
『重役室のサル 人間も組織も、こんなに「動物」だった』
(原書:2005 THE APE IN THE CORNER OFFICE)
リチャード・コニフ著
勝貴子 訳 [ Amazon ] [bk1]
光文社 2006/06
会社組織・雇用関係・階級組織における心理や行動を、きっちり実戦向けに進化心理学解釈いたしました。
そんな本。
昔、進化心理学関係のネットで「サル山の大将ごっこもいいかげんにせんかい」みたいなツッコミをしたこともあったけれど。
当該書は2005年の出版。
去年時点の最新知見を抜け目なくふんだんに盛り込んで、上司の行動、こき使われる部下の心理、会議におけるきったはったの動向を… はいいとして、それにしても、たいへんよくデータを集め、手際よく解釈を開陳しなさってはいるが、

な ん で 企業 重役 サラリーマン。
いやもう、当該書の解釈はなんでもかでもサラリーマン思考。
ボスザル(重役)にこびへつらう下位チンパンジー(サラリーマン)。
チンパンジー(企業人)の集団でどんな個体がどううまいことやってサル山の大将(重役)になっていくのか、そのポジションを維持するために、ボスザル(重役)はどのようにふるまっているのかふるまうべきなのか。
その企業向け解釈の徹底ぶりというか、パロディのようなみごとな料理のてぎわに、「これものすごいデータを恣意的に歪めて解釈しているんじゃないだろうか」という疑念がわかなくてもいいところにまでむくむくと。

いや、この本ツカエナイという意味ではない。
使えるからこそ、デキスギじゃないかと。
そこで思わず想起するのが、かつて記した「自衛隊的うつ病対策」のお話。
... 以下つづき...

2004/10 『防衛庁経由・うつ病救済行き』
「うわ、科学的っぽい解釈って、軍隊のような組織運営とこんなに相性がいいのか」
軍隊と進化心理学はこんなに相性がいいもんなのかと感心してしまう。
さまざまな背景を持って集まった雑多な人ばらを、理屈で一括管理し、同じ目標に統一させる。
企業や軍と、相性がいい進化心理学。
その端的なあらわれ。
世の中、企業さんやサラリーマン屋やっている人間ばかりではない。
企業さんやサラリーマン屋やってない人もたくさんふつうに生き暮らしているし、繁殖もしなさっている。
学校、介護、家庭内、公務員、芸人、農家、町内会、文化人類学や野生動物研究のフィールド、バイオインフォマティクスの研究室… それぞれのバリエーションで、それぞれ版の「重役室のサル」を書いてみるべきじゃないのか。

汎用の効かない、企業人だけをターゲットにした著作じゃないのか。
そう思えるから、だから。
非企業ではどうなのか、学校、介護、家庭内、公務員、芸人、農家、漁村、マスメディア… をそれぞれ舞台に据えた進化心理学解釈の開陳を、『重役室のサル』と同等に披露してみなされよと。


進化心理学は、一括管理が好きだ。
「人類に共通する要素」という共同幻想を夢見る。
「個々」それぞれのありようは、均しつぶされるか、適応度という無粋な尺度で切って捨てられる。
一括管理からはみ出すものは「不適応個体」という不当なレッテルを貼られやすい。なぜなら「同じ目標への統一」や「共通する性質に絞り込む」ことがいつのまにか思考のデフォルトに染み込んでくるから。
理屈で一括管理し、同じ目標に統一させる、企業・軍隊的な進化心理学解釈。
そんな「理屈で一括管理され、同じ目標に統一させられている」企業人さんたちが、なんとか暮らしに適応しようとサラリーマン向けのファーストフード的な処世術本・心構え本をとっかえひっかえ読み捨てる、その中の一冊として、こんなサラリーマン向け進化心理学本もおいしく売れておりますよ、ということか。
前にもこんな感じのパロディ状態本(だけど良書)を読んだような気が。
ああ、これだ。
「人間」のことをすべからく「消費者」とお呼びになられていた心理学のご本。
なんかそんな感じ。
人間をサラリーマン視点でしか見てない、それ以外の世界はお呼びじゃない、みたいな。
…でもあいにくデキは悪くない本なんだよな。

当該書、おりおり軽いコラムもはさまれます。
…が。
コラム、なぜこんなフォントを選んだ。
ほかにもっと適切そうな書体があるだろうに。

p.98
私たちが階層制を受け入れるようになったのは、戦略的計画に卓越した誰かが、それが収益性を上げる道だと説いたからでないことは確かだ。
階層制は、われわれの遺伝子にある。サルも類人猿も、序列を強く意識する。

ふと。
罠かな? みたいな懸念が頭をよぎる。
進化心理学の、軍や企業との親和性。
そこに、軍や企業のような思考枠に親和的な研究者が、進化心理学を選びやすいという可能性。
それぞれの研究分野によって、集まってくる人間のタイプは偏っている。
「心の安寧や救い」に敏感な人はそのような治療・研究・福祉分野に進みがちだし、
「心の安寧や救い」が苦手で「データ集積、成功、名誉、地位」などのほうに魅力を感じる人間は、データ重視名声重視の分野にしがみつく。(ヒトゲノム、バイオインフォマティクス、ES細胞、遺伝子特許…)
軍や企業のような「効率、均一、適応不適応」からものごとを一括することに抵抗がない性向の人間は、比較的、進化心理学のまわり(研究者に限らずメディア従事者など含む)に多くなりがちだ、ということがあるか。ありえるか。
軍や企業のような「効率、均一、適応不適応」からものごとを一括することに抵抗がない性向の人間が、進化心理学の研究に興味を持ちやすく、軍や企業のような「効率、均一、適応不適応」からものごとを一括することに抵抗がない性向の人間が、進化心理学の発信と解釈を披露する比率が多くなる、そういう…、
罠的ループ、はないか。
罠的ループ。
偏向しやすさ。
いきおい、「不適応者(階層の下位にある個体)は淘汰の対象であってしかるべきだとみなすことに抵抗がない人間」の比率に異常さはないか、学徒ではどうか、サトシ・カナザワやジェフリー・ミラー、デビッド・バラシュ、山形浩生ではどうか、いったん進化心理学にコミットしながらきびすをかえした研究者ではどうか、などなど、なんぞ検証… するほどのヤバさは…。

日本では、人間の延長もしくは投影対象としてサルはかねてより親和的なポジションにいた。
西欧では、サルは、人間の延長ではない。ただのけだもの。
サルを人間と同一視することに対して、西欧のお方がたは日本の者には想像がつかないほどの抵抗をお示しになることが少なくない。
当該書はその点も踏まえて読むと、コンセプトの冒険さがさらに興趣深く楽しめるかと。

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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