いろいろな原因で起きている特定の症状を、「この名前で呼んでみよう」というお約束をされているだけの、実際にはいろんな状態が混じり込んでいる、複雑なカテゴリーになっています。
例えば「発熱」であれば、症状は同じ「発熱」であっても
・風邪
・はしか
・知恵熱
・熱射病
・マラリア
などによって経過も程度も治療も違ってくる。
例えば「しゃがれ声」であれば、
・炎症
・感冒
・カラオケのヤリスギ
・咽頭癌
・加齢
いろいろ考えられますね。
アスペルガー症候群にしても、基本的な症状は「感情を察知するのが下手」という点が中心でありまして、これは単なる「症状」の話です。「なぜそうなっているのか」の部分には「発熱」や「しゃがれ声」の場合のように、いろんなバリエーションがあるので、なかなかうまく研究が進んでいないと思われます。

問題になるのは、周りの人の気持ちや意向を感じ取る回路に故障があるらしいこと。
ふつうの人であれば、周囲の顔や声から「自動回路」が感情を拾ってきて、あ、ここはこれ以上やったらあかんな!とか、これもっとやったらもっとウケる!とか、自然に自分の言動に対して適切なブレーキやアクセルが働くようになっている。
敏感な感情アンテナですな。
ところが、「自動感情拾い回路」がふん詰まっている場合、適切に感情を感じ取るには「意図的に」周りを見て「意図的に」解釈して加減しなければならないハメになる。
例えば、ふつうなら自動的に動いている「胃腸」が、自分でいちいち「このタイミングだからここで5回送り出して、消化液は3,3,5の割合で少なめに出して・・・」なんて計算して手動操作しなきゃならなかったらパニクりますわな! そういうパニクるような操作を頑張らないと、アスペの人は「ふつう」にはふるまえなかったりする。こ・れ・は、しんどい。
脳内コビトさんも慣れない重労働におおわらわです。
... 以下つづき...


周りの人の気持ちや意向を感じ取る回路は、たいへん複雑であることはわかっています。まだ「どのように複雑なのか」厳密な解明にまでは至ってないんですけどね、でも「脳のいろいろな機能を総動員した」ような「かなりの脳力」を使うしんどい作業ではあるわけで。
・声や顔から感情を検出する装置
・検出した感情を整理する装置
・整理した感情情報を加減する装置
・加減された情報を適切な回路に割り振る装置
・割り振られた感情情報に反応する装置
・感情への反応を制御する装置
・感知した感情に快感を感じる装置
・感情による快感を欲しがる装置
(これはあくまで「例」ね。実際にこう分けられるものじゃない)
拾う 分ける 遮断する 整える まとめる 渡す 加減する 取り分ける 連合する 程度を誂える 反応するベクトルをふりわける・・・・
いろんな機能がつながってはじめて、ヒトなみになれる。
どっか一箇所でも不具合が出ると、空気が読めなくなる。
「自分の言動に対して適切なブレーキやアクセルが 」 効かない状態に陥ったりする。
複雑な段階がいっせいにうまく作動して、初めて「ちゃんと周囲の人々の気持ちが汲める」能力が発揮できることになる。
故障個所が少なければ、高機能自閉症(頭はいいけど変な人)なのかもしれない。
故障個所が多ければ、「重度の自閉症」(対話不能)なのかも。
そして、同じような症状に見えても、故障の個所や、その原因によって、実質には大きなバラツキがあったりする。
どれかの段階で故障があって、なおかつラストの「感情による快感を欲しがる装置」が元気な状態だと、「共感による幸福感が欲しいのに全然得られない!」という感情飢餓状態になる。
幸福感ゲット欲はあるのに、幸福感ゲットの方法がわからない。
それに加えて、家族のほうも、"アスペっ子"の心を読めてなかったりする。アスペっ子は「気持ちを感じにくい」ぶん、「どうすれば自分の気持ちを察してもらえるのか」自然な工夫ができなかったりするゆえに。
頭はいいのに、どうしてこの子はこんなにオカシイの!?
これはたいへん幸福度が低いつらい人生になりかねない。

こういう微細な脳の故障で起きる症状は、自閉症関係(AS含む)だけではない。もとより、病態をきれいに切り分けられるような世界ではなかったりする。
同じ脳の中で、どこで故障するかは人それぞれ。複数の障害をもたらすような不具合も少なくない。

読字障害などのLD、多動性注意欠陥障害(ADHD)、運動障害や言語障害など、それぞれの症状をミックスしたり併発したりするような「またがった」ケースもけっこうある。
アスペルガー症候群の対人能力の故障に伴いやすい故障には、こんなモノがあるらしい。
偏った興味
反復的な日常生活の手順
話し方や言語の奇妙さ
非言語的コミュニケーションの問題
運動の不器用さ
ほか、ADHDの症状を合わせ持つ子や、読字障害を持つ子もいたりする。
ひとつの病名でくくられていても、どう対処すればいいのかは、ベストな答はその人それぞれに違っていたりする。

周囲からの感情情報が入りづらい脳の場合、右に描いたような「感情の水路がちょっとだだ漏れ」的な状態になっている感じだろうか。

左は、感情アンテナが働きまくる普通の人。感情の水路から、自然にドコドコ脳内に影響が染みわたる。
周囲から感じ取るいろんな感情によって、しょっちゅう脳内が揺さぶられているわけで
参照
状況変化にぶんぶんされつづけているがゆえに、わりと「変化/栄枯盛衰/感情の揺れ/刺激」に強かったりする、というか、複雑な人間関係のさばき方に慣れているというか、タフというか手練れというか。
自然に広がるデルタ地帯に点在する深い感情の沼、わだかまりに覆われたわけのわからない草藪や、耐久年数短くしょっちゅう建て変わる家屋、自然発生した人間関係の小道などが、わらわら脳内に沸いていく。
感情のキャッチが乏しい場合(水源でだだ漏れして水不足な場合)、感情をキャッチする水路を人工的にひいてこなければならない(意図的に配慮するよう訓練したり)。感情に脳内が揺さぶられることが少ないぶん、恒久的な構築物のほうが有利で安心だとして、不朽不滅の堅牢ロジカルな構築物が建てられていくことになる。藪やゴミは少ないきれいな街並みだけれど、巷の人影がめっきり少なく、寂しげな風情だったりする。
努力をすれば、それなりに感情の察知をこなせるような太い「人工水路」をひいて充実させることはできる。でも、その水路は、常に意識して水を汲み上げなければ干上がってしまう、脆弱なしんどさを抱え持っている。
人間は、最低限の水量でもなんとかやっていける。でも、それはいつもいつも、心の癒しがなく喉が渇ききっている状態を我慢し続けてのことだったりしている。

2009/04 EurekAlert First neuroimaging study examining motor execution in children with autism reveals new insights
自閉症児童の運動能力についての初のニューロイメージング研究
リズムに合わせてタップする作業をさせてみた
自閉症児では、意識して動きを努力する脳のエリアが強く反応する
普通なら、意識せずに自動的に反応する回路が使われるのに

**ているという特徴だけで人々を一つにくくっても、それが遺伝なのか、病気なのか、負傷なのか、自傷行動なのか、多様な属性や原因がある。
でも、アスペには「感情や協調の水路が弱い」という共通項はある。
その共通項を、教師はどの程度理解しているのか。
「感情の協調の水路が弱い」人生のありようをどの程度察知しているのか。
アスペだと伝えても、不適切な対応を続けた教師に悲しい思いをした、配慮に思い至らない教師(本来なら理解しておいてしかるべき立場の人)にどうツッコミを入れたらいいのかわからなかった、そのメモリアルのエントリでございました。

隣のエントリもご参照下さい。

【追記】●アスペルガー症候群の成人は、他者の意図を明示的に理解するよう求められると推測できる(ToM)が、自発的には行わない
2009/08 Science Mindblind Eyes: An Absence of Spontaneous Theory of Mind in Asperger Syndrome
Atsushi Senju, Victoria Southgate, Sarah White, Uta Frith
千住淳(せんじゅう あつし)、 ウタ・フリス ほか
●昔記した、この項の草稿にあたるエントリがあります:

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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