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テロリズムを理解する?集団隔離が生む攻撃性と社会心理学

カテゴリ[科学に佇む2009年] 2009/01/23
 オバマ政権の国務長官に就任したクリントン氏は、「フィールグッド」路線を推進しているのだと聞き及んだことがある。
 強圧的に力と罰で統治と平和を目指す「北風」路線ではなく、自然に自発的に操作側の意図どおりに生きてくれるような環境条件を提供することによって紛争なく対話と共生を奨励する「おひさま」路線なのだと。
※  「フィールグッド」路線とは

◆テロリズムを理解する 社会心理学からのアプローチ

 『テロリズムを理解する 社会心理学からのアプローチ』 ファザーリ・M.モハダム、アンソニー・J.マーセラ編 ナカニシヤ出版 (2008/03)

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 「フィールグッド」路線については、本エントリの後段でまた触れるとしてwink、今日はこの本のご紹介。
 去年の出版だけれど、原書は2003年だったか、5年くらい前の内容の本になる。去年は注目の一冊 『テロの経済学』(原著は2007年)も出版されていたわけで、
 → 『 テロの経済学:自由あってこその自爆テロ? 』 :ブクマたくさんいただきました
それとペアにするように当該書が紹介されていることが多いようだけれど、中身には数年分の開きがあるわけで、残念ながら内容的に、実用的に、気持ち見劣りする。(読みづらい訳文も辛い)

 内容は玉石混淆。単著ではなく複数人による論考の寄せ集めであって、中には、テロリストについて全然実証されていない思い込み想定を述べた上でテキトーに西欧側の既存の社会心理学セオリーを押し付けただけ、みたいな先入観困ったdowendowendowen章もある。
 でも、そんなdowenが混じり込んでいることを気にせずに、今改めて邦訳を出す、その価値がある章に注目すると、けっこう使いでがある言説がピックできる。

第5章 ファザーリ・M・モハダム「潜在的テロリスト集団の文化的背景:テロリズムと社会的変化」
あたりはたいへんカッコイイ。goo

 「孤立」「孤立」「孤立」!!
 まず「社会から孤立」していることが、テロリスト集団の性質に大きく作用してくるのだと。

p.126
1:孤立は、自分たちは正義で彼らは悪であるという信念の強化に役立つ
2:孤立は、集団同調や凝集性を維持するための重要な手段
3:孤立で外部からの脅威が誇張されることにより、リーダーの権威が強まる

 「集団が心理的に、あるいは物理的に孤立している場合、世界を「善と悪」「われわれと彼ら」にカテゴリー分けするような世界観につながる」。
 「われわれと彼ら」にカテゴリー分けするような世界観については、こないだ言及したばかりだよね。
 → 『安心社会信頼社会:仲間じゃない者とは?』
 「自分側のグループにいない相手」だと認識すると、大量虐殺でもなんでも平気でヒドイ仕打ちをやってしまえる、そんな性質「ネポティズム」をヒトは持っている。
 秋葉原の大量殺人事件でも、「孤立した」犯人が「自分側の人間でなければ、誰でもいい!」無差別殺人を行った。彼は、自分のことを、被害者と同じ要素がある人間だとは見なしていなかった。
 → 『 「誰でもいい」大量殺人犯の王道10項目 』

●右画
 さらに、「孤立し、反社会的に悪化する」集団の特徴について列挙されている箇所ではこの通り。

p.124(をアレンジ)
1:孤立集団は、意図的に外界から逃避することによって発生したりする
2:ものごとを「善と悪」のようにきっぱりカテゴリー分けしたがる
3:既存の社会を、不当で不正義に満ちている!とみなしはじめる
4:ラディカルな方法による社会変革が必要だ!とみなしはじめる
5:理想社会を実現させられるなら、どんな手段でも許されるのだ、と盛り上がる
6:テロのような行為は、既存の社会をゆるがす良い方法だと考える
7:自分たちは、社会を変えるというスゴイ義務を背負っているのだという自負がある
8:革命的な行為をすることによって、自分たちは成長できるのだと希望に燃えている
9:自分を過大視したり、自我が脆弱だったり、自己防衛的だったりする
10:集団を抜ける苦労をするより、とどまっている方がラクだと思える状況にある

 どうだい? いいリストだ。
 で、よく見てごらん。実はね、テロリスト達は、明るい未来の希望に燃える、積極的で楽天的な人々だったりしてないかい?
 テロリストはネクラで陰湿な極悪人たちなのだと思っていたのだとしたら、ちょっとその認識は改めたほうがいいかもよ。 「テロリスト集団のメンバーは変革に対して楽観的であり、理想社会実現のための闘争に究極的には必ず勝利すると思っている。(p.134 )」。 そりゃそうだよね。テロリストは自分のことをまぎれもない善人だと見なしているからこそ!!どんな苦難にもめげずに理想を目指して邁進する。git
 もう一冊の 『テロの経済学』の内容と合わせて考えるならば、「几帳面で(いいかげんな性格じゃダメだよ)、誠実で、理想に燃えて、生きがいを求めている」人が、ダメな世間を変革するべく意気揚々とテロ組織に参加する(もしくは重宝される)。そう見たほうがいいんじゃないか。

... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

●外界とのつきあい(意見交換)がないと、仲間以外は「敵」「不当」という観念が発生しやすくなる
●仲間とだけつきあっていると、意見が極端になって行きやすい
 → 『 意見の極端化/集団成極化現象って何? 』

●右画
 先日、●● 『どの宗教が死刑賛成?回答しない団体はどこ!?』というエントリを書いたのだが、読み手のリアクションが
 「賛成反対の吊し上げをするのか」
 「こんなアンケートに回答する義務はない」
などという皮相なものばかりで、どうもase2でなぁ・・・
 自分としては、「渉外」をちゃんとしようよ!という話をしたつもりだったのだが、そも、そうか、もしかしたら「渉外」という言葉の意味自体がわからなかったのかな。
 渉外=しょうがい 「外部との交渉をこなすこと」「外部と連絡・交渉をすること」
 どんな意見・見解であってもかまわないが、外部との切り結び方を考えておいてくれと。賛成でも、反対でも、中庸であってもかまわないが、少なくとも外部との対峙は考えてくれと。
 「孤立するな」もしくは「孤立しているように見せるな」。頼むから。
 孤立は、心理的にその集団がまずい方向にドライブするリスクをアップさせるんだ。

 逆に言えば、「あの集団はおかしい」などと外部が彼らを排除するのも、まずいんだ。怪しい者がいる場合、リスクを低下させたいなら、それと積極的に交流をするべきなんだ。排除したらまずい。
 このへん、ふつうに社会心理学方面では常識な話なんだけれど、テロや犯罪者に対する偏見が強い人には新鮮な知見かもしれないのかな。
 お互い意見が違っても、それぞれに自己正当化の理屈が違っても、風通しが良く直に意見のやりとりをするならば、それぞれの意見はお互いを尊重する方向に動くし、共存や互助もやりやすくなる。勝ち負けではなく、ウィンウィンのより良い結果に導かれる。
 意見が違う者との語らいのチャンスがなければ、ヒトの心理に備わっている「あいつらはヒトじゃない」スイッチが入っちゃいやすくなる。それは、彼らもそうだし、世間の自称善人さんでもそうなんだ。「殺人者は人でなし!」「オウムは来るな!」「今どきの子どもは!」「ホームレスは蹴り殺せ!」

 お互いに「知り合い」を作ることによって、「仲間の壁」に穴を開けるんだ。
 「自分の側」ではない人々と、「あんなふうにはなりたくない」と忌避する対象と、どのくらい知り合っているか。その度合いが、偏見の度合いと直結してくる。

●NEWS2009/01 【日本語記事】ワイアードビジョン  「個」の認識は人種的偏見を減らす:研究報告
→ 『 偏見や「ネポティズム」についての情報集 』

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 孤立した集団は、どんなふうに世間とズレていくのか。

●孤立した集団内では、好き勝手に「社会はこんなに不当でこんなに不正義に満ちている!」という妄念が膨らんでいく。外部に対するその妄念が正しいかどうかは、外部から訂正されることはないわけで、どんどんエスカレート。
●スゴイことが起きれば事態は大きく改善されるのだ、という夢が生まれてくる
 これが「奇跡が起きれば」「UFOが来れば」「浄土に行ければ」などであるならまだいいんだが、往々にしてスゴイことが起きるべき対象には、その場の「最も悪い印象の敵」が選ばれることになる。それは「政府が転覆すれば」だったり、「ペットを殺した厚生省のお役人」だったり、「あの国さえなければ」だったりすることになる。

 9.11テロに関して言えば、アメリカは、自国が他国にとってどんなイメージになっているかをコントロールしていなかった、その結果である部分が大きいと、社会心理学では指摘しうるだろう。
 アメリカにまつわるイメージについての懸念は、9.11テロの前の90年代アメリカの識者内でもはっきり認識されている。
1997年にハーバード大学で開催された学会で、少なくとも世界中の三分の二の人が米国を自分たちの社会に対する大きな脅威であると見なしていることを報告した研究者がいた。彼らは米国を軍事的脅威としてよりもむしろ、自分たちの社会の統合性、自律性、繁栄、行動の自由に対する脅威と見なしている。彼らはs米国を押しつけがましく、おせっかいで、搾取的で、覇権主義的で、偽善的で、ダブル・スタンダードを用い、資本主義帝国と見なされても仕方がないような手法を用いている国であり、巧妙な植民地主義で、国内政治のために外交政策を用いるような国であると見なしている。
(p.31)

 わははーyata 日本でもそんなイメージでアメリカを見ていたよね。
 でも、ブッシュ政権はそのイメージを改める方向には動かなかったし、ゆえに、アメリカは自らテロの標的であり続けることを選んだのだ、とも言える。

〓〓〓 EP 〓〓〓

この箇所へのリンク【排除が事態を悪化させる】


●右画
 もう一度、このリストを見て欲しい。

1:孤立集団は、意図的に外界から逃避することによって発生したりする
2:ものごとを「善と悪」のようにきっぱりカテゴリー分けしたがる
3:既存の社会を、不当で不正義に満ちている!とみなしはじめる
4:ラディカルな方法による社会変革が必要だ!とみなしはじめる
5:理想社会を実現させられるなら、どんな手段でも許されるのだ、と盛り上がる
6:テロのような行為は、既存の社会を効果的に不安定化させられる良い方法だと考える
7:自分たちは、社会を変えるというスゴイ義務を背負っているのだという自負がある
8:革命的な行為をすることによって、自分たちは成長できるのだと希望に燃えている
9:自分を過大視したり、自我が脆弱だったり、自己防衛的だったりする
10:集団を抜ける苦労をするより、とどまっている方がラクだと思える状況にある

 まえの『テロの経済学』でもそうだったんだけれど、これらの要素には、「宗教」が専売特許である部分は極めて影が薄い。やはり「宗教」は二次的な要素であって、まずは
  「孤立」「理想」「希望」
がらみの基本的な心理反応があるんだよな。 再々言うけれどテロはイスラムの専売特許じゃない。イスラムでなくても、アメリカが自ら作ったような環境を用意すれば、テロは招かれる。
 単純に「宗教はテロするから恐い」とする言説は、有効性に乏しい偏見である可能性が大きいことをよく認識しておくべし。

 ヒトは適宜こんな反応をしてしまうような性質を抜き難く備えており、しかもその性質を抱えて悲劇を繰り返していても「今まで絶滅せずにやってこれている」。そんな動物なんだ。畜生道紙一重。
 ヒトに備わる「あいつら」を排除する心理は「良いもの」として我々の心に備わっているわけではない。条件によってヒトは「殺人」も「戦争」も「強姦」もしてしまう。そんなあさましくもしがないヒト性質のひとつとして、「あいつら」を排除する心理はヒトにある。
 そこを踏まえた上で、「平和」を求めることを選ぶのであれば、「あいつら」と交流するべきなんだ。自分の側が心理的に「排除すべきだ忌避しよう!」とシグナルを出してしまう相手と、敢えてつきあって悲劇を予防するべきなんだ。


参照→ 『「サイエンスZERO」つきあわないと人の信頼度を見抜けない』

関連記事追記:

社会的排除は攻撃性を引き起こす
2009/01 EurekAlert People left out in the cold may act heatedly toward others
 人間は社会的に拒絶されると、他者の言動に敵意を感じるようになる
 しまいには見知らぬ人にまでとげとげしく突っかかるようになる

2009/05 EurekAlert UAB study finds social support key
社会的なサポートが重要
 ポジティブな社会の支持ネットワークを持つ収容者は、よく改心する


〓〓〓 EP 〓〓〓

 オバマ新大統領は、就任後、速攻でグアンタナモ閉止の手を打った。
●NEWS2009/01/22 【日本語記事】 オバマ米大統領、1年以内のグアンタナモ収容所閉鎖を命令

 オバマ政権は、クリントン氏の「フィールグッド」路線を取り込み、大きく融和と「アメリカのイメージ向上」に向けて舵を切る。
※  「フィールグッド」路線とは
※  「市民はハッピーピッグであることを望んでいる」
 何より、融和のシンボルとして、オバマ氏はクリントン氏自身より的確なポジションにいた。じいちゃんばあちゃんはアフリカ暮らし、ミドルネームはフセイン・・・。クリントン氏の理想の体現に、より近い出自の人物だった。
 「フィールグッド」路線で行こう。どうせたばかるのであれば、支配するのであれば、お互い気持ちよくこの世を過ごせるよう、支配してくれ。
 Yes, we Feel Good!!

 『テロの経済学』では、「平和的な抗議手段を有効にさせる」ことができれば、「理性的なテロ」の発生が防げるだろうと指摘されていた。今までは、アメリカは抗議に耳を貸すどころか、両者有無を言わさぬ強硬路線だった(という印象だよね)。
 オバマ政権は、どこまで道を伸ばせるか、窓を開くことができるか。
 そして、当該書『テロリズムを理解する 社会心理学からのアプローチ』が抱えていたダメダメな点、「肝心の、実際のテロリストの心理やナラティブを研究できていないじゃないか!」にしても、今後は本当にテロを行った人たちに聞き取りを行った確かな研究が行える可能性が開けてくる。

2009/01 EurekAlert Violence and values in the Middle East: Lebanon survey
中東における暴力と価値:レバノン調査
 レバノンのイスラム教徒は中東の他のムスリムより自由で世俗である
 ヒズボラ支持者は、民主的な政治を厭い宗教的な政治を支持、聖職者の絶対主義は政府の礼節なのだと考える
 レバノン市民はパレスチナよりはサウジアラビア、シリア、アメリカの人々と友好的であるほうが好ましいと見なしている


 新しい展開が、いろいろな意味で楽しみではないですか。






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