動物は、飼い主の心に何をもたらすのか。
動物を飼うことは、飼い主にとってどんな効果があるのか。
動物嫌いは何をきっかけに始まるのか。

『ペットと生きる ペットと人の心理学』
B.ガンター (著)
北大路書房 (2006/05)

PETS AND PEOPLE: The Psychology of Pet Ownership
by Barrie Gunter
Whurr Pub Ltd
原書の情報と書評:アマゾン 日 米 英.
たくさんの情報が詰め込んであります。
それらの情報を並べながら、こんなことがいえそうだ、この点はまだいろいろ異論がある、ここらはまだ研究しきれていない、など、
良く言えば
研究のさまざまな現状をよく見せてくれる、これからさらに研究をして見たい人にオススメ
悪く言えば
焦点が散漫で、情報の多さのわりにはなんか浅い印象が残る。
たくさんならべたぶん、
さまざまな面の知見をいっぺんに知ることができる
使える豆知識がいっぱい
けど、並べ方まとめ方がまずいのか、
こんなにわかっていないことが多いのか
話の重複が多いぞ
矛盾した記述も混じってるぞ
微妙にツッコミながら読むこともできる。

とりあえず、ペットと飼い主の関係について世間的に云々したいときに、「既存の知見にはどんなものがあるか」チェックして論拠を拾ったりするには便利なご本。
例えば。
・肩書きや地位にこだわりがある人はペットでも見栄を張りがち、ありふれてはいない珍しい動物を選ぶ傾向がある(が、それとは自覚していない)。
それぞれについつい、自分にふさわしい動物、という選考基準で、おのれの管轄下に置く生物を選んでいるわけで
・ペットが飼い主の象徴的な自己の拡張として見なされる、さらには「自分と同じ水準の生活をさせたがる」
なもんだから、タクのイヌちゃんに華美な服を着せたり、各種のお犬さまお猫さまサービスが成り立ったりしているわけで
・これらの行き過ぎた行動は「ペティシズム(petishism)」とよばれ,フェティシズムの一つの形態と見なされている。p.6

日本で「ペティシズム」をぐぐってもそんな意味では使われてはおりません。
海外サイトでは「petishism」はその意味で流通しているけれど、ふつうは使わない表現であるらしい。
・家族の最年長者が30歳から49歳の家庭は、ペットの所有率が高い。p.26
まあ、一番「余裕」のある層でもあります。
・ペットを飼いたがらない人=自分の家をこぎれいに保つことを優先する傾向
・ペットを飼いたがる人=すまいのきれいさよりは、孤独を避けること:社交を優先する傾向p.35
こんなデータもございます。
・キンゼイ・レポートは、アメリカ成人男性の8%、成人女性の3%が、なんらかの動物との性愛的接触(要するに獣姦)の経験有りと推定。p.12

いや、ま、その、男のほうが多いってのは想像できるけれども、けっこう女も(この数値を真に受けるならば) やっておりますな。
... 以下つづき...

さらに日頃親が「犬は怖いから」と教えていると、それに輪が掛かかってしまう。
・個人差もあるが、おしなべていえば、ペットを飼っている人のほうが、飼っていない人より、社会的意識が高く、他者を信頼し、ひとづきあいがよい傾向。p.33
おおざっぱにまとめればということで、もちろん「異常な飼い方」をしていたらこの結果からははずれるであろうことは想像に難くない。
・ペットが好きな男、特に犬好き男は、支配的な性格をもつ傾向があった。
・それに比べて、猫好き女性は服従的で穏やかげ。p.37
もちろん例外はあるよ。
・猫好きの人は男性女性にかかわらず、全般によく気遣いができる人々。
それに対して犬好きは関白傾向なわけね。
・ペットの飼育は、伝統社会での拡大家族の役割を担い、情緒的な欲求を満たしている。p.47
本来はご近所さんとのわいわいづきあいで生育することが多かったヒト、いまでは核家族化や都市化・オンライン化で希薄になってしまったその「生々しいご近所・大家族」部分の代行を、ペット飼育がはたしてくれる説。
【「社交上の報酬感得」モジュール】・ペットにのめりこみすぎる人は、内向的で自尊心が低い傾向。p.34
はいな、最近書きたくても時間がなくて後回しにしていた懸案事項を、この機会にここに書き付けておきます。
例えば。
人心が機能モジュールの寄せ合わせで構成されているとして。
「社交能力」モジュールができがわるくても、「社交上の報酬感得」モジュールはいっちょまえなことはありえるわけで(のどが腫れて飲んだり食べたりできないのに胃腸は元気、みたいな)、人間相手では社交がうまく行かず「社交上の報酬感得」モジュールがひもじいよ〜さびしいよ〜と悲鳴を上げるところを、ペット相手からの社交上の報酬でなんとか感情的な飢えを満たすことができる。
端的には、アスペや自閉症スペクトラムとか、となるのかな。
社交とはなんぞや、社交スキルとはなんぞや、他者感情の察知とはなんぞや、のあたりのモジュールがいまいちなのに、「社交上の報酬感得」モジュールはいっちょまえ(もしくは訓練しだいで正常な発達をなしうる)なわけで、人間相手では社交がうまく行かず「社交上の報酬感得」モジュールがひもじいよ〜と悲鳴を上げる状態が、人間以外によって懐柔され癒される、という可能性。かな。
・ペットを飼っている人は医者にかかる回数が少ない。p.89
ペットがいるだけで(水槽鑑賞も含む)ストレスが軽減され、社交渇望も癒されるので、心身ともにSOSを出す必要性が減るらしい。
・心の病はペットがいるだけでたしかに改善する。p.106
心の病に限らず、訪問介護にしても、相手が動物嫌いでなければ、訪問者がペットを連れていくことで親密さが一気にアップするとのこと。
・子供時代にペットを飼った経験があると、社交能力・共感能力が伸びる。p.33 p.104 p.125
生病老死の人生の予行演習になるし、責任感の訓練になるし、幼少時の自分を投影して当時の苦しみを代償補填する癒しのカギにもなる。
金魚死んだときは、じいちゃんが死んだときのこと思い出して「また死んだ!」とか「よりよい野辺送り」とか考えたもんな。
p.163
飼い主はペットを死んだ人とつながりのあるものとして見ることがある。ペットの死は,ペットのみならず,既に亡くなった人への悲しみの口火を切るものとなる。強い愛着とともに、飼い主の中には悲しみに折り合いをつけるのに時間を要する人もいる。友人や親族が代わりのペットを買い求めようとするのは,必ずしも最良のことではない。ペットと深い愛着関係を築いてきたのだから,その動物を失った悲しみは親友の喪失と同じようにきわめて深いものなのである。
「母さんが死んだから、替わりの母さんを買ってきたよ」なんてのはちょっと心情的にあり得ないというか、ごめんしてだよね。

【矛盾した記述】たとえば、前半で
ペットは人間にとって寄生虫のようなものだ p.81
宿主を操作して美味しい思いをしているだけで、飼い主には何のプラスもない
と切り捨てておきながら、後半えんえん並ぶ証左は
ペットを飼うことはストレスを下げ心にも健康にも社会的にもいい効果がある
…プラスになってんじゃん。orz
ところどころ変なエセ進化心理学が登場していたりしてp.83、ちょっと進化学〜生物学についてはうとい著者さんらしい。
というか、もとよりこの本、内容が前世紀なんですね。原書1999年。
進化心理学の見解も、当時のレベルを反映しているだけなのかもしれない。
それと、あがるデータはアメリカ中心の欧米&豪州がほとんど。
話古いし、外国だし、で、厳密な論議をしようというときにこれを日本にまんまあてはめるのは、いささか遠慮したくなる。
でも、巷向けにトリビアをちょちょっと披露するには大変おいしいネタ本かも。
論拠資料として、情報豊富、レファレンスも充実。


以下、動物と人間心理に関する、今世紀の関連記事を並べておきますね。
●心の癒し
孤独なお年寄りにとっては、ヒトづきあいよりはイヌづきあいのほうが心なごむのです
2006/01 EurekAlert Man's best friend: Study shows lonely seniors prefer playtime with pooch over human interaction
イルカ療法とうつ病
2005/11 EurekAlert Swimming with dolphins can alleviate depression
2005/11 BBC News Dolphin therapy fights depression
2005/11 共同通信 イルカと触れ合いが効果 うつ病治療で英研究者論文
老人や患者さんにペットはグッド
2005/11 EurekAlert Are pets good for you?
2005/11 共同通信 犬の癒やし効果、人より上 心臓病患者の不安など改善
2005/10 産経新聞 馬と触れ合い心を癒やす ひきこもり対策 授業に「ホース・セラピー」
2005/07 読売 ペットで「気持ちが癒やされる」は8割
統合失調症にペット療法はいかが?
2005/01 BBC News Pet therapy 'helps schizophrenia'
2003/10 共同通信 イルカ療法でNPO初設立 セラピストや専門家を育成
ペット療法
2003/10 ABCNEWS.com Canine Cures
How Humans' Best Friend Could Also Become Their Savior
2003/10 asahi.com 広がるイルカセラピー 自閉症などの子らに
2003/09 asahi.com <元気>アニマルセラピー、血圧下げ癒し効果も
2003/09 共同通信 室戸岬でイルカ療法を研究 麻布大が2頭を飼育
2003/01 毎日新聞 <セラピー犬>統合失調症に効果 鹿児島の診療所で実践
2002/08 読売 動物とふれあう活動盛ん 痴ほう治療でも効果 心を開き笑顔生む
ただし、無理強いは禁物
手っ取り早くなごみたいならペットを飼おう どんな精神安定剤よりすばやく効きますよ
2001/11 EurekAlert! Rx for a better life? Get a pet, and do it now
2001/07 中日新聞 イルカの“癒し”日間賀島で研究 美浜町
職場のかわいい人気者 職場にペットがいると場がなごむしストレスも軽減される
2001/07 Yahoo! News Pets in Workplace Please Workers, May Reduce Stress
もちろん、動物嫌いの人には無理強いしてはいけませんです。逆効果になる。
●健康アップ
2004/11 cnn.co.jp ダイエット成功の秘けつは「睡眠」と「ペット」、米研究
犬といっしょに走れと。
●うるさいよ
避難所の犬のほえ声という絶え間ない騒音は、異様なストレスになります
2006/07 EurekAlert Constant din of barking causes stress, behavior changes in dogs in shelters
2004/03 毎日新聞 <ペット>犬の鳴き声、金属プレス機よりうるさい 環境省調査
人間は、怒鳴り声や悲鳴っぽいものに過剰に感情を逆撫でされるようにできているわけで、犬の吠え声ってのは擦り傷に塩すりこまれているような、普通の騒音以上のダメージだったりするんだろうな。
●ペットに関するヒト心理…
あぶにゃぁい!
あなたの性格はネコのせいで変化しているかも
飼い主の半数以上が感染する人畜共通寄生虫トキソプラズマ
脳に寄生して男は粗暴に女はわがままに
2005/06 Times Dangerrrr: cats could alter your personality
参照『人間を操作する寄生虫』
2005/05 毎日新聞 <ペット>ぜんそくの原因でも、飼い主手放さず
飼い犬ってマジに飼い主に似てるじゃん
2004/03 EurekAlert Study claims dogs and their owners look alike...
2004/03 New Scientist Dogs do resemble their owners, finds study
2004/06 ScienCentral Look Like Your Dog?
…うちの猫はよく床に吐くけど、飼い主は一回しか吐いたことないぞ。
一匹は完全に失明しているけど、最近飼い主の目の調子が悪いのは完全失明の予兆なのか…?!
あ、いや、上の「飼い主に似てる」記事は犬の話か。

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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