[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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バイオテクノロジーの経済学にパテントプールは無理?

カテゴリ[科学に佇む2006年] 2006/10/20
 いやあ、部外者的には「動物実験を外注する」という実態が、妙に新鮮でおもしろく。han

◆左表紙
 『バイオテクノロジーの経済学
 「越境するバイオ」のための制度と戦略』

 小田切宏之著
 東洋経済新報社 (2006/07)
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 遺伝子組み換えをはじめ、バイオケミカル、バイオレメディエーション、バイオメカニクス、バイオエレクトロニクス、医薬品開発…
 バイオを用いた産業や商売たちが抱える、特有の諸問題。
 それを経済学の視点で整理整頓紹介してくれる。

 ●ネット バイオケミカルエンジニアリング  生化学工学
 ●ネット バイオレメディエーション  微生物などを利用した環境浄化
 ●ネット バイオメカニクス  生体力学 生体の構造や機能・仕組みを力学する
 ●ネット バイオエレクトロニクス  生物工学+電子工学
 ●ネット バイオマス  生物資源
 ●ネット バイオインフォマティクス  生命現象を情報解析する
 …日本語で命名してくれよ、みたいな。

 そして、これらのバイオ関連の測定・解析装置、ソフトウェアやDNAチップの開発、生産…
 さまざまなバイオ関連企業・ハイテク関連業種の連結ハブとして機能する総合商社…。

●●●小玉7●●●

●日本のバイオはベンチャーがへなへな?

 日本での出願は主に大手企業によってなされている。
 上位100企業・機関の特許出願のうち,大手企業によるもの(2000年)
    日本72% 米国21%
 米国で大手企業以上に活発に特許出願しているのはベンチャー企業と大学・公的機関。
 大学・公的機関による出願
   日本=1991年の8%から2000年の25%へと大きく増加
   米国=1991年の51%から2000年の34%に減少、それでも日本より大きい
 ベンチャー企業(2000年)
   日本=3%
   米国=45%
   欧州は日米の中間(どちらかといえば日本に近い)

●●●小玉7●●●

●日本の特許は世界に通用できてない?

 特許庁の1991-2000年世界のライフサイエンス関連技術特許出願についての調査:p128
世界の出願件数
 米国人:44%★★★★ 日本人:23%●●     欧州人:19%〓

海外には出願せず内国出願のみ(2000年)
 米国人:10%★    日本人:64%●●●●●● 欧州人:14%〓

日本への出願 米国人:41%★★★★     日本人:37%●●●● (1997年)
欧州での出願 米国人:54%★★★★★    日本人:8%●
米国での登録 米国人:76%★★★★★★★★ 日本人:8%●

これらの事実は,日本の発明者が国際的に特許を出願しようとしないか,日本発のライフサイエンス関連技術のうち国際的に通用する高いレベルのものが少ないことを示唆している. p128


 で、この本が出たのは今年2006年なんだが、上掲2000年頃以降の状況変化についてはどこかに情報はあるだろうか。

... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

アンカー 【パテントプール】

p132からひとしきり紙数をさいてバイオ産業の「反共有地の悲劇」について考察してある。
  → 『反共有地の悲劇/アンチコモンズの悲劇』
 特許を取りすぎると、特許を持つほうも、特許を使うほうも損をすることになるぞ。
 そんな「反共有地の悲劇」。

 特許がんじがらめの「反共有地の悲劇」を解消する一般的な方策のひとつに【パテントプール】がある。
   ●ネット パテントプール
 特許権者たちがばらばらに請求するんじゃなくて、互いに協力して製品化しやすそうなレベルに特許料を設定すればいいんじゃないかと。
 特許等の複数の権利者が,それぞれの保有する特許など又. は特許等のライセンスをする権限を一定の企業体や組織体に集中し,当該企業体や組織体を通じてプール. の構成員等が必要なライセンスを受けるもの
http://www.jbaudit.go.jp/kanren/gar/japanese/jartcl21to30/j30d10.pdf

 複数の特許権保有者の間で結ばれる契約であり、複数の特許を互いに、あるいは第三者にライセンスするためのもの。
http://www.kyushu.meti.go.jp/web/16_1_26_tlo/kityo_kouen.pdf


 ●ネット 「知的財産の基礎知識」
 それぞれ個別の特許等を所有する複数の企業が、共同で設立する企業体などに特許等を集中すること

 異業種でのパテントプールの例としては、
   ●ネット DVDのパテントプール
   ●ネット パチンコのパテントプール
などがあるらしい。

 で、バイオ産業で【パテントプール】が解決策になるかというと、実際のところはけっこう難しいらしい。
 互いに組んで互いに利益になるような、パテントプール上都合のいいケースが、業種の性質からして少ないらしい。

●●●小玉7●●●

アンカー 【特許の藪】

 でもって、【パテントプール】もできない「反共有地の悲劇」にお困りのところにさらに泣き面にハチ、【特許の藪(やぶ)】なるものも発生してワヤに拍車がかかっているんだそうな。
 ●ネット 特許の藪
p138
相手企業から特許使用許諾の拒否により当該技術を用いた製品の製造販売を阻止されることをおそれ,自社も相手を阻止できるよう特許を持つことにより交渉力を維持しようとするインセンティブをもたらす.つまり,みずからは利用する予定のない技術であっても,他社を排除できる力を示すために特許化することが有利になる.こうした競争の結果,実際に使うかどうかとは必ずしも関係なく,多くの特許が成立してしまい,各社ともいわば身動きできなくなってしまう可能性がある.この現象を「特許の藪」と呼ぶ.

 要するに、

・ドレミファソラシドの「ド」の権利をヨソの企業に取られたら
 良い曲が作れなくなってしまうじゃないか。
 それならうちもドレミファソラシドの「レ」の権利を取って
 ヨソにばかりおいしい思いをされないようにしよう、
 実際は「レ」はあまり使わないとしても。
・ドレミファソラシドの「ド」と「レ」の権利をヨソに取られてしまった。
 あいつらにお金を払わないと、「ド」と「レ」がない曲しか作れない。
 あまり使わないけれど、せめて「ドのシャープ」の権利を取って
 なんぼか交渉上有利に持っていこう…

そんな繰り返しをやってしまい、しまいにはどの音階も、どの和音も、高い金を払わない限り全然使えなくなってしまった…

p139
他社との交渉力を高めるためという目的のみで特許化したり,他社にその技術を特許化されてしまうことから防衛するために特許化したものもあるに違いない.こうした理由で特許化への競争が進むことが特許の藪を深いものにするのである.


 現場の研究者は現状をどう把握しているんだろうか。
 現場の研究者は自分の位置をどうとらえているんだろうか。
 そのあたりの声や息づかいは、この本には全く記されてはいない。

●●●小玉7●●●

 …平行して、両棲類、魚類、解剖学の本を読んでいる。
 全く研究・制度・人材が不十分であるとなげかれる分野。
 今現在も続々と絶滅していっている生き物の、何をもわかっていないこの人間。
 いっぽうで、大金という妄念を動かしながらも互いの所業が首締め合いになりつつあるバイオの最先端。

日本の株式市場で足をすくわれた外資系バイオテク企業
 初めて上場した外資系バイテク企業、制度のせいで八方ふさがり
2006/09 Nature Digest 【日本語PDF:Stuck in the middle


 ごくごく原始的なままに推移しているヒトの「生存欲」「金銭欲」を満たすべく、「生存欲」「金銭欲」のコントロールとは無縁に乖離したようなテクノロジーを駆使しながら、繰り広げられているバイオ企業ゲーム。
 超高性能のアーマードスーツを操縦するのが、結局サル。
 スーパーコンピュータがお仕えする相手が、ホモサピエンス。

 せめて、「欲」とは何からできあがっているのかを、自省できるサルであらんことを。



メタル


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* * *

→ 上掲のお話についてのコメント

1154 #1Hq6PX1w コメントアンカー 正己 さんのコメント 【2006/10/21】

特許の問題、難しいです。
私が研究者だった頃、私の研究成果に関しては特許を申請しない方針でした。でも、失業して金が欲しくなると特許を申請しておけば良かったなぁ、もしかしたら少しはお金が入ったかもと思ってます。ちなみに私の名を共同研究者として連ねた同僚が申請した特許のおかげで年に5千円くらいお金が入ることがあるのですが、やっぱり嬉しいです。

1201 #8/QX/KZA コメントアンカー 正己 さんのコメント 【2006/10/21】

書き忘れたので追加コメントです。
私が特許を申請しない方針だったのは、私の研究成果を多くの人にどんどん使って欲しかったからです。実際に役立つ成果があったかどうかは分かりませんが、特許料を支払わなければ使えないようでは広まりにくいと考えたからです。特許制度そのものに反対でした。でも、特許はそもそも研究を推進するためのものだったらしく、ようするに研究者への褒美のようなものだったらしく、実際に特許のために研究している人もいるようで、やっぱり特許制度は必要なんだろうなぁ、と失業してから考えるようになりました。
製品が複数の特許の組み合わせになっている場合のパテントプールの考え方、初めて知り、なるほどと思いました。

1313 #MJWiGxv6 コメントアンカー 雨崎良未 さんのコメント 【2006/10/21】

経済ゲームによほど興味がない限り、現場の個人が「特許」の位置関係・力関係の動向を敏感に察知してかしこくふるまうのはかなり難しいですよね。
理想と現実のギャップ検証なんか、人生いちいちやってられなかったりするし。

それぞれの国柄、分野、組織で、特許に対する姿勢・考え方がかなり異なっているでしょうし、特許を取るか否かの判断が、たまたまその人がいた位置・所属に左右されてしまう、という「科学無関係な」しがらみもたくさんあったりするんでしょうね。

特許のヤブやら、ヨソとの競争やら、利他的開発とか… それらに比べると、著作権はなんとシンプルな構造なのかと思ったり。

バイオ業種では、DVDのような「パテントプール万歳」になれる条件が見込めないんだそうです。
大手ではない孤高ベンチャーが多くの特許を握っているので、業界的に協力しない場合のペナルティが効かない。
協力しても「商品の普及に拍車がかかって売上げ倍増」って見込みもそんなにないし、プラスが少ない…。

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筆者:雨崎良未
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