いや面白い、ぴっちりかっちりさまざまな研究をきれいに整理並べて披露してある。

『霊長類のこころ 適応戦略としての認知発達と進化』
ファン・カルロス・ゴメス著
長谷川眞理子訳 新曜社 ; (2005/10)
[bk1]
原書2004; Apes, Monkeys, Children, and the Growth of Mind (Developing Child); Juan Carlos Gomez
原題は、「類人猿とサルと、人間の子ども、そして心の成長(子どもの発達)」。
邦題には”ヒトの子ども”も混ぜて欲しかった。
その道では、
あと、装丁。 これかなりげっそり。
平成の新刊とは思えないデザイン・配色。
大きめに配されているチンパンジーの画像に至っては、無意味に顔欠けさせていたりするし。
内容の良さに対して、ちょっとこの状態は失礼ではないかと。

いや、それにしてもこの内容はすごいです。
著者の論点整理・資料整理の手腕はみごと。
すらりすらりと諸研究を並べ編み上げてある。
整頓の行き届いたりっぱな図書館の中を歩いているみたいだ。 気持ちいい。


・(p.63)さわって丸い物を見た目丸い物と、関連づけることができるのは生まれつき。
脳にはあらかじめデフォルトでさわった感触と見た目が結びつく回路がしつらえてあるらしいぞと。
おサルも、触覚から見た目を推察できるらしい。
・社会的に隔離されたサルは、
「受動的な学習タスクでよい成績を示したが、自分から進んで探索し、物体の世界についての知識を自分で作り上げていく能力が欠けていた」(p.44)
あはは。

・ヒトよりサルの子のほうが、早く見た物に手を伸ばすようになる
・全般にサルの子のほうが、ヒトより発達が早い
「サルの赤ん坊の1週間の発達は、だいたいにおいてヒトの赤ん坊の1ヵ月の発達に相当する。」(p.42)
ヒトの子は、サルより未熟で生まれる上に、発達もむちゃ遅っ!

しかも、「布で隠された物を取り戻す」テストあたりになると、ヒトよりもサルよりも、ネコイヌのほうが早くできるようなってしまうとな。(p.88)
人間:生後8、9ヵ月もしないとできない
チンパンジーとゴリラ:生後7ヵ月
サル類では生後1、2ヵ月
でもネコとイヌはなんと生後わずか2週間でできちゃう!
みんな発達はやっ!
サルやヒトのみならず、いろいろな動物での研究事例も巻き込んで論は展開していく。
・ハトは見た物の補完をしないらしい。
-■- は、串刺しではなく、あくまで「-と、■と、-」。 へぇ〜

・人間が5才になってもできない「針金をうまく曲げて道具を作る」ワザを、カラスはやっちゃえる。(p.149)
うん、なつかしい話だ。
かしこすぎるカラス 針金を曲げてバケツをつり上げる
2002/08 【日本語記事】 ネイチャーバイオニュース
・サンショウウオは、1、2と、3の違いはわかるが、それ以上の3と4は区別できない。
これはサルや人間の赤ん坊も同じ。(p.61主旨)
おおっ。
いわゆる「1,2,3,たくさん」は、はるか昔の両生類からでしたか!!
・「上を警戒」「トラの危険だ」のような「特定の意味を持つ音声」は、サルにはあっても大型類人猿にはほとんどない。(p.238)
リスやニワトリにさえ「特定の意味を持つ音声」はあるわけで、「特定の意味を持つ音声」と「言語の単語」は直結しなさそうだし。
ところで昔こういう記事が流れていたんだけど、これはマジ記事だったのかな。その後続報とか見かけた人いらっしゃいます?
言葉を話すクモザルを発見@ブラジル
534の発音パターンを持ち、朝晩に頻繁に口話
2003/03 Ananova [monkeywire] Scientists say rare Brazilian monkey 'talks' like humans
・自意識を調べる鏡テストのくだり(p.358ほか)、鏡テストにはイルカやゾウも合格しているという話には言及なし。
イルカは鏡で自分を確認できます
2001/05 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98 (9) Mirror self-recognition in the bottlenose dolphin: A case of cognitive convergence
鏡を用いた自己認識テストにパスしたゾウさん
2000/09 DISCOVERY.COM (SALVE) Elephants Recognize 'Self'
・(p.57)「人間のおとなは、まず刺激の全体的な輪郭を知覚し、その次に細かい違いを知覚する傾向がある。」
・(p.59大意)部分図形を処理する速度は、ヒヒと人間はほとんど同じだが、人間は全体的な形をきわめてすばやく検知する
...以下つづき...

顔のパーツを描いて、そのあとで輪郭を描く。
でもたいがいの人は輪郭を先に描いて、そのあとで目鼻口を乗せるらしいですけどね。

おまけに、私は顔の向かって左半分が描けない。
だのに、いっちょまえに絵のプロとして仕事をしていたりするのですが。

なんかの障害でしょうかねぇ。
昔はパーツもバラバラで、うまくまとめることさえできないような状態だったし。
もしかして視覚系がサル?

p.60
自閉症のような発達障害は、全体を先に処理する人間に典型的な傾向が崩れていることと関連しているのかもしれない。自閉症者の中には、部分図形の処理にきわめて優れている人たちがいるが、それこそが彼らの問題の原因の一つでもあり、また、「写真のような」絵を描いたり、莫大な量の機械的記憶を持てたりする、驚くべき個別の能力の原因ともなっているのだろう。
視覚系回路が違う人々もアリと。
ああ、このくだりはあとで Temple Grandin さんについてのエントリ書くときにも入れよう。

できること。
できないこと。
発達の早さが違うこと。
発達の道筋も違うっぽいこと。
発達する能力も、それぞれに異なるらしいこと。
であれば。
「進化すれば我々と同じ知覚を持つに至る」とうそぶくのはもちろん水準以前な言語道断として、「我々とは異なる知覚を、どう想定し、どうやって調べて、どう解釈して、どう位置づけて」いくのかな。

あと、チンパンジーで見られるシロアリ釣りの学習(母親をまね続ける)に関するくだりが複数箇所登場する。
霊長類・類人猿は種によってなんぼか母子関係父子関係は違うわけで、安易に「チンパンジーでこうだから人間も」とやるわけにもいかないわけだけれども、どうなんだろな。
チンパンジーのシロアリ学習の様態をひいて、ヒトの子どもの養育について云々しているような例ってどこかにある?

種によってなんぼか違う霊長類・類人猿。
そうそう、チンパンジーとボノボの違いを熱心に強調なさっているのはこちら、ドゥ・ヴァールさんの近著。
…ちょっとボノボを美化しすぎなきらいがある?

『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源 』
ハヤカワ・ポピュラー・サイエンス
フランス・ドゥ・ヴァール (著)
早川書房 ; (2005/12)
原書の情報と書評:Our Inner Ape: A Leading Primatologist Explains Why We Are Who We Are, Frans De Waal (著) 2005/10
これ原書が出てすぐ邦訳が刊行されたよね。
原書出版前から翻訳に着手していたんだろうか、それとも原著はもっと以前に出ていた?
中身は同じ著者が10年前にものした 「政治するサル」 の現代版みたいな。
西洋の一般人向けに書かれているので、ちょっとくどくどしい意味操作が読んでいてうざかったりする。
閑話休題。

で、当該書『霊長類のこころ 適応戦略としての認知発達と進化』はオススメ。
「類人猿とサルや、人間の子どもにおける心の機能の成長」研究が、古今ひととおり概観できてしまう。オトク。
『霊長類のこころ』との読み合わせにオススメなのはこちら。

「なぜ「まね」をするのか 霊長類から人類を読み解く」
明和政子著/松沢哲郎監修
河出書房新社
2004/02
ヒトとサルの模倣機序(まねっこのしくみ)はどこがどう違っているのかを、平易に、かつきっぱりと示してくれている。
類似分野の第一人者の著作にこういうのもあったけれど、

『心の発生と進化 チンパンジー、赤ちゃん、ヒト』
デイヴィッド・プレマック/アン・プレマック著
新曜社
2005/05
原書2002; Original Intelligence: Unlocking the Mystery of Who We Are / David Premack
さまざまな試行や研究成果についての記述がのみこみにくくて(自分の研究紹介が中心)、すごくつまんなかった(ごめん)。
そのぶん、当該書『霊長類のこころ』のほうは、さまざまな研究事例をすごいすんなりのみこませてくれて感激。
p.43, p.324ほかの、「T型の棒(もしくは熊手)をサルがどうつかいこなすのか」については、

「道具を使うサル Homo faber」
入来篤史(入來篤史)著
医学書院
2004/07
もひとしきり詳しく。
ただしこちらも自分の研究紹介が中心、かなり読みづらいかもしれない一品。
※追記2008年: その後、入來氏は「ネズミのたぐいの「デグー」も、T型の棒(もしくは熊手)をつかいこなす」ことを報告なさっている。
![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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