フィニアス・ゲイジ
フィネアス・ゲージ
フィネス・ゲージ
いくつか表記のバリエーションがあるみたいだけれど、Phineas Gage。
先週土曜のフジテレビ特番 『サイエンスミステリー「それは運命か奇跡か!? DNAが解き明かす人間の真実と愛」』 で紹介されていたあの事例。

番組が下敷きにしていたのはこの洋書:
数奇な名声 フィネス(フィニアス)・ゲージの物語
An Odd Kind of Fame : Stories of Phineas Gage
by Malcolm Macmillan
Hardcover (January 2000) MIT Press
書籍情報と書評:アマゾン日 米 英
この本は邦訳出てないんでしょうか。
脳みそに大穴が開いても生きていたフィニアス・ゲイジの話は、さまざまな脳科学本でひっぱりだこ、よく取り上げられているのでいまさらな追記にしかならないかなと思うけれど、一応私的なメモとしてエントリこしらえて置いておきます。

フィニアス・ゲイジ。
鉄の棒が脳を貫通し、それでも生き延びたマジ奇跡的な症例。
事故があったのは150年前。
こんな大怪我で、よくまあ失血死しなかったことにびっくりですが。
(当時は輸血の技術はなかったし、麻酔もレベルが低いものしかなかった)
あまりに希有な症例ゆえ、ゲイジが死して埋葬されたのち、彼の遺体はわざわざ掘り出されて…
本人は承諾していたんでしょうかねぇ…死後、勝手に脳みそを盗られ晒された イシ やアインシュタインの事例を想起してしまうけれど。
右のでかい表紙絵は、
アントニオ・R. ダマシオ著
「生存する脳 心と脳と身体の神秘」
講談社 (2000/01)
の表紙をアマゾンの画像庫から表示しております。
この表紙に描かれているのが、掘り出した頭蓋骨をCGで復元構成した、フィニアス・ゲイジの頭骨。
はい、鉄の棒が貫通しております。
もっといろいろな「貫通図」をごらんになりたければこちらへ。
Phineas Gage イメージ検索 で、事故なんですけれども、ゲイジ本人が、発破現場で火薬の装填作業をしている際に、ミスって誤爆。

たまたま私は発破(爆破作業)の現場をお手伝いしたことが(なぜか)あるのですが、もうだいぶ前のことになるのでうろ覚えではありますが、だいたいの基本的な手順はこんなとこ。
●爆破対象に穴を開ける。
●穴に火薬を詰める。
●火薬の上に、砂を詰める。
●砂の上から、突き固める。
●離れたところから、導火線で点火する。
作業は死ぬほど慎重に進められます。
でないと死ぬし。
ゲイジを襲った 「鉄の棒」は現在も彼の頭骨といっしょに保管されています。
片方がとがり(穿孔用?)、もう片方は槌で打ちやすいような、もしくは突き固めに具合良いような、平たい頭になっている。
(保管場所: ハーヴァード大学のウォレン医学博物館/Warren Anatomical Museum, Harvard Medical School)
たぶん、ゲイジは発破作業での穴あけにも、突き固めにも、その自分の頭を貫通した「鉄の棒」を用いていた。
彼の悲劇は、火薬の上に詰めるべき砂が、無かったか、薄かったかして、突き固め棒の衝撃が直接火薬にひびき、暴発したことによる。
「鉄の棒」ミサイルが、彼の頭を貫通した。
番組では言及はなかったようだけれど、上掲「生存する脳」表紙図でも推察できるとおり、ゲイジは左の眼球も失っている。
彼が失ったものは、目玉だけではなかった。
彼は、性格を失った。 脳の損傷で。
脳の前頭葉(おでこに近い部分)を損傷すると、往々にして性格が激変する。
ゲイジが失ったのは、左の眼窩前頭皮質。
...以下つづき...

いかんせん「脳が欠けている」わけですし。
責任感が強く、思慮分別があって、親しみやすい人柄だった男が、何かにつけてすぐ怒りだすけんか腰のクズ男になってしまったと。 [〜中略〜] 「感情がむきだしで、同僚への気配りもほとんどなく、何かを禁止されたり、忠告されることにがまんできない……意固地なのに移り気で、ものごとを自分で決めることができない」。記録によると、事故後のゲイジには友人たちも恐れをなし、元同僚も、ゲイジは要するに前のゲイジではなくなったと語っている。
p.221 〜キャシー・クリミンス著「パパの脳が壊れちゃった ある脳外傷患者とその家族の物語」原書房 2001 (原書 2000/ WHERE IS THE MANGO PRINCESS?)
※ この「パパの脳が壊れちゃった」は、脳が壊れて生き延びるとはどういうことか、の一例をバキバキあられもなく見せてくれるど根性本。一読オススメ。

ゲイジのその後は
・おもかげもなく荒くれた
・見せ物小屋で鉄の棒といっしょに見せ物になって小金を稼いでいた
・消息がはっきりしない
という話が多かった。
・事故直後に平気で歩き回ろうとした
のいうのも、「自分の現状を把握する」機能がふっとんでしまっていたからだと推察できるし。
An Odd Kind of Fame では、フジの特番によれば
・事故は25才、享年36才
・のちにゲイジは穏やかな性格になって定職に就いていた
・回復できたのは、なつかしく穏やかな環境で暮らせたから
という話になっているらしい。
しかし。
・脳損傷患者は生活上の困難から寿命も短いと思われ。
・「穏やかな性格に回復」したのではなく、
ロボトミー的な欲求麻痺に変化していただけなのでは。
とか変に腑に落ちなくてああ An Odd Kind of Fame の邦訳があったら読みたいなと。

【ロボトミー(前頭葉切截術)について】
術後の患者は意欲や洞察力、構成力を喪失し、ごく単純な仕事以外は関心を持続できなくなっていることがわかった。臨床医はこれを「前頭葉症候群」と呼んだ。
p.34 〜「平気で暴力をふるう脳」 デブラ・ニーホフ著 草思社 2003/10
(原書 1999THE BIOLOGY OF VIOLENCE)
「ごく単純な仕事」しかこなせない。
番組ではゲイジは「複雑な制御術を必要とする6頭立て馬車の御者をこなしていた」と紹介されていたが。
とはいえあくまでこれも、ある意味単純作業なのかもしれないわけで。
・死ぬまで「鉄の棒」を大事にしていた
・「鉄の棒」といっしょに埋葬された
という話は、単にそれがあれば”見せ物”で小金が稼げたから、生きる上で必須だったんじゃないかとか思うし。

フィネス・ゲージ 身の毛もよだつほど恐ろしい本当の脳科学話
小学生向け絵本
Phineas Gage: A Gruesome but True Story About Brain Science
John Fleischman (著) 対象 9-12歳児
ハードカバー (2002/03) Houghton Mifflin Company
書籍情報と書評:アマゾン 日 米 英
どうなんだろなぁ。
熱だして寝込んでなければもう少し特番のタイミングに近く書けたんだけど(まだ熱は下がりきっていない)、時期はずれになってしまった。orz


【爆破作業に対する誤解】
●3ヶ月後の2006/09/24 追記
京都大学霊長類研の下位サイト『脳の世界』に、フィニアス・ゲイジの症例について述べているページがあるんですが、
『前頭連合野損傷の症例(フィネアス・ゲージ)』
Phineas Gage 25歳は [〜中略〜] 岩盤を爆破する仕事をしていた。
この日、仕掛けたダイナマイトが爆発しないため鉄棒でつついた。
「ダイナマイトが爆発しないため鉄棒でつついた」というのは、いくらなんでも…
、ということで、同ページ内に記載ある管理者のメアドに
瑣末な部分ではありますが、冒頭の発破作業について「爆発しないため鉄棒でつついた」と記載がありますが、お手数でなければこの部分の出典がわかるようであれば、ご教示いただけませんでしょうか。
フィネアス・ゲージについては詳しくないまま、私は自分の現場経験から以下のような記載をしておりまして、
http://ep.blog12.fc2.com/blog-entry-260.html
実際に「爆発しないため鉄棒でつついた」のがスタンダードな解釈になっているのであれば、注記修正すべきかと思い、確認いたしたく。
急ぐ用ではありませんのでお手すきの際でけっこうです。
お手数であれば、しょせん枝葉の事柄ですし、捨て置いてくださってもさしつかえありません。
で、それから一ヶ月経っているんだけど、(大学関係のサイトは管理者の移動が激しいので連絡不能になっていることが少なくないし)あんのじょう音沙汰はございません。
不用意につついた結果なのか、工程をミスった結果なのかは、しょせんフィニアス・ゲージの数奇な症状を云々する上ではドーデモイイ部分なので仕方ないと言えば仕方ない。
で、まあ、どなたか「「爆発しないため鉄棒でつついた」のがスタンダードな解釈になっている」か否かを把握できる方はいらっしゃいますか〜 と、ここで問いかけてみたりするわけですが。
発破の現場を知っていて脳科学やってる人間って、世の中、そうそうはいないわな…。
【追記】●さらに数年後の追記:
もう2年経つんだけどさ。
返信もなく、ずっと修正もされないこの状態は、かなり悲しい。
よそを見渡した限りでは、ふつうは「爆発しないため鉄棒でつついた」のごとき解釈はしていない。どこで京大霊長類研サイトの「勝手な決めつけ/思い込み」が発生したのか、確認できるならおもしろいのにね。
2008/11 ABC@オーストラリア Extraordinary Cases in Psychology: Part 3 of 4 ― The man with the hole in his head
2008/11 BBCラジオ4 CASE STUDY リアルオーディオ

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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