
『いのちの種を未来に』
野口 勲著 イラスト:楢喜八
SEED BOOK 創森社 (2008/8/22)
> あまり知られていない現代の野菜の種の不都合な真実、種屋業界のないしょ話
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種屋さんが書いた、「野菜のタネ」業界の裏話、ばくろ話。
小規模かつローカルな種屋がどんどんつぶれていき、大手が市場を席巻してきた種業界の歴史と、タネの未来。
栽培に縁の深い人には、もしかしたらこれらはごくごくアタリマエの話なのかもしれない。いや、でも、「あまり知られていない現代の野菜の種の不都合な真実」とうたうからには、実際ふつうに「へぇ〜!」していいんだろう、おもしろい業界裏話が満載だ。
●流通する種の主流である「F1種(一代雑種)」のしくみ。
【特に「雄性不稔」という技術を使ってつくられたF1種は、次の世代の種を遺すことさえできず、多様性のかけらもありません。p.21】
【F1種は、生育スピードが早く均一であり、形状もそろっていて歩留まりが良いため、野菜の大産地にとってはたいへん都合良い p.19】
おかげさまで、今や日本のどこでも同じような野菜ばかりが作られている。みんな毎日大量生産の「F1」野菜を食べているんだ。
各リンク先より:
★ 野菜の種にはF1種(交配種)と在来種(固定種)があります、今の種はそのほとんどが交配種(F1種)で、在来種を見つけるほうが難しい
★ 在来種を栽培しても、現在の市場では流通しないため、農家は生計をたてるためにF1種を栽培する
★F1品種から種を採ろうとしても採れません。採って植えたとしても、同じ作物は出てこないのです。
この不思議な「F1種」の性質についても、本書『いのちの種を未来に』は詳しく説明してくれている。
●「F1種」におされて、伝統野菜や地域に根ざした「固定種」たちは、衰退・絶滅の危機にある。
ネット上を見てみた感触では、ナチュラル志向さんたちの中には、このF1種は不自然で危険で陰謀に満ちた恐ろしいダークフォースものであって、ナチュラルで健康的な固定種の敵なのだ!みたいなミナシをしている人々もいるらしい。
... 以下つづき...

何より、この本『いのちの種を未来に』は「固定種」のタネをウリにしている種屋の社長さん自身が書いているんだ。違う立場の人が書いたのであれば気にせず読めるところを、どうも「固定種」バンザイ、うちの商品バンザイ、「自己宣伝/自社宣伝」用のご都合本だということが否定しきれない姿になっている。加えて、この本を礼賛する読み手には「F1種は恐い、固定種で地球を救え!」的なぶっとび盲信者さんたちが多くいらっしゃいそうで、どうもヒイてしまう。
そのへんは、マイナス。はっきり言って、扱いに困った。逆の視点の本も読んで、中和したほうがいいんじゃないか、もしくは著者の別の立場の人との対談を読みたいな、みたいな。
で、そのマイナスをさっ引いても、自分はこの『いのちの種を未来に』は面白いと思った。たっくさん「へぇ〜!」があったんだよ。だからね、上のようないいわけを前置きにして、敢えてご紹介。
●火の鳥
著者のお店は、【たぶん日本でいちばん小さな種屋 p.21】なんだそうな。おもしろいことに、この著者さんは「虫プロ」出身。その関係で、お店のトレードマークは虫プロ公認の「火の鳥」。

●通販
この地域に根ざした貴重な「固定種」のタネを扱うお店は、タネ業界のさまがわりにたちうちできず、今やネット販売をメインにしてようやく生き延びているような状態。メインストリームではない位置から種屋業界を見続けてきたぶん、分厚く興味深い話をたくさん抱えていなさる。
お店の名前は 「野口のタネ・野口種苗研究所」 。名前の由来もきっちり紹介してある。p.64
●種屋的慣習
種屋さんたちは、古来の権利感覚にのっとっているというかなんというか、ヨソサマが開発した種であっても、勝手に自分とこの種として売ってかまわない、という感覚が通例なんだそうな。p.57
例えばこれって、お向かいのおうちに咲いていた花から勝手に種を取って、自分ちで増やして売る、みたいな感じ。日本のコメを勝手に持って帰って、大規模栽培して日本に輸出する、という貿易戦略にも通じるものがあるのかな。
●種屋さんが減ったわけ
40年代からのF1種の普及と、ホームセンター(種を扱う量販店)の登場が、大きく影響したらしい。
お客さんは大規模流通に適したF1種ばかり買うわけで、従来の「固定種」野菜たちを扱っていた小規模種屋さんはバタバタつぶれていってしまった。p.54
●偉い人はF1は食わない?
農産物のコンクールは、選出基準が「見栄えと均一な生育」。F1種はその点に秀でているのでよく受賞するのだが、味では固定種の方が大きく優る。市場にはおいしくない受賞作F1が出回ることになるのだが、コンクールで受賞作を選んだ当の委員たちは、受賞作ではなく、受賞しなかったおいしい「固定種」をそそくさとお持ち帰りになるのだそうな。
(p.34)(固定種は育ちにバラツキが出やすいので、コンクールや大規模流通ではたいへん不利。でも、味はバツグンなので、小規模な家庭菜園などにはオススメなのだそうです)
●自給率にタネは含みますか?
F1の種を作るには、たいへんな手間がかかるらしい。人件費がハンパないことになるので、大手企業でないと採算がとれない。そして、今や野菜の種の多くは、人件費の安い海外で実らせてから、日本に送っている。
タネの原産地を表示させたならば【京都の「九条ネギ」は南アフリカ、「聖護院ダイコン」はイタリア p.58】てな始末になるんだそうな。
・・・ふと思うのだけれど、食糧自給率を上げろ上げろと頑張っている中に、「タネの国内生産」は含まれているのだろうか? タネは海外で作ってもらって、栽培だけを日本国内でやってしまえばそれは自給率の中に計算されてしまうのかな?
●古種、古々種だった?
いまや海外で取るようになった野菜の種だけれど、日本にはうまく撒き時に届くとは限らない。古米、古々米、という言葉があるけれど、海外との季節差の関係で、市販されている種には去年どころか、一昨年、一昨々年の種が普通にあったりするのだそうな。p.59
●林業の衰退も、種のせい?
海外で種を取るようになる前は、山間部の林で区切られた農地で、花粉が混じらないようにして種は採取されていた。そんな種取り農家さんが、林業も兼ねて山を守ってきてくれていた。
それが、採種は海外でやるようになってしまった関係で、種取り農家さんが廃業。山も荒れて、林業が衰退していってしまった原因の一つには、この「種の国内生産をしなくなった」こともあるんだそうな。
p.61
などなど、ほかにも面白い「へぇ〜」大連発。この不況のおり、春を迎えて家計の足しに家庭菜園を、なんてな気分におなりだったら、この『いのちの種を未来に』はオススメ! 思いきり「野口のタネ」屋さんの回し者状態です。

ところで、この本の中、おりおり
【三年目ぐらいからこの土地の栽培になじんできて】
【自家採種を三年も続けていけば、その土地に合った野菜に変わっていきます】
という記述が目につくんですが。ヨソの土地の固定種を持ってきて植えると、2〜3年は暴れるのだと。収量が落ちたり、作柄がバラバラになったり。それが、2〜3年でデキが安定してくるぞ、と述べている。
あくまで、これは経験則の世界であるらしく、理由は「その土地に合った野菜に変わっていきます」くらいしか書かれていない。なんで2〜3年? これは、なんだろう。 2〜3年で遺伝形質自体が変化したわけではないだろうし、人為選択でもそこまでうまくは行かないだろうし。
これは、・・・もしかしてエピジェネ? メチル化がそこの環境に適したものに書き換えられたとか?

当該書『いのちの種を未来に』は「小規模種屋」さんの「固定種」市場からの視点であるとして。
じゃあ、「大手」の「大規模流通」側からしてみれば、どんな視野を見せてもらえるんだろう。
先月のニュース番組で取り上げられていた「大手タネ業界」の情報を添えておきます。
大手のタネ業者は、たいへん数が少ないんですね。寡占?
2009年2月17日 テレビ東京系「NEWS FINE 1部」
ゲスト:いちよし経済研究所 溝口陽子
●最近は20〜30代の若い層にも家庭菜園は人気
家庭菜園用の「人気の種ランキング」をご紹介
サカタのタネ「ガーデンセンター横浜」調べ
第5位 青ちりめんしそ
第4位 ミニトマト「アイコ」
第3位 ガーデンレタスミックス(5種類取り合わせ)
第2位 青首大根「天宝 てんぽう」
第1位 バジル(イタリア料理と相性のよいハーブ)
●種の販売先3種とそれを扱っている上場企業はこれだ
・農家/ホームセンターなどでの小売:サカタのタネ タキイ種苗
・酪農の飼料用:カネコ種苗
企業の有望度は優良な品種を開発できているかどうかが大きい
タキイ種苗の「アイコ」は、登場は83年で長期間トップランナー
株価は内需系ゆえ安定向上
まーすごい。リーマンショック後も、日経平均比であまり株価が下がってないんですね。コンスタントな需要。円為替が上下してもあまり動かない。賭け勝負に使えるものではないけれど、地味に良いディフェンシブなのかも。

「大手」の「大規模流通」側タネ業者による自己正当化のお話を読みたい場合、どんな本があるのかな。
本書『いのちの種を未来に』をアマゾンでポチしたら、その後のアマゾンの「オススメ」書籍リストに「家庭菜園」「自然礼賛」系の本がずらずら出るようになってしまって、ちょっと困っている雨崎なのであった。

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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