この本読んでて、思わず感動して涙ぐんでしまったよ。素晴らしい!

『研究する水族館 水槽展示だけではない知的な世界』
猿渡 敏郎、西 源二郎編著
東海大学出版局 (2009/03)
[ Amazon ] [bk1]
先日、NHK『クローズアップ現代』が、希望学を取り上げた。
9月14日(月)放送 “希望”を科学する
●収入によって希望の度合いにまず格差がある。孤独度にも相関する。
しかしその上で、地域差も顕著 に見られる=豊かでも希望を持てないケースがある
●未知の変革の期待=希望。
硬直化した物語(見通し)にも、全く見通せない物語にも、希望は見いだせない。
希望を持つには、希望を生むよう な適切な物語/ナラティブが必要。
●希望が持てる地域にするには、ローカルアイデンティティの再構築を行う必要がある。
その地域の強みを再発見して活用する:例・釜石市
●希望をもたらしてくれる人脈=「weak ties ウィーク・タイズ」
自分とは異なる種類の人とのゆるーいつながりが「新しい風」をもたらしてくれる
・・・ となると、twitterあたりは希望の窓的な?
●挫折や失敗を乗り越えた先に、たしかな希望がある。
「三人わかってくれる人がいれば、大丈夫だから」
〜番組視聴時の自分のtwitより
そのまさに、 weak ties ウィーク・タイズ の素晴らしさが、この本には溢れているんだ。希望だらけ、暖かさ満載!
研究者や水族館員たちの新しい組み合わせ、新しい気づきで、どんどんいろんな可能性が広がっていく。「ご縁」で拓ける希望的展開が素晴らしい!


■人間関係の可能性
寄生虫研究の分野でも感じたけれど、
┗ 訃報がやたら登場する本になったのは、研究者たちのネットワークとコラボが濃いからだった

この手の地道な生物・生態研究の分野は、人間関係が素晴らしい!
世の中には
「科学研究=競争でギスギス」
「科学者=無神経なKY」
と思い込んでいる人がいたりするけれど、その手の印象は、ごく一部の分野のせいだったりするんだよね。
全然そんなじゃない、人情HOTな科学研究の分野も、世の中にはしっかりくっきり存在する。けど、ギスギス派の自己顕示欲(めだちたがり)に気圧されて、ちょっと影薄いんだよね。
ギスギスになりやすい分野は、大金がからんでいることが少なくない。自分が先に見つければ!あいつに出し抜かれたら水の泡! 分野が抱える大金や名誉が、その分野に集まる人の種類(性格や行動パターン)に偏りを作っていたりする。
逆に言えば、わりと資金が乏しかったりする分野では、協力とおかげさまと「ありがとう!」がたくさんある。名誉(自分の地位)や金をさしおいても、探求心に突き動かされて研究をする人々が、”質素”な分野には多くなる。
そしてこの『研究する水族館』も、華々しい分野ではないけれど、本書のそこここに謝辞がふんだんに登場するし、「協力して研究しよう」といざなう明るい未来像がたくさん描かれている。
興味尽きない面白い研究対象がごまんとある。しかも研究者の協力が多いほど、新しい展開が見込める(ライバルとか対立とかしないんだよ)。
これこそ、まさに科学の「希望学」実践ではないか!


■コラボして初めてわかることがある

水族館の「飼育技術者」さんと、科学の研究者さんとでは、かなり立場が違う。
飼育技術者さんは、正体がわからなくてもとにかく何とかして「生かす!」「繁殖させる!」それが大切であって、経験と勘の職人世界。
そこに研究者さんが、水族館を訪れるとこんなことになる。
「
ちょ、今産卵したんじゃない!?」「
ナニコレ!こんな泳ぎ方するんだ!」「
ありえない魚がいるんですけど!どこで獲ってきたの!?」「
この稚魚!まだ誰も育てた記録がないのに育ってるんですか!」大騒ぎする研究者の横で「へ?これのなにがすごいの?」とただ面食らう水族館の人たち。(p31-32)
... 以下つづき...

p32
あまりにも日常的になっているので,飼育水族の行動,繁殖に関する新知見を気づかずに見落としてしまっている。贅沢きわまりない話である。
学術的に興味深く価値のある研究テーマ,学会発表,論文,あるいは学位論文のテーマになるような研究の原石が水族館にはゴロゴロと転がっている。それも大学,水研,水試にはできないような研究テーマばかりである。
p115
全国の水族館で飼育展示されている生物の中には,担当者が未記載種と気づかずに飼育している生物の種数が,おそらく二桁にのぼるであろう.
新種だとは気づかれないまま水族館で飼われている生物が、ものっそいたくさんいそうだぞ!と。

まあ、海から獲ってきてドザーッと水槽に入れたりしてるもんね。何が混じってくるかわからない。
もしかしたら、水槽をよーく観察していると、素人さんでも「新種発見!」しちゃえる可能性があるわけだ!
そんなこんなの、「大学と水族館がコラボしたらすごいことができるぞ!」と研究者さんから水族館に宛てたラブコールが本書にはいろいろ載っていたりする。


■ノトセニアの巨大卵にびっくり!

たとえば、こんなすごいコラボの成果が紹介されていたり。
南極海特有の魚で、ノトセニアという種類の魚が何種類か存在する。
ノトセニアたちは、普通は1mmくらいの小さな卵をバラバラと産むのだけれど、そのうち「ダルマノト」という種類だけが、直径4mm以上のでっかい卵を産む。これはなぜか。何の効果があって、そんなにでかいのか。
南極海では、産み落とされる卵は、ナンキョクオキアミ(エビみたいな大型プランクトン)に次々と食われて死んでしまう。「ダルマノト」の巨大卵はそのナンキョクオキアミに対して何か効果があるのではないかと研究者は考えた。
さて。なんと、ナンキョクオキアミの繁殖(累代飼育)に世界で初めて成功したのは、日本の名古屋港水族館なんだそうな(南極からはるばる運んできたのか!!)。
研究者さんは名古屋港水族館にコラボを申し込んだ。名古屋港水族館には、ナンキョクオキアミだけでなく、南極のノトセニアたちも飼育されている! 研究者さんは、水族館にお願いして、ナンキョクオキアミの水槽に、ダルマノトや他のノトセニアの卵を落としてみて、ナンキョクオキアミがどのくらい食いつくか比較したんだ。
すると。
p21(ダルマノトの卵を落とすと)
ナンキョクオキアミは積極的に卵を抱きかかえ,何とか捕食しようとする。しかし,何としたことか,ナンキヨクオキアミの大顎は卵膜上を滑ってしまい,卵膜を食い破ることができず,結局胚を捕食することができない。何とも滑稽な状況が水槽内で繰り広げられたそうである。
ほかの小さなノトセニアの卵はワシワシ食われてしまったのに、ダルマノトの巨大卵には噛みつけず、結果、かなりの数が生き残ったのだそうな!
p22
「大都会のど真ん中」にある水族館で、「南極海」に生息する「複数の生物」を使った捕食・被食実験を行い、「卵の被食適応機構」を解明した名古屋港水族館ならではの、世界中どこを探しても他ではマネのできないユニークで、オリジナリティーに富み、とにかくおもしろい研究である。
おおっ! やったね!

この研究についての報告が載っている本
『魚類環境生態学入門 渓流から深海まで、魚と棲みかのインターアクション』
東海大学自然科学叢書
猿渡 敏郎 (編)
東海大学出版会 (2006/05)



■コラボのすごさ!
ほかにも、立場の違う人たちがタッグを組めば、こんなに面白い成果が出せるんだよ!といろいろな事例が紹介されている。
加茂水族館と山形大学理学部の
大洗水族館などと東京大学海洋研究所との濾過バクテリアに関する研究.
新江ノ島水族館と海洋研究開発機構が連携した深海生物展示と研究.
かごしま水族館と鹿児島大学のエビ類に関する共同研究・・・
「水生生物を研究するうえで、常に生きた状態の水生生物を観察することのできる水族館は、理想的かつ魅力的な研究機関である」p3


■でも魚屋さんではない!
コラボで生まれる新発見の可能性はとっても大きい。
でも、立場が違う者どうしがタッグを組むのだから、なんぼか食い違いも発生したりする。
一番ヤバイのは、研究者が水族館に「材料をくれ」と言ってしまうこと。
水族館は問屋さんじゃない!
p29
(水族館は)研究者にとっては宝の山である.しかし,水生生物を良好な状態で飼育し,展示するのが水族館本来の仕事である.水族館と共同研究を行ううえで,まず留意しなければならないのがこの点である.水生生物を生かして展示するのが水族館の仕事であり,研究者への協力ではない.実際,DNA分析用にと,死亡した魚の組織片をお願いしても提供をしぶる園館もある.これはこれで仕方のないことである.
ペンギンの血が欲しいと申し込んだから断られた・・・ あの魚の死体が欲しいのにくれない・・・ で、先輩さんは、そんな「ぶしつけな申し込み」をしてしまう研究者に向かって、水族館に対して礼儀を尽くせ、と叱咤する。
要は、研究のコラボではなく人間関係のコラボなのだ。申請書一枚、ではなく、お互いの立場を尊重して、人間関係を築けと。
希望学で言うところの「weak ties ウィーク・タイズ」の実践。それがこの研究現場に生きている。


研究の可能性の楽しさもさることながら、コラボで見いだされたさまざまな新知見の紹介も楽しい楽しい。

■スルメイカたちは、直径数10cmから1m(!)サイズの透明なゼリーにつつまれた、ボヨーンとした卵塊を産むのだ!
すごくもろいので、これは網で取ってもわからなかったわけだ。
■深海化学合成生態系生物群集のお話(熱水噴出域の生物群集、湧水生物群集、鯨骨生物群集)
鯨骨生物群集はこないだ書いたこれだね!
■サメの人工授精を思いついたのも日本人!
サメはエッチをする魚だからこそ、できた人工授精(精子を体内に注入してみました)
■マンボウの潜水行動追跡調査 祖一誠
あのマンボウは、水深644mもの大潜水をやってしまうスゴイ魚だった!
■深海探査!
すごい、「しんかい6500」とか深海探査船を使用するには、一年以上前に計画を立てて申請を出し、吟味の上厳選されたもののみに使用が許可される!いつでもホイホイ使えるわけじゃない!
■深海魚を持ち帰る!
金魚用水槽の「立ち上げ」ですでに苦労したことがある身としては、この深海探査の際に「獲ってきた生物を生かす水槽を船に用意しておく」というくだりが興味津々で。もう、その現場ならではというか、深海なりの成分とか、深海なりの水温とかバンバン用意しなければならないわけで、
「深海調査の合間はすべて水換えに明け暮れるときもある」p66
なんて聞かされると、おもきし「水換えの手伝いに行かせて下さい!!」とか叫んでみたくなる。



■深海生物を飼う!
書籍『潜水調査船が観た深海生物』以来、実物を見たくて見たくて気になっていた「世界唯一!飼育下のハオリムシ!」についても言及があって嬉しい。p69
しかしこれ、よくとってこれたなぁ。
pHは低く,硫化水素などの有毒物質や放射能に暴露されているため,生息環境を再現するのは困難であった.なぜなら,通常,水族を飼育するときには,昼夜の条件を作るために光をあて,エアーレーションにより酸素を供給し,排泄物で低下するpHをあげたりするうえに,硫化水素は通常の生物にとっては猛毒なので,そのようなものは決して はいらないようにするからである.これらの通常とは全く正反対の条件を満たすため,窒素曝気による溶存酸素を・・・
p66
飼育もたいへんそうで、いやそのぶん、めっさ面白そう!
なんせ、地球の地上でこの生きたハオリムシが見物できるのは、江ノ島水族館だけなんだもんな! うらやましい!(北海道に巡業するのは無理?)



■水族館は大人気!
・水族館は動物園より人気なのだ!
(合計来館者数は動物園より多いんだよ!)
・年間来館者数が百万人以上の自然科学系博物館は「国立科学博物館」一個しかないのに、百万人超の水族館は珍しくない!
・これだけお客さんを呼べるんだから、水族館が持つ教育効果のポテンシャルは計り知れないぞ!(p15)
すごいよね。水族館は、わりと天候関係ないし、いつ行っても「いる」し、なごめるし(暗さがまったり感をかもしてイイ感じなんだよね!)静かだし、わりと撮影OKだし、ああー好きだなぁ。
「日本国内には約100の水族館が存在し,約5000種の _ 水族 _ を飼育し,水中に暮らす生き物を身近な存在にしている」p3
わかっちゃいたけど、改めて「水族館にいるのは『水族』です」とか言われるとけっこう新鮮ですねー。w


本書『研究する水族館』の2年前に、姉妹編の本が出ています。この本ですね。
『水族館の仕事』
西 源二郎 (著), 猿渡 敏郎 (著)
東海大学出版会 (2007/10)
■「希望学」関係の書籍は以下。

全国に水族館は100カ所もあるんですね!
クラゲメインとか、いろいろ各施設で特色もあって面白い。
┗全国105館の水族館情報 + ランキングやおすすめ情報
●水族館にはおもしろい研究テーマが、研究の原石がいくつも展示されている!p32
●水族館には、それとはわからないまま新種が飼われている可能性がある!p115
●水族館と研究機関がコラボすると、すごい発見が期待できまくり!
本書『研究する水族館』は、図体はコンパクトながら、適宜カラーページもはさまれて意外に贅沢な仕様になっております。


![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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