避けたかったお誕生。
ロングフル・バース。

『法と遺伝学』
和田幹彦編著
法政大学現代法研究所叢書
法政大学現代法研究所 / 法政大学出版局 2005/04
[bk1]
第2章「遺伝学・遺伝性疾患・遺伝カウンセリング」のうちわけは以下のとおり。
第1節(和田幹彦:法と遺伝学) 判決をめぐる法的・医学的・心理的諸問題
第2節(武藤香織:社会学) 「確率」を引き受けるための支援−「生活上の知」から
第3節(高井泰:産婦人科学) 医師に何ができたか
第4節(田村智栄子:遺伝カウンセラー) 遺伝カウンセリングとは
第5節(和田) 地裁・高裁両判決の位置づけ・評価と遺伝カウンセリングへの提言
平成15年の遺伝病告知にまつわる
東京地裁判決 について、法医学、社会学、産婦人科学、遺伝カウンセラーなどの各立場からの見解が並ぶ。お医者に「次の子は大丈夫だと言われた」ので、安心して子をもうけたところが、「次の子も、長男と同じ遺伝病を抱えて生まれてきたではないか」と、医師に対して両親が起こした訴訟。
「次の子どもも、長男と同じ遺伝病を抱えて産まれてくる可能性があることを(両親にはっきり説明すべきであったのに)医師が説明してくれなかった」、それはお医者の過失であり「説明義務違反」なので、弁済しなければならないと。
病名は
ペリツェウス・メルツバッヘル病(PM病)。体の不自由に見舞われる病気。事件の顛末:
遺伝的疾患がある子どもを持つ両親に対する説明の在り方 @医療過誤判例集 メディカル・プリンシパル社そしてその
判決内容 @弁護士尾崎孝良氏編纂の医療判例集
● ロングフル・バース
wrong は「ウロング」と読むんだとなぜかずうっと思っていたのだけれど、ふつうは「ロング」なのね…。
さてもこの「ロングフル・バース」、めちゃグーグル力(検索ヒット数)が少ない。
ロングフル・バース=わずか26件
ロングフル・ライフ=それでもたったの187件
…ふつうはなんかもっと違う言葉で、別な日本語で沙汰されている?
それともマジにこんなに知られていない概念?
しきりなおして再度。

●ロングフル・バース:wrongful birth 障害児を生んだ親からの視点
知っていたら産まなかった出産
出産回避の機会喪失
ロングフル・バース裁判:医師が適切な情報提示をしなかったせいで障害のある子どもが生まれた、その責任を、親が医師に対して訴える裁判
●ロングフル・ライフ:wrongful life 障害を抱える本人からの視点
生まれないほうが良かった人生
望まない生
予期しない生存
…もっと簡単&わかりやすく言い表せる日本語はないのかな。
それとも…? 「日本的にそぐわない概念」 そんなことはないか。

ロングフル・バース裁判は、障害を持つ生に対する価値観はどうなのかとか、社会体制の不備は、とかいろいろ複雑な価値観の対立があって、掘り下げるととてもしんどい話題になってしまうんだけれど、ここではちょっとデザイナーベビーがらみで”単純化”した絵を描いてみようかなと。
同じ本の後半に血縁度や繁殖成功度と法制度の関係を考察した章があったりするので。
…人の心情として、まぁ、それが自分にとって「プラス」であるのなら、「やってみたい」「ゲットしてみたい」と考えるのが、ふつうでして。
その「プラマイ」扱いされる対象が、人命であっても、仕方ない。
…人の心情として、まぁ、それが自分にとって「プラス」であるのなら、「産んでみたい」「繁殖してみたい」と考えるのが、ふつうでして。
例えば。
最初に産んだ子が、障害をかかえて生まれてきた。
将来の介護の労力などが心配なところ、さいわいにも二人目の子は健常な状態で生を受けた。
それであれば、少し無理してでも三人目四人目ももうけて、長子の援助にたずさわることができる血縁者をふやしておけば、みんなそれなりに楽になるだろう。
そう思って医者も「大丈夫だ」とおっしゃることだしと、生んでみたら、なんと三人目は長子と同じ深刻な病気をかかえた子だった。
どうしよう。
この子たちの将来にとってプラスであるべきお誕生が、計画がちがってしまった。
しんどい。
例えば、子作りに上のような発想があったとして。(第2章の主題である原告の家族がこんな発想だったといいたいわけじゃない:単に私的仮定として)
これはふつうにふつうな子を産みたいという思いではあれど、動機を分解した場合、実際のところは「治療用デザイナーベビー」と同じベクトルの話じゃないだろか、と思ってしまったり。
...以下つづき...

状況を改善できる子が生まれると聞かされていたのに、
そうでなかったので起きるのが、ロングフルバース裁判。
死の病に見舞われている我が子を救うには、治療方法がほかにない場合、臓器提供できる血縁者を増やせば状況を打開できるからと、受精卵を選別して生み出す子。
欲しいと思う体質の子を、受精卵の段階で取捨選択して
オーダーメイドな子だけもうけるのが、デザイナーベビー。
デザイナーベビーをはらむ女
彼女の息子を救うために、公認でイギリス初の”治療用赤ちゃん”を妊娠しております
2才の長男は「ダイアモンドブラックファン貧血」
彼を治療できる「臍帯血」を提供すべく、次の子が体質選別されたのです
2004/11 BBC News Mother carrying 'designer baby'
こちらもイギリスの例ですが、当時は違法だったので、
わざわざアメリカまででかけてもうけた治療用デザイナーベビー
患者は6才で、上と同じ病気の「Diamond Blackfan Anaemia」
生まれてきた弟の「臍帯血移植」のおかげで、兄はたいへん健康になれたとのこと
2004/10 BBC News Brother's tissue 'cures' sick boy
先行するアメリカの移植治療用デザイナーベビー(動画あり)
ファンコニ貧血をかかえた姉に「臍帯血」をあげるために
健常な弟が選ばれて生まれました
2004/09 ScienCentral Stem Cell Siblings
特定の体質の子だけ選んで産む(そうでない子種は廃棄される)、これを積極的デザイナーベビーと呼ぶなら、障害のない子だけを選んで産むのは、「消極的デザイナーベビー」みたいなもんだなあ、と思ってみたり。
はは。
さすがに「消極的デザイナー・ベビー」なんて言葉はぐぐっても一個もヒットしませんね。

デザイナー・ベビー そして、血縁度や繁殖成功度と法制度の関係を考察した当該書第7章と読み合わせると、さらにしおしおに微妙な感じが倍増していくのであります。
法律を進化論と繁殖成功度で読み解く冒険:

日本における遺伝カウンセラーとは?
遺伝カウンセラーが助けてくれること
日本における遺伝カウンセリングの実施例を収録
![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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