タイトルで損をしているかなぁ。
最初から最後まで北京原人(シナントロプス)の話ばかりですよ、みたいな印象を与えるけど、実際は北京原人はさわり程度で、あとは現在の「ホモ・エレクトゥス」研究について広く述べている佳品。

『北京原人物語』
ノエル・T.ボアズ/ラッセル・L.ショホーン著
青土社 2005/03
[bk1]
原書 2004: DRAGON BONE HILL: An Ice-Age Saga of Homo Erectus
Noel T. Boaz, Russell L. Ciochon
つけるとしたら、「竜骨山の旧人類:北京原人のふるさとから」かな。
原書は2004年とごく最近の記述なので、比較的新しい知見がいろいろまとめてゲットできます。
◎ 語りも構成もうまくて読みやすい。

× 登場する中国人の名前、読み仮名つけてよ…

北京原人(シナントロプス)の骨、この実物は、第二次世界大戦の時に日本軍とのなにやかにやで行方不明になったきり。
「北京原人 - Wikipedia」
2005年1月 北京原人 Web東奥/ニュース百科 :中国科学院は昨年10月、周口店遺跡周辺で北京原人の再調査を始めた。先日ほんの少し、骨の行方について新たな手がかりが報道されていたけれど、なににせよ残念至極な考古学史上のエピソード。
> 行方知れずの北京原人、新たな手がかり…!?(元記事消滅)
> 2005/09 Yahoo news Chinese researchers express new hope of finding missing Peking Man
北京原人の頭蓋骨捜索チームが政府主導で始動2005/07 【日本語記事】 中国情報局
時事用語ニュース 【北京原人】/Beijing Yuanren2005/07 【日本語記事】 中国情報局
北京:北京原人の頭骨を初公開、一部は日本に?2004/10 【日本語記事】 中国情報局
北京原人:頭骨化石、米軍撃沈の阿波丸にあるか−−中国、再び引き揚げ挑戦2004/10 【日本語記事】 大分大学総合科学研究支援センター動物実験部門の記事庫
世界遺産めぐり(23) 北京・周口店東アジア文明のあけぼの 人類の歴史ぬりか えた北京原人遺跡 写真・文 劉世昭
2004/01 【日本語記事】 人民中国
●おかしな頭蓋とその来歴
北京原人をはじめとして、ホモ・エレクトゥスたちの頭蓋骨には、どうにもヘンテコな「厚み」が備わっている。
これは何のためなのか。
どんな淘汰圧が、彼ら旧人類を怒級のイシアタマに仕立て上げたのか。
この「頭骨の厚み」談義、本書にはわりと新しい知見がとりそろっていて便利。
…ていうか、去年まさにこの本の出版で「旧人のイシアタマは性淘汰から」説が世に問われて物議をかもしちゃっていた、ということだったらしい。


石頭はおとこどうしの闘いのせいで形作られた?
北京原人とジャワ原人の不思議な頭骨の形
2004/02 Natural History Magazine Headstrong Hominids
By Noel T. Boaz and Russell L. Ciochon
The mysterious skulls of Java man and Peking man may have evolved because males
were clubbing each other in fights.
2004/02 CNN Scientists: Hard heads a key to survival
Clubbing heads may have been part of mating rituals
人類の祖先は殴り合いで異性を獲得?
米アイオワ大の人類学者ラッセル・シオチョン氏著書の仮説
2004/02 cnn.co.jp
CNN日本はシオチョンとしていたけれど、これこの『北京原人物語』著者のラッセル・L.ショホーンのことね。
『北京原人物語』 p.125-126
オーストラリアの研究者ピーター・ブラウンは現代および過去のオーストラリア先住民の頭蓋の厚さを調べた。この人々は、今日生きているホモ・サピエンスのどの集団よりも頭蓋が厚かった。ブラウンは、争いを決着させる彼らの伝統的な方法によって、頭蓋が発達してきたという仮説を立てている。
ホモ・エレクトゥスたちにとって、最も恐るべき敵の代表は、ホモ・エレクトゥスではなかったのかと。
旧人の生死を大きく決定する要因は、旧人どうしの殺しあいだった説。
人型二足歩行の動物が戦う(殴り合う)と、ちょうどホモ・エレクトゥスで厚くなっている骨の部分が最もダメージを受けやすいのだと。
『北京原人物語』 p.129- 130
人間が人間に対して振るう非人間的な行為を法医学的に通覧すると、鈍器による頭蓋外傷を絶えずこうむっていたヒト科動物にとって、こうした適応がどれほど重要であったかを示す証拠がたっぷり得られる。
{中略} たとえば、民族大量殺戮の犠牲となったボスニア人とクロアチア人の打ち砕かれた頭骨では、一様に目の周辺、頭の両脇、耳の後方、頭の後側に損傷が見られる。この損傷パターンは、まさにホモ・エレクトゥスの頭蓋で隆起の輪がある位置に相当する。
頭蓋骨が弱かったホモ・エレクトゥスは、人類同士の諍いの中でさっさと叩き殺されて生きのびれなかったのだと。

あんまし想像したくない人類同士の殺しあいの図が脳裏に… というのはさておいても、この説は、その後「おおそれグッドアイデア」と普及したんだろうか。
それともおおかた却下された?
訳者あとがきにもそのあたりのことは触れられていないのでちょっと不満。
人類同士の打撃戦は、その後、知能戦にとってかわられたらしい。
むやみに分厚い頭蓋骨で力にまかせるより、薄い頭蓋に大きな脳を入れて賢く立ち回るほうが生存率が高まったと。
加熱を防ぐために頭蓋が薄いとするディーン・フォークの「脳ラジエーター仮説」とか。
賢く立ち回るには言語も必要だったろうし。
北京原人は言葉を使っていたのか。
p.192これまで発見された北京原人の頭骨は舌下神経管のあるべき場所:頭蓋底が欠けていたため、この点は検証できずじまいであるとのこと。
舌も発話と大いに関係がある。デューク大学のリチャード・ケイと共同研究者は、類人猿と現生人類の舌につながる神経(舌下神経あるいは第一二脳神経〕を調べて、人類の方がこの神経が大きいことを確かめた。舌筋につながる運動神経が比較的太ければ、そこを通って舌を支配し、その細かい動きを制御する神経繊維の数がそれだけ多いはずだ。
北京原人は火を使っていた。
p.164北京原人が重宝したであろう「火」、そして土地環境に大きく左右されるであろう石器文化:石器に適した石がなければ知能があっても高度な石器文化の痕跡は望めない。
初歩的な石器を用い、火を辛うじて制御し、そして死肉漁りによって危険な大型肉食動物に依存して生きたホモ・エレクトゥス
また、当時は「大勢ででかい獲物を追いつめる」のではなく、ハイエナのような死肉漁りが主流だったであろうとする考察。「大型ネコ科動物やハイエナが食べたのと同じ、寄生虫の入った肉をよく食べるようになったとき」、ヒトにそれらの寄生虫が寄生しはじめたとするデータが、その考察を裏づける。(p.162)
ほか、末尾に目次を並べておくけれど、一般人にも読みやすく、それでいてけっこう濃い話がたくさん詰まっていて、なんかどっかの邦画めいた『北京原人物語』というタイトルから想像されるものよりかは、ずっと充実した研究内容と考察が楽しめます。
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