[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

進化心理学,生物学,基礎,サイエンス,利他行動,事例研究 サイトマップPt.1 旧科学ブログPt.3 楽屋のブログ twitter
用語・記事・情報庫 無料翻訳掲示板

感情 1冊でわかるかな? ディラン・エヴァンズとロボット

カテゴリ[科学に佇む2006年] 2006/03/04
いや、やっぱり一冊でというのはちょっと無理でしょう。ase
右◆表紙
左◆表紙
 『感情 1冊でわかる』
 ディラン・エヴァンズ著
 岩波書店 2005/12 [bk1]

 原書2001年 Emotion: The Science of Sentiment by Dylan Evans


 「一冊でわかる」とか言われてしまうと、初心者向けかと思って手にしてしまうんじゃないだろうか。
 この本は、ある程度この分野の状況をかじった人間には「おお、それぞれの方面の現況はこうなのか」と概観参照するのに便利だと思う。
 でも、「感情が一冊でわかるのか!」と体裁の小ぶりさにつられて気軽に読もうとなさる初心者の場合、しんどいかも。一冊でわかろうとする人が期待するような内容とはちょっと違う。
 巻末に、あんのじょうというか、適切というか、一冊ではすまないでしょうと(?)読書案内として、関連書をたくさん挙げてくれている。そういう意味では、一冊だけですませる気がない意欲的な人と、現状のおさらいをしたい中級者さんに、オススメ。

 内容は、まずは「感情」の西欧的歴史の紹介から始まるのだけれども、西洋ローカルな話というか、古来の博物学のノリかな、「情動」と「理性」を対立させ、「理性」を尊ぶことから「情動」を貶める、あちら的偏向の経緯が述べられる。
 そういえば、別の本、都甲潔著『感性の起源』(→感性の起源は甘い感じ? )p.25-26では、西洋における五感の優劣が紹介されていた。
 日本はどうなんだろう。
 「情動」と「理性」を対立させるのは西洋ローカルな問題? 漢字文化圏では「情動」と「理性」は対立するものではなく「感」という字の中に一体として包摂されている? 感性、感覚、感情、感心…。理性は入っていないのかな。
 いや、「理性」という概念は昔からあった? 最近(江戸以降)導入された概念だってことはある?

 そして、今では「理性」に劣る「感情」という図式はとうに古くさいものとなり、人間の行動と理性、そして命運を大きく左右しているのが、感情という巧妙なシステムなのだという事実が明らかになってきた。
 西洋科学における感情の復権。エヴァンスは「情動を理性の宿敵としてではなく、盟友として見なす考え方に回帰すべきことを主張」する。(〜まえがきvii)
 まず西洋のお家事情的に、解いておかねばならない<呪>があるらしい。

 人間にはどんな感情がいくつあるのか。
 もとより感情の種類がいくつかあるのかさえ人により立場により諸説紛々。
 そもそも情動・感情の種類はどの文化でも同じなのか、それとも文化によって人間の感情は異なるのか。
 ここで例として挙げられているのが文化結合症候群としての「ニューギニアのグルルンバ族」なんだが、この例は適切なんだろうか。

〓青棒〓
●ネット Specific Disorders:Gururumba ('wild man') episode グルルンバについてのスライド断片
●ネット2001/02 New Scientist  Article Preview  On Being A Wild Pig 『感情 1冊でわかる』の書評

この本がネタ元かな?
■左60サム
 Knowing the Gururumba
(Case Stud. in Cult. Anthropol.)
  Philip L Newman 著 1965

〓青棒〓

 「グルルンバ」族だよ。なんかすっごい縁の遠い異世界の、ごくまれな話のように受け取られないか。
 「身近にある現象だと受け取られてはまずい、かけ離れた文化の話にせねば」というのでなければ、「グルルンバ」より卑近な例はほかにあっただろうに。
   韓国の「火病 Hwa-Byung」。
   東南アジアのコロ koro、アモク Amok、ラター Latah。
   北極圏のウィンディゴ Windigo。
   台湾の中国人にみられる冷凍恐怖。
   西欧発祥の「多重人格」。
 文化しだいの、ご当地特有の、感情の発露の形。

 東洋と西洋で違ううつ病、というのもあるけどこれはまた別のスジの話かな。→ 『うつ病の西洋と東洋』

...以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

 心の傷跡、PTSD。
 「最近得られた証左によれば」その治療に 「デブリーフィング」を用いるのは逆効果になることがある、という話が挙がっている。(p.79〜81)
 これらの情報のことかな。
あなたが傷ついているのはあなたが日記を付けていたからではありませんか?
 日記やデブリーフィングが心の健康に良くない場合
2004/09 New Scientist Dear diary, you make me sick
2004/09 FuturePundit: Writing Diaries Bad For Mental Health?

デブリーフィングはPTSD防止には無駄
2004/04 Psychiatric Times Vol. XXI Issue 4  Psychological Debriefing Does Not Prevent Posttraumatic Stress Disorder

トラウマ・デブリーフィング、効いてないどころか逆効果っぽいぞ
2002/09 BBC News Trauma debriefing 'ineffective'
2002/09 Washington Post
 Two Studies Raise Doubts on Trauma Counseling's Value

 個人的には、これらの記事を目にしたとき、「え”、なんでこんなあたりまえなことが驚きっぽく書かれているの!?」とかなりな違和感だったんだが。
 不用意に何度も心の中でリプレイしたら、さいなみがもっとぎりぎり刻まれてしまう。リプレイを超えるほど、物語を書き換えないと。

 私的には、こっちのほうがイイと思う。
トラウマは編み物をして癒しましょう
2004/04 WashingtonTimes/UPI Post-traumatic knitting recommended
2004/04 Times British Psychological Society Conference

マントラの詠唱、PTSD治療にいいみたい
2006/03 EurekAlert Latest research shows how mantrams can even tackle post-traumatic stress disorder

 葬儀の慣習だって「作業を続ける」ことにより心への緩衝効果があるという話もあるし。

〓玉7〓

 著者Dylan Evansは、あちらではけっこう名の通った(というか、わりと表に出たがる)進化心理学者。
 こんな著作もございます。
◆90表紙
 いろいろな進化心理学者の似顔絵がツボ過ぎる快著(怪著?)
 「超図説 目からウロコの進化心理学入門 人間の心は10万年前に完成していた」
 ディラン・エヴァンス 講談社 2003;
 『感情 1冊でわかる』の中においても、いろいろ進化心理学的な解釈を開陳なさる。

 自前サイトはこちら。
  ●ネット Dylan Evans' Homepage
 あ、新しく記事出したとこだよと告知なさっている。
 テクノロジーと人間の未来。
2006/02  Guardian The savage solution
 Don't be fooled by those who want to create super-humans - soon we'll all have to follow

 テクノロジー。
 『感情 1冊でわかる』は、後半「機械の感情」に紙数をさいている。
 生物の生存上必須である「感情」という機構。
 人工知能やロボットの設計においても、「感情」の導入は必要かつ重要な課題ではないのかと。
自己複製ロボットの可能性 〜ディラン・エヴァンズ
2002/02 Guardian You make my heart beep
 Scientists are experimenting with robots that will eventually be able to reproduce, writes Dylan Evans

 人工知能やロボットに感情表出を取り入れる試みの代表的なものとして、 コグ Cog くんやキスメット Kismet ちゃんの例が挙がる。
●ネット NTT-MIT: NTT9904-01 Human-Robot Dynamic Social Interaction
 しもはらかつのり氏@NTTがレポートするキスメットちゃんの喜怒哀楽表情いろいろ
コグくんとキスメットちゃん 開発者インタビュー アンドロイドへの道をさぐる
2000/11  NEW YORK TIMES  A CONVERSATION WITH / Anne Foerst  Do Androids Dream? M.I.T. Is Working on It

コグくんとキスメットちゃん 最先端ロボット研究 Rodney Brooks インタビュー
2002/05 New Scientist Designed for life

 『感情 1冊でわかる』の原著が出たのは2001年。あのころ、けっこう花形だったロボット。最近はあまりこの2体のうわさは聞かなくなったなぁ。
 ディラン・エヴァンズの2004年著作の表紙もキスメットちゃんだね。
cover
●感情と進化と合理性  ディラン・エヴァンズ
Emotion, Evolution and Rationality 
 Dylan Evans, Pierre Cruse (著)
  ハードカバー (2004/04)   ペーパーバック (2004/05)

致命的な感情7つ 進化心理学が解き明かす恥ずべき感情の由来 +ディラン・エヴァンズ
2004/01 Psychology Today Seven Deadly Sentiments
 Introducing the shameful feelings that many people have but few admit. ;


〓青棒〓

上掲以外のディラン・エヴァンズ著作:

cover
●プラシーボ:心の力と現代医学
Placebo: Mind Over Matter in Modern Medicine
Dylan Evans (著)
ハードカバー (March 25, 2003) 書籍情報と書評:アマゾン    
ペーパーバック (March 15, 2004) 書籍情報と書評:アマゾン    

ディラン・エヴァンズ、プラセボについて語る
2003/03 BBC - Radio 4 - All In the Mind PLACEBO EFFECT  Dr. Raj Persaud talks to Dylan Evans .


cover
●進化科学 入門
Introducing Evolution  by Dylan Evans
 ペーパーバック (2001/12) 書籍情報と書評:アマゾン    
2001/10 Icon Books

2001/02 THE GUARDIAN  Zoo management
 Dylan Evans finds business to be a jungle in Managing the Human Animal
遺伝 VS. 環境 第2戦  人は産まれながらに平等にあらず リーダーに生まれついたものはいるはず;


〓青棒〓

 『感情 1冊でわかる』の原著が出たのは5年前の2001年。それ以降、感情研究にはいろいろ進展もあり。 → 【感情】記事庫
 『感情 1冊でわかる』は、一冊だけですませる気がない意欲的な人と、現状のおさらいをしたい中級者さんに、オススメ。



メタル


TwitterへTwitterへ「読んだよ!!」とつぶやく [カテゴリ 科学に佇む2006年] : 2006年03月04日 
* * *

→ 上掲のお話についてのコメント

→コメントを送りますか?

 → コメント送信ページに進む

 → Twitterもあります:Twitter iTatazm [たたずむ]

  コメントするときは、お話の日付を考慮に入れましょう。
  突進したのに相手は古い日付の記述だった、みたいな食い違いがたまに発生しています。

★START-POINT

筆者:雨崎良未
XML RSSフィード
→ ブログ新着通知(RSS)の見方

→ 併設ブログ 楽屋【Dorm B】
→ 併設ブログ 旧【科学ブログ】
→ Twitter:iTatazm [たたずむ]

進化心理学 併設サイト
【巨大記事庫】
→ 記事庫の新着・更新情報

→ 最近の主なコメント
→ トラックバック類
→ 科学なポッドキャスト

お気に入られ記事

etc.

amasakiさんの読書メーター
なかのひと
フィードメーター
科学学問


昨日: 今日: