現はできることがある。漢字は絵の延長に当たる記号なので、ひらがなはダメでも漢字で意志疎通できたりする。

4:キーボードで言葉を打てるというのは、そうとう言語処理がマトモに動いているという証拠。
 ふつうは失語症に見舞われた場合、ひらがなを拾いながら言葉を伝えることは不可能。

 「言語処理」がダメでも、「漢字を使った意思伝達」は可能な場合がある。
 このあたりはほんと、漢字圏の人間か、アルファベット圏の人間かで、かなり運命が分かれてくるんだろうなあと興味深い。
   → 『漢字圏のディスレクシア』
      アルファベットだけの言語か、漢字混じりの言語か、
      言語の種類によって、脳内の言語処理に必要な機能や手順が異なる。
      ディスレクシアが障害になるかならないかは
      どこの国に生まれたか、
      生まれた文化の言語しだいで大きく違っている可能性。

  ・思い違いや「わからない」が多くなる
  ・音が判別できない
  ・違う言葉におきかわる
  ・言えても、意味がわからないことも
 意味の混線、音素処理の混線、言葉の混線…

●●●小玉7●●●

 本人も家族もさぞたいへんだろうと思うのだが、なんとかしようと思うのだろうが、特筆すべきは、

   言語訓練はしろうとはやるな

との旨、きっぱり記してあること。
p.49
 周囲の人は、「自分でも言語訓練をおこなえないか」と考えるものですが、これは効果がないばかりか、時に患者さんにとってマイナスになることもあります。
 言葉の働きは複雑で、その治療はとてもデリケートです。誤った方法でおこなったり、先を急いでは、効果を得ることはできません。さらに、言語訓練は患者さんにとってかなり大変な作業です。
 家族といるときまで言葉の訓練では、患者さんの心が休まるときがありません。
 むしろ、患者さんにとって大切なのは、家族との時間が安らぎの時間であること、言いたいことを伝えられる達成感、喜びを味わえることです。周囲の人は、患者さんとのコミュニケーションを工夫し、やりがいを感じられる環境づくりを心がけましょう。
 それが、何よりも治療の助けになるのです。

 周囲がテンパっていては、マイナスになる。

 家族の誰かに問題が生じたときは、心のケアは、家族全員になされるべき。
    → 『ブレンダと呼ばれた少年の、兄弟の自殺』
    → 『うつ病の母は子供を巻き込む』
介護をするご家族にもカウンセリングを
 そうすれば患者さんが家でらくにすごせます
2006/11 EurekAlert Counseling for spouses keeps Alzheimer's patients out of nursing homes

 きっぱりさわやかに、患者と家族のあるべき姿を絵図に表してくれているイラストも好感度高い。
  ●ネット イラスト:渡部淳士
 この画者が挿画を入れてくれている本をもっと読みたいゾ。

挿画


 患者さんと対するとき、厳に戒めるべきNG3点。
   ×1・ヒントやクイズで言葉を引き出そうとすると逆効果
   ×2・連想を求めるのもダメ 無意味
   ×3・病気前の状態と比べる
 特に「×3」はサイアク。

 「病気前」は、みな「病気を経た人間」には不適切な物語の上を歩いている。
 病気を経験した人間には不適切な物語の上に安住しているのが、健康な人たちだ。
 だからこそ、病気や障害に直面すると簡単にパニックに陥るのであり。
   → 『物語というプラシーボと人生』
   → 『心の男女差、病の告知(物語のインポート)』
   → 『遺伝相談と心理臨床:DNAの病気と心のおとしまえ』
 病気や障害が訪れたなら、その状態に適した物語にチャンネルを変えて生きないと、ほっておくと病気や障害ではなく、「不適切な物語」に殺されてしまいかねない。

 チャンネルを変えよう。
 「新しい自分」「新しい彼・彼女」を生かす物語をインポートしよう。

挿画


〓〓〓 EP 〓〓〓

アンカー【ブレインダメーぢ】


 それぞれの、新しい脳・体に適したチャンネルのインポートで、新しい道が拓けた例はたくさん知られている。

 極端な例では、先日NHK教育でも放送された日本賞グランプリ『ブレインダメーぢ』。
   ●ネット Braindamagj'd... Take II
 カナダのテレビプロデューサーPaul Nadler が、 交通事故で脳損傷。
 言語能力も性格も身体機能もがちゃがちゃに。
 苦難の10年リハビリの末、元の自分に戻るのではなく、今の新しい自分を生かしたパフォーマンスやディレクションを開発。
 のみならず、自身の回復と才能開発を記録した番組を自分で制作(!)、斬新な演出と編集、ジェミニ賞や日本賞などを受賞し世界で話題に。
 各国のブログで「ウソじゃないか」といぶかられるほどのみごとな作品。一見お勧め。
   ●NEWS Film chronicles brain-damaged man's astonishing progress
    脳損傷患者の驚くべき回復を記録したドキュメンタリー

 (『ブレインダメーぢ』は正確には失語症ではないが、
  失語症は広い脳損傷も伴いうる障害であるし、
  脳損傷というくくりではじゅうぶん参考になりうると思う)


 経験者はインポートに適した良い物語を示し導いてくれるだろう。
2006/11 【日本語記事】 毎日新聞 若い失語症者のつどい:一人で悩まず、自信と勇気持とう−−発起人・林さんら呼び掛け
 ●ネット  『若い失語症者のつどい』


●本ミニ ローレン・E. モイニハン 『ディスレクシアってなあに?』 明石書店 (2006/11)
●本ミニ トム・ハートマン『なぜADHDのある人が成功するのか 自分らしいビジネスライフを送るために』 明石書店 (2006/09)





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[カテゴリ 科学に佇む2006年] : 2006年11月22日 
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