[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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歌うネアンデルタールと音痴なミズンの科学

カテゴリ[科学に佇む2006年] 2006/10/02
◆左表紙

 『歌うネアンデルタール
 音楽と言語から見るヒトの進化』

 スティーヴン・ミズン (著)
 早川書房 (2006/06)
cover
原書: スティーヴン・ミズンの「歌うネアンデルタール」
The Singing Neanderthals
 Steven Mithen (著)
 ハードカバー: Weidenfeld & Nicolson (2005/06/30)
書籍情報と書評:アマゾン    

 ヒト音楽の原初の姿や由来・機能を考察するために、いろいろと証左をあげつらって考察しているご本。
 科学的(科学者のやり方的)だし、タイトルのネーミングもおしゃれだし、著者はヒト祖先の五感や思考についての考察で名の知れた古人類学者だし。
 でも。
 なんかつまんない。
 こないだ読んだウィリアム・ベンゾンの本のほうが、読み物としてはずっと面白かったからだろうか。
→ 2006/04 『音楽する脳と感情のヒト進化』
左◆表紙
(原書2001年:BEETHOVEN'S ANVIL

 ベンゾンの『音楽する脳』 は、原書2001年。
 ミズンの『歌うネアンデルタール』は原書2005年。
 ミズンのほうが、4年ぶん新見解を加えてさらにワクワクするような内容(だと期待してしまったのがまずかったか)… ワクワクしない。orz

 これ。 もしかしたら。
 ミズンが冒頭で言い切ってしまっている「自分は音痴」が関係している???
 ベンゾンさん のほうは、みずからも楽器をたしなみバンドに参加しグルーブを織りなす、音楽生成のハイ:至高を知る粋人。
 ミズンさんは、ご家族もあきれる音痴さん。(演奏は別とすれば音楽鑑賞はお好きだとのこと)
 読んでいて、ものすごい生彩の差があって、その差は「書き手がしらべを生むか生まざるか」の一点ではないかと思えたのは …寝不足な私の考え違いか?

 それにしても。
 なんか、ベンゾンさんの位置がよくわからない。
 ベンゾンさんは、言語と音楽の連関についての考察は浅かった。
 ミズンさんは、言語と音楽は共通のルーツを持つものとして、手が届く範囲のデータをありったけ並べて想定&考察する。
 ミズンの『歌うネアンデルタール』(2005年)は、なんでだろ、1997年に出たスティーブン・ピンカーの 『心の仕組み』をまず目の敵に挙げる。
 いわく、”みな音楽についての考察をなおざりにしすぎだ、言語研究に比肩するほど音楽はヒト進化上重きを置きべきだ、ピンカーは音楽を無視しすぎだ” みたいな。
 2002年にはスティーブン・ピンカーの 『人間の本性を考える 心は「空白の石版」か』が出ているわけで、そっちには触れずに、…なんか『心の仕組み』の当時、一戦まじえるかして禍根でもあったんだろか。
 で、ベンゾンさんとその著書については特に(私が見逃しただけかな)言及もなし。
 ベンゾンさんの内容は、無視できる程度の初歩レベルものだったのかな。

●♪●

いかんせんまだまだあいまいな音楽の進化解明
 〜Peter Forbesによる『歌うネアンデルタール』書評
2005/07  Guardian  Music of the hemispheres
 人間は絶対音感を持ってこの世に生まれてくるのに、たいがい3〜6才の間にその才能を失ってしまう。
 それはおそらく「言語の習得には絶対音感がじゃま」だからなのだろう。
 言語障害の症例と音楽認知障害の症例があざやかに示してくれる言語と音楽の密接な機能的からみあい。
 言葉がうまくしゃべれなくても見事に歌い上げることができる人々。
 言語能力が卓越していても、徹底した音痴状態で生涯を終える人々。
 それにしても、ピンカーの主張に対する異議申し立てを展開するミズンは、結局似たような還元主義に陥ってしまっているのであって。


 もとよりミズンさんは、自閉症など脳機能障害から古代人類の芸術についてのヒントが得られるとお考え。
ニコラス・ハンフリー著 「喪失と獲得 進化心理学から見た心と体」 紀伊国屋書店 2004/10 (原書2002/THE MIND MADE FLESH) 

p.149 描画サヴァンのナディアを例に挙げて
 洞窟絵画について結論すべきでないことに関する否定的な主張に対する二つ目の異論は、異なったレベルのものである。その異論は、私の議論は洞窟絵画を孤立した現象であるかのごとく扱うものであるが、それは正しく、それを取り巻く他の文化的文脈のなかで考察されるべきだという主張からなっている。たとえば、スティーヴン・ミズンとイアン・タッタソールはともに、洞窟絵画がナディアと似たような心によって制作されたことについての論拠が、_もし_美術しか依って立つべきものがないのであれば、通用する可能性があることを認める。しかし、後期旧石器時代文化が全体としてなしとげた達成を考慮するとき、この解釈は、断じて受け入れられないと、彼らは言う。当時、洗練され、象徴を用い、言語に満ちあふれた心が存在したことを物語る考古学的記録がほかにあまりにもたくさんある。すなわち、身体装飾、葬儀、精巧な交易ネットワークなどの証拠である。もし人類が、これらすべての領域でこれほど進んでいたのであれば、きっと彼らは、その美術においても、同じ高いレベルの知的技能を用いていたにちがいないだろうというのである。


スーザン・グリーンフィールド著「脳の探究:感情・記憶・思考・欲望のしくみ」 無名舎 マクミランランゲージハウス(発売) 2001/09(原書2000/Brain Story, BBC) 
p.234
ミセン[ミズンのこと] は話をもう少し先へ進め、およそ四万年前に美術や文化が爆発的に誕生したのは、話す能力というより、ある物事をほかの物事との関連で理解するという新しい能力が生まれてきたためではないかと述べている。


●♪●

人類学者Barbara J. Kingによる『歌うネアンデルタール』書評
2005/10  Bookslut
 ボノボに見られる音楽的才能。
 あ、こんな本が出てたんだ!
cover
●(有名なボノボ)カンジの原始言語:言語への霊長類の文化的イニシエーション
Kanzi's Primal Language: The Cultural Initiation of Primates into Language
 Par Segerdahl, William Fields, Sue Savage-Rumbaugh (著)
 Palgrave Macmillan (2006/2/28)ハードカバー
書籍情報と書評:アマゾン    

「毎晩音楽を聞き、楽器の音を楽しむボノボたち。
 カンジ Kanzi は、ドラムと木琴を演奏する。妹のパンバニーシャ Panbanisha はシンセサイザーとハーモニカをたしなむ。
 音楽の先生を満足させることはできないできばえかもしれないけれど、でも、彼らはそれを楽しむ ― 人間の子供たちが楽器で音を出して楽しむように。」.


 なお、ボノボは最も人間に近い種族だからまだいいとして、もっと遠い親戚、タマリンやマーモセットあたりになると、楽しむどころかヒト的音楽はうざい騒音っぽく聞こえてしまっている気配。ma

●NEWSどっちかというと、スロー・ミュージック
 どっちかというと、音がないほう
 タマリンやマーモセットがお好きなのはどんな音楽?
 音楽の比較心理学 もとよりお猿さんは人間の音楽は好きじゃないみたいだよ
2006/09 Mixing Memory : This Just In: Monkeys Not Mozart Fans

 チンパンジーはさほどリズム感は良くないらしい。
 ニホンザルではリズム能力と音楽に対する好みはどうなんだろう?
 介助用のリスザルにとっては、お部屋のBGMは不快だったりするんだろうか。

... 以下つづき...2006/10/03加筆

〓〓〓 EP 〓〓〓

Ellen Dissanayake による『歌うネアンデルタール』書評
2005/11  Evolutionary Psychology 3: 375-380 .

 音楽の進化について云々するには
  進化学 ヒト進化研究 古生物学
  脳科学、解剖学 声音学
  音楽の認知科学 感情の神経科学
  言語学 動物行動学 比較認知科学
  発達心理学 民族音楽学
  音楽療法 音楽心理学
など広範な知見の援用が必須。
 『歌うネアンデルタール』原書の表紙にある”歌うチンパンジー写真”は品がなくてあかん。
 (私は気に入っているんだけど、慥かに中身の堅実さは表してはいないわな)

 この Ellen Dissanayake は芸術の進化にまつわる考察の先達。
cover
●芸術と親密さ:芸術はどのように始まったのか
Art and Intimacy: How the Arts Began (McLellan Books)
Ellen Dissanayake (著)
Univ of Washington Pr (2000/04) ハードカバー
書籍情報と書評:アマゾン     .

◆90表紙
●美的なサル:芸術の由来と機能をさぐる
Homo Aestheticus: Where Art Comes from and Why
 Ellen Dissanayake (著)
 Free Pr (1992/03) ハードカバー
書籍情報と書評:アマゾン     .

cover
●芸術は何のためにあるのか?
What Is Art For? (ペーパーバック)
Ellen Dissanayake (著)
Univ of Washington Pr; Reprint版 (1990/08)
書籍情報と書評:アマゾン     .


●♪●

 この主題に関連する記事は、2006/04の『音楽する脳と感情のヒト進化』にも並べてあります。
 以下はそれ以外の、最近の新知見たち。

この箇所へのリンク【2006年ごろの「音痴の科学」】

●認知障害系

●NEWS音痴の脳をご覧ください
2006/09 news@nature.com Tone deafness shows up in the brain
 Can't sing? It could all be down to a lack of white matter.
音痴:先天性失音楽症 congenital amusia
 右の下前頭回 right inferior frontal gyrus がちょっと違うみたいだよ
2006/09 EurekAlert Study identifies part of brain responsible for tone deafness

●かしこく育てる系

●NEWS音楽のレッスンで頭が良くなるよ
2006/09 BBC News Music training boosts the brain
音楽のトレーニングが幼児において脳発育に影響を及ぼすという最初の証拠
2006/09 EurekAlert First evidence that musical training affects brain development in young children

●NEWS子守唄ならモーツァルトより母親 親子の感情的結びつきを強める働きも
2006/06 【日本語記事】 UK Today (JAPAN JOURNALS LTD.) どうして父親が出てこない

●NEWS2006/06 共同通信 音楽で脳に変化 マウス実験、知能優れる

●いろいろ効くよ系

●NEWS音楽で患者さんの不安をやわらげる
2006/09 EurekAlert Music helps patients tune out test anxiety

●NEWS歯医者の痛み、ミュージックビデオで軽くなる
2006/07 New Scientist Music videos ease pain of dental work
2006/08 ScienCentral Music for Pain

●NEWS2006/07 共同通信 好きな音楽でホルモン安定 高齢者に効果、予防に利用

●NEWS音楽は百薬の長 知能も健康もアップする
2006/06 EurekAlert Music thought to enhance intelligence, mental health and immune system

●NEWS音楽は慢性痛をやわらげてくれる
2006/05 BBC News Music 'can reduce chronic pain'

●NEWS2006/05 毎日新聞 音楽療法:注目集める 健康維持はモーツァルトで!?−−生誕250年

●感情操作系

●NEWSエロい音楽は若人のセックスを増やす
2006/08 CNN Study: Sexy music triggers teen sex

●類書

cover
●NEWS音楽の進化心理学
2006/09 Boston.com Survival of the harmonious
 ミュージシャンが音楽に感じる戦慄、鳥肌、食物やエッチでハイになる脳部位が引き起こす
 最も広く流布する説は、音楽はヒトの共同体感覚のために生じた説

This Is Your Brain on Music: The Science of a Human Obsession
 これが音楽するあなたの脳:ヒト強迫観念の科学
 Daniel J. Levitin
 E P Dutton (2006/8/3)
書籍情報と書評:アマゾン     .


●●●小玉7●●●

ミズンはこれも出してます。
cover
氷河期以降:世界的な人間の歴史 2万年前から紀元前5000年まで
  スティーヴン・ミズン
After the Ice: A Global Human History, 20,000-5000 BC 
 Steven Mithen (著)
  ハードカバー: Harvard Univ Pr(2004/09)  
書評
2005/04  American Scientist Online  Just a Lonesome Traveler, the Great Historical Bum


 なお、ミズンは『歌うネアンデルタール』p.232 で「フロレス原人は新種」とする立場をとっていなさる。

●♪●

 そういえば、ジョン・ホークスが書いていたっけ。
 古人類学は、仮説はチョー多いけど証拠が少なすぎって。

 そして、ミズンさんの当該書は、あまたある仮説の群の上にあらたに現段階で有力とみなされる仮説『歌うネアンデルタール』を提示した。
声量豊かにうららかな美声 ネアンデルタールの声を復元
 〜『心の先史時代』のスティーヴン・ミズン
2005/01 Times Online - Sunday Times High notes of the singing Neanderthals

 『歌うネアンデルタール』に限らず、諸々の仮説を裏付けるためにかき集められた証左の数々、別の角度から見るとまた違った絵が浮き出してくることはないだろうか。


追記:2006/10/03

 初めてネアンデルタールの全身骨格が再現されたのは、ミズンのこの著書が出る直前だったりするわけで。(骨格発表は出版の3ヶ月前)
 なかったんですよ、バーチャルや想像図ならともかく、ネアンデルタール人のリアル完全骨格は。
 しかも、これ一人(一頭)のネアンデルタール人の骨ではなく、複数体の部品のつぎはぎで、やっとこ全身をそろえている。eeee
ネアンデルタールの全身骨格を初めて再現
 (一部で「ネアンデルタール・フランケンシュタイン」と呼ばれてしまってる)
2005/03 EurekAlert Neanderthal reconstructed
 Anthropologists create first complete, articulated Neanderthal skeleton

2005/03 The Anatomical Record Part B: The New Anatomist Neanderthal reconstructed



 → いちばんはっきりさせにくいもの:それは当時の人類の、信仰や心性




メタル
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* * *

→ 上掲のお話についてのコメント

2122 #ciZ.EuIc コメントアンカー LEO さんのコメント 【2006/12/23】

ちょうど現在、本書から辿ってベンソン氏の「音楽する脳」を読み始めたところです。

専門は生理学ですが、音楽、美術や感情に興味があり、
いつも行き当たりばったりに本を読んでいました。
今回、このサイトに出会い、今後は効率的に本選びができそうです。
ありがとうございます !

1031 #MJWiGxv6 コメントアンカー 雨崎良未 さんのコメント 【2006/12/24】

 こちらこそ、音楽にまつわる心理や認知科学の本はそんなに数は読んでおりませんので、なんぞご紹介いただけるとたいへん助かります。
 ほんとになんでこんなに「音」で人間の感情が左右されちゃうんでしょうね。選曲を誤ると仕事にさしつかえたりするし…。
 人間における音楽の好みの、遺伝と環境のかけひきとか、障害が引き起こす音楽趣味の変化とか、くめども尽きぬジャンルです。

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