
【最近の幹細胞記事とオリエンタリズム】
このところ、問題点紹介抜きで「異国に幹細胞療法を受けに行く」ケースの存在だけを紹介する事例が目について、ちょっと気に病んでしまう。
英米では「幹細胞療法」の問題についてずいぶん前から公で論争がなされているわけで、大衆は日本よりヤバサについての知識が豊富であるとみなせる。海外での「問題点紹介抜きの記事」はそれら問題の”前提をわかっている読者”を想定して記されている文面だと思う。

「アメリカのご家族、中国に幹細胞治療を受けに行く」2009/04 PhysOrg Families flying toddlers to China for stem-cell treatments
カリフォルニアから幼児を連れて、臍帯血幹細胞治療を受けに中国にわたる小児麻痺のご家族2組
「イギリスの幼児、中国に幹細胞治療を受けに行く」2009/05 BBC News Blind boy starts China treatment
盲目の男の子(ウェールズ北西部グウィネズ州出身の22ヶ月の幼児)は、中国での幹細胞治療をスタートする
この「イギリスの幼児」記事の中では、患児の親御さんが「中国の医療はバランスがとれていて」云々という”東洋のホーリズムは自然にかなっていて素晴らしいんだよ〜”的なオリエンタリズムを言葉のはしにのぞかせていて興味深い。
英米の患者さんの中には、そんな「オリエンタリズム幻想」に乗って、自分の選択の正当性を強化している事例があるわけなのか。
日本にしてみれば、いまどきの中国はたいへんおっかないチャイニーズクオリティ連発で、とうていそんな幻想をいだく気にはなれないんだが・・・。
去年、NHKで 『BS世界のドキュメンタリー:2026年 ES細胞インパクト』という番組が放送されていた。(自分が録画&視聴したのは2009年1月3日地上波NHK教育で放送されたもの)
中身は、iPS細胞騒ぎが発生する前の時代である2006年に、フランスで製作された近未来SF番組「The Cell」。
番組の設定は、今から20年後、キリスト教圏が胚性幹細胞の倫理問題で出遅れている間に、中国が幹細胞治療大国として世界の第一線に躍り出ている、という想定になっていた。欧米のお金持ちが、思うがままに中国で幹細胞メンテナンスを受けてステキな高齢期を堪能なさるという図。つまり、あちらの国々的にはベースにそういう、何か大きな中国に対する”独特な期待(妄念)”があるんじゃないのかなと思える。

■「いかがわしい幹細胞治療」についてまとめてある日本語サイトはありますか■
ちょっと時間の都合で日本語サイトの有無について検索はしてません。
とりあえず、自分の手持ちの過去記事を以下に並べておきます。
... 以下つづき...

2008年あたりからは日本語の記事もあります。
【幹細胞治療ツアー:2006年】
2006/08 BBC News Stem cell treatment warning
あらゆる欲と妄想を引きつける幹細胞
幹細胞をウリにしたいかがわしい医療が横行しているぞ
なんでも治せるわきゃねーし、効果も立証されてないし
2006/08 BBC News Stem cell 'wonder cures' warning
2006/08 New Scientist 'Hype' accusation blights stem cell breakthrough
上述のフランスの番組『BS世界のドキュメンタリー:2026年 ES細胞インパクト』製作は2006年。
そして、過去記事庫で初めて「幹細胞ツアー」問題が登場するのも2006年。
欧州で幹細胞ツアー問題が沙汰され始めたのはこの頃だと見ていいかな。
【幹細胞治療ツアー:2007年】
イギリスから中国へ臍帯血幹細胞の移植を受けに 小児麻痺の8歳の女の子
2007/05 BBC News Revolutionary treatment for girl
中国やインドに幹細胞治療を受けに行く人々
2007/06 ABC@オーストラリア Warning against stem cell tourism
まだヒトに施療するには時期尚早すぎる
幹細胞がガン化する率はたいへん高いんだ
この頃は、渡航先候補にインドも挙がってますね。
こゆのはたいがい「行きます」であって、その結果どうなったのかはあまり報道されない。
幹細胞療法はまだ「始まったばかり」であって、長期的な効果は未確認。施療を受けた結果、何年ものちにどんなことが起きるのかは誰も確認していないし、何があっても保証も補償もない世界だ。
【幹細胞治療ツアー:2008年】
中国はウサンクサイ幹細胞治療を平気でやるのか
2008/01 PhysOrg China Offers Unproven Medical Treatments
証明されていない中国医療
卒中、脊髄損傷、脳性小児麻痺から運動失調に至るまで
治療に幹細胞注入を使う「商売」に、海外の患者がわらすがりにやってくる。
幹細胞療法にご注意を
2008/06 New Scientist New task force to tackle 'stem-cell tourism'
効果がたいへん怪しいけれど、ネットなどで確実に客をカモにしている「幹細胞治療ツアー」
幹細胞治療を掲げる中国のうさんくさい医療にすがる必死の親たち
2008/07 New Scientist Desperate parents sold implausible stem-cell 'cures'
中国の一部のバイオ企業は、ワラにもすがる家族たちに彼らのサービスを売りつけていると思われる
効きそうにないヤバイ幹細胞治療を、子どもの視覚障害や他の神経障害のために提供する
2008/12 【日本語記事】Dr赤ひげ.COM 偽の幹細胞治療の販売がネットで横行 国際的な利用ガイドラインを作成
使用した幹細胞が本物かどうかは、何の証明もない
治療費用は、航空運賃や宿泊費を除き、平均2万1,500ドル(約200万円)
2008/12 【日本語記事】National Geographic 未認可の幹細胞治療を求める患者たち
2008/12 National Geographic "Stem Cell Tourists" Go Abroad for Unproven Treatments
証明されていない治療を求めて海外の"幹細胞ツアー"にすがる患者たち
幹細胞ツアーはギャンブルすぎる
2008/12 PhysOrg Data doesn't back websites' stem-cell claims, says researcher
各種の幹細胞療法を謳う19のウェブサイトを調査
それらはリスク、利点、そして効果の限界について明記できていない
2008/12 news@nature.com Stem cell society urges action on bogus clinics
幹細胞学会は、偽のクリニックに対する取り締まりを求める
いかがわしい療法を提供しているセンターを閉鎖させ、患者を保護すべきだ
日本で製作・放送された幹細胞ツアーについてのドキュメンタリー番組などを見た限りでは、「被害者」になっている日本人は少なからず存在している。
これらヤバイ幹細胞治療については、これまでNHKや民放で特集した番組は複数回見かけてはいるが、それきりで、最近はとんと見かけた覚えがない。効果がなかった例、副作用ばかりが出た例、症状が悪化した例、発癌した例・・・(実際、癌化率はたいへん高いはず)。被害の実態が一般に知られているというにはほど遠い状況だと思う。ていうか、いかがわしい治療の選択は「自己責任」の世界だから、第三者が義憤に駆られる必要もないということなのだろうか。
少なくとも、「中国の幹細胞治療の存在」だけを紹介して、その周辺の問題について紹介しない伝達のやりようについては、なんかヤバイんじゃないかと思う。
【幹細胞治療ツアー:2009年】
幹細胞医療を求めて海外に渡るアメリカ人たち
2009/02 PhysOrg Lured by promise of stem cells, Americans head abroad for medical treatment
それと、2009年の記事は冒頭で紹介した2本がありますね。
ふと思うんだが、2008年12月の騒ぎで、「ダメ治療」をやる機関は大幅にふるい落とされて、現在、渡航先として流布する選択肢は、ある程度以上の水準に限られるようになった、そんな関係で極端なヤバサについては言及する必要が無くなったとか? どうなんだろ。
その後、↓のような論説も散見されるので、一応、許容範囲のコンセンサスは出てきているらしい。
『幹細胞療法ツアー』はのきなみ非難するにはあたらない
2009/07 New Scientist Call for tolerance towards some 'stem cell tourism'
副作用のリスクやガイドラインに鑑みて、合理性がある施療も存在する
ほか、幹細胞ツアーについてまた何か拾えたら追記していきます。
幹細胞ツアーに限らず、幹細胞や再生医療全般に関する過去記事は、記事庫にたくさん並べてありますので、必要であればご参照下さい。

英米では今世紀のはじめから「幹細胞研究をやるべきかやらざるべきか」大衆をも広く巻き込んで、ぐっちゃぐちゃモメていた。
海外で幹細胞ツアーが問題視され始めたのは、たぶん2006年。
日本人が幹細胞について騒ぎ始めたのは、おそまきの2007年iPS細胞祭以降。
そして、幹細胞についての妄念や欲望が日本でもジワジワ広まってしまっている。うちにもたまに、ワラをもすがる患者さんから後先考えないような問い合わせが来たりするし。そういう妄念や欲望に「つけいる」ような図式を形成する取引、そしてそのような図式であっても「かまわない」とわりきる利用者双方・・・
誰かこのあたりのボディショッピング禍についいて、きっちり一冊まとめておいてくれないかな。

【追記】2009/05 Nature Stem-cell therapy faces more scrutiny in China
中国が、幹細胞治療に、これまでより厳しい規制を。 /David Cyranoski
幹細胞ツアーに警鐘
2009/09 BBC News Safety call over stem cell trips
未承認の治療を受けに異国に身を投げ出す人々
効果が証明されていない、潜在的に危険な幹細胞研究は、取締りせんとあかんのとちゃうか

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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