邦題は「音楽する脳」。
しかしてその実態は!?
♪ 音楽の進化心理学でござい ♪
[ Amazon ] [bk1] 『音楽する脳』
ウィリアム・ベンゾン著 角川書店 (2005/12/23)
原書2001年:BEETHOVEN'S ANVIL
脳の話も出てくるけれど、メインは音楽の進化心理学。
え〜、音楽などの芸事を進化心理学する場合、たいがい芸を「クジャクの尾羽扱い」というか、
「芸ができる方がモテたからだよ」
という男女のかけひきやら個人の繁殖能力やらめいた姑息な感じの話に流れがちなんだけれど、この著者はひと味違う。
集団や社会のありようが、音楽交歓の発達を促し、ヒト〜文化の共進化で栄えたのだとする。
おお、なんと好ましい解釈のありよう。

考察はヒトの「同調行動」の検証から入る。
ヒトは無意識に「聞き取ろう、意を汲み取ろう」とする相手の動作リズム・発声リズムに同調する。
この同調傾向は生後わずか20分の赤子でも観察される。(!!)
胎児は3〜4ヶ月から音の刺激に反応するゆえ、胎内から言語リズムへの順応は始まっているのかもしれない(!) p.32-33
そして、ディスレクシア(読字障害)や自閉症の子では、右脳と左脳がうまくシンクロできていないのか、この「同調行動」が崩れているよという指摘。p.33
ウィリアム・コンドンによる同調研究 脳の中でも、身体動作の同調に重要な部位は網様体ではないかと推察されている。
チンパンジーでは「動作の学習」はできても「リズムに合わせて踊る」ことはできないらしい。
自分の動きを他人の動きに合わせる能力は、ヒトのコミュニケーション上、重要なものであるらしい。
ダンスしかり、音楽しかり、共同作業しかり。
さらには、感情に直結する音楽の作用。
現代クラシックを流している
radioioClassical あたりを聞いていると、むやみに悲しくなったり不安になったり、仕事のペースに支障をきたすこと多々。
なんで音の種類・音の変化の種類だけで、こないに感情(ヒト反応のパターン)が振り回されねばならないのか。
p.116
ジョン・スロボダの研究は、二五種類の感情の中から音楽を聴いているときに経験したことのある感情を、七六人の大学生に選んでもらっている。最も多かったのは悲しみで九六パーセント、その次が喜びの九三パーセント、「好き」という感情の92パーセント。少ない方に移ると、同情の四九パーセント、あきらめの四三パーセント、恥じらいの一七パーセント、得意げな満足感の一三パーセントだった。北アメリカの大学生の集団は世界の人々からの無作為サンプルにはほど遠いとはいえ、この結果から、ほとんどの人が音楽を聴いて悲しみを経験したことがあると考えていいだろう。
単純に推察すると、音楽で”悲しみ・喜び・好き”と反応することが、ヒト行動上、より適応的であった、と考えられる。
”音楽で”ということは、他者の行動(自分以外が奏でる音楽)から敏感に”悲しみ・喜び・好き”と影響されることが、ヒト行動上、より適応的であったということ。
儀式や集会で頻用される音楽。葬儀での悲しみの共有、祝いでの喜びの共感、互いの結束を高める”好き”。
集団を同じ状態に陥れる、同じ状態に陥ることができる性質の個体が、集団生活に適応的だった。
儀式と感情
「儀式は何の役に立つか ゲーム理論のレッスン」 マイケル・S‐Y.チウェ著 新曜社
大きなイベント、入社式、朝礼、はてはCM放送まで、ヒトは「情報を共有していることを確認する」ために儀式をとりおこなう。そういえば、日本の科学者より西洋の科学者のほうが儀式好きだそうです。歓迎パーティしかり、正装しかり、ことさらに関係確認をはっきり行う必要があるらしい。
儀式という集団行動。
集会に用いられる音楽や鳴り物。
共同作業で歌われる仕事歌。
職場の士気高揚にヒップホップミュージック?
2003/09 EurekAlert New research reveals corporations increasingly make employees face the music
逆にいえば、音楽ではあまり引き起こされない方の感情、”恥じらい・得意げな満足感”などは、他人が感じたそれを他のメンバーまでかぶる必要があまりない、メンバー間で共有する必要が少ない感情だったのだ、と、くくりうるのだろう。
...以下つづき...

それを、より強く「理屈抜き」で引き起こしてくれる音楽。
暴力的な歌詞は聴く人の攻撃性をあげる
表現がユーモラスであっても敵対的な感情が増す傾向
検証は短期間効果のみ
2003/05 New Scientist Violent song lyrics increase aggression
2003/05 ScienceDaily
Violent Music Lyrics Increase Aggressive Thoughts And Feelings, According To New Study; Even Humorous Violent Songs Increase Hostile Feelings
2003/05 Guardian The
sound and the fury: but words are worse
言語と音楽の進化心理学
あなたはあなた自身の母語に似ている音楽を好きになる 動物に音楽の才能はあるか
2003/11 Boston.com Songs of ourselves
New research suggests that we like music that sounds just like us
いやおうなく理屈抜きに音楽に影響されてしまうよう、形成されてきたヒト性質。
音楽で人の気分を操作する 知覚神経研究を応用したCD発売
2004/05 ▲日本語記事 ワイアードジャパン
音楽にハイになると訪れるトランス。
人間は、睡眠時の夢見状態の時は「記憶する機能がオフになる」らしい。
音楽やダンスによるハイは、その睡眠時「記憶オフ」と同様の状態にヒトの脳を陥れるらしい。
集団成員を”理屈抜きに”一体化させる音楽。
p.69
夢を見ているあいだは記憶系統が働かないので、大脳新皮質は新しいパターンを学習しない。脳の中心部の組織は、あらかじめ大脳新皮質に蓄えられているパターンを探検する。
「理解する必要はない、従えばいい」
う、今「マトリックス・リローデッド」の評議会のおじさんにテレビからそう言われてしまった。


ヒト世界の原初の音楽はどのようなものだったのか。
ヒューマンユニヴァーサルな音楽の代表は、子守歌。
「どんな文化でも子供の世話をする者は子供に歌を聞かせる。
特に、眠りにつかせるために歌う。」p.205
患者の好きな曲を流してあげれば鎮痛剤の量は少なくてすみますよ
2005/05 EurekAlert Patients' favorite music during surgery lessens need for sedative
2005/03 BBC News Music's powers over pain explored
音楽の癒し効果。
”東北大学のかわしまりゅうた先生”によれば、同じ作業をしていても、BGMがあるほうが前頭前野の活動が鎮まっていく(リラックスする)のだそうだ。
そして、「音楽のミーム」についての考察に入っていく。
音楽のミームとして挙がる例の中、出色なものとしてオーストラリア先住民アボリジニの『ソングライン』が登場する。
歌の中に、時間(距離)、地形、位置関係など、地図的要素がふんだんに盛り込まれている、というか、歌に時空が織り込まれて成立している。重要な物語の歌を覚えれば、その土地や旅の情報がインプットされる。

「ソングライン」
ブルース・チャトウィン (著) めるくまーる(1994/07)
[ 「ソングライン」とは、アボリジニの先祖の足跡を辿るルート・マップであり、天地創造の神話であり、法の道であり、情報としての財産でもある。 ]
そういえば、歌や音楽は頭の中にこびりつきやすい。
いらんもんまで勝手にこびりついてくれたり。
長い文章も、歌詞として覚えれば比較的良く頭の中に入る。
そうか。
音楽は脳にしがみつきやすいパッケージミームともみなせるのか。
集団の結束やコミュニケーションに重要な役割を担う音楽。
集団営巣があたりまえな動物である人間。
ヒト的には、生存上、性淘汰云々以前に音楽は「演って当然」な芸事であったのかもしれない。
芸は身を助く 音楽教育は知能をアップしてくれるよ
2004/08 American Psychological Society First solid evidence that the study of music promotes intellectual development
芸術教育を軽んじるべからず
美術や音楽は学習意欲を向上させるし学習能力も上げてくれます
2004/08 ScienCentral Arts Smarts
音楽のレッスン、お子さんの言語記憶力を高めます 〜香港
2003/07 BBC News Music 'makes the brain learn better'
2003/07 EurekAlert Music instruction aids verbal memory
2003/07 New York Times Mental Abilities: More Music Yields More Words
音楽を演ってこそフルに発揮できる能力がある、そんな仕様がヒトにはあったりするのかもしれない。
音楽のありようは、社会の構造や複雑さによって変わるらしい。
民族ごとに好む音楽が違えば、階層によっても流行り曲は異なってくる。
音楽生活は優柔不断?
あなたがその曲を好きかどうかは、周囲の人間もその曲を好いているか否かに左右される
2006/02 New Scientist Your taste in music is shaped by the crowd
歌がヒットする要因とは? What Makes a Song a Hit?
2006/02 【日本語記事】 Science日本版
個人の趣味以上に、属する集団に、音楽の好みが左右されている。

p.240
社会に特別なストレスがかからなければ、儀式は従来からある秩序を確認し、それを維持する役割を果たすだけだ。しかし社会に圧迫が生じたとき、儀式は新しい社会のメカニズムを生みだすきっかけになる。社会が発達し、その構造がどんどん分化していくあいだ、音楽は人類の誕生時に果たしたのと同じ役割を果たしつづけることになる。新しい形式の社会を生みだす、炉という役割である。
音楽でヒトは進化し、ヒト社会も進化した。
音楽の進化心理学 +ミラー ダンバー ピンカー
2003/09 New York Times We Got Rhythm; the Mystery Is How and Why
ヒト進化と音楽と脳機能
2003/07 The Billings Gazette Music offers scientists way to explore mysteries of consciousness
ヒト社会進化に貢献した音楽、という図式のほうがなんとなく好感度高いけれど、欧米では「集団生活を円滑にする音楽や芸事」よりは「性淘汰やクジャクの尾羽(異性を釣るエサ)としての芸事」を沙汰した論考のほうがよくのしている。
ダンスの良し悪しが表すあなたの遺伝子良し悪し
2006/02 EurekAlert EAre dancers genetically different than the rest of us? Yes, says Hebrew University researcher
2006/02 Dienekes' Anthropology Blog: Dancers vs. Non-Dancers: Genes and Personality
女性はシンメトリカルな男性ダンサーを好む傾向
女に対しては男はそのへんあまり気にならないらしい まるでレックじゃん
2005/12 news@nature.com Dancing advertises sexual quality
2005/12 EurekAlert Rutgers researchers scientifically link dancing ability to mate quality
2005/12 BBC News Why good dancers are attractive
魅惑のリズム:性選択におけるダンスの役割
2005/12 【日本語記事】 Nature@日本
進化:ダンスは特に若い男性において対称性を表出させる
2005/12 Nature Dance reveals symmetry especially in young men
芸は身を助く
2005/11 BBC News Creative people 'luckier in love'
2005/11 EurekAlert Creativity determines sexual success, research suggests
偉大なアーティストの共通項は奔放なセックスライフ
2005/11 【日本語記事】 エキサイト/ロイター
2005/11 news@nature.com Write poems, get lucky
あちらでもてはやされる視点「性淘汰やクジャクの尾羽(異性を釣るエサ)としての芸事」。
うち的には「集団生活を円滑にする音楽や芸事」のほうが好感度高いのだけれど。
これは、…「個ではなく集団側から物事を見る」東洋的観点が影響しているだけなんだろうか。
西欧的には「個から見る」のが当然ゆえに、集団云々よりは個々の性淘汰にかかずらってしまっている…ということはある?

リズムと人間、音楽と脳の反応。
脳損傷によってこんな症状も世の中ありえるらしい。
失音楽症 音楽が騒音にしか聞こえない ミュージシャンには致命的
2005/01 New York Times Ob-La-Di, Ob-La-Da, Amygdala: Word as Earworm
「失音楽症」 
とかなんとかいいつつ、今日アタマの中にこびりついてくれている音楽は「た〜らこ〜 た〜らこ〜」
…なんとかしてください。

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