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まだまだ続くフローレス人論争(フロレス原人)

カテゴリ[科学に佇む2005年] 2005/12/12
挿画

 「ホビット」は実在したのか。
 インドネシアで発見された謎のミニ人類は、新種の人類なのか、ただのサルか、ビョーキの人々にすぎなかったのか論争。

 半年ほど前に地上波で番組も流れました。
ネットNHK教育: 地球ドラマチック 古代人類ミステリー
『第2回 インドネシア 謎の小型原人』 2005年6月29日放送
  原題:Neanderthal/Tiny Humans: Hobbits in Flores
  制作:BBC(イギリス・2005年)/National Geographic(アメリカ・2005年)

タイトルが違うので内容が同じかどうかは不如意ですが、同じNational Geographicからフローレス人番組のDVDが出ています。(おそらく英語字幕つき)

Nat'l Geo:
Search for the Ultimate Survivor

リージョン 1
(米国、カナダ向け)
Amazon ネット Japan, UK, US

Search for the Ultimate Survivor:
Mystery of Us

DVD (2005/04/12)
リージョン 1
(米国、カナダ向け)

Amazon ネット Japan, UK, US

ネット 「究極の人類:進化のミステリー」 @ナショナルジオグラフィックチャンネル

虹帯〓〓〓〓〓〓〓〓

 「実在ホビット!?」騒ぎは、2004年10月の「異様な人骨」論文から始まる。

 人骨自体は2003年9月にすでに見つかっていた。

 所はインドネシア東部のネット フローレス島(フロレス島 Flores)西部。
 オーストラリアとインドネシアの研究者チームが、4年間におよぶリアンブア洞窟(Liang Bua cave:冷たい洞窟)の発掘調査で、深さ5.9mの地点から、奇妙な骨を含む遺物を発見。
 たっぷり水を含んだ地層の中、それはまだ化石化しきっておらず、まるで湿った吸い取り紙なみにぐずぐずなもろい状態で。
 地層を水切りし、三日間乾燥させてから慎重に取り出したソレは…

 3歳の幼い女の子のものかとみまごう、ヒトらしき小さな小さな頭蓋骨。
 しかし、子どもサイズであるにもかかわらず、奥歯におやしらずがあるなど、どうも大人っぽい気配。
 頭頂の泉門も、成長した個体のように閉じている。
 つまり、この小さな小さなヒトは、成人?

 この不思議な生き物は「Homo floresiensis」という学名を与えられ、2004年10月の論文で世間におおやけにされる。
  ・ホモ・フロレシエンシス
  ・ホモ・フローレシエンシス
  ・フロレス原人
  ・通称「フロー」

●所見

 論文の元になったのは、女性と思われる全身骨格一体とその他の個体の骨の断片、総計7体ぶん。
 ほぼ完ぺきな頭蓋骨や脚の骨などを含むほか、獲物だったらしい古代象の骨(ステゴドン Stegodon)や、石器、火の使用跡なども一緒に発見された。

 この推測身長わずか1mのメス個体をさらによく調べてみると、
  ・頭蓋骨と歯から、30歳前後の成人女性と判明
  ・鼻丘が高い
  ・額が小さすぎる
  ・小さな前歯
  ・大腿骨は直立歩行を示唆する形
いまだ誰も想像したことのない不思議な人類の姿が現れてきた。

...以下つづき(長編です)...

〓〓〓 EP 〓〓〓

画
 ナショナルジオグラフィックで復顔させてます。
 制作者はデンバー自然科学博物館のジョン・ガーチー(科学者・造形作家 John Gurche )。

 フローレス人関連の画像・写真集
 2004/10ネット National Geographic News Photo Gallery: Flores Hobbit-Like Human Picture Gallery

 ジャワ原人の頭骨に似てはいるが、これ大きさが全然違う、小さい。
 ていうか、「人類史上」最も小さい頭骨。 しかも年代が超新しい。
 予想外だらけの発掘成果に、フローレス人は世界中のメディアに取り上げられ、世界中の学者が「それマジ!?」と頭をひねりまくった。

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 はい、この時点で発見されていた全身骨格はメスのみです。
 だのに、なんでかこのメスを元に勝手に「フローレス人のオス」を描く例があとをたたず。
 元凶は National Geographic

2004/10 National Geographic 'Hobbit' Discovered: Tiny Human Ancestor Found in Asia
 身長はともかく、このNational Geographic作成の想像図(2004年10月に描かれたオス)を受け売りした記事がのちのちまで大量に出回ることになる。
メディア・リテラシー@フローレス人
NOVA | scienceNOW | Little People of Flores | PBS
 ・2005/04放送の番組が視聴できる
 ・ジャレド・ダイアモンド インタビュー
 ・脳比較コーナー:ヒト、フローレス、チンパンジーの脳をグリグリ動かして
それに対するツッコミ
2005/09 John Hawks Anthropology Weblog Flores interviews on NOVA scienceNOW
 ・なぜここにジャレド・ダイアモンドなのか
  なぜにダイアモンドはこう安直な断言を語れるのか
 ・メスのサイズでオスを描くとは何事か
 ・ファンタジーだかオリエンタリズムだかがベタベタだし
 ・病理学的所見はどうなった


 これも。
ネット フローレス原人・川崎悟司イラスト集
 「オス」がメスの身長で描かれております。
 画像の作成日付はメスの資料しかない頃の2004年10月末。

左サムネイル
 正しさ無関係に「オスをデフォルト」にしてしまいがちという、科学でよく観察される偏見例については
 本ミニロンダ・シービンガー著
 「女性を弄ぶ博物学 - リンネはなぜ乳房にこだわったのか?」
 工作舎 1996年
が、いろいろと面白うございます。


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 しかし、National Geographicの復元はどうもハッタリ演出が強くてかないませんけれど。
 それに比して、ずっと素朴に「メス」を復元してみた姿はこちら。
フローレス人の復元模型(サザンクロス大@オーストラリアのCarol Lentfer)
2004/12 Australian Broadcasting Corporation Hobbit wielded big tools, clay model shows

 「しおらしい」ポーズをとらせてしまっているのは、これまた
  正しさ無関係に「メスをたおやか」にしてしまいがち
な間違いがほのみえていたりする?(制作者 Lentfer は女性)

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●ホビット

 当時「指輪物語」の映画版が流行っていた関係もあり、発見者チームがフローレス人を「ホビット」呼ばわりしてしまい、それが愛称として世界的に普及してしまうのだけれども、ホビット自体は作者トールキンの創作、ごくごく歴史の浅いシロモノなので、「伝説のホビットが実在した」みたいな話の持って行き方をするとヘンテコなことになる。
フローレス人をホビット呼ばわりするのはやめなさい 〜ドーキンス
 空想の産物と混同されては真実の妙味がだいなしになる
 現代人のEQ (encephalization quotient: 脳化指数)は6
 ホモ・エレクトゥスは4、オーストラロピテクスと現代チンパンジーとフローレス人は2.5〜3
2004/11 Los Angeles Times Just Don't Call Them Hobbits

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●併存していた異人類

右画
 世界中の学者が何に驚いたって、まずこの骨がやたら新しかったこと。
 新しいと言っても、10万年前〜1万2000年前の話だから、今から見れば大昔。
 でも、人類の歴史700万年からすれば、ほとんど現代と紙一重の新しさ。
   沖縄の港川人=1万8000年前
     縄文時代=1万2000年前〜
 フローレス島の近辺にしても、現代人はオーストラリアには少なくとも5万年前から、メラネシアには3万年前からすでに棲んでいたのだし。
 つまりその現生人類のすぐわきで、現生人類以外の、人類が暮らしていたのだと。
 そのころは人類は我々一種しかいなかったのだと思われていたのに。
 ヨーロッパのネアンデルタールやアジアのホモ・エレクトゥスが絶滅した2万5000年前以降、地球上でここしばらく人類やってたのは現生人類だけじゃあなかったのか!

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アンカー 【島嶼化(とうしょか)】
 ●insular dwarfism, insular giantism, island dwarfism

 しかし謎なのはこの姿の小ささ。
 大人で身長1m。推定体重35kg。

 なんでこんなに小さいのか。
 発掘チームはそのわけを「島嶼化」という現象のせいなのだと打ち出してくる。

 「島嶼化」。すなわち「島の生物っぽくなる」。
 ”島”という限られた生息域にある生物は、限られた資源・限られた捕食者、という特殊なバランスの中で、長い時間・世代を経るうちに
  ・小型の動物は大型化
  ・大型の動物は小型化
していく傾向がみられる。
 島に棲むゾウが小さかったり、トカゲがでかかったりするのはこの現象のせいだと。
 日本の動物種が大陸のものに比べて小さめなのも、たぶんに島嶼化現象が働いているからなのだとみなされている。屋久島のサルやシカは本州のよりかなり小ぶりだし。

 で、その島嶼化現象が人類にもありえるのだとして、フローレス人は小さく進化した島人類だよと喧伝された。
 大昔のフローレス島では、ゾウ(ステゴドン:普通は2m以上)が体高わずか1m20cmだったり、体長6mの巨大トカゲ・メガラニアがのしていたりしたことも、傍証として取り上げられた。

 しかし、この発表にはみなさんびっくりです。
 人類には知恵もあれば工夫もできる。
 その知恵と工夫をもってすれば、そんな体躯サイズがめっちゃ変化するような、どはずれた島嶼化など喰らうはずもないと思われてきたから。
 環境に適応した変化は、人類以外の動物でしか起こらないと考えられてきたから。
 でも、じゃあ、このフロレス原人は、人類にも島嶼化が起きるのだという実例なわけ??

 イカダを作って海を渡ってくることができるほどの知能を持った原人ホモ・エレクトゥスが、島で孤立した生活を続けるうちに、体躯の小さい家系だけが生き延びやすくここまで小さくなってしまったと? (海を渡ってきたのに孤立…?)

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 島嶼化に対する反論は、「人類にも島嶼化はありえるんです」派よりメディア的にウケが悪いのか、あまり報道してもらえてない。
 フローレス人の脳-体比率は「島嶼化では説明できない」ぞ、どうにも納得がいかないぞ、という科学者は少なくない。
 哺乳類の体躯が小型化することは珍しくないが、脳サイズと体躯サイズを司る遺伝子が異なることもあり、脳は体躯と同じ割合で縮小されはしない。
 体躯がいかに大きくなろうと小型化しようと、脳容量はせいぜい2割程度の増減しかしない。
 ヒトの体躯が2分の1に小型化するとすれば、理論的には脳サイズは「半分」ではなく「1割減」どまりであって、ピグミーにしろほかの小柄な民族にしろ、その想定の範囲内におさまっている。
 フロレス原人がホモ・エレクトゥスやジャワ原人の系統なのだとするには、比率から考えて脳サイズが600〜800ccは欲しいところなのに、フローレスのLB1(リアンブア洞窟の1号)の380ccというのはいくらなんでもけたはずれに小さすぎる。
 新世界ザルの脳-体比率からしても、フローレス人は正常な小型化例だとは思えない。
2004/10 John Hawks Anthropology Weblog : Liang Bua :: an australopithecine from Flores?

 原人の脳が島嶼化で380ccになるなら、理論的には体躯が3%にまで減っていなければならない。
 島嶼化する前の体重が60kgなら、3%はすなわちわずか2kg。
 つまり、島嶼化でグレープフルーツサイズの脳を持つようになった人類は、理論上は体のサイズがネコ程度まで小さくなってなきゃあ まるでグレイですなぁ
2005/03 Guardian Ahead of ourselves
2005/09 BBC News New 'Hobbit' disease link claim

 著名な人類学ブロガーのジョン・ホークス氏は、脳サイズ比率がどうにも理屈に合わないことに疑問を抱き、「フローレス人が病理学的な例外である可能性の検証」がじゅうぶんになされないまま新種説が走っていることに対して、たびたび憤慨を綴っている。
LB1のケースに近いと思われる病的な矮小発育症例はあるのだから
 ・原発性常染色体劣性小頭症  primary autosomal recessive microcephaly
 ・ゼッケル症候群/セッケル症候群 Seckel syndrome(小人症・小頭症・発達遅滞・とがった鼻)
LB1を障害例だと言い切るつもりはないが、可能性は捨てきれないぞ。
2004/11 John Hawks Anthropology Weblog : Is Liang Bua pathological :: update

大きさにしろ、島嶼化とさえ言えないのではないか。
 フローレスは顕著な島嶼化が生じる島よりずっと広いし。
2005/06  John Hawks Anthropology Weblog : Questioning the Flores dwarf Stegodon remains


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●反論各説

 化石を分析したオーストラリア・ニューイングランド大学のチームとしては、これは断固として新種でありフローレス人であり、愛すべきホビットなのであり。

 ところが、ご当地インドネシアの長老 テウク・ヤコブ先生(Teuku Jacob: 75才)@ガジャ・マダ大学(かねてより出稼ぎ豪州人がよほどうざっぽかったのか)、オーストラリアチームとは大きく異なる見解を打ち出してくる。
オーストラリアの連中は自分の国ではアボリジニとの対立で考古学調査ができないので、うちのようなヨソの国にまでデバって来るんだ 〜テウク・ヤコブ
 連中の計測は脳のサイズも身長も小さく見積もりすぎている
2004/12  Conflict from Flores: Storm in a Teacup

フローレス人は新種じゃなくてただの亜種だろう 〜テウク・ヤコブ
2004/11 AFP Indonesian scientist says Flores hominid not new species

 加えて、11年間のリアンブア洞窟調査でホビット発見にいたらずじまいだったインドネシアの研究者Radien Soejonoが、彼の友人であるテウク・ヤコブ老の元にフローレス人骨を送ってしまってから、骨を返せ・返さないと押し問答に。(インドネシア側に仁義を切らずにオーストラリアチームが発表してしまったなど、前々から確執はいろいろあったらしい)
若い連中の見識はけしからん! 〜テウク・ヤコブ
 今金庫にあるフローレス人の骨は私が奪ったわけではない、送られたんだ、しかも送料まで払ってくれたぞ
フローレス島にもジャワにも小柄な一族はいるし、オーストラリアの連中は地元を見ていない
 フローレス人はホモ・サピエンスの小頭症かピグミーバージョンにすぎぬもの
 エブゴゴ伝説にしろ、地元の人間は聞いたことがないと言うし
2005/01 Guardian Bones of contention

インドネシアの一匹狼科学者が期限を過ぎても骨を返してくれない!
2005/02 The New Zealand Herald 'Hobbit' remains kept out of reach

4月1日までフローレス人の骨はヤコブ先生のとこに軟禁状態だ
2005/01 Discover Little Lady, Big Controversy

 唯一、この段階で発掘チーム以外に当該人骨を調べることができた人物がヤコブ先生と。
 一人突っ走っている感もなきにしもあらず、あれはメスではなくオスの骨ではないか、とまで先生言ってしまうし。
 で、ようやくのこと、ヤコブ先生の元からフローレス人の骨は解放されるんだけども、今度は「返還された人骨が傷だらけじゃないか!」とまたひともんちゃく。
ええかげんにせんかい こりゃオモチャでも見せ物でもないってば
 拉致中に、骨が勝手にテレビ取材の対象になるわ、ドイツチームがDNA検査用に2g刮いで持っていってしまうわ
2005/02 Sydney Morning Herald Tele-hobbits start small war

こんなに使用前・使用後が違ってしまっております
2005/03  John Hawks Anthropology Weblog : Have the hobbits been protsched?

 微妙に ケネウィックマン論争 を彷彿とさせるような、えらく気まずい展開で。

▲アンカー オーストラリアチームらは、手元に戻ったフローレス人骨を元に頭蓋の3Dデータをこしらえ、「障害ではなくちゃんとした新種なのだ」とさっそく反撃する。
2005/03@サイエンス:脳の全体的な形状は原人に近いが、独創的な活動などに必要な部分はとびぬけて発達し突出している 脳はただ大きければいいってもんじゃないらしいことがわかったよ
2005/03 EurekAlert 'Hobbit' fossil likely represents new branch on human family tree

 この3月の論文は思いきり National Geographic の企画(誌面、番組放映、DVD販売)に乗っかって流されたような気がする…。
 かなり National Geographic から金・研究資金が出てる?
時の流れに埋もれていたフローレス人
2005/04ネット National Geographic 2005/04号
小さな原人 インドネシアのフロレス原人
ネット ナショナル ジオグラフィック 日本版
 かつて、National Geographicが「スゴイ発見」をドラマティックに報道してくれたために、研究活動が世間の好奇心に翻弄されてわやになった経緯があったりするんだが。 → 『ミイラとゾンビと吸血鬼』

 で、ヤコブ老のちょいイキスギな言動が目立ってしまったせいか、その後、「別種じゃない」説は「くだらぬいいがかり」呼ばわりされるなどして却下され続けてしまうが、どうにも「別種と決めつけるにはいささかどうかねぇ」みたいな半端さは、ぬぐえない。
適応性の高い人類では、こんな島嶼化はありえない
2005/05 The Loom Hobbits Alive?
 リアンブア洞窟の近所にも、えらい小柄な一族が今も普通に住んでいるわけで、オーストラリア人はそこんとこわかってないんじゃないかというボヤキも再々。
この島の近辺では身長1mちょいの小柄な人々はザラなんだよ
2005/05 Times Bones of Contention
 地元の小柄な血脈に小頭症のような障害が生じた、その遺骸、そう考えたほうがスジが通るぞと。

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 2005年の10月になって、さらなるフローレス人骨が報告され「新種だ」派は勢いづく。
 追加分はLB1の残りの部分も含み、つごう9体ぶんに。
2005/10 BBC News More Flores 'Hobbits' described

Liang Bua洞窟からのさらなるフローレス人骨9体ぶん Mike Morwood
 うち身長を推測できた5体はみな身長1m未満 95,000〜12,000年前
 「9体もあるから障害例ではなかろう」 Daniel Lieberman
 人類と同時期にアフリカを出た一族の末裔?
 チンパンジーサイズの脳、石器と火を駆使し
2005/12 National Geographic New "Hobbit" Human Bones Add to Evidence, Oddity
 しかし何かあるたんびに「ホビットの帰還」(指輪物語の章名)と見出しに銘打つ記事が流れるのは…。ase2

 たといフローレス人が新種であったとしても、やはり脳比率のおかしさから、”新種の障害例”である可能性は残るままだったりする。
DNA解析に挑戦したRobert Eckhardt 的には、フローレス人は新種じゃない
2005/12 Dienekes' Anthropology Blog:Is that a Jethro Tull song?

 しまいには「それって、もともと2足歩行なんかしてなかったんじゃない?」とドイツからあらぬ横槍まで。komatta
フローレスのホビットは4足歩行のサルでしょ説
2005/10 Hobbit As Monkey?. The Loom


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 まあね、地元のインドネシア的には、もしかしたら新種人類説は迷惑なのかも。
 小柄な人間が住まう地域に小柄な新種の人類がいたという話になると、下手すると「今のインドネシアには現代人類ではない人類の血を引く異様な人間が住んでいる」という流れになりかねなく、そんなことになったらあんた、人種差別がよけい頭痛くなって… という、巷的に非常に迷惑な学説なのかもしれず。

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●知能と行動

  ・彼らは集団生活をしていた
  ・彼らは石器を作っていた
  ・石器を用いて狩りをしていた
  ・火も使いこなしていた
 発掘跡から、発掘チームは上のように結論する。
 脳容量はホモ・エレクトスの半分以下しかないのに、なんでこんな立派な暮らしをすることができていたのか。

 フローレス人の脳の体積は380cc。(2004/10当時の発表)
 (グレープフルーツサイズ:小柄なアウストラロピテクス並)
 チンパンジーの平均的な脳は383ccだそうで。ほぼそれくらい。

 この比率では、現代人で言えば「小頭症」というビョーキ例になってしまう。

 2005/03発表の3Dモデルを用いた計測では、頭蓋容量が417ccと出たので、これ以降は「380cc〜417cc」みたいな表現を見ることになるけれど、それはそれとして。
 National Geographicの番組にも登場する3Dモデルを用いた計測、これは実物があまりにもろくてバーチャルモデルで測るしかなかったからなんだけれども、フロレス原人の頭骨をCTスキャンしてこしらえたもの。
 古今の人類データと比較してみると、フロレス原人の頭蓋内は北京原人によく似てはおれど、現代人の「小頭症」例とはかけはなれていた。
 加えて、知力をつかさどる側頭葉や前頭葉前部が異様に発達、原人よりはるかに頭が切れそうな面白い特徴も示す。
 えーと、この計測をやったディーン・フォーク博士@脳進化学者を「彼」呼ばわりしている日本語サイトがいくつかあったけれども、 Dean Falkさんは女性です。失礼のなきよう、そこんとこよろしく。

 で、要するに、この小さな脳は、ビョーキではなく、生活上で優れた技術を発揮できるほど複雑で高度な性能を備えた特別仕様になっているという結論に。

 まあ、それでも反対派は「頭蓋内の形だけで脳の機能まで判断しきるというのは早計すぎるだろう」と取り合わなかったりしているけれど。
 もとより、脳の巨大化=知能の発達、とみなしてきた従来の脳進化観も、高性能コンパクト脳説は逆撫でしてくれているわけで、「すごい発見」なのか「すごい勘違い」なのか、まだまだ予断を許さないというか、検証の余地アリアリ。
フローレス人が用いたという石器は
  ・フローレス人は現代人の障害例
  ・現代人が使った石器がたまたまいっしょに発掘された
と考えるほうが無理がない
2005/01 John Hawks Anthropology Weblog : The Flores find :: more thoughts on Liang Bua


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●ルート

右画
 フロレス島は、 ウォーレス線(動物分布の境界線)の東。
 大陸と地続きにはなったことがない島々。
 フロレス原人は陸路ではなく、海を渡ってフロレス島にたどりついたと考えられている。

 フロレス原人にはイカダを作る程度の知能はあったと考えて、コンチキ号よろしく実証実験に挑戦したのは考古学者のロバート・ベトナリック。
 竹とツル植物と石器で手作りイカダをこしらえ、漕ぎ手10人で出発。
 フロレス島は昔コモド島と地続きだった時期もあり、直線にして22km。
 強い海流もこさねばならず、計算上は9時間かければたどりつけると見積もった。
 協力しあって漕いだのであろうし、「海を渡れる」には
  ・知能が高く、言葉を持ち
  ・集団生活を営む
生物であることが期待されるとした。

●ルーツ

 フロレス人は新種なのか、障害者なのか。それとも「新種の中の障害者」なのか。
 ホモ・エレクトスの末裔なのか、それとももっと遡るホモ・ハビリスの系統に属するものなのか。
 いまだ諸説紛々で、なににせよ、これまでのサンプルではDNA解析は成功していないのがかなり痛い。

虹帯〓〓〓〓〓〓〓〓

●終焉

 発掘されたフローレス人骨の中で最も新しいものは12,000年前のものだとされている。
 とっくに滅んだ種族?
 フローレス人は完全に滅んだのか。
 なぜ滅んだのか。

 フローレス島には、かつて小さな人が棲んでいたというエブ・ゴゴ伝説「Ebu Gogo」が伝わっている。
 このエブ・ゴゴたちは、300年ほど前に人間によって火山洞窟に追い込まれた末に絶滅したのだと伝えられる。
 フローレス人はステゴドンなどといっしょに12000年前の噴火に巻き込まれて絶滅したのだろうと見られているので、この伝説の符合に感じ入って報道している例もあったけれど、これ肝心のリアンブア洞窟近辺に伝わっている伝説ではないわけで。
 リアンブア洞窟から100kmも離れた土地の伝説をひっぱってきてもてはやしてしまっている。
 もとより「小さな人伝説」のバリエーションは世界中に種々分布しているわけで(ヒト脳は人型のミニチュアの幻覚を見やすくできている)、この手の符合を安易に過剰評価してしまっても…。

虹帯〓〓〓〓〓〓〓〓

 どっちにしろ、現状では新種だと言い切ってふんぞりかえる気にもなれないし、島嶼化スゴイ、新型脳スゴイぞとあっさり真に受けておどる気にもなれない。
 説としては魅力的だけれど、今後の調査しだいでひっくりかえる余地がありすぎる。
 ていうか、わずかなてがかりからいきなり「おおー!そりゃ大発見だ!」とみなが一様に大胆な見解の方向に雪崩れてしまうほうが恐いっしょや。
フローレス調査拡充へ
 40km離れたMata Mengeでは大量の石器が見つかっているよ
 これもフローレス人の石器だと思うよ …85万年前!?
2005/10 BBC News Team widens search for 'Hobbits'

Mata Mengeの石器が見つかったというのはずいぶん前の話ですね。
1994年に発見されたMata Mengeの石器(1998/03にオーストラリアチームが出した報告)
 ネット Nature
進化:インドネシア東部フロレス島の石器と化石の核分裂追跡年代測定
Fission-track ages of stone tools and fossils on the east Indonesian island of Flores 173
M. J. MORWOOD, P. B. O'SULLIVAN, F. AZIZ & A. RAZA
 ネット Nature


リアンブア洞窟やMata Mengeの写真
 ネット Chris Turney Research : University of Wollongong, Earth and Environmental Sciences
 ネット Chris Turneyの画像庫

 いまだオーストラリアチームばかりが出張っているのも、これどうにかなんないもんでしょうか。whoa



 これまでの記事はここに集積してあります。
 → 『Homo floresiensis:謎のミニ人類、通称「ホビット」 フローレス人について教えて』

 さて、以上は2005年まで。
 2006年以降の賛否両論切ったはった(2007/02「ホビット」を追って - CNET Japan ディーン・フォーク インタビュー ほか)は、続きのエントリ
    → 『再炎上:まだまだフロレス原人は新種じゃない』
に並べています。
 「新種じゃない」派が盛り返したり、「新種だ」派がリベンジしたり、延々バトルは続くのです。



その後出た本:●● 『新刊:「ホモ・フロレシエンシス」』

◆ホモ・フロレシエンシス◆ホモ・フロレシエンシス
 『ホモ・フロレシエンシス 上 1万2000年前に消えた人類』 NHKブックス マイク・モーウッド, ペニー・ヴァン・オオステルチィ (著) 日本放送出版協会 (2008/05)  [ Amazon ] [bk1]
 『ホモ・フロレシエンシス 下 1万2000年前に消えた人類』 NHKブックス マイク・モーウッド, ペニー・ヴァン・オオステルチィ (著) 日本放送出版協会 (2008/05)  [ Amazon ] [bk1]

メタル
[カテゴリ 科学に佇む2005年] : 2005年12月12日 
* * *

→ 上掲のお話についてのコメント

0852 #- コメントアンカー イフワン さんのコメント 【2006/02/28】

28Feb朝日朝刊にリアンブア洞窟レポートがありました。
あの地域には異常とも思える短躯な人がいるので、ロマン
はあるけど?だと思っていました。
しかし体験的にはまだまだ未知なるモノが眠っている国で
今後のニュースをワッチしています。

0936 #kzzwtH4A コメントアンカー 雨崎良未 さんのコメント 【2006/02/28】

 ジャワ原人や漫学インドネシア、面白そうですね。
 フローレス人騒動でかいま見えた「オーストラリアとインドネシアの間の確執」みたいなことについて、寡聞にして詳しいことは存じないのですが、考古学会以外でも両国間にはなにか齟齬や軋轢などあったりするんでしょうか。
 「未知」イメージをいいことに他国人から好き勝手言われるような部分もなんぼかあるのかな。

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