お勉強メモ置き場。(参照用エントリ)
細胞の中に納まっている「DNA」には2種類あります。
・細胞の核に納まっている大きな「常染色体」。
・ミトコンドリアの中に含まれているちっこい「ミトコンドリアDNA」
「常染色体」(核DNA)は、いわゆる「遺伝子」の説明で使われる、ものすごい情報量を持った、らせんDNAのかたまり。ペアでバッテン形になったものが、ヒトで23対の46本、ショウジョウバエには8本、金魚は94本、ザリガニで200本、ヤドカリなんかは254本
あったりします。ミトコンドリアは、いわば細胞の発電所、エネルギーを作ってくれるパーツ。
大昔に細胞の中にまぎれこんだ細菌のなごりだと言われており、細胞の中のパーツでありながら、いっちょまえに自前のDNA=「ミトコンドリアDNA」(mtDNAと略記する)を持っていたりする。

| 【細胞の中の常染色体とmtDNA】 | 細胞核はひとつの細胞の中にふつう一個だけ。 細胞核の中の「常染色体/核DNA」も、ひとつの細胞の中に1セット。 (核遺伝子は相同染色体に1対、つまり2コピーのみ) 「ミトコンドリアDNA」は核のDNAとは違って、ミトコンドリア一個の中に複数入っている。 そのミトコンドリアは、ひとつの細胞の中に数百個(!)もうじゃうじゃしている。 複数×数百個ということで、「ミトコンドリアDNA」は細胞一個の中に数千個(!)もあったりする計算になる。 「常染色体/核DNA」は「ガラスの仮面」や「こち亀」みたいなもので、ものすごく長く、ものすごい情報量を持っていて、しかも似た場面はあっても同じ場面はない。 |
「ミトコンドリアDNA/mtDNA」は「常染色体」の長大ボリュームと比べれば、それこそ短冊か俳句かドーナツみたいなもん。
小さくて短いワッカ形のDNA(16250塩基対の環状DNA)が、おんなじ種類でごっちゃりおさまっているわけだ。
遺伝子鑑定・DNA鑑定で使い勝手がいいのは「ミトコンドリアDNA/mtDNA」。
例えば。
トランプのカードのどれか一種類が千枚とこち亀のセリフ全巻ぶんタイプした紙束を入れた箱を50種類用意する。
トランプのカードはスペードの2ならスペードの2ばかりの箱、ダイヤの8ならダイヤの8ばかりの箱、と、各箱で千枚全部同じカードを入れてある。
こち亀のセリフは、箱ごとに違う人がタイプ入力。人それぞれ微妙に打ち間違いや改行の違いがあるとして。
50種類の箱のうち、どれかだけを「同じ中身」つまり「同じDNAセット」にこしらえて。
この50種類の箱を燃やす。
さあ、どの箱の燃えかすとどの箱の燃えかすが一致するか、どれが同じDNAセットだったのか調べよ。
ンなこと言われた場合、トランプのカード(ミトコンドリアDNA)とこち亀(常染色体/核DNA)とどっちを目当てに調べるほうが手っ取り早いか。

【DNA考古学】大昔の遺伝子を調べるときに採られるのはミトコンドリアDNA分析(縄文人の遺骸とか化石とかね)。
損傷の激しい資料の場合、「常染色体/核DNA」を調べるのはむっちゃ難しい。
その点、ミトコンドリアのDNAなら、全体像は短くてたかが知れている上に、ご丁寧にものすごいコピー数が用意されている。ずっとラクに調べられる。
ミトコンドリアDNA分析でも、化石クラスの大昔な分析ができるのは、せいぜい数万年前が限度、最大でも10〜20万年前が限界で、恐竜時代のようなおっそろしく古いものではかなりかなり無理め。
古代のDNA解析、結果を信用しすぎるな
2004/06 ABC@Australia Ancient DNA may be misleading scientists
超古代のDNA解析も可能かもしれない
はるか500万年前からのホミニッド系統樹を作れるかも
2004/02 BBC News Hunt for ancient human molecules
180万年前のホミニッドのDNAを抽出? これまでの最古記録は5万年前のマンモスDNA
2001/07 allAfrica.com Links to Ancient Man in DNA Find?
2001/07 Ananova Experts claim ancient human DNA find
いや、それは何かの間違いでしょ できっこないよ
理論的に有効な解析限度は10万年前くらいのまでだし
2001/08 New Scientist Ancient human DNA claim dismissed
2001/08 Ananova Ancient DNA claim 'lacking'
あと、新しい資料であっても、「ホルマリン漬け」ではDNAが薬剤によってズタズタにされていて解析は困難だという皮肉。
『DNA鑑定 その能力と限界』 勝又義直(著) 名古屋大学出版会 (2005/10)●縄文時代くらいなら、解析可能な範囲なわけでして、縄文人のミトコンドリアDNA情報はけっこう蓄積されてきております。
Ancient Genome Encyclopedia (古代DNAデータベース) @国立遺伝学研究所
DNA考古学研究会 ●ネアンデルタール人のミトコンドリアDNAも、あるていどめどがつくほどに解析に成功しております。

比較的新しい死体や遺留品のDNA鑑定・遺伝子操作をする際にも、常染色体ではなくミトコンドリアDNAのチェックに頼る方が簡便。
ただし、ミトコンドリアは「母親から遺伝する、父親からは伝わらない」という悲しいしばりがあるので、「父親との関係」を調べる際にはアテにならない。
「父親との関係」を調べる必要があった北朝鮮拉致問題のキム・ヘギョンさんの場合、「ミトコンドリアDNA」ではなく「常染色体」を調べることで、父親がキム・ヨンナム氏であると同定されたのでありました。
最近は、DNA解析の技術も精度もどんどん向上してきておりまして、「常染色体」対象の解析であっても、かなりの好成績が出せるようになっている模様。
切り裂きジャックの遺伝子解析もイケる?
いまどきのDNA検査技術「Cell Track-ID」
160年前の細胞一個からでも全遺伝子を採れちゃいますよ
2005/11 Discovery DNA Method Could Find Jack the Ripper
...以下つづき...

そのぶん「同じかチガウか」が、より調べやすいらしい。
●ミトコンドリアはどうしてミトコンドリアって言うんだろう。
ラテン語とかアッチのほうから由来する呼称なんだろうけど、我が家には「水戸の近藤さんが見つけたからじゃないの?」とおっしゃる奇才がいたりしてます。

●あ。ミトコンドリアは単数ではmitochondrion(ミトコンドリオン)と言うらしい。
複数でミトコンドリアなのか。
ミトコンドリア @ウィキペディア
【ミトコンドリア・イヴ】●ミトコンドリア母さん
子どもは、父さんと母さんから遺伝子(核遺伝子)をもらうけれど、ミトコンドリアとそのmtDNAは母さんからしかもらえない。
ミトコンドリアDNAを調べていくと、理論上は母さんつながりの先祖をたぐっていくことができる。
ミトコンドリアDNAでは父さんつながりは調べられない。父さんつながりの系譜を調べるには、「Y染色体」などの「常染色体」がチェックできなければ難しいわけで、ミトコンドリアDNAより調べにくい感じ。
そのあたりは
でひとしきり。
人間のミトコンドリアDNAの種類が最も多様なのは、アフリカ大陸。
人類発祥の地も、アフリカ大陸。
アフリカの多様なミトコンドリアDNAの中のわずかな種類だけを持って、人類はアフリカ以外の世界へと広がっていった。
ミトコンドリアDNAの母さんつながりをどんどこどんどこ遡っていくと、どっかで「最初の母さん」にたどりつくんじゃないかという発想から、その設定上の「最初の母さん」につけられた呼称は「ミトコンドリア・イヴ(アフリカン・イブ)」。
15万年前のミトコンドリア・イヴはタンザニア〜エチオピアあたりの住人実際にはミトコンドリアを遡って行き着ける先は、たった一人のヒトメスではなく、7人〜33人あたりどまりらしい。
2003/04 BBC News Tanzania, Ethiopia origin for humans
●ミトコンドリア父さん?
生物学的には「ミトコンドリアは母方からだけ」というのが定説なんだけれど、ちょこちょこ「父さんからも来てるんじゃないか?」という報告は流れている。これらが真に受けられているかどうかはまた別の話だけど。
1999/12 ABC NEWS Who Passed on the Genes? / Key DNA May Be From Dad After All
〜Philip Awadalla of the University of Edinburgh, Scotland.
ミトコンドリアの中で起きうる遺伝子組み換え
父さんのミトコンドリアDNAは遺伝する? 筋疾患遺伝調査から
ミトコンドリア 父親からも遺伝、イブ仮説の前提崩れる 2002/08 読売
2002/08 New Scientist Mitochondria can be inherited from both parents
〜Robert Sanders Williams, from Duke University Medical Center
ミトコンドリアが原因の筋疾患、この人のミトコンドリアは父さんから来てますよ
2004/05 genomebiology.com/The Scientist Mitochondrial DNA recombines
Finding in muscle of patient with myopathy may change thinking on inheritance
〜Beth Israel Deaconess Medical Center and Harvard Medical School

【女と男とミトコンドリア】●性が、男と女の2つだけなのは、ミトコンドリアのせい
どうしてミトコンドリアは母さんからだけもらうことになっているのか。
大昔に細胞の中にまぎれこんだバクテリアのなごりだと言われるミトコンドリア、いっちょまえにミトコンドリアどうしで戦うことがある。
「違う種類」のミトコンドリアが細胞の中に同居していると、すぐに戦いが始まる。
ミトコンドリアは細胞の大事なエネルギー供給役なわけで、これが殺しあいで数減ってしまうってぇと、細胞が燃料不足の青息吐息なヘロヘロ状態に陥りかねない。
これは家主の細胞的には命に関わりかねないえらい迷惑でありまして。
(上の記事にある父さんミトコンドリアで筋疾患な患者さん、父ミトコンと母ミトコンが戦ってしまったのかも)
子どもを作るときに、父さんミトコンドリアと母さんミトコンドリアの両方が、細胞に入ってしまうとややこしいことになる。
父さんか、母さんのどっちかだけのミトコンドリアなら、問題なくお子さんが成長できる。
どっちのミトコンドリアを重用するか。そりゃいきおい「身軽な配偶子(精子)」よりは「身軽ではない配偶子(卵子)」のミトコンドリアを優先するほうが現実的なわけで。
しかも。
こう、核遺伝子を混ぜても”ミトコンドリアは混ぜない”子作りをするには、性別が最低限の2種類(オス・メス)であるのがベストであるらしい。(このへんを明らかにしたのは進化心理学でも著名なコスミデス&トゥービー)
3種類以上の性別を持つ生物も世の中には存在するのだけれど(キノコの一種「スエヒロタケ」には性別が20000種類!)、それらはミトコンドリアの問題が2の次3の次になる別次元の繁殖様式に生きている。
一般的な有性生殖生物では、ことミトコンドリアの問題に焦点をあてると性別2種類が最適、というパターンが大多数。

【ミトコンドリア遺伝病】ミトコンドリアDNAのタイプによっては、遺伝子異常による病
●ミトコンドリアDNAの解析結果から、なんぼか病気だったんじゃないかとウワサされてしまった
●ミトコンドリアDNAがチガウ赤ちゃんが生まれちゃった事件てぇのも。
これってあまり知られていないのかな。
特殊な人工授精の結果、核遺伝子は父さんと母さんのものなんだけど、ミトコンドリアDNAは第三者のだという「三人で作ったお子さん」が十数人生まれてましたよと。
もう5年も前の話になっちゃうわけで。
無事生長していれば、その遺伝子組み換えベビーたちはもう5才。
…いや、最初の例は1997年と言うから、もう小学校に通っているのか。

遺伝子やDNA。
いつのまにやら個人のアイデンティティとすげ変わらんばかりに、市井にインパクト与えてしまっている妙な科学的(なふりをした)概念。
ミトコンドリアは、「ミトコンドリア・イブ」あたりから市井に対して、なんぼか妙ちくりんな姿で立ち現れるようになってしまった感じがある。
同じDNAという呼称がついてはおれど。
個人にとって、ミトコンドリアDNAという概念は、この先どんなイコンたりえるんでしょうか。


アイウエオ順
「アダムの呪い」 ブライアン・サイクス著 ソニー・マガジンズ 2004/05 (2003/ Adam's Curse)
『遺伝相談と心理臨床』 伊藤良子監修・玉井真理子編集 金剛出版 2005/09
「犬の科学 ほんとうの性格・行動・歴史を知る」 スティーブン・ブディアンスキー著 築地書館 2004/02(2000/The Truth About Dogs)
「98%チンパンジー 分子人類学から見た現代遺伝学」 ジョナサン・マークス著; 青土社 2004/11
「ゲノムを支配する者は誰か クレイグ・ベンターとヒトゲノム解読競争」 ケヴィン・デイヴィーズ著 日本経済新聞社 2001(2001/Cracking the Genome)
「心の仕組み 人間関係にどう関わるか 下」 スティーブン・ピンカー著 日本放送出版協会 NHKブックス 2003/07
「5万年前に人類に何が起きたか? 意識のビッグバン」 リチャード・G.クライン/ブレイク・エドガー著; 新書館 2004/06(2002/THE DAWN OF HUMAN CULTURE)
「人類にとって戦いとは 1 戦いの進化と国家の生成」 国立歴史民俗博物館/監修 東洋書林 1999
『DNAが解き明かす日本人の系譜』 崎谷満著; 勉誠出版(2005/07)
「DNAから見た日本人」 斎藤成也著; 筑摩書房; 700円 2005/03
『DNA鑑定 その能力と限界』 勝又義直(著) 名古屋大学出版会 (2005/10)
「テストステロン:愛と暴力のホルモン」 ジェイムズ・M.ダブス著 北村美都穂訳 青土社 2001/11 (2000/Heroes, Rogues, and Lovers)
「ドクター・タチアナの男と女の生物学講座 セックスが生物を進化させた」 オリヴィア・ジャドソン著 光文社 2004/02(原書2002)
「一目でわかる臨床遺伝学」 ドリアン J.プリチャード/ブルース R.コルフ著; メディカル・サイエンス・インターナショナル 2004/10
![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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