
『オキシトシン 私たちのからだがつくる安らぎの物質』
シャスティン・ウヴネース・モベリ著
晶文社 (2008/10)
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はい、いまどきのホルモン人気ランキングを作ったなら、トップスリーに確実に入りそうなほどのもてはやされぶりの癒されホルモンが、コレだ。
著者はスウェーデンの科学者。「オキシトシン oxytocin」の研究においては、世界的な権威であるとのこと。オキシトシンのさまざまな役割、相互作用、可能性について、わかっていることや調べるべきことを、著者の仮説込みで多角的に紹介してくれる。
この人も、(指の性差に取り憑かれたジョン・マニングのように)科学の中の特定の面に取り憑かれて可能性を夢見ている一人だ。・・・マニングよりは、カタギで堅実な道ではある。
この「安らぎの物質」オキシトシンについては、前にひととおり情報を並べたことがある。
おりおり世間でオキシトシンが話題になることもあり、↑のエントリの人気も衰えることもなくコンスタントにたくさん閲覧していただいております。

【「かわいい」反応を作るオキシトシン】
オキシトシンは、幼体の成長や、成体の育児行動に深く関わるのだそうだ。ほっておくと不適切なランダム行動に陥りがちなヒトに、確実に生存・成長・育児行動を行わせるほどの、大きなヒト癒し効果を発揮するのがオキシトシン。
「いとおしい!=オキシトシン!」
ペットによって飼い主の中にオキシトシンがあふれかえります
2009/01 New Scientist Pet dogs rival humans for emotional satisfaction
犬のオーナーの中で、幼児ケアの愛情ホルモンが爆裂するのだよ
〜永澤美保:Miho Nagasawa and Takefumi Kikusui, of Azuba University in Japan
「ヒトとイヌの絆形成のメカニズム解明 ヒトとイヌの交流においてイヌからの注視が飼い主の尿中オキシトシンを上昇させる」
※ 「中高年の心身に与える動物の予防医学的効果に関する研究」 麻布大学大学院 獣医学研究科動物応用科学専攻 博士課程 永澤美保
参照
「幼体」である特徴を示すビジュアルを見ただけで、ヒトの中にオキシトシンが発生して「癒し」と「保護欲」が沸き溢れる。
特に、「この立場のヒトは育児行動への傾向性が大きくないとヒト存続は難しいだろう」的な立場の個体で、オキシトシンの分泌はハデになるようになっている。つまり、卵巣機能が活発な女性で、オキシトシンは効果的に活躍するらしい。
『オキシトシン 私たちのからだがつくる安らぎの物質』p88、 p103
エストロゲンはオキシトシン受容体の数を増やし、オキシトシンの産生を促進する。
エストロゲンは、少ないオキシトシンでも大きな効果をもたらすように作用する。
エストロゲン量の少ないオスやメスでは、エストロゲンの多いメスと同程度の「オキシトシン効果」を得るには倍の量のオキシトシンが必要になる。
エストロゲンの多いメスさんは、少量のオキシトシンでも十分グッとくるらしいのだ。
ある意味、癒されずに疲れているオスさんにはうらやましい話だね。
「この女は我が子に対する愛情が薄くなるであろう」
2007/10 ScienceDaily Level Of Oxytocin In Pregnant Women Predicts Mother-child Bond
妊婦さんのオキシトシン・レベルを計れば、母子つながりの深さが予測可能
母乳保育は、どのように母の信頼ホルモンを解放するか
2008/07 BBC News How breastfeeding releases a trust hormone in mothers
Breastfeeding trust hormone clue
母子愛着関係を形成する要因
授乳する母の脳内でオキシトシンが放出されるありさまを初めて明かす
子どもに八つ当たりする母さんは、オキシトシンが足りないのかもしれない。
子どもに厳しいしつけをしてしまうオヤジも、オキシトシンが足りないのかもしれない。
子どもをかわいく思えない人は、オキシトシンが足りないのかもしれない。
オキシトシンって、なんだ?

【オキシトシンの謎】
■わかったことも多いけれど、わからないこともまだまだ多い
体内で重要な役割を果たしているホルモン、オキシトシン。
具体的に何がどこでどのくらいこのオキシトシンを分泌しているのかは、まだ完全には解明されてはいない。
進化上、古くから生体内で働いてきている物質であり、オキシトシンを分泌する細胞は体内のいたるところに見いだされ、ほかのいろいろな成分/神経伝達物質/ホルモンなどとの相互作用があいまって、その作用の現れは、一筋縄ではとうていおぼつかないほど微妙・精妙にあやをなす。渋谷の交差点やラッシュ時のJRダイヤていどじゃあ譬えにもならない。
p112 オキシトシンのさまざまな効果は、一本の大きな木の枝のようなものだ。それぞれの枝は、オキシトシンに関係のあるひとつの基本的な原理、すなわち一本の幹から出ている。その基本的な原理(幹)とは成長の促進だ。
【オキシトシンは加速する】
で、不思議なことに、体内のオキシトシン分泌には、妙にブレーキがないらしい。ホルモンてぇもんは、ふつうは、ある程度の濃度を超えれば「これ以上はいらんやろ」とホルモン分泌にブレーキが働くのだけれど、オキシトシンに限っては、出れば出るほど出るらしい。w
p89
オキシトシンの制御には風変わりな点がある。ほとんどのホルモンはサーモスタットのようなフィードバック・システムの助けを得て、自分で自分の産生をやめる。均衡を維持するため、ホルモン類は血中濃度が一定の値を超えた場合、自らの分泌を抑えるための情報を伝達する物質として働く。ところが、オキシトシンは反対のことをする。オキシトシンは、オキシトシン産生細胞のオキシトシン受容体を活性化することによって、一定のレベルまでオキシトシンの産生を促す。そして、新たに活性化された受容体は、細胞を刺激して、さらにオキシトシンをつくらせる。
うむ、まずは出し始めなければ始まらないわけね。

【オキシトシンが多すぎるとどうなる?】
オキシトシンは、対象に興味を持たせ、癒しを感じ、守りたい欲を喚起する。じゃあ、その度合いが過ぎると、どうなるのかな?
p97
大量のオキシトシンはまったく異なる効果をもたらす。大量のオキシトシンを注射された雌牛はじっと立ちつづけ、眠そうに見える。反芻を始める場合もある。ラットはおとなしくなり、あまり動かず、端っこに寄って休んだり、眠りこんだりする。これらの効果は −− とりわけ、好奇心の減少は −− オキシトシンの注射を数回くりかえすと、いっそう顕著になり、最後の注射からかなり時がたったあとも持続する。
これを人間で行った実験結果はないらしいんで、「どんな感じ」なのかは、ネズミの様子から推測するしかない。もしかすると、癒されきって、すべてに満足して意欲を失ってしまうんだろうか。不思議だ。
攻撃や興奮で喜びが増すタイプの満足とはまた違うよね。保護と安寧で、満足を得ようとするやる気を、オキシトシンは喚起するのだろう。そして、その方向のやる気は、多すぎると安寧しすぎてしまう、のかな。
とりあえず、多すぎの事例については、まだあまり詳しくは研究されていないらしい。誰か研究してみる? いろいろな意味で、これは幸せな研究なのかもよ。

【人の顔を覚えるのはじょうずですか?】
オキシトシンは「愛すべき対象/大事にするべき相手を心に刷り込む」効果を持っている。
そのおかげで、オキシトシンが多い人は、人のことを覚えるのがじょうずになるのだそうな。
オキシトシン 幸せそうな顔を記憶しやすくするホルモン
2008/07 EurekAlert A hormone that enhances one's memory of happy faces
オキシトシンはポジティブな社会的記憶の刷り込みを増強して、社交性を推進する
オキシトシン
2009/01 New Scientist Good memory for a face? Thank the love hormone
顔の記憶に長けている? 愛情ホルモンに感謝しなさい
2009/01 PhysOrg Hormone important in recognizing familiar faces
オキシトシンは親しい顔の認識に重要なホルモンなのでございます
“抱きしめホルモン”オキシトシンは、記憶を改善する
2009/03 ScienCentral “Cuddle Hormone” Improves Memory
『オキシトシン 私たちのからだがつくる安らぎの物質』 p96
オキシトシンはソーシャル・メモリーと呼ばれるものに対して、プラスの効果をもたらすと考えられている。ソーシャル・メモリーは、恐怖や、人と交わりたい気持ちと同様、おおむね、扁桃体で処理される。
ソーシャル・メモリー、つまり、人づきあい(社交上)で活躍する記憶。
人の顔を覚えるのは得意ですか?
もしかすると、顔を覚えるのが苦手な人は、オキシトシンが足りないのかもしれない。どうやってオキシトシンを出せばいいのかって? それはこの本に書いてある。オキシトシンは、出れば出るほどたくさん出るらしい。オキシトシンが出るような暮らしを心がけると、自然にいろいろな「大事にすべき相手」に対する記憶力もアップしていくかもしれない。他人に対して粗暴な行動をしてしまう人も、なんぼか柔らかい物腰になっていくかもしれないんだ。
... 以下つづき...

【オキシトシンには触覚が大事】
『オキシトシン 私たちのからだがつくる安らぎの物質』の著者であるシャスティン・ウヴネース・モベリさんは、オキシトシンの効果の中でも、特に「触覚が喚起する反応」に注目している。
やさしく触ってもらったり、仲間にぎゅっと抱きしめたりされると、身体の中にオキシトシンがわっと出たりするんだ。
『オキシトシン 私たちのからだがつくる安らぎの物質』p34
触覚は、〈安らぎと結びつき〉システムヘの強力な入力源だ
集団営巣動物としてのヒトは、タッチやコンタクトで癒しを得る(オキシトシンが出る)ような体にできている。
撫でてもらうと安心するネコは、野生のネコ科の動物が、幼少時の「親になめてもらうことを喜ぶ」ような性質が強く残るようになっている動物だと言える。
イヌは、もとより集団営巣動物なので、お互いの接触(そして飼い主との接触)が生存上重要な信号となっている。
Wendy Hill、Helen Fisher ウェンディ・ヒルとヘレン・フィッシャー
2009/02 PhysOrg Kisses unleash chemicals that ease stress levels
キスは、ストレス・レベルを和らげる化学物質オキシトシンを誘発する
9割以上の文化で、性愛の際に接吻がおこなわれるのですよ
ふだんのやさしいタッチだけではなく、性的な愛撫も、オキシトシンの放出をうながす。
ぜんぎやあいぶをないがしろにする男は、女に慕ってもらえなくなるぞ。ぜんぎやあいぶには、ヒトのつながりを強化する効果があるんだ。
長続きする関係を持ちたいのであれば、気持ちの良いタッチを常々心懸けたほうがいい。(でもでも。嫌がられるタッチは逆効果なので速攻でやめようっ)
『オキシトシン 私たちのからだがつくる安らぎの物質』p34
安らぎ・くつろぎ・親密さを促進する伝統的な状況は、私たちの社会ではまれになってきている。そういう状況が生ずる頻度が少ないほど、〈安らぎと結びつき〉にかかわる私たちの内なる生物学的システムが活性化される頻度も減る。
〈安らぎと結びつき〉システムを活性化する経験が劇的に減少する一方で、ストレスに関連した〈闘争か逃走か〉システムヘの入力は劇的に増えた。この変化は私たちの幸福に、重大な影響をもたらしかねない。

さらに彼女は、スウェーデン発の「タクティール療法/タクティールケア」の世界的な推進に一役かっている。去年はこんな本が出ていた。
タクティールケア普及を考える会編著日経BP企画 (2008/9/5)
┗ヒトの肌と肌の触れ合いによる癒し効果
ある意味、ジョン・マニングが指の長さですべてを見ようとしているのと同様に、モベリさんは、世の中の苦しみを、おおむね「触覚/タクティール」で解決できるのではないかと収斂させようとしているように見える。
問題解決の鍵を、触覚とストレスの関係で解きほぐそうとしている。というか、触覚還元主義? まずは、ヒトの幸せの源として、触覚の効果を、タッチを、やさしい愛撫を見直してみましょうよと。
まあ、それもひとつの解決策(あるていどの)であろうことは否定しないけれど。うむ、ナマのヒトとの触覚的接触が足りないと感じている人は、なんぼか「タッチの効果」を試してみるといいかもしれない。
『オキシトシン 私たちのからだがつくる安らぎの物質』p175
スウェーデンの保育園や学校でマッサージの研究をしたところ、マッサージを日課に取り入れると、より平和的な集団になるとわかった。 [〜中略〜]
興味深いことに、マッサージの効果がもっとも顕著だったのは、乱暴な言動で集団をかき乱すタイプの男の子たちだった。
そうかそうか。
男の子には、意外と「お父さんがマッサージしてやる」のもいいかもしれない。疲れた父さんと、いらつく男の子、簡単に両方が癒されるなら最高じゃないか。
父さん、やってみそ。 だって、母さんが男の子にマッサージするのは、微妙に***なんだもんね。


【市販のオキシトシン商品】
2005年に、「オキシトシンはスプレーで効く」という報告があってからは、「オキシトシンで警戒心をゆるめさせて女や消費者を操作できるかも!」という妄想が世間に蔓延したようで、いかがわしいオキシトシン商品がたくさん出回るようになってきたらしい。
ポール・ザク、進化心理学的に語る
2005年の親和的感情ホルモンについての論文を覚えておいでですか。
ほらほら、オキシトシンを使えば、お客さんがこんなに気前よくなるんですよ。
2007/11 EurekAlert New paper on oxytocin reveals why we are generous
オキシトシンを与えた被験者、通常より太っ腹な行動に
『オキシトシン 私たちのからだがつくる安らぎの物質』p198 大意
●オキシトシンは医薬品としては、分娩の際の点滴静脈注射や、母乳が出を促す点鼻スプレーとして、使われる。
●現在のところ、これ以外にオキシトシンが医薬品として投与されることはない。
●身体に効いても、投与で脳に効かせるのは難しい。
●身体のオキシトシンは、脳には達しにくい仕組みになっているのだ。
そのはずだったのに、鼻へのスプレーで、被験者の「信頼行動」が操作できたという報告が、世界にどよめきを走らせたんだ。
『オキシトシン 私たちのからだがつくる安らぎの物質』
p221 訳者解説:
インターネットの検索エンジンで「オキシトシン」をキーワードにして検索してみると、科学的な記事以外にさまざまなオキシトシン商品の宣伝がヒットする。オキシトシン・スプレーに始まり、オキシトシン入りの香水やサプリメントまである。オキシトシンは口から飲んでも胃で分解され吸収されない。また、注射で直接血中に入れても速やかに分解されるので、陣痛促進剤として使用する場合は連続的に静脈内に点滴される。さらに、血液脳関門があるので、血中のオキシトシンは脳内へはほとんど移行しない。従って、オキシトシン入り香水やオキシトシン・サプリメントに、その効用として書かれているような「相手の信頼をかちえて商談を成立させる」とか「愛情を深め、夫婦げんかを鎮める」というような効果があるとは考えにくい。こういった疑わしい商品が氾濫している状況だからこそ、正確な情報を得ることが大切だ。そのためにも、本書は役に立つだろう。
中には、実際には成分として期待される量のオキシトシンを含んでいないバッタモンもあるわけで、そもそも実効性が確認されていない品物に大枚をはたくのは感心しない。
【オキシトシンの増やし方】
それよりそれより!!
■体内オキシトシンの増やし方あれこれも、紹介してあるのだよ、この本は!
変な薬を買うよりは、この本一冊読んだほうが、どれだけ癒しのコストパフォーマンスが良くなることか!!
抱きしめること。マッサージすること、してもらうこと。適度な運動をすること。キュートな物に接すること。肌触りの良い物を選ぶこと。
・・・あ、肌触りに関しては記されてはいなかったかな。いや、こないだこんな記事を見かけて、あーありだなー!とえらく感心したので、つい。
世界にただ二人? 肌触りで感情が揺さぶられる
2008/12 New Scientist First cases of touch-emotion synaesthesia discovered
触覚-感情の共感覚事例、初めて発見される
デニムは、うつと嫌気、役立たず感覚を引き起こす。
コーデュロイは、混乱を引き起こす
そしてシルクの肌触りは、完全な満足をもたらしてくれる
「そういえば、シルクってありだな!」とさっそくシルクの下着を注文したんだ。いまどきはオンラインでけっこう安く手に入るんだね。確かにキモチイイし、安心する。

抱きしめ感のある衣服もいいね。
昔、生まれて初めてずっしり重めのデニムジャケットを着たとき、しっかり守られているような感覚に包まれて、すごく安心した覚えがある。
歯医者さんでも、不安がる子どもの患者さんを安心させるには、抱きしめ感覚を与えるどっしりしたベストを着せてあげるのがいいらしい。
そういえば「メンズブラ」も、抱きしめ効果でオキシトシンを出させて殿方を癒す、すぐれものグッズなのかもしれない。
子どもに八つ当たりする母さんは、オキシトシンが足りないのかもしれない。
子どもに厳しいしつけをしてしまうオヤジも、オキシトシンが足りないのかもしれない。
子どもをかわいく思えない人は、オキシトシンが足りないのかもしれない。
オキシトシン、出さないより出したほうがいいんじゃないかな。そうしたほうがラクになる人が、今は多そうな気がする。

前回の記事:
【その後の関連記事 追記】2009/04 EurekAlert Oxytocin: Love potion #1?
オキシトシンは、プラシーボと比較して、ネガティブな行動に関するポジティブなコミュニケーション行動を増大し、唾液のコルチゾール(すなわち彼らのストレス・レベル)を減らした。
愛情ホルモン・オキシトシンの暗黒面
オキシトシンが多いと妬み心が燃え上がる
2009/08 New Scientist 'Cuddle chemical' may create green-eyed monster

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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