[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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「心の」難事例と絶望感の治療ポイントがずらり!

カテゴリ[科学に佇む2009年] 2009/03/16
◆難事例と絶望感の治療ポイント 治療の壁を越える22の対処法

 『難事例と絶望感の治療ポイント 治療の壁を越える22の対処法』 平井 孝男著 創元社 (2008/09)
>精神科医、臨床心理士として多くの患者・クライエントと接してきた著者が、心の病や絶望感への対処法を具体的に詳述。
>治療者の問題点や病理、薬の使い方なども説明する。

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 いや、すごかった。
 この本ねぇ・・・『難事例と絶望感の治療ポイント 治療の壁を越える22の対処法』っていうタイトルでしょう。自分は「ターミナルケア」の本だろうと思い込んで注文しちゃったんですよ。
 そしたら、違った。そんでもって、なおかつ、中身はすごかった!!
 心の病に取り組み、長年治療に携わってきた著者が、ありったけの経験、段取り、手法の基礎的な要点を、これでもかこれでもかと「治療ポイント」として列挙してくれている! 懇切丁寧、なんとも具体的、しかも施療側だけでなく、当事者・関係者をも射程において、もうありったけの誠意を尽くしてこの本に思いを込めている。
 リンク 平井 孝男 (平井クリニック院長、新大阪カウンセリングセンター長)
 リンク 関西臨床心理のカリスマたち
●右画
 自分の経験を生かしてくれ。この経験によって培った治療ポイントを叩き台に、スキルをアップさせてくれ。危機に陥っている心をたくさん救えるようになってくれ。この経験を生かしてくれ。
 これが絶対の方法ではないし、改善の余地はある、金科玉条を刻もうというわけではない。活用してもらえれば幸いだ。そんな、しかとしたためらいを踏まえた上での、実践への導きなんだ。『難事例と絶望感の治療ポイント 治療の壁を越える22の対処法』には、著者の願いが滴るほどにこもっている。

●自分にばかり問題があると考える人は治りが遅い。ほどほどに他責的になる必要がある。p49
●解決困難を否認する人、反動的に強がりになる人、何もかもあきらめ何も行動しない人より、素直に困難を認める人のほうが治りが早い。
●他者を思いやり、他者を傷つけないでおこうとする人は治りが早い。
●はっきりしないことを「そのままにしておく」または「放っておく」人は治りが早い。
●総じて、早く治そうという人ほど遅くなり、いつでもいいと考えている人ほど治りが早い。
●自分の体験(不安、うつ、幻聴、妄想、離人体験など)を、距離を置いて眺められる人は治りが早い。
●何はともあれ、納得した生き方を目指している人は治りが早い。

... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

●自殺防止の根本はやはり患者と治療者との人間関係にある p121

 うつ病や境界例の場合、自傷行動の場合、面接の時間が終わっても帰らない患者の場合、など、それぞれについてどのように対処するかについても、紙数を割いてある。

●患者・クライエントにとって、見捨てられ感は時に死よりも辛いと感じられる。この辛さを少しでも軽くしようとして自傷行為が行われる。自傷行為によって、辛さが手首の傷の痛さに置き換えられる。つまり、感情的な辛さを具体的な辛さに代えるのである。p125
●自傷行為の背後にある患者の感情を、言葉にすることを試みよう(この言語化が自傷行為対策の最大のポイントになる)。p126


●話し合いが通じにくい場合(自殺企図があった患者の例)p116-117要約

・押し黙ったまま、一言も言葉を発しない患者の場合
 うなずいてくれ、それをきっかけに話し出してくれるまで、段階を踏んでいく

●右画
1:初段階
 「ご自分の意志で来られたのでしょうか?」「大変辛そうですが、お話しできますか?」相手の気持ちをまず思いやる。
 「夜、眠れますか?」「毎日、苦しくないですか?」など、なるべく答えやすい質問を。
 それでもだめなら
2:事情を家族から聞いて:
負担のかからないように「ご家族のおっしゃっている通りですか?」などと、さらっと、しかし思いやりを込めて聞く
 それでもだめなら
3:「これだけ大変だと口をきく気にもなりませんよね」「もう何もかもあきらめきっておられるのでしょうか?」「ここに連れてこられたこと自体がご不満でしょうか?」など
 それでもだめなら
4:自殺の可能性が高い場合、
 患者に対して、「今は話せる状態ではないかもしれませんが、医師としてこの事態は放っておけません」と伝え、家族からの通院・服薬などの世話や監視が無理な場合は、入院を勧める。
 この時点ではじめて、患者が「入院は嫌です」と口を開くこともある。

 このような、まずこれをして、それがダメならこれを試して、それでもだめならこの段階を踏んで・・・と、具体的に段階的に記述してあるところが、たいへんわかりやすい。

 当事者やその周囲の者としては、「こう配慮してくれているんだ こう配慮すればいいんだ」懐疑心を払拭する支えになるかもしれない///ならないかもしれない(舞台裏を読み過ぎるようになってしまうかも)。

p261
 重症例を一例でも経験しておくと、軽症例もよく理解できるようになるが、逆はない [〜中略〜] [重症例は]さまざまな困難を含んでいると同時に、人間が基本的に失ってはいけないものを失っているかなり危機的な事態であることに関係している。
 重症例を扱えば、治療の真実だけでなく、人間の奥深さが見えてくる。

●右画
 そう、いまどきの衆生は、軽症例にさえ出合わないような清廉なお生活をなさっているがゆえに、めちゃめちゃおびえ症かつ人間性に対する無理解症に陥っているんだもんね。重症例どころか、軽症例であっても排除抹殺するんだもんね。人間の奥深さを見てないんだもんね。ああ、そんな人間の奥深さなど、見たくもないのかもしれないけれど、でも、ほかならぬ自分が重症例に陥ることを想定していないからこそ、無理解症をやってられるんだもんね。

 排除は、安全を願うのであれば逆効果だ。人間の奥深さに対して、タフであるべきだ。でないと、交渉する力や、彼我を救う力が、萎えてしまう。

●筆者が治療において最も危倶し、また実際に困らされているのは、患者・家族が「身体病と同じように、心の病にも身体的実体が明確に存在する」と誤解し、治療を医者まかせにしてしまうこと p23
●治療困難点の発見・観察・対処法でいちばん大事なのは、患者との「波長合わせ」や「共同探求」(共同作業)
 この波長合わせと共同探求は容易ではなく、すべてが応用問題で、千変万化の様相を呈します p2

 この本『難事例と絶望感の治療ポイント 治療の壁を越える22の対処法』を読むことによって、心の治療現場の実感をより深く掴めるかと思う。
 丁寧な先達の知恵。 濃い経験と重い思い。 人間を、見る力。

 いやー、しかし。なんでこの本、タイトルに「心の」とか「精神」とかの気配がいっさいないんでしょうか。『難事例と絶望感の治療ポイント 治療の壁を越える22の対処法』これでは・・・。いや、自分そそっかしいのが悪いんだけど、でもそれでもやはり腑に落ちないぞ。
 この先生・平井孝男氏は既存の著作も多く、かなりファンというか、その道ではフォローしている人々が多いらしいようなので、「心の」とか「精神」とかをつけずとも、平井孝男といえばこの手の本、という暗黙の了解が大きいのかもしれない。
 まあ、その「心の」とか「精神」とかの気配がなかったおかげで、たまたま拝読する機会を得たのだけれど。ある意味、怪我の功名?

 なお、タイトルには「22の対処法」とあるけれど、実際は全然そんな程度の数じゃない、かるく100は越える山盛りのポイントや経験が列挙・収録されている。

 一度、このような重い本を読んでおくといい。
 そうすれば、軽症例もよく理解できるようになる。
 (もっともっと重い本はたくさんあるけどね)





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