
『カラスの自然史 系統から遊び行動まで』
樋口広芳・黒沢令子 編著
北海道大学出版会 (2010/8/19)
北海道大学出版会から出た本は、札幌の図書館では「郷土資料」扱いで特別なコーナーに置かれていたりする。
内容は特に「北海道のカラス」に限ってはいない本なんだけどね。
■ カラスなトリビアいろいろ
モノは最初から最後まで「カラスの話」なわけで、それなりにおもしろいトリビアが満載です。

★雪国ではカラスが雪を滑って遊んでいる!
┗ 雪の斜面転がって遊ぶワタリガラス
横にゴロゴロ、縦にゴロッと
雪の斜面滑りや回転技は、ブトもボソもやります。
ワタリガラスの雪転がり - YouTube
┗ 山口県の遊園地では、滑り台を滑って遊ぶカラスが撮影された。
北欧では雪面をなぜか仰向けになって滑って遊ぶという。
┗ カラスが賢くなったのは,食生活に追われないで余裕の時間を持てるからではないか

★カラスは石けんを備蓄食料にしたりする!
カラスは石鹸がお好き 2 - YouTube
┗ カラスの好物は脂。油脂分の塊である石鹸を食べ物として持ち去っていた
石けん摂食行動は石鹸自体、日本ではそんな古い歴史はないので、まだ新しい行動の部類に入るんでしょう。それより、古来から屋外で使われてきた「和蝋燭(わろうそく)」のほうが、石鹸同様の「油脂分の塊」としての「カラスにとってのゴチソウ」としてずっと先輩格なのではないかと。
というか、ロウソクを採餌する行動の延長で、カラスの石けん泥棒が発生しているのかもしれない。
★火のついたロウソクを持って飛ぶカラス!
これあたり、普通に「火の玉」現象の伝承の元になってたんじゃないかと思えたりw┗ 10センチはあろうかというロウソクをひと呑みし飛び去りました。
┗ ぼや騒ぎは、カラスが火の付いたろうそくを落ち葉の中に隠したことが原因とみられる
東京大大学院の樋口広芳教授の調査で分かった
モースの日記(明治時代?)にも、カラスがろうそくを食べた話がある
和ろうそくはハゼノキの実から作る。もとよりハゼノキの実はハシブトガラスの好物。
火のついたロウソクをくちばしで切り取る行動は見事である。この稲荷で使われるロウソクの多くは和ロウソクで,芯もロウソク自体も太い。これを切るのは,大きな裁ちばさみを使っても容易ではない。カラスはそれを瞬時にスパッと切るのである。
石鹸とロウソクは腐らず,長く保存がきくという点でも食物としては特異である。
~樋口広芳「カラスの特異な食習性と地域食文化」『カラスの自然史 系統から遊び行動まで』
この手のロウソク摂食行動は、海外では報告ないんだろうか?

★道路にクルミを置いて車に割らせる行動の発端は、自動車学校だった
目撃例の分布を時系列でたどってみると、すべての線は自動車学校に収束した!的な。
ゆっくり走る車ばかりで、行動形成に好条件だったんだろうね。
┗ カラスはコースを走る車の速度が遅く避難の必要がないことを知っているようだ。
カラス研究室 ハシボソガラスの貝落とし
北海道などの海岸部に棲むハシボソガラスは、巻き貝を舗装道路に落として割り食べます。
●ハシボソガラスの自動車利用のくるみ割り
仙台で観察されるこの行動は、1975年に仙台市内の広瀬川河川敷にある 花壇自動車学校 から始まったことがわかっています。
花壇自動車学校のサイトを見てみたけれど、別にカラスを売りにしているわけじゃないようです。

カラスのクルミ割り - YouTube
┗ 電線に止まりくるっと回ってぶら下がり、そこから車が通るのを見計らって、クルミを落とす。

★日本のハシブトガラスは、世界のカラスの中でも図体が結構デカイ
余談だが、筆者が八重山諸島の調査の際、よく利用する黒島の宿の女将さんは、東京に出るとカラスがあまりにも大きくて恐く感じると筆者に話したことがある。実は、読者の多くにとって最もなじみ深いであろう亜種ハシブトガラスは、海外産も含めた本種の全亜種の中で最大のものなのである。
~山崎剛史「カラスの種分化と地理的変異」『カラスの自然史 系統から遊び行動まで』
へぇ~!

そういえば、『魔女の宅急便』に登場するニシコクマルガラスは、日本のカラスよりひとまわり小さく描かれてたよね。
カラスの仲間各種のボディサイズ比較を図にしたサイトはないか、少しさまよってみたのだけれど拾えなかった。
カラス研究者さん、どっかに作って置いてません?
... 以下つづき...

★暖地系のカラスは大陸の東西で種類が少し違う
寒地系のカラスにはそのような現象は見られない。
どうやら暖地系カラスは氷河期に生息地が分断された、その影響らしい。
┗ 著者の一人、中村純夫氏の休眠サイト
★昔は小笠原にまでもハシブトガラスが分布していたんだけど、現在は絶滅してる
↑
なぜか、は書いてなかった。
で、現在、小笠原諸島には真っ黒カラスは存在しない状態です。
そんな中、珍しくも今年はミヤマガラスの群(主に九州地方に渡来する渡りガラスさん)が、はるばる小笠原に流れ来ていたんだそうな。
写真も載ってますね。
このカラスの写真が違和感満点な光景だというのは、ふだんからカラスの姿を見慣れた土地の人間には、かなりわかりづらいところ。


ほか本書『カラスの自然史 系統から遊び行動まで』には、いろいろな話題が盛り込まれています。
●世界のカラスの種類、カラスの進化
●日本でのミヤマガラスの越冬分布状況
●ハシボソガラスとハシブトガラスの棲み分けない生態
●カラスのバイオロギング
●ナワバリやねぐらの形成
●仲間どうしの地位の上下や鳴き声合図
●カラスによるモノの見分け、人面の見分け
●カラスが見せる遊び行動
●都市と農村で違うカラスの繁殖成功度
●海辺に棲むハシボソガラスの生態
●カラスのうんちの肥料効果
●地域によって異なるカラスの食文化
●人とカラスの文化的共進化
ただし、カラスにまつわる知見全てを網羅しようとする本ではなく、結集した研究者それぞれの持場報告、みたいな感じですね。
一般人が最も知りたいような、例えば「カラス対策はどうすればいいのかノウハウ」みたいな部分は淡いです。一般人の目線を考えて編まれた本じゃない。
そも、表紙からしてパッと見「カラス」を感じさせる気がないデザインだもんね。

【カラスのバイオロギング】
そうそう、きっちりカラスの バイオロギング の話も登場しますよ。

森下英美子・樋口広芳「都市におけるハシブトガラスの局地移動」
●PHSの位置情報探索機能を利用して、都市に生息するカラスの位置を追跡してみました
●元は子供や徘徊老人などの位置確認を目的に開発された電話会社のサービス
┗ カラスの位置情報をインターネット経由でダウンロードして、地図上に記録していく
●GPS利用の携帯電話位置探索機能は、建物の陰など人工衛星で捕捉できない位置が生じる
┗ PHSは、建物の多い環境でも電波を受信することができるので、都市カラスの追跡には最適
●調査を行った1999年当時は、市販の端末が重すぎてカラスに負担がかかっていた
┗ 特別に通話機能をなくした軽量化端末を開発してもらった
●2001年からは、NTTdocomoから位置測定専用端末「p-doco mini」が出たのでこれが大活躍!
┗ でも、PHSのバッテリーは待ち受げ状態でも2週間程度しかもたないんだよね
●2010年現在,位置探索機能サービスはGPSを搭載した携帯電話をはじめとして多くの携帯電話で利用できるようになった。しかし,カラスの追跡に利用できるような軽量端末はほとんどない。
えーと、そのー、なんだ?
つまり、「今どきはGPSを使えば簡単にカラスが広域追跡できそうなもんだが、残念なことにGPSを使える ビックリドッキリメカ は軽量化できないので、都市部だけで追跡できるPHSを使うしかないんだよ」ということ?
PHSにしても、2週間以上は追跡できないとな。
つまり、さらなる新しいメカの登場待ちでペンディング状態?

┗ カラスの飛行を妨げないためには,装置重量を体重の4%以下とする必要があり、28gが上限です
もとより、「真っ黒カラス」は見た目だけでは個体識別が難しいたぐいの動物なので、「個体識別をして行動を追跡観察する」ことが容易になるようなメカが登場してくれるだけで、ぐんと研究可能範囲が広がってくるらしい。
さてさて。
そんなこんなの本書の内容、これだけでも結構じゅうぶん面白いのだけれど、不思議なことに、カラスの知能研究の進展についてはほとんど紹介されていない。(これが一番カラス的にワクテカなテーマだと思うのにね?)
えーと。
もしかして「日本のカラスは バカ なので知能研究のやりがいはあまりない。欧米やニューカレドニアのカラスは賢くてうらやましいなぁ」なんてことになってたりするんだろうか???
NHKオンデマンド 『爆笑問題のニッポンの教養:カラスちゃんのマル秘生活 鳥類学・樋口広芳』
「カラスがすべり台で遊ぶ?」
「蛇口をひねって水を飲む?」
「火のついたロウソクを盗む?」
幼少時から200種類に及ぶ鳥を飼育・観察してきたという東京大学大学院の樋口広芳教授。
「日本のカラスは世界一賢い」と言うがなぜか。
人間とカラスの衝撃的な共通点も明らかに。
あら。
「日本のカラスは世界一賢い」なんて言われているなら、なおさらに、なんで知能研究紹介がしょぼいんだろう。
実際、知能研究は日本では、盛んなの? 盛んじゃないの?
それでは。
以下に海外におけるカラスの知能研究あれこれを並べちゃいますよ。
動物が駆使する「心の理論」
2005/09 New York Times Deceit of the Raven
仲間の裏をかくこともできちゃうカラス
他者の意図を踏まえた上で、その裏をかくという、人間の小児にも難しいとされる思考技を、カラスたちは活用しちゃいますよ。
■ 伝達力
親が子に文化を教える、仲間に敵の種類を教える!
2010/10 BBC News Clever New Caledonian crows go to parents' tool school
2010/10 【日本語記事】スラッシュドット ジャパン
道具使いの名人カラス、親が子ガラスの講師2011/06 【日本語記事】AFP
カラスの賢さ想像以上、覚えた顔を仲間にも伝える力 米研究
先月末にはこんな報も流れていた。
2011/11 EurekAlert "Look at that!" ravens use gestures, too
ボディランゲージを活用するワタリガラス
ワタリガラスは、お互いにくちばしで物を指摘する合図をします。
2011/11 読売新聞 カラス、身ぶりで「会話」する?
物を見せたり差し出したりする身ぶりを通じて、仲間の注意を引きつけている。
くわえたものを上下に動かし、差し出そうともした。
こうした行動を受け、多くの場合で仲間は近寄ったり、一緒に物を扱ったりするなど友好的な反応を示した。
■ 察知力
2010/11 毎日新聞 カラス:顔の輪郭基に、男女を識別
エチオピア人留学生、米科学雑誌に発表 世界初
宇都宮大と東京農工大の連合大学院博士課程のエチオピア人留学生
■ 創造性
「なんだこれ?ツンツン」
2011/01 BBC News Curious crows use tools to explore dangerous objects
ニューカレドニアカラスは、もしかしたら危険かもしれない、なじみのないオブジェクトを調査するために道具を使用する2011/09 BBC News Crows use mirrors to find food
鏡を駆使して餌を見つけるカラス2010/09 【日本語記事】Science
ずる賢いカラスは道具を使って栄養価の高い食を得ている
Tools Give Crafty Crows a Nutritional Advantage
カレドニアガラスが道具を使うことの生態学的意味
野生の羽、血液、推定される食料源などに含まれる安定同位体の特性を解析
2010/09 Science The Ecological Significance of Tool Use in New Caledonian Crows
2010/09 EurekAlert Foraging for fat: Crafty crows use tools to fish for nutritious morsels
油っこい食べ物が大好き!
賢いカラスは高カロリー食品を釣るためにツールを使用します。2009/08 【日本語記事】ワイアードビジョン
カラスの知性:石を入れて水位を上げる動画
ミヤマガラス2007/10 Science 野性のカラスは道具も巧みに使いこなす
Wild Crows are Crafty With Tools Too
ニューカレドニアカラスの尾羽に小型ビデオカメラを取り付けた
カラス版「リアリティTV」
2007/10 news@nature.com Critter cam
Tiny cameras give new meaning to bird's-eye view.
2007/10 BBC News Clever crows are caught on camera
2007/10 National Geographic Tiny "Crow-Cams" Capture Tool Use in Wild Birds
2007/10 Discovery Crows Bend Twigs Into Tools
小枝を曲げて道具をこさえる野生のカラス
2007/10 New Scientist Tool use by shy crows caught on camera一つどころか、二つの道具を駆使するニューカレドニアカラス
2007/08 EurekAlert New caledonian crows find 2 tools better than 1
2007/08 New Scientist Crows wield tools with human-like skill
2007/08 BBC News Cleverest crows opt for two tools2010/04 BBC News Clever crows use three tools
New Caledonian crows can use three tools to attain a treat.
賢いカラスは3個の道具を使います。
ニューカレドニアカラスは御馳走をゲットするために3種類の道具を使いこなしましたよ
2010/04 ABC@オーストラリア Clever crows show innovative behaviour
日本の賢いカラスを研究した報は全然流れてません。
なんで日本のカラスの才能は世界に響いてないんだろう。
日本のカラスは、図体が巨大すぎて研究では扱いづらいのかな?

眠れる巨人ならぬ、眠れる巨大ガラスの才能?
2009/12 BBC News Clever ravens team up to hunt lizards, scientists discover
賢いワタリガラス、仲間と組んでトカゲを狩るがんばり屋さんカラスが身体を壊したら、怠け者だったカラスが助けに行ったんですよ!
2010/06 news@nature.com Lazy crows pitch in when it counts
ハシボソガラスは仲間と協力して子育てする
子育てに協力してくれない怠け者にも寛大だ
だって、いざというときは、怠け者カラスが一念発起して助けに来てくれるから
記事倉庫 から日本からのカラス研究報を探してみると、フィールド研究ではない脳科学からこんな報が出ていた。
2007/05 【日本語記事】読売新聞 カラスの知的行動、脳地図で証明
伊沢栄一・慶応大准教授
2007/05 【日本語記事】毎日新聞
カラス:やっぱり賢かった 知的活動部分が発達 慶大グループ、「脳地図」作製
「巣外套(そうがいとう)」「高外套」
これにしても、海外では全然見えてない情報だ。ごくごく日本ローカル状態なのかな。
人間はカラスを知らなさすぎるのかもしれない。
誰にもわかっていないことならまだしも、すでに明らかになっているカラスの性質さえも、ネットを見るかぎり市井では全然把握されてない気配が濃厚で。
「石けんを食べても美味しくないでしょうに」
「どうしてカラスはロウソクにいたずらをするのか」
「すべり台で遊ぶカラスを見たんだけど、誰も信じてくれない!」
まあ、カラスのみならず、野生動物はスズメの生態さえ充分に把握されてないような生物学の世界ではあるんだけれど。
でも、身近な野生生物に関する市井の知識は「そのくらい知っててもいいじゃん」レベル以下になってないか。

こないだねぇ。
道を歩いていたら、どこかのおばさんが、「ハトがいて怖いから一緒に歩いてもらえませんか!?」と泣きついてきたんですよね。
見たら、進行方向の歩道にいるのは、ハトじゃなくてカラス
。しゃーないから、まあ、カラスのそばを通り過ぎるまで、歩道を付き合ってあげたけど(自分もその近辺のカラスに襲われたことがあるので危険かもしれないことはわかるけど)、はっきり言ってそのおばさんの言動のほうが怖かったぞ。

おまけ:
┗ 札幌の中村眞樹子さんのサイト: 美麗なカラス写真満載で眼福

【その後の記事 追記】2011/12 日本経済新聞 カラスの記憶は人間以上か 「1年後も色忘れず」
宇都宮大と中部電の共同実験
少なくとも1年間は色を記憶できる
記憶の一側面では、人間より優れている可能性がある
2011/12 【日本語記事】AFP カラスは色を1年間記憶できる、宇都宮大研究
2012/02 BBC News Tiny songbird northern wheatear traverses the world
カラスにも使えるサイズのバイオロギング・メカだ。
ムクドリくらいの鳥に装着、渡り30,000km、衛星追跡可能


![[科学に佇む心と身体]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)


次の記事 
動物が駆使する「心の理論」
2010/10 BBC News
2011/11 EurekAlert
「なんだこれ?ツンツン」
2009/12 BBC News
がんばり屋さんカラスが身体を壊したら、怠け者だったカラスが助けに行ったんですよ!
RSSで次回の記事もお楽しみに







科学に佇む3000冊


