[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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マーシャル諸島から世界の被曝者へ

カテゴリ[科学に佇む2005年] 2005/11/06
放射線はヒトに呪いを浴びせるのだろうか。
文化を越えてヒバクを語るときには、呪いの援用は有効なのだろうか。

◆マーシャル諸島◆マーシャル諸島
 本ミニ『マーシャル諸島 核の世紀 1914-2004 上』 [bk1]
 本ミニ『マーシャル諸島 核の世紀 1914-2004 下』 [bk1]
 豊崎博光著 日本図書センター 2005年6月

 核実験で、血脈も伝統も暮らしもズタズタにされた、太平洋マーシャル諸島の人々。
 マーシャル諸島の歴史は、まずほかならぬ日本に翻弄されたくだりから記述されていく。
 p.101に挙がる「ズーセオリー(動物園政策)」には背筋が寒くなる。
 政治が、大国が、弱者を、マイノリティを、保護区と称する荒れ地に幽閉し飼い殺しにして放置する、みたいな。
 ※しいたげられるマイノリティ→ 『環境正義をめぐる闘争 米国先住民族と核廃棄物 』

 放射能の害(放射線障害)、それは事故であることもあるが、善意や悪意でもたらされることもある。
 核実験海域の島民、核実験地区の地元民、ウラン採掘従事のマイノリティ、モルモット扱いされた軍の兵隊、原発事故、さらにはわざと放射能を注射するという無断の人体実験まで…!

『マーシャル諸島 核の世紀』前書き v
 本書では次のような表記の方法をとった。
1 アメリカの原爆投下による広島、長崎の被害者は従来使われている「被爆者」と記した。それ以外の被害者は、主に放射能と放射線にむしばまれていることから「被曝者」と記した。


 日本の被爆者には厚い意味の層、それもローカルな<呪>がごったりまぶさって居るような気がする。
 ローカルな<呪>は、昭和の国内ではすごく強く動作していたような気がする。
 でも、今夏各テレビ局が放映していた核関連の番組を見ていて、あれ?と思うところがあった。

 ロンゲラップ島(マーシャル諸島)が取り上げられた。
 アメリカ国内の被曝者にも言及された。
 中東の劣化ウラン弾被害もレポートされた。
 <呪>が変わってきたのかな、世代と言っていいのか、「日本の」という呪が緩解して、言説が交替しはじめたのかな、と感じた。
 ローカルな<呪>ではなく、日本が・被爆者が・云々という枠ではなく、もっと大きな”放射線障害を被った弱者(マイノリティの声)と国際的な力関係”のようなくくりが風通しよく見えてきた。

...以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

左サムネイル ローカルな<呪>でローカルな感情の罠に拘泥していたら、国際的な動きには連結しづらいことはわかる。実際連結しづらかったし、でも国内の当事者の心情としては、ローカルな<呪>で自分の位置を把握するしかなかったんだろう。
 ひとつまた違うフェーズに入ったのかな、みたいな印象を今夏のテレビ報道から受けた。
 昔『ザ・ディ・アフター』などがもてはやされた当時にも、なんかこんな「ひと皮むけた感じ」がしていたっけか。


 『マーシャル諸島 核の世紀』を読んで、ああ、もしかしたら、今夏の風向きはこの本の出版(2005年6月)がなんぼか貢献していたのかもしれないな、と連想してみたり。

ライン

 放射線障害。核の被害。
 これはある意味 DNA検査の横暴さ に通じるものがあると思う。
  → 『遺伝子検査は本当に正確なのか?』
 遺伝子検査も、放射線被害の調査も、権力を握っている側に検査力が偏っている
 権力は判定能力があるほうに偏在する、この事実。
 実際、ロンゲラップ島の人々は数十年経ってもおのれの正確な被曝線量の推察もままならずにいる。

ライン

 <呪>。
 ローカルな<呪>。
 放射線障害のような「正体不明の意味」は、穢れ観念(日本)やマナ(太平洋諸島)などに親しんでいる文化では、<呪>にシフトしやすいのかな、という気も、読んでいてあったり。
 どうもロシアやアメリカの被曝被害者の言葉を見ていると、なんか<呪>とはほどとおいような鈍感さ(逼塞観がない、サラリとしている)を感じて…。

 そして、今夏の被曝報道@テレビも、ローカルな<呪>を越えたサラリ感があった。
 風通しのよい、国際的に協調した動きが作れそうな、サラリ感。

ライン

 いろいろな被曝被害の元凶として沙汰されやすいのはアメリカだけれど、やっているのはアメリカだけじゃない。
 ニュークリアー・レイシズム(核開発による人種差別)はさまざまな国で起きている。
p.457-458
フランスは、レガヌ実験場で大気圏内核実験を四回、イネケールで一三回の地下核実験を行った。地下核実験では山崩れが起きて、山の穴に避難していた多くのトアレグ [トゥアレグ] の人々が死んだと聞いている。サハラ砂漠での核実験は一九六〇年からアルジェリア独立後の一九六六年まで続いた。
{中略}
一九六三年から六九年にかけて、実験場の周辺地域を遊牧していたトアレグの人々と家畜の多くは全滅した。また、実験場の周辺地域に住んでいるトアレグの人々と、当時フランス軍に雇われたトアレグの人々の中には子どもができない者が多く見られている。女性たちには死産と流産が多く見られ、ガンにかかっている者も見られる。
{中略}
 もうひとつは、中国の核実験による被害に関してで、新彊ウイグル自治区からカザフスタンに移住したウイグルのアザト・アキムベックが報告した。

 ロプ・ノール実験場は一九六三年に建設され、その後三〇年間に地上で二二回、地下で一一回の核実験が行われ、約一二万人の人々が死んだ。死んだのは地元ウイグルの人々と、カザフ、キルギス、東トルキスタンの人々である。ロプ・ノール実験場の南東三〇〇キロのウシャクタルには死刑囚や終身刑囚など約四万人が入る特別収容所があり、核実験のたびに人間モルモットとして爆発現場に連れて行かれた。

 12万人! なにこれ。
 ほかにもロシア、イギリス、インド、パキスタン…

 なのに、なんとなくアメリカばかりが核の悪者という印象がある。
 これは広島長崎のせいだろうか?
 それとも、
 医学史・科学史的な悲惨な事例はアメリカで目立つような気がするけれど、これはアメリカが
  よかれあしかれやれることはやる、隠蔽しない
 からかもなと思ってみたり。
 やれることはやってしまうし、何をやったか調べて反省もする。
  What can be done will be done.
 日本含むヨソの国だと、あそこまでがっちり開帳しましょうみたいなあばきも反省も、やれてはいないんじゃないかと。アメリカ以上にばしばしひどいことが知られぬままにやられちゃってるんじゃないかと。戦犯、人体実験、ハンセン氏病、強制堕胎、障害者虐待、搾取・人災の積み重ね…
 → 『時代の不幸・時代のくびき』


暗BG

 『マーシャル諸島 核の世紀』は上下巻あわせて1200頁以上というものすごい労作。
 あまたの悲劇、苦渋、暴虐を、時系列で淡々と記述していて、当事者の言葉も多く引いてあり読みやすい。
 悲劇を語って読み手の感情を揺さぶるのは簡単なこと、でも感情操作に走ると読み手は事実を正しく認識できなくなる。
 事実をどう解釈するか、どう表現するか。
 適切に読み解けば、ものすごい悲劇の羅列であることは容易に察しはつくし、そこを抑えて淡々と記すことはそれなりに適切な「読み手への情報伝達」だと思う。

 個人的には写真が欲しかった。写真というリアルさが欲しかった。
 地図もないし…。
 情報量のすばらしさは目を見張る。

関連する主題の書籍:読み合わせるとさらにgoo
covercover
本ミニ 「プルトニウムファイル 上」  「プルトニウムファイル 下」
 アイリーン・ウェルサム/著 翔泳社 2000年(1999/The Plutonium Files)
 数々発生し、数々行われてきた放射能に関する人体実験!
 無断で放射能を注射された人、職務で放射線を浴びに行った人…
 あまた情報と事例が記述されているのだが、それをどう受けとめればいいのか解釈指南は少ない。
 人間の生命とは、本来はこのようにうすっぺらく安価なものだったのかもしれない…!?


ネット ビキニ水爆実験 被曝者はいま  Takashi Morizumi
ネット 豊崎博光(とよさき ひろみつ)略歴  築地書館
ネット 水爆ブラボー爆発の証人、ジョン・アンジャインさん亡くなる  豊崎博光

米、マーシャル核実験被害者らへの医療援助打ち切りへ
2003/12 【日本語記事】asahi.com : 健康
 ネット 記事のコピー @Yukino



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