[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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水草と水辺の植物もけっこうずぶずぶ

カテゴリ[科学に佇む2006年] 2006/08/08
●画

 先日、北大にこれ見物しに行って参りました。

 ●ネット 水草研究会第28回全国集会・北海道大学総合博物館市民セミナー

「水辺のレッドデータ植物と生育環境−近畿地方を例に−」
 藤井伸二(人間環境大学人間環境学部)

「札幌とその周辺の水草を調べる」
 山崎真実(札幌市博物館活動センター)


 お題は涼やかだけど、室内気温は30度近く。(北海道的には猛暑だ)

●●●小玉7●●●

●「水辺のレッドデータ植物と生育環境−近畿地方を例に−」
 藤井伸二(人間環境大学人間環境学部)

 この人、ウェブで検索すると「元大阪市立自然史博物館 主任学芸員」。
 人間環境大学自体、2000年に設立されたばかりの新しい大学なので、その際に移籍したのかな。
 「わけわからめな名称の大学で」みたいな話が枕に。
   ●ネット 藤井伸二:教員紹介:人間環境大学

 こちらは大阪市立自然史博物館時代のサイトらしい。
   ●ネット フジイの密林
   ●ネット 藤井伸二インタビュー

 今回の藤井氏の話、目玉のひとつは簡単にいえばこれ。(えええ7年前と同じぃ?)
保全生態学研究会  会誌  「保全生態学研究」第4巻 第1号 1999年5月
「絶滅危惧植物の生育環境に関する考察」
  藤井 伸二  大阪市立自然史博物館
<要旨>
絶滅危惧植物の生育環境別の危険度を「高危険度率」(「絶滅」,「絶滅?」 もしくは「絶滅寸前」と判定された種類数の合計がレッドリストの掲載種類数に占め る割合を各生育環境別に算出したもの)にもとづいて考察した.その結果,水湿地環 境と草地環境で高危険度率が高く,森林環境と岩石地環境で低いことが明らかになっ た.また,レッドリスト掲載種(亜種,変種等を含む)の多さと高危険度率は必ずし も一致せず,リスト種が多いからといってその環境に生育する植物がさらされている 危険性が高いとは言えないことが確かめられた.今回検討したレッドデータブックの 掲載種類数は,近畿版862種類,愛知県版350種類,神奈川県版432(シダ類の雑種を 除く)種類であるが,このうち3〜4割は高危険度率が比較的低い森林性の種類であ った.

 近畿地方についての分析からは,水湿地・草地環境の中でもとりわけ強い人為によ って維持されてきた二次的自然環境(水田,水域,カヤ草地)での高危険度率が高い ことが示された.これまでにもウェットランドや二次的自然の保全についての緊急性 が訴えられてきたが,この二つの要素を持つ環境は「種の絶滅の危険性」という観点 から危機的状態であることが確認された.

 簡単に言えば、
     ・「絶滅しそうな種類の数」が100種類ある地域
     ・「絶滅しそうな種類の数」が10種類ある地域
 どっちを優先して保護するべきか。
挿画
 これ見ると、森林のほうを保護したくなるよね。森林のほうに、危ない種類が多い。
 でも「絶滅しそうな種類の数」だけを見ていたらダメなんだよと。
挿画
 ほら水田のほうが危機的じゃん!
     ・すべての種類のうち1割が「絶滅しそうな種類の植物」である地域
     ・すべての種類のうち5割が「絶滅しそうな種類の植物」である地域
 地域保全ならこっちで比べていかないとダメだろうよと。

 「絶滅しそうな種類の数」が多いか少ないかは、その危なさを表してはいない。
 要は割合なんだと。
  ・1000種類くらい生えている植物のうち先行きヤバイ植物が50種類の地域
  ・先行きヤバイ植物は5種類しかないけど、全植物の種類が20種類しかない地域
 種類の数ではなく、ヤバイ種類の割合をみて優先順位をつけるべきではないかと。

 で、実際問題、近畿地方の調査では、森林部位の絶滅危惧種は種類は多いけれど全体の植物種数からすると、そんなに多いわけではない。
 それより水田や水辺〜草地にある絶滅危惧種のほうが、割合的には格段に多いので、種類の数が少ないからと言ってないがしろにするべきではない、ということらしい。
 (大阪の水田も一昔前に比べたら、ものすごい面積減ってしまったからなぁ。絶滅危惧に陥った原因は「面積の減少」なのか「環境変化(汚染など)」なのか両方か、そのへん知りたかったけど。)

 しかし。
 種類数の割合?
 でもどっちにしろ、どれも「絶滅危惧種」なんでしょう???

 いや、どれもわけへだてなく保護して行ければいいんだけど、なにぶんリアルの世界では「行政相手」「限られた資金をどこにどう振り分けるか」のかけひき判断のための材料や考え方をなんとかせねばならんので、「こんな優先順位の付け方はどうか」「いや、それはいかがなものか」みたいな話になるんだろう。

 どっかこっかでなんかの理由をつけて、どれかをあとまわし・ないがしろにし、どれかを優先するという、順位付けのあさましさ。
 そしてこれが、なにごとにつけ有限の枷に縛られている我々の現実の世界。

●●●小玉7●●●

アンカー 【札幌には博物館がないんです】

 かけひき。 行政との。

 それがもっと端的に現れていたのが、二人目の
●「札幌とその周辺の水草を調べる」
 山崎真実(札幌市博物館活動センター)

 所属が「札幌市博物館活動センター」です。
 「札幌市博物館」ではありません。
 「札幌市博物館活動センター」なんです。
 札幌には「博物館はない」んです。 tear_flow

 予算が、札幌市には、ばかでかくハデななんたらドームを建設する金はあっても、地味ぃな博物館なんぞに回せる資金はございませんよと。
 ”博物館開設の準備段階”のまんま5年も準備中(そしておそらくこの先も…)
   ●ネット 「札幌市博物館活動センター」

 なんなんだべか。
 夕張の財政破綻もあったし、よけい先行き暗い感じ?

... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

 「札幌市博物館活動センター」、来館者数の推移がサイト上に掲載されている。
 一日の来館者数、数十人程度。
 しかも夏休みに減ってるし。damedaroo
 ほぼ遠足依存?
 はっきし言って、私も「札幌市博物館活動センター」というものが中央区にあることを知らなかったわけで。

学芸員は雑芸員と言われ、博物館に関係することはなんでもしますよ(笑)。
 〜   ●ネット 藤井伸二インタビュー

 「札幌市博物館活動センター」の学芸員さん、逆境ながら不遇ながらマイペースにけっこうよく耐えてやっていると思う。

 それにしても発表者の山崎さん、女一人で沼に入るわドブ川ではまるわ湿地で奮戦野生化するわ。
 お姿とその成果。
 ●ネット 「知られざる水草調査」
 ●ネット 「札幌市モエレ沼にてヒンジモを再確認する、札幌市およびその周辺の水生植物相について(中間報告)」

 水辺の植物の調査は、なにやらそれこそたいっへんらしいんですよ。
 しかも、相手は水草、雑草。
 かなりマイナーなキャラなので、苦労の割にはなかなか援助も報いも得られない。

●●●小玉7●●●

北海道の水草はまだまだ調査が足りないし、専門家も少ない
 〜 ●ネット 札幌市博物館活動センター 山崎真実

 いや北海道に限らず、全国的に人材が足りない気配。
 例えばこんな話。

●北国にしかいない希少種だと思われていた水辺の草が、琵琶湖にもあることが最近わかった。

 なぜ最近わかったのか。
 答:「調べてなかったから」
 なぜ調べていなかったのか。
 答:「調査が大変だから」

 水辺の草むらは、人間さまが歩くようにはできていない。
 腰まで胸まで、ときには頭まで深みにはまって死にかけたりしながら、背丈より高い草が生い茂り、小虫の群がるドブ臭い水泥をかき分けて、何がどこにどう生えているのか調べ、集め、記録する。
 こんな地味で過酷な作業をひたすら続けるなんて、いや、仕事とはいえ、ごくたまにぃくらいでかんべんしてくれっしょや、みたいな。

●「**草」は琵琶湖にはないと思われていたのに、あるとき調べてみると琵琶湖西岸一帯にわっさり生えていることが判明いたしました。

 そんなにぎょうさん生えているのになぜ気がつかなかったのか。
 答:「草が深くおいしげる季節は調査が大変なもので、
    ついつい草が生え始めの春にばかり調査をしていたため、
    よく似たほかの草とすっかり混同しておりました」

 イネ科の草は、花実のない葉っぱだけの時期では見分けがすこぶる困難。abon

 こんな調子なので、この分野、ちょっと素人が調べただけで、水草調査史に名を残すような気の効いた発見をあっさりしてしまえる可能性大。
 実際、「こんなところに希少種が!」という報告はちょくちょく市民有志の皆さんから寄せられているようで。
 世の中には一部に根強い「水草マニア」さんたちもいらっしゃるんでしょうね。
 今回の「水草研究会・北大総合博物館市民セミナー」も、いつもより聴講者少なめだけれど市民的にかなり濃いメンツが集まっていた気配。

●●●小玉7●●●

 資金と人材に恵まれない自然保護。

 行政とのかけひきがらみでは、「二次的自然環境」をどう捉えるか、という問題もあるらしい。

 二次的自然環境。
 つまり、元からあった自然環境ではなく、人間のせいでできた湿地帯。
 例えば、放棄され、もう耕し手のいなくなった荒れ地の休耕田。
 例えば、北海道開拓時代に燃料の泥炭を採取したあとの窪地にできた、広大な草ぼうぼうの水たまり。
近年は、水田や里草地の植物が絶滅危惧種として注目を浴びるようになっている。しかし、水田や里草地といった環境は人間によって二次的に創り出されたものである。二次的自然環境に依存する絶滅危惧種の実像を考えてみたい。
  〜 ●ネット 「絶滅危惧植物の落とし穴:水田と草地の植物を例に」 藤井伸二(人間環境大学・環境保全)

 札幌西区の休耕田にあった希少種、いまどうなっているのか見に行ってないのでわからない、とおっしゃっていた山崎さん…。

アンカー 【ヒンジモと泥炭採取跡地】

 札幌市博物館活動センターの山崎さん的には「ヒンジモ」が旬らしい。(いや、それとも全国的にヒンジモはこの世界でメジャーなスターなのかな?)
 「品」の字に似た水草だから、「品字藻:ヒンジモ」。
   ●ネット 「沼のクリオネ? ヒンジモ Lemna trisulca L.」
 なかなか味わいのある渋くてかわいい「絶滅危惧種」らしいんだが、水中の浅い部分にこんがらかって生えているらしいんだが、いろいろ話を聞いていると、微妙にこっちの頭の中がこんがらかってきた。
生育環境の悪化により絶滅が危惧されている。
  ●ネット ヒンジモ - Wikipedia

水温が年中一定のわき水近くに自生するため水質悪化など環境変化が大敵とされる。
  ●ネット 「ヒンジモ」ひっそり 岩手山ろく 岩手日報社

 いやそういわれても。
 これ札幌のモエレ沼に今けっこう群生していると。
 モエレ沼は大改造工事でひところ沼むちゃくちゃになってたような気がするんだが。
   ●ネット モエレ沼公園 イサム・ノグチ設計
 工事の影響は沼には少なかったのか?
 一部泥炭採取跡地にも生えているという話もあったようななかったような。
 どう悪化したら絶滅するのか。 びみょうに納得しづらい。
 優先順位を判断する行政側にしても納得しづらいところがあったりするんじゃないだろか。
 実際どこがどう悪化したらどうなるのか、やはり調査しきれていないのかな、ウェブをながめると、よくわかっていないような気配が濃厚。
 保護しなきゃならないのか? 保護しなくてもしぶとく生きているんじゃないのか? どう保護すべきなのか?
 どないせいっちゅうねや。

 で、泥炭採取跡地。
 札幌ではこの「二次的自然環境:人間によって二次的に創り出された自然環境」にもけっこう絶滅危惧種が棲息していると。
 が。
 「そこは昔からの自然環境じゃないじゃんよ」と、保護の優先順位が低い扱いになりがちなんだそうな。
 そこで、
  ・その二次的自然環境に棲息している植物は、
   周囲の自然環境が破壊された末に避難してきたものなのか、
   それともヨソから持ち込まれた移植種なのか
などの判別が、さらに「保護優先順位の確定」のために必要じゃないかという話になる。
 ところが。
  ・周囲の自然環境が破壊された末に避難してきたものなのか、
   それともヨソから持ち込まれた移植種なのか
   今のところさっぱりわかりません
 人材不足、調査不足、さらには過去資料がなく調べようがない、なんてなもんで、さっぱり結果が出せず、マイナーさが輪をかけるわで、行政に振り向いてもらえず、まさに水辺の湿地帯なみにずぶずぶで。

 もう一ついえば、
北海道の水草はまだまだ調査が足りないし、専門家も少ない
 〜 ●ネット 札幌市博物館活動センター 山崎真実

 豊富に調査がなされるなら、「全然絶滅を危惧するような状態じゃないじゃん」というひっくり返りも、「より優先的に保護すべき種類がこんなところに新たに!」という新展開も、いくらでもありえる、そんな。

 未知。
 素人さんにも身近なフロンティア?

 夏休みの自由研究、近所の博物館に行って学芸員さんにたずねると、マジすごい発見が簡単にできるかもしれないおいしい分野を教えてもらえるかも。

挿画


 研究者が少なめ、という点では、以前に記した寄生虫研究の話を思い出す。
   → 『フィールドの寄生虫学と死者の数』
 なんかソレより輪をかけてマイナーな印象を受けているけど。
科学には、客観性、論理性、観察力が求められます。なかでも、生物を対象とした分野では、観察力が研究そのものの質を大きく左右します。また、研究においては、楽しいことよりもつらくてしんどいことの方がはるかに多いです。勇気や覚悟、あるいは保全への使命感など、強い意志力も要求されることを忘れないようにして欲しいと思います。
 〜   ●ネット 藤井伸二:教員紹介:人間環境大学

 使命感。
 強い意志力。
 かなめとなる観察力。

 いやそれより、人材不足に資金不足…。

 どうなんだろうな。
 これ生物資源開発(バイオプロスペクト)を引っ張り込むようなレベルとはまた全然違うもんなのかな。
    → 『新薬の探究』

挿画


 「札幌市博物館活動センター」は、市民とのパートナーシップの充実を目指しているという。
   ●ネット 「博物館整備の進め方」
 市民との連絡はどのくらい取れているんだろう。
 知名度、まだそうとう低いんじゃないか。
 地元のサイエンスカフェとの連携はどうなんだろうか。

 平気で北海道の湖沼にブラックバスを放流してしまうような素人さんのマニア神経を、こう、水草調査・希少種調査のほうにまわしていくことはできないだろうか。

 こぎれいな科学書からはなかなか見えづらい、現場と人間のずぶずぶさ。
 そうか。
 ここにもまた…。






◆◆◆
 新装版 『水草のひみつ』 守矢登  あかね書房 (2005/03)
 『池沼植物の生態と観察』 浜島繁隆  ニュー・サイエンス社 (2000)
 『水草の観察と研究』 大滝末男  ニュー・サイエンス社 (2000)
◆◆
 文庫 『水辺の植物』 堀田満 保育社 (1973/08)
 大型本 『日本水草図鑑』 角野康郎 文一総合出版 (1994/07)

メタル
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筆者:雨崎良未
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