この手の勉強メモはいつもは楽屋のほうに置くのですが、今回は「特定の話を記すために一連の情報を前提として並べる」ことを企図しておりまして、都合によりこのブログのほうに上げる次第。
参照した書籍にはなんぼか古いものも含まれておりましたので、情報錯誤になっているような部分がありましたら、ご指摘いただけると幸甚に存じます。
この手の話はめんどうなのであれば、スルーする前に「ブータン王の戴冠式の光景」など目の保養にご鑑賞いただければ。
┗ブータン王即位式:美麗画像がいっぱい


【ブータンの社会】
ブータンは、経済的発展より国民の幸福度を重んじる国策を選んだ、社会学上でも貴重な実験を実施している希有な国家として知られています。
※「国民総幸福量 GNH」は、主に下記4柱から測られる。
・持続可能で公平な社会経済開発
・自然環境の保護
・有形、無形文化財の保護
・良い統治
●国名
*01 p25
ブータンの正式な国名は「ドゥック・ユル(雷龍 らいりゅう)」。国旗の中央にも龍が描かれている。
「ブータン」は、元はインド人がチベットを指して呼んだ言葉であり、国内ではあまり使われない。
あらら。・・・言わば「インディアン」みたいな経緯とも取れるような呼称ってことですか?
ブータンは基本的に「チベット仏教」のお国です。
というか、チベット仏教を奉ずる地球上最後のお国、唯一の国家です。
●チベットとブータンの関係史
*01 p85
仏教の浸透は8世紀後半以降:土着の信仰などと習合しながら少しずつ民間にも浸透していく。
11世紀末〜12世紀初め:隣国チベットで仏教がめざましく発展し新宗派が数多く誕生。
13世紀前半:チベット仏教カーギュ派のなかのドゥック派がブータンに伝わる。
8世紀にパドマサンバヴァを開祖としてはじまったニンマ派もブータンに。
(ニンマ派は古派、それ以降の宗派は新派と呼ばれるのだ)
17世紀までブータンに統一政権は存在せず、チベット仏教諸派入り乱れ。
17世紀:チベットのドゥック派高僧ンガワン・ナムゲルが、王に追われてブータンに亡命。
ンガワン・ナムゲルを迎えて、ドゥック派によりブータン国内が統一された。
*02 p180
いわば、チベットという外圧によって、ブータンという意識が芽生えたのではないか。
*03 p166
ブータンの経典は、すべてチベット語で書かれている。
*02 p179
月原敏博によれば、「チベットでは貴族階級が有力な官職を占有していたのに対し、ブータンではそれほど明確な貴族階級がなく、一般的な自作農出身の男たちも官職を勤めていた」
中国から「農奴制度」呼ばわりされる要因も薄めだったということだろうか。
ブータンの隣国チベットは中国に襲われて無くなり、かつて存在したシッキムという隣国はネパール人の流入を受け入れすぎた結果、インドに呑み込まれて消滅してしまった。
ブータンは人口60万という、札幌市の3分の1(!)しかない小国です。
その小国は、大国のはざまでチベット仏教を掲げ、世界的にも斬新な「幸福度保護政策」を打ち出すことにより、したたかに強く生き延びようとしている。
●衣装
*04 p30,50
国王が1989年に「民族衣装着用、国語ゾンカの習得使用、伝統的礼儀作法の順守」を布告。
それまではTシャツGパンの若者が首都に溢れていたのだが、今はみな再び民族衣装を着るようになっている。
この「ブータン人は民族衣装を着るように」とのお達しは、隣国のシッキム王国が、ネパール系移民が多すぎた末にインドに併合されて消滅してしまった経緯を教訓に、始められたのだそうだ。
その関係で、着用するのは民族衣装でなくとも「ネパール国内のネパール人と違う衣服であればいい」という基準であったりしている。
ネパールのほうは、いまいちどうもよくわからない国なんだよね。まえにもちょっと調べようと思ったんだけれど、
ネパールも、ブータン同様にチベット文化圏だし、一夫多妻OKの国なんだけれど、でもかなり文化規範的にとっちらかった印象を受けている。ネパール王族はめっこめこになった末に王政廃止になっちゃったし、中国の政策には逆らわない方針でチベット系住民に冷たくあたっているし。
... 以下つづき...

●外交
*02 p191
1959年のダライ・ラマのラサ脱出をきっかけに、ブータンの政策はチベット中心からインド重視へと大きく舵を切る。
*03 p18
ブータンは文化的にはチベット系でありながら、今では政治・経済面では完全にインド圏の一員となった。
*02 p57
インド軍が多くの軍事基地をブータン北部に持ち、中国との国境を確保している。
その関係もあり、インドはブータン国内の道路建設に積極的に関わった。
*04 p68
ブータンは”途上国”には珍しく、アメリカ合衆国と二国間の援助協定を結んでいない国である。
基本的にブータンは、アメリカに代表される「経済発展至上主義」からは、可能な範囲で距離を置こうとしている。少なくとも今のところは「経済発展至上主義」を目指す”途上国”ではけしてない。
●王制
*01 p85
1907年以来、ワンチュック家が代々国王を継承する世襲国王
*02 p39
ブータンの王政は世襲制ではなく、あくまでも宗主は転生する活仏のシャプドゥン
2004年の時点で、「王の世襲」を記載する憲法草案を作成中
*05 p50
国王は多大な時間を割いて、多くの場合徒歩で国中を回り、計画の実現状況を実地に検証し、民衆の声に耳を傾けています。ブータン人は誰でも国王に面謁を許され、直訴できます。
実際、なんかとっちらかったネパールとは違って、チベット仏教のきずなで結ばれているブータン国民はしっかり治世を把握・信頼しているらしく、国王の人気は絶大。

【ブータンの環境政策】
●電力
*03 p98 *01 p74
ブータンの国内は2〜3割くらいしか電化していない。
7〜8割の国民は、電気を必要としない生活をしており、国内で消費される全エネルギーの八割近くは、薪(まき)だったりしている。
その一方で、ブータンの主力輸出品の一つが「電気」なのだ。全輸出収入の約三分の一を占める。
「電気」の輸出先は隣国のインド。インドではIT産業が急発展、慢性的な電力不足に見舞われている。
ヒマラヤの急峻な山岳地形を流れ落ちる急流河川は、水力発電には最適。その反面、山間の村々にくまなく電線を通すには地形がすごすぎて費用がかさむこともあり、ブータン国内に電気を普及させるのは、現状無理目な状態。
*05 p49
ブータンの水力発電は、川の流れの自然な落差を利用したものであり、巨大ダム建設のような環境破壊は伴いません。
この山岳地形あってこその、チベット仏教世界観の受容であり、国家資金の確保が可能になるのであり、独自な文化の保護が可能なのであり。
●森林資源
*04 p28
隣国ネパールでは乱開発が進み、森林開発地域では毎年のように土石流災害が起こっている。
*05 p49,140
無垢のままの環境が豊富に残るブータンは、今の南アジアではむしろ例外的。ブータンでは、国土に占める森林の割合が60%を下回らないよう法律で定めてあるのだ。
さらには積極的な植林により、森林面積は増えており、現在では国土の72%を森林が覆っている。
豊かな動植物の多様性を守るため、全土の26%が国立公園や保護地域になっている。
*01 p72
建築材料として山の木は伐るが、むやみには伐りださない。
木材を別の国に売って利益を得ることもしていない。
*05 p140
「近隣諸国では、環境保護を目的とした法律や規制があるにもかかわらず、環境が破壊されたのに、どうしてブータンでは自然がよく保全されているのでしょうか。わたしは、それは人間と環境との関係が、ブータン文化の礎である精神的・宗教的価値観によって打ち立てられているからだと思います。同じことは、ブータンの開発計画、優先事項についてもいえます。序章で説明しましたように、ブータンでは経済的・工業的発展および商業活動が、環境を犠牲にして行われることはけっして許されません。」
●産業
*05 p49
環境および文化にたいする考慮から、大量の観光客を受け入れることには消極的。
豊かな地下資源の採掘も、環境破壊を招くので控えられている。

ブータンの一夫多妻制、今世紀に入ってからのメディア解禁、無料教育、無料医療などについてはこちら。

参照書籍:
※*01
『21世紀 仏教への旅 ブータン編』五木 寛之 (著) 講談社 (2007/6/29)
ルポルタージュ、高僧インタビュー
[ Amazon ] [bk1]
※*03
『ブータン 変貌するヒマラヤの仏教王国』今枝 由郎 (著) 大東出版社 改訂版 (1994/11)
少々内容は古いが、ひととおり資料として堅い
[ Amazon ] [bk1]
※*02
『現代ブータンを知るための60章』平山修一著 明石書店 (2005/04)
エリアスタディーズシリーズ
たいへん濃く厚いべったりした記述
でもナラティブの解析にまでは踏み込んでいない、外面だけ
[ Amazon ] [bk1]

※*04
『美しい国ブータン ヒマラヤの秘境のブータンに学ぶ「人間の幸せ」とは!?』(かに心書) 平山修一著 リヨン社 2007/10
彼らの中を見て欲しいのに、うわべだけ
日本人の異境うわなでエッセイ
[ Amazon ] [bk1]

※*05
『幸福大国ブータン 王妃が語る桃源郷の素顔』ドルジェ・ワンモ ワンチュック (著) 日本放送出版協会 (2007/10)
王妃の語りは雄弁。読みづらい活字。
[ Amazon ] [bk1]

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