[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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深海の生物学と奇怪な正しい進化の仕方

カテゴリ[科学に佇む2006年] 2006/04/22
 深海魚や深海の奇怪な生物たち、その奇怪さのわけには、こんなにまっとうな理由があったとは!!
 この2冊はぜひ読み合わせをオススメだ。


◆新刊 ◆新刊 ◆新刊
 『深海生物ファイル あなたの知らない暗黒世界の住人たち』 北村雄一著(イラスト含む) 協力・独立行政法人海洋研究開発機構 ネコ・パブリッシング 2005/11 [ Amazon ] [bk1]
 『深海の生物学』 ピーター・ヘリング (著) 東海大学出版会 ; (2006/01)  [ Amazon ] [bk1] (この本、原書の表紙のほうがずっとかっこいいじゃん)
 原書2002, The Biology of the Deep Ocean

 たまたま書架にあったこの2冊を手にとったんだけれども、これ、どちらか一方だけではかなり役立たずかもしれない。

 『深海生物ファイル』
★実物のカラー写真がてんこ盛り。イラストも生業である著者が描いた図解もふんだん。姿の異様さオンパレードを見ているだけで、もうお腹いっぱいごちそうさまの大感謝。
▲でも解説は図鑑・博物学的な紹介文な感じどまりで「どうして彼らはこうなのか」はさらっとスルー。

 『深海の生物学』
▲ビジュアルが貧弱。写真も図版も初心者向きじゃない。いろんな生物の名称が出てくるけれども、それがどんな生物なのかは見えてこない。
★でも「どうして彼らはこうなのか」そのありようの必然性について、「へぇ〜」連発の面白い話がてんこもり!

 『深海生物ファイル』だけじゃ、めずらしい車のカタログを見ているだけぇ な感じに終わりかねない。
 『深海の生物学』だけじゃ、いったい何の話か飲み込めない。

 『深海の生物学』が披露してくれる深海生物の謎とミラクルを、『深海生物ファイル』の写真や図版と見比べながら噛みしめると、これ興趣百倍ウルトラC。lift
 1+1=10かもしれないナイスな取り合わせをたまたまゲットしちゃったのかもしれない、と勝手に自分で自分をほめたくなってしまった。

●●●小玉7●●●

 目の保養のほうは『深海生物ファイル』の内容にまかせるとして、読むべきは『深海の生物学』

 まるでパンドラの箱を開けたような、一番大きなつづらを開けてしまったような、当たり前だと思っていた陸上の世界が実はすごく異様だったのかもよと逆照射してくれるような、「ああ、これが進化であり適応なのか!」と目からウロコが落ちるような例が次々と。
 特に第5章以降の生物学的知見が楽しくて。

●プランクトンを漉しとる生き方
 ヒゲクジラやジンベイザメ、イワシなど、海中プランクトンを漉しとって食いつなぐ生き方は、ある程度プランクトンが多い上の方の海でのみ可能な生き方。
 プランクトンの存在(をはじめとする粒状有機炭素濃度)が希薄な深海では、そういう「漉しとる組」はかなりありえない生き方というか、飢え死に必至。

 ●ネット 深海水族 日本産深海魚・外国産深海魚

●罠を仕掛ける生き方
 エサ密度が希薄な深海では、「漫然と漉しとるだけ」な生き方はかなりありえない。
 それよりも「おびきよせ」「罠をかけ」「狙いをつけ」いざというときだけのためにエネルギー消費を抑える待ち伏せ型が主流になる。

 ●ネット ベニオオウミグモ :深海水族

●なんで長いヒゲ、なんで長い足、なんで長い触手…
 キャッチできる食糧が絶対的に少ない深海では、ものすごい敏感なセンサーを持っていないと全然やっていけない。
 だから「とんでもなく長い足で水の変化を読みとる甲殻類」とか、だらーり冗長な触手センサーを伸ばしたクラゲの類とか、南京玉すだれみたいな毛やヒレを伸ばした深海魚とかがあたりまえにならざるをえないわけで。

 ●ネット マグナピンナ :深海水族

●どうしておばあさんのお口はそんなに大きいの?
 キャッチできる食糧が絶対的に少ない深海では、キャッチできる食糧のキャパシティが大きいほうがかなり有利。だって次にいつメシにめぐり会えるかわからない世界なんだ。
 いきおい「ありえないほど大きい食糧」まで食えるような身体のほうが有利だったりしてしまう。
 食糧をゲットできる頻度が少ない環境ほど、進化的には「小さな身体で大きな餌を喰う」方向にシフトするらしい。

 ●ネット ペリカンアンコウ/オニキンメ :深海水族

●どうしてそんなに恐ろしい歯をしているの?
 ついでに「歯」も、食いちぎる・かじるなんて悠長なこともやってられない。まずは捕獲と飲み込みが最優先事項じゃんよと「咬む」よりは「捕まえて丸飲みする」ための、陸上世界ではありえないようなやたら恐ろしげなまばらにとがった歯ならびになってしまう。
 おかげさまで深海魚さんたちの面構えの異様なこと異様なこと…。eely

...以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

●クラゲって意外に深海的?
 まるで水のような、組織密度が薄いクラゲ的な身体は、深海の圧力を考えるとけっこう生きやすい身体であるらしい。
 海水に近い密度であれば、ほぼ無重力な感じを維持していけるので、「沈まないようにしなければ」「浮き上がらないようにしなければ」などというよけいな努力もエネルギーも使わなくて済む。
 エサの少ない深海ではマジ節約第一。
 それに加えて水のような密度の身体は水圧の変化にも強いらしい。深い海から浅い海に移動してもさほどこたえないわけで。
 ゼラチン的身体はオタマボヤやタコもどきのたぐい、ホウライエソやヤセソコイワシなどの深海魚でも活用なさっている。

  ●ネット 鳥羽水族館・水深384mから来た深海クラゲ
  ●ネット 深海に生きる不思議な生物たち (海洋科学技術センター・土田真二)環境goo

●深海ではウキブクロは意味あるの?
 魚のウキブクロ(浮き袋/鰾)、これ深海的にはけっこう難物らしい。
 引き揚げられた深海魚が、口からふくれすぎたウキブクロをはみ出させてしまっている、みたいな図式はよく見聞きするけれど、浅い←→深いを移動する種にとって、ウキブクロ(空気圧)のコントロールはかなりの至難の業になる。
 深度に合わせて「身体の中で効率的にガスを生み出したり消したりするワザ」とか、ずいぶん巧妙な仕組みも発達させたりなんかしている種もありまして。
 メンテがめんどうなウキブクロじゃなく、替わりに「脂」の浮力を使っている種もございます。ウキブクロの中がガスではなく油でいっぱいな深海魚もありで。
 イルカ・クジラ類の頭のメロン体(脂のかたまり)も、一種のウキブクロ的役割を担っているのではないかと。

  ●ネット 深海魚のウキブクロって? 海のはくぶつかん(東海大学社会教育センター)

●アンモニアって軽かったのか!
 一部イカやカニの類では、体内の代謝で出てくるアンモニアを浮きに使っているらしい。
 アンモニアって、水より比重が軽い、浮く液体なんですね。知らんかった。

  ●ネット マッコウクジラ vs ダイオウイカ:深海水族

アンカー  【スモルト、銀化(ぎんけ)】

●これ「銀化」って言うんですか!
 テカテカの、銀色金属光沢の魚体。
 魚的にはけっこうありふれている姿なので気にもとめていなかったんだけれど、よく考えると生物的にはこれけっこう異様な姿だったんだなあと。銀色の哺乳類ってちょっと思いつかないし…。
 見た目が銀色の魚が少なくないのは、鏡のように周囲の光を反射することでカムフラージュになるから。
 ただしそれは「身体がうすっぺらくてもやっていける種」のみでの話。
 昼夜の光の差に合わせて、自分の身体の反射率を変える(!)ことができる魚もいると。へぇ〜!

 ●ネット ムネエソ 水産総合研究センター 開発調査センターの図鑑
  銀色にテッカテカで、身体が薄っぺらい「銀化」深海魚。
  夜は、銀色の上に色素を出して、テカテカを抑えるという器用な種類がいるんだそうだ。

●●●小玉7●●●

 そのほか、
●血液(酸素運搬)にヘモグロビンではなくヘモシアニンを使う種がいるのは、ヘモシアニンのほうが低温では使いやすい場合があるから
●海流の蛇行で冷水塊が生じる機序。うわ〜まるでこれ、三日月湖じゃございませんか。
●深海にも季節の移り変わりがある!
●深海生物を捕まえるコツ
●深海生物的平衡感覚
●海の音響コミュニケーション
●水圧によっては使えない体内酵素がある
●深海生物的視野のいろいろ
などなど、「そうか、これがあちら的には常識でありまっとうな進化なんだなぁ」と勉強になるへぇ〜がいっぱい。goo

 え〜と、『深海の生物学』は、はっきし言って読みづらい本です。
 何より、訳がお経じゃないかと思わせるほど変な文章で…。
 それでも、無理してでも読もう(解読しよう)という気にさせるほど、実は面白いことが書いてある。はい、マニア向けです。読むなら中盤からがオススメかな。


〓ガラス棒〓

こちらは洋書。

cover
The Deep: The Extraordinary Creatures of the Abyss

  Claire Nouvian
Univ of Chicago Pr (T) (2007/3/15)
●深海生物! 美麗写真集
書籍情報と書評:アマゾン     .


収録されているスゴ写真の一部、ウェブで鑑賞できます。
スゴ生物ファンにオススメ
 深海生物写真集 ●ネット Claire Nouvian: The Deep -- Gallery

〓ガラス棒〓

この箇所へのリンク【スケーリーフット:鉄のウロコをまとう貝】


 そうそう、先日流れていた話題の「鉄の貝」、写真豊富な『深海生物ファイル』にもしっかり載っております。
 インド洋の深海にしかいない「スケーリーフット」:硫化鉄のうろこを持つ巻き貝。
  (ウロコフネタマガイ: 学名 Crysomallon squamiferum )@新江ノ島水族館
 実物は数センチぽっきりのちっちゃな貝なんだね。
“鉄のよろい”持つ巻き貝、世界で初めて展示
2006/03 【日本語記事】 読売

◆新刊 ◆新刊
 『深海生物ファイル あなたの知らない暗黒世界の住人たち』 北村雄一著 ネコ・パブリッシング 2005/11
 『深海の生物学』 ピーター・ヘリング (著) 東海大学出版会 2006/01

〓ガラス棒〓

 深海は地球最後のフロンティア、そう言われはじめてからもうずいぶん経つけれど、まだまだ未探索が多すぎなフロンティアのままでございます。生態がわかっていない謎の生物も多すぎ。

 そんな未知のフロンティアのまま、地球温暖化で人知れずはかなく破滅していく、そんな幻の世界なのかもしれないわけで…。

追記:2008年春に、日本初(!)の深海生物生態図鑑&深海生物学テキストが出ました!
 図書館に探しに行こう!

◆新刊
 『潜水調査船が観た深海生物 深海生物研究の現在』
 藤倉 克則、奥谷 喬司、丸山 正編著
 東海大学出版会 (2008/03)

 2008/09に読んだ感想を書きました。
 ●● 『なまエイリアンの世界:潜水調査船が観た深海生物!』






メタル
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筆者:雨崎良未
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