「あなたのお子さんは障害を持っている」「生まれても長くは持たない」「世界でもめずらしい症例です」「病気が遺伝する可能性があります」…
告知を受けたとき、どうするか。どう感じるか。どう告知されたか。
医師からの告知に関するアンケートについて、患者・近親者から得られた回答を元に、「告知とその前後にどのように接してくれるのが望ましいのか」医療関係者への要望というか、アドバイスをまとめ連ねている。
:無関係な第三者にも聞こえるように告知されただの、命そっちのけで珍症例扱いされただの、もてあまされただの、説明がダメダメだっただの、不安の中放置されただの…
:心ある告知をしてくれ、ないがしろに逃げるな、共感してくれ、情報をくれ、みたいな。リアルな声てんこもり。
これらさまざまな声を眺めていて想起するのが、以下のことども。
●情報伝達の男女差
「わかりあえない理由(わけ) 男と女が傷つけあわないための口のきき方10章」 デボラ・タネン著 講談社 (1992/05) 文庫版 (2003/11)
●問題解決の男女差
●男と女で違う「癌と診断されたらどうするか」
男は実際的なアドバイスや最新医療情報を求める
女は心の支えを探す
2006/04 BBC News Cancer reaction linked to gender
「染色体検査に至るまでの過程及び結果告知についての実態調査報告」に挙げられている声の群は、遺伝子障害における告知特有の問題と見ずに、医療現場における「告知」全般でとらえたほうが見通しがいいような気はする。
自分の属するカテゴリーが大きな変異にさらされたとき、人間はどう対処しようとするか。どう処すれば、より無理なく新たな所属を受け入れていくことができるか。
もとより、「困難な問題に直面したとき」のリアクションは個人差がいろいろあるし、男の中でも、女の中でも、個人差はいろいろある。
それでも敢えて、告知に対するリアクション差の把握しやすい例として、「男女差」でくくってみるのはけっこう便利。
男タイプの心の人は、気持ちより情報を重視しがち。
女タイプの心の人は、論理より、気持ちを優先しがち。
問題に直面したとき、「気持ちをわかってくれる人間がいると救われる」タイプと、「可能な限りの正確な情報を得て見通しを立てたい」タイプ、これをごっちゃに扱うと、ややこしいことになることがある。
まあ、「心の手当も情報の供給もじゅうぶん」なされるにこしたことはないのだけれど、上掲 デボラ・タネン の会話分析に見られるように、
男タイプの心の人に心の支えを申し出ても、「それよりまず情報を」と不満や不信を持たれることがある。
女タイプの心の人にいろいろ詳しい情報提供をしても、「気持ちをわかってくれなかった」と恨まれる。
てなことになりかねない。
このあたり、「染色体検査に至るまでの過程及び結果告知についての実態調査報告」では両者の声がごっちゃくたにならべられているような気がして、ちょっとややこしかった。
おかげで思い出したのがこの本。入手する機会を逃したまま未読になっていた一冊なのだけれども、急に読みたくなってしまった。
なんやめっちゃこの件に関して参考になりそうやん。
近いうちに注文してみよう。

「医療現場の会話分析 悪いニュースをどう伝えるか」[ Amazon ]
D.メイナード著 勁草書房 2004/02 [bk1]

【自分の属するカテゴリーが大きな変異にさらされたとき】さらに。
「告知」とは何か。
「告知される」とは何を意味するのか。
そこを詰めていくと。
「告知される側」は、「今までとは異なる属性に自分が陥った」ことを知らされているわけで。
「告知する側」は、「あなたはここではなく”あちらに属するのです”」と宣告しているわけで。
...以下つづき...

人間は、自分が属しているとみなす立場に沿って、自己正当化をしてくれる物語を編み、摂取し、アレンジして、「自分物語」に安住して生きる生物。
物語しだいで、喜怒哀楽も生殺与奪もけっこうどうとでもなってしまうという、物語に依存して生きる生物。
ヒトはさまざまな立場に即して、おのれの生きようを正当化する理屈や物語を編み上げて、それに沿って生きていく。
「新しい所属」を与えられた側は、その新奇な所属に沿った物語を持ちあわせてはいない。
「新しい所属」に入っていなかったときの自己正当化理論しかフトコロには用意していないわけで、往々にしてその手持ちの自己正当化理論は「新しい所属」に対して蔑視偏見無理解しか用意していないわけで、そんな状態では「新しい所属」を受容するなんて、思いも及ばないし、見通しも立たないし、ただただ途方に暮れるだけ。
「新しいカテゴリーへの所属」に順応するには、「新しい所属」に適応的な、ソレに適した自己正当化物語を編み出すか、インポートせねばならない。
男タイプ思考の人間は、「新しい所属」に適応する方策を練るために、情報を欲する。
女タイプ思考の人間は、「新しい所属」に直面した困惑をわかってくれる人間を欲する。
「新しい所属」の中で、どうすればよいのか。
どう対処し、どう生きていけばよいのか。
どんな物語を抱えて生きればいいのか。
「新しい所属」に適した物語は、一から編み出すのは大変な作業。
「自分には縁のない所属」「自分は属したくない所属」と考えているほど、これまで持っていた物語は「そこへの所属」を否定し貶める傾向が強かったりする。「新しい所属」には適さない物語を抱えたままでは、「どう生きていけばいいのか」わからないばかりだ。
先達がいれば、すでに「新しい所属」に適した自己正当化理論を試行錯誤し、情報収集もこなした先達がいれば、「新しい所属」への適応困難はすこぶる軽減される。
先達の自己正当化理論を、「どう生きればいいか」の物語をインポートすることができれば、孤立で苦労するよりはるかに適応はスムーズに行われる。
いわゆるロールモデル。
生き方のお手本。
●仏道にロールモデルを見出すケース
●メディアがロールモデル(生き方のお手本)を与えるケース
・自閉症における 「光とともに…」
・『ER』ニューシーズンに登場したレズビアンの精神科医に見る役割モデル
2001/06 BMJ 2001;322:1610 Lesbian doctors get a role model
そういう意味で、「染色体検査に至るまでの過程及び結果告知についての実態調査報告」 に列挙された当事者の声の中に混じる
・同じ仲間がいることを教えてくれ
・当事者の会があるととても助かる
という要望・経験譚が精彩を放っている。

なお、「所属」に伴って自動的に発生する偏見、「所属」の固定で見えなくなる偏見、というものも最近ひっかかっているので、あとでひとしきりぼやくかもしれない。

2006/06/05: ぼやきました。
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