[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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右向きのほうが顔描きやすい人はいるのか?

カテゴリ[科学に佇む2006年] 2006/02/23
 以下は→ 『私は顔の向かって左半分が描けない』 という話の続きでございます:


右画
●…正己さんは普通に左半分も描けるのでしょうか?

 以下とりとめもなく。
 正己さんのコメントにレスをしようとしたら、こんなにごちゃごちゃと有象無象が沸いて出てきてしまって収拾つかず。


半側空間無視(自分を中心にして右、もしくは左半分の空間が、認識も思考も考慮もくそもなく全然意識できない状態になる:脳障害)とこりゃどう違うのかといぶかったこともありますが、そも、考えてみると、けっこう「絵を描く人」では「顔」の、向かって「左向き」は描けても「右向き」が苦手な人は多いんですよね。(データを出したわけではなく私的経験則ですが)

●人間は「顔」っぽい視覚情報は「顔」情報認識担当の脳部位で特別に処理します。
 その処理はけっこうくせもので、「顔」っぽくなくても、むりやり「顔」らしく変形させて処理してくれたりする。

「この車、いい顔している」
 車好きの脳はちょっと違う 顔認識担当部位で車を見ている
2003/03 BBC News Car lovers 'see faces' in vehicles
2003/03 New Scientist Car lovers recognise vehicles as faces

カーマニアは自動車を「人の顔」のように認識する
2003/03 【日本語記事】 ワイアードジャパン


●「顔」の情報を認識する脳部位(顔の入力)は いろいろと研究されてはおれど、「顔の出力」は、どうだろ、ほとんど研究されていないんじゃないだろうか。
 もとより、「顔の認識」は生殺与奪に大きく関わる重要な能力だけれど、「顔の描画」(いや顔に限らず描画自体)はそうでもないからなぁ…

●で、私の場合は「顔」の描画は「目鼻のパーツを描いてから顔の輪郭を入れる」。
 ふつうの人は、たいがい「輪郭を描いてから目鼻を配置する」福笑い型らしく。
 こないだ「ぷっスマ」で石田純一氏が描いていた「輪郭がない」絵が(色合いはともかく)、なんか「あ〜昔の私っぽいじゃん」だったけれど。

●デッサン教室とか行ってみると面白いと思うんだけど、同じ石膏像を描いていても、それぞれにできあがる作品は「描いた本人に似てくる」。
 講評のときとか、画者と作品を見比べてみると「あちゃーくりそつ」と笑えてくるから。
 見慣れてくると、絵から内面が、人となりが、透けて見える。その人の肉を剥いだような。

●個々人の描画の様式が、漫画やアニメ、各国のカラーなど流行に平気で左右されてしまう例が多いのは、なんだろう、描画モジュールは刷り込みされやすくできているのかな。
 描画は…「儀式」で重要だったからか。模倣。社会同調。??

●他人の魅力を評価するとき、人間は「自分に似た顔(パーツの形より目鼻口の位置・距離・角度が近い顔:愚説)」に魅力を多く感じる傾向があり、実際問題「似たもの夫婦」は多発しているわけで、このあたり、「絵が自分に似る」という認知枠の歪みはなんぼか関係するのだろうかと思ったり。

●「自分に似た顔」ではなく、「成長過程で見慣れた顔(=いきおい主に血縁者=当然自分に似た顔)」を好むのだという報告もある。
 だとすれば、「見慣れた顔のパーツ配置」が好みとして刷り込まれる可能性が。

 → 『育児のうまい相手を選ぶには 父さんあなたは偉かった』

●顔パーツの位置関係。
 ここが刷り込まれるモジュールが脳にあるのだとすれば、私は「輪郭モジュール」より「パーツモジュール」のほうが、でしゃばっているのかもしれない。

 視覚情報処理経路で、極端な個人差が見られる例として、 サヴァンなども上げられるが、
自閉症のような発達障害は、全体を先に処理する人間に典型的な傾向が崩れていることと関連しているのかもしれない。自閉症者の中には、部分図形の処理にきわめて優れている人たちがいるが、それこそが彼らの問題の原因の一つでもあり、また、「写真のような」絵を描いたり、莫大な量の機械的記憶を持てたりする、驚くべき個別の能力の原因ともなっているのだろう。
 p.60〜『霊長類のこころ 適応戦略としての認知発達と進化』 ファン・カルロス・ゴメス著 長谷川眞理子訳 新曜社 ; (2005/10)  原書2004; Apes, Monkeys, Children, and the Growth of Mind (Developing Child); Juan Carlos Gomez


 「全体を先に処理する人間に典型的な傾向が崩れている」ってか。

●知人の絵描きには「右向き苦手」に加えて、描出がすべて「左に斜行する」(絵が全部左に傾いている)という人もおりまして。
 本人は裏から透かすとかCGで反転させるとかしないと、そのゆがみがわからないと言う。
 これも「出力」の個人差、歪みだったのか。

...以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

右画
●「魚が左向きに描かれるのはなぜ」というトリビア(?)に「最初期の魚図鑑が左向きの絵で、そこからみなが見慣れただけ」というような(うろ覚え)解釈がなされていたことがあったが、もとより
  ・左向きのほうが受容されやすい
  ・左向きのほうが描きやすい
という要素はあったと推察しえるかもしれない。

●肖像などでも「向かって左向きの顔(対象の左面を見せている顔)」が好まれる傾向がある。
 逆に言えば、右向きは不安感をかもし出す効果を期待して敢えて採られることもあったり。

●百鬼夜行絵図や鳥獣戯画も左向きだけど、これは単に絵巻の巻き方向の都合だろうか。

●洞窟壁画にまで飛んでみるとどうなのかな。
 ラスコーやアルタミラとか、年代・技術ごとに「右向き左向き」を統計してみると面白いかもしれない。

●心理上、右と左では感情反応が異なるとする報告があったと思う。

子供を左に抱くのは母子愛着を強化できるから?
 左からの情報は感情主体の右脳に響く
 8割以上の母親は赤子の頭を左にして抱く
2004/01 Nature Science Update Do women clasp infants to their left to boost bonding?
2004/01 FuturePundit.com Women
Hold Babies On The Left To Connect To Emotional Half Of the Brain

女性が赤んぼうを左腕に抱く理由 脳右側部分が顔情報処理
 男ではかような脳機能特化は見られなかった
2002/09 BBC News Why women cradle babies on the left


●認知考古学でも、文化人類学でも、右と左で世界観に如実な差を置いている文化例は多く。

 どの民族でも右利きが圧倒的に多く、ほとんどの民族で、右手は善の象徴であり、左手はそうではない。
〜p.158 ドナルド・E. ブラウン 「ヒューマン・ユニヴァーサルズ 文化相対主義から普遍性の認識へ」 新曜社 2002/07 (原書1991/Human Universals)


 古代の埋葬様式、副葬品の配置は上下左右でそれなりに決まっている上、そこから世界観も読みとれるという話。
 → 『認知考古学のお通りだ』

●ただし、「右と左がない世界」もあるので留意。

 →2005/03  『「右」と「左」の区別がない世界』

●さて動物。
 うちのネコ(2匹とも)は人間のまわりをグルグル回るとき、必ず、というか9割以上、左回り。
 互いに戦うときも、左回り、というか、自分の身体の左面を相手に晒しながら、威嚇する。
 「左を晒して戦う」種はけっこう多いんじゃなかったかな。

なぜなぞ科学:動物も右利き多い?
2004/04 【日本語記事】 毎日新聞


 あれ??
 行動上左右差のある動物はそんな多くないと言われてしまった。 そうか…??

●トス(Toth, 1985)によれば、百九十万〜百四十万年前にはヒト科動物の脳にはっきりした側性が発達していたと推察しうる。
●利き手が動物に生じたのはかなり早い時期。
 ヒキガエルにさえ利き手がある。
 足使いの左右差は両生類よりも古い魚類にすでに進化していた可能性もある。
 p.166-168大意 レスリー・J・ロジャース 「意識する動物たち:判断するオウム、自覚するサル」 青土社 1999/06 (原書1997/Minds of Their Own)


 「多くない」けれど、「ある」わけね。

●「右向き顔を描くの苦手」比率は、右利きの人と左利きの人とでは、異なることもありえるんじゃないだろうか。
 (利き手によって脳領野の左右位置配分が違っている場合があり)

利き手で異なる頭の中身
2005/02 Guardian Why left-handers may not see the wood for the trees


●人間に右利きが多いのは戦うときに「心臓が守れる」からだよ、みたいな解釈がなされていたりするけれど。
 ぢゃ、なんで(うちの)ネコは「左を晒して戦う」のか。
 そもなぜ「心臓は左」なのか、みたいな。

バトルの場で花開く左利きたち
2004/12 news@nature.com Left-handers flourish in violent society
 Southpaws have rarity value when it comes to fighting.
2004/12 New Scientist Left-handers win in hand-to-hand combat


 左利きに見られる適応性、こんなことだけではないとは願いたいが。

〓青棒〓

●顔。左右。心理。
 いろいろな要素が輻輳錯綜してつながりうるので、並べ方を定めるにはかなりしんどいものがあり、結局『「輪郭モジュール」より「パーツモジュール」のほうがでしゃばっております』みたいな記しようになってしまうのであった。

追記:
その後、こんな話も。
 → 2007/08 『 左右の民俗学、天皇の左右、右利きの進化 [ Dorm B ]』
 「右利きは心臓をかばえて有利だった」説は19世紀からあったらしい。



メタル
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* * *

→ 上掲のお話についてのコメント

1530 #jYbOzkUY コメントアンカー 正己 さんのコメント 【2006/02/24】

私は顔を描くとき、左右両方とも普通に?下手に描けます。(;^_^A)
高校を卒業して以来、顔を描くことはほとんどないのですが、輪郭を描いて、鼻を描いて、右目(左側)、左目(右側)、口の順のような気がします。でも、これって、授業で教わったりお絵書き関連の本で見たりのマニュアルに従っているだけかも…。顔のパーツでは「目」が一番好きだから、右目、左目、鼻、(あるいは、鼻、左目)、口の順にの描いてから輪郭を描くこともあったような…。「へのへのもへじ」は右目、左目、鼻、口、輪郭の順ですね。
右向きと左向きのどちらの顔の方が多いかと言えば、左向きの方が多いような気がします。銀河鉄道999のメーテルだったかな、その絵を真似したときにそうなったような記憶があります。他人の絵の影響ですね。額から一筆書きで口まで描いて、口から一筆書きで首まで描いて、最後に髪の毛を描いていたような…。最後の顎を描くときに右利きの人は左から右への方が描きやすくて右から左には描きにくいかも…。眉間から鼻先まで「ノ」の字は描きやすいけど、その逆はちょっと描きにくいかも…。鼻の下の部分は短いから気にならないだろうけど、やはり右から左には描きにくいかも…。描きやすさの観点からなら右利きの人は左向きかなぁ、と。
絵に関しては素人の私ですが、そんなことを思いました。

1335 #kzzwtH4A コメントアンカー 雨崎良未 さんのコメント 【2006/02/27】

ふむむ。
なんで人間は「見たとおりに描けない/見たモノと描いたモノの違いがわからない/描いたモノの歪みがわからない」のかなぁ、などと考えていたら、
  ・描画突出型サヴァンは絵の記憶力よりも「出力」の突出に注目するほうが適切なのではないか
などとまたモヤモヤが沸いてきまして、あとでまた続きのエントリを書くかもしれません。

「目」については、かねてより「ヒトの目の進化」に関するエントリをアップしようと準備中なのでした。近日中になんとか出したい…。

0158 #- コメントアンカー てる さんのコメント 【2008/04/18】

利き腕が関係しているだけでは?生物の動きは間接を中心とした円運動に近い。
向かって左向きの顔は、左向きの弧の割合が多いので、自然右手間接を使った円運動で描くほうが描きやすい。
向かって右向きの顔も上下回転させたら、右手で描きやすいと思います。

どうでしょう?

0750 #MJWiGxv6 コメントアンカー 雨崎 さんのコメント 【2008/04/18】

右向きの顔が描けない職業グラフィッカーとして申し上げますが、正面の顔を描いても、左半分が欠落するのです。
抽象図形の弧はかなり自在に描けます。
利き腕の運動機能ではなく、脳領野の映像出力に得手不得手ができていると思われます。

0757 #MJWiGxv6 コメントアンカー 雨崎 さんのコメント 【2008/04/18】

ついでに、3つ上の2年前のコメントにフォロー。

「ヒトの目の進化」について記したエントリはこちら。
http://ep.blog12.fc2.com/blog-entry-280.html

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