[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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解決方法の性差、教育の男女差「女と男 2-b」NHKスペシャル

カテゴリ[科学に佇む2009年] 2009/03/08
■NHKスペシャル シリーズ『女と男』最新科学が読み解く性 

 今回は、シリーズ『女と男』リンク 第2回 「何が違う? なぜ違う?」 (性差医療/脳性差/学習や選択の性差)についてとりあげます。

これまでのぶんはこちら。


〓〓〓 EP 〓〓〓

■NHKスペシャル 2009年1月12日放送
 シリーズ『女と男』最新科学が読み解く性 
 リンク 第2回 「何が違う? なぜ違う?」

■どこが違う? 女と男の脳

アメリカ 国立精神衛生研究所
 児童精神医学部門 脳画像研究チーム ジェイ・ギード

子どもの脳の成長を研究する長期プロジェクト:4歳から18歳まで2年ごとに脳の成長を追いかける
 脳成長の性差が顕著に見られる箇所2つはこれだ
  右の海馬:思春期で女のほうが大きくなる
  扁桃体:思春期から男で顕著に大きくなる


はい、この手の「脳の性差/心の男女差」についての情報は、
 → 情報記事倉庫『 脳性差: 脳の男女差、心の男女差ってどんなもの? 』
にたくさん並べてありますので、ご参照下さい。

●ハーバード大医学部精神科 ジル・ゴールドステイン
 MRIで成人男女の脳を調査したところ、大きさに性差が見られる脳部位は10箇所以上
 さらには、脳に関する病気においても、男女差があるのです
 13歳以上では、女のほうがうつ病の発症率が高め
 55歳以降に、アルツハイマー病を発症するリスクは、女が男の2倍
 自閉症は、男が2.5倍


病気の性差に関しては、記事集積庫はこちら。
 → 情報記事倉庫『 性差医療、性差医学 男女で違う治療方法 』
 痛み止め薬や抗鬱薬のききやすさに性差があるよ、とか、臓器移植は異性間では行わないほうがいいんじゃないか、とか、夜勤や寝不足は女性のほうでダメージが大きいとか、いろいろな知見を閲覧できます。

 で、番組において、まず「身体的な性差」を枕にもってきたのは、
 ●男女で身体が違うのはあたりまえである。
という否定しがたい刷り込みをかけて、
 ●なら、心に男女差があってもおかしくないだろう
と、説得の基盤をこさえる段取りにしたのだと思われ。
 とりあえず「身体的な性差」については比較的さらっと済まされて、重点は後半の「心の性差」の紹介に置かれていたと思う。まあ、重点と言っても、番組第一回と同様に、かなり予定調和方向にズバズバ話を省略して、むやみにわかりやすく凝り固めてあったのだが。

◆話を聞かない男、地図が読めない女
●千葉大学
 空間認識力(空間認知)は、男が有利
 言語は、女が有利

●カナダ・レスブリッジ大 デボラ・ソーシャー
 女は地図が読めないのか?
 宝探しごっこをさせてみると、男女で顕著な能力差が見られる
  方角と距離のデータを元にした宝探しごっこでは、男の勝ち
  目印を次々に指示していく宝探しごっこでは、女の勝ち
 空間情報処理能力は、狩猟生活に由来するのだろう
 男は、目標が定かではない探索の末に、獲物が腐らないよう早く家に帰ることができれば、生き延びる確率が高まる
 女は、毎度の定住地近辺で採集生活をしていた
※ しかし、もうちょっとデリカシーのある表現はできんもんかね

 はい、ひところ流行った 『話を聞かない男、地図が読めない女』 のパターンですね。
 この話はずいぶん有名になったけれど、まだまだ研究し尽くされているとは言えない。

 目印を利用するとき、どんな脳力を使っているかは判明していない
 仮説の一つ:言語能力を使っているのではないかと思われる


... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

■知られざる脳の戦略

 「自分の得意をじょうずに生かせば、そもそも能力には差はない」
カリフォルニア大アーバイン校 リチャード・ハイアー
 知能検査に使う脳部位の性差
 男は空間認知用の部位が活性化
 女はそこは使わず言語野を活用
 男女で異なる脳のネットワークを使って、同じ問題を解けている

脳の性差ができたのは、狩猟採集生活の中で確実に食糧を手に入れるためだった


※ と番組は言い切る
   ここで「女脳」「男脳」の呼称も使っている


 「進化の経緯は違っていたのに、問題解決能力は女も男も変わらないのです」


 つまり、
・問題を解決する際に、得意となる手法は男と女で違っている。
・それぞれに得意な方法で取り組むことができるなら、それぞれに良い成績をおさめられる
・合わない方法でやれと言われた場合、得意な方法のときより成績が悪くなることがある
という確認をまずさせている。

 そして。
 その「得意な方法」の個人差についての知見を、教育にどう応用するかという話が始まる。

●右画
■違いをどう生かすのか

●フロリダ州 ウッドワードアベニュー小学校(この地区の平均的な公立小学校の一つ)
 4年前から、共学クラスとは別に男女別クラスを選べるようにしている
 アメリカの公立学校は教育の機会均等を保証するため共学が原則だった
 2002年新法「落ちこぼれを作らないための初等中等教育法」
 学力向上のために同性による学校やクラスを設置する「選択肢」が認められた
男子:国語の授業「読書」好き勝手な姿勢をとらせて集中力の途切れを防ぐ
 ぼくは誰なのかがわかるようにふるまうよう意識して授業する
 敢えて命令口調で競わせやる気を高める
女子:上下関係をはっきりさせず協力的なペア作業を重視する
 男子ではすぐ喧嘩になるので無理
共学ではうまく行かない授業法も導入できる

シカゴ 男女別クラス実施報告会
 男女別授業を取り入れている学校は全米で500校余


 このくだりを視聴した人の中には、
・まだ全米でたったの500校じゃないか!
・男女別の教育など、性差別だ!

などと吹き上がっているケースもあったようだけれど、よくよく見て欲しい。
 これは、「男女別の教育」の話ではないんですよ。
 番組は、性差を強調する流れの中で、この教育方法を紹介してしまったので、「男女別教育だ」という印象を与えてしまったようだけれど、これは「男女別にする」という話なのではなく、「共学クラスとは別に、男女別クラスを選べる」という話なのではないか。性別で押し付けられるのではなく、「共学か/女向けか/男向けか」どっちのクラスがいいかを、本人が、自己責任で、選べるのではないか。
 教育者が生徒の性別で区別をするのだ、という話じゃないんですよ。

 しかし、自分でクラスの種類を選べる、という段階にいたるには、まずもって「差別意識」が解消されていなきゃならない。
 日本のような「女のくせに」「そんなの男じゃないでしょ!」「出席簿の男女別是非はどうなんだ」レベルでフツーにグダグダしてしまっている性差別大国では、男女別教育なんざ速攻で差別醸成の温床になってしまうだろう。「男女別クラスを_選べる_」と提示されても「男だけ/女だけ」だと短絡して受け取ってしまう時点で、もう終わっているし。

 → 『 男の子の脳、女の子の脳:だまされるなよ 』 性差別教育を陰謀する人々

 アメリカでも完全に性差別意識が完全に払底されているとは言いきれないけれど、少なくともクィア(性的アノマリー、代表例は同性愛者)に対する尊重の度合いは日本とは段違いだ。

この箇所へのリンク【自由クラスではいじめが減る】


 なお、「クラス分け」が他人によって決められ、自分で選ぶことができない場合、イジメの発生率が高まるという報告がある。
 クラス分けがないとか、自由にクラスを移動したり選んだりできるシステムであれば、関係性が固定されないので「逃げ場のなさ」「追い詰める楽しみ」などのようなイジメドンヅマリが発生しにくくなる。
 同様に、男クラス/女クラスが固定式で実行されれば、このドンヅマリも発生しやすくなると思われる。

 ●● 『あなたの脳みその性別は指の長さしだい?』 「男脳」「女脳」という差別に気をつけろ

 脳の個性を生かしたいと考えるのであれば、男女脳ではなく、共感脳/システム脳のような、性別に直結しない形のクラス分けを「自由に選ばせる」のが正解だろう。アスペの女子はシステム脳のクラスでリラックスするだろうし、フェミニンな男子は、共感脳の学級でばりばり才能が伸びると思う。
 そもそも、欧米の男女別教育は(中には性差別をする意図の言説もあるけれど)、元は男女を区別する目的のものではなく、性的多様性や個人の多様性を認めるという文脈のものではないか。

 → 『 男脳と女脳、共感脳とシステム脳 』 脳の個性を見いだそう

関連記事 追記:

挑戦を受けている男女共学
 2009/04 【日本語記事】東亜日報@韓国
男女別のクラスで成績が向上した男子の多くが、男女一緒のクラスでは注意力欠乏過剰行動障害(ADHD)と診断されていた。
男女分離クラスが、学業習熟度の向上に有利だという研究結果が殺到すると、米政府は06年、「男女分離授業の禁止」原則を撤回。多くの公立学校が単性学校や男女分離授業へと転換。
米国では男女共学の廃止を求める単性公教育協会(NASSPE)が猛活躍を行っている。
韓国では、男子生徒の保護者らの間で男女共学に反対する声が高い。女子生徒が内申成績の上位圏を総なめする現象が、男子生徒の保護者らの心配をあおり、男女共学の廃止論に一役買っている。


〓〓〓 EP 〓〓〓

 さて、番組は学校での「問題解決方法の性差」エピソードを紹介したあと、企業間の商談や問題解決においても性差は鍵となる場合があるのだ、という話に進んでいく。

■企業の場合

●男女差アプローチを取り入れている【デロイト社】
(経営コンサルティングや監査業務を請け負う企業:世界に15万人の社員を擁する)
 男は、一つのことに注目し、それを解決するために優先順位をつけようとする
 女は、複数のことを同時にやりこなしながら、決断する
 同じ問題でも、異なるアプローチでそれぞれに適切な答えにたどりつく
 これは、やり方が違うという話であって、能力の程度が違うというものではない


 問題に直面したとき、どのようなルートを使って解決を求めようとするのか、その脳のクセを大きく大別してみると、共感脳タイプとシステム脳タイプに分けることができる。それを、番組は「性差」だと性別に直結させて打ち出しているので、下手をすると「女性相手の商談は女性向けの方法に限る!」と短絡されるかもしれないけれど、女性の中には「男性向けの商談」のほうを好むタイプの人もいらっしゃるので、そこはぬかりのないようお願いいたします。

→ 『 心の男女差、病の告知(物語のインポート)』
 ┗ 医療と患者の信頼関係にも、脳の個性は大きく影響してくるのだ

新たな仕事の提案をする場合:どんなチームでどんなプレゼンをすべきかは、ターゲットが男か女かで違ってくる

●顧客が男である場合:
 地位の高い人間を赴かせ、いきなり最高のプランを提案する
 「御社の状況に最適なプランはこれしかありません!」
 オンリーワンを打ち出すほうが、納得してもらいやすい

●顧客が女である場合:
 「唯一最高の提案」という高圧的・専制的な持って行き方は避ける。
 実際の担当者を可能な限り多く参加させ、顧客には結論に至るまでのプロセスに参加している感覚を与える
 「5つのポイントを御社と共有することから」のような、問題共有、取捨選択、試行錯誤の「参加感」を醸すほうが、納得してもらいやすい

 この方式で【デロイト社】は業績が向上した上、女性の退職も減少し、より働きやすい職場になったのである


 ここで前提になっているのは「女性が重要な役職に就いている」場合にどうするか、であるんだけれども、日本ではまだ女性の(重要な決定権限を持つ)重役さんは少ないよね。昔に比べれば増えてはいるようだけれど。

●● 『危機的状況のリーダーには女や黒人?』
 ┗ 都合の悪いときだけ、重要な役を振られる女たち

 番組は、再び学習の現場に焦点を戻して、締めくくられる。

●デント中学校(サウスカロライナ)
 数学の力を高めておくために、女子クラスを選択した生徒の事例
 女子用の数学の授業では、複数の解き方を示し、好きな方法で解けと提示するのだ


 女子と数学の関係については、たくさん話がございます。
 → 2008/04 『偏見が女を縛る:数学の才能は女にもたっぷり』

 教育の話になったところで、ここでこんな報告はいかがでしょう。
講義型と体験実習型 どっちの科学教育の勝ち?
 実際は大差ない
 それより教育者の態度、技量、カリキュラムのできばえのほうが影響大だよ
2009/02 EurekAlert Teaching science: Is discovery better than telling?


 たとえ、脳の男女差や、脳の個性があったとしても、それを覆いつくすように大きいのは、実は「先生の教え方の良し悪し」だったりする。

挿画


 さらには、先生自体も、性差別の影響を受けていたり向き不向きがあったりする。

 → 『 男?女?先生の性別と、生徒の成績 』 生徒が持つ偏見が先生をつぶす

 形を作れば終わりってわけではなく、「ちゃんと教えることができているのか」そこから見ることをお忘れなく。

◆『共感する女脳、システム化する男脳』




※ 当該番組は、細かい理解や応用はめんどうだという脳力の少ない人向けのファーストフード番組だろう。
 止揚している人間には何を今さらの無駄知識であろうし、「わかってないやつはこんなレベルにも達していないのか」という現状確認用の釣り番組でもある。


※ 個体差・個人差は、大きいほうがヒト社会の可能性は広がる。
 伸びることをヨシとしない貧弱な状況なら個体差・個人差を抑える社会が発達するんだろうが、今の状況はそうではないだろう。
→ 『 文化心理学からベーリンジアを望む:文化の爛熟期 』

〓〓〓 EP 〓〓〓

この箇所へのリンク【その後の関連ジャンルの記事:追記】

■『男の子危機』と性差別
2009/06 PhysOrg What about the boys?
 Judith Kleinfeld 曰く、男の子は不当な扱いを受けている
 アメリカの男の子は学校からドロップアウトしやすく、自殺、早死に、外傷、非行の率がやたら高く、読み書きの能力や成績がかんばしくない
 女の子は、うつ病や自殺念慮、摂食障害などの問題に見舞われている

※ 『六次の隔たり』の仮面をはぐ 科学者 Judith Kleinfeld ジュディス・クレインフェルド





これまでのぶんはこちら。


メタル

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筆者:雨崎良未
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