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実録:ミトコンドリアが進化を決めた

カテゴリ[科学に佇む2008年] 2008/12/01
◆ミトコンドリアが進化を決めた

 『ミトコンドリアが進化を決めた』
 ニック・レーン著
 斉藤隆央 訳/田中雅嗣 解説
 みすず書房 (2007/12)
 [ Amazon ] [bk1]
 原書:POWER,SEX,SUICIDE 2005


 「ミトコンドリアが進化を決めた」。
 この【ミトコンドリア】がらみのタイトルだと、妙な妄想や期待がわいて「これは読んでみたい!」と感じてwktkしてしまった人が多いのかもしれない。図書館のデータをチェックしてみたところ、内容の割に妙に借りたがる人の人数が多いんで、これどうも、ミトコンドリア・イヴとか、共生するエイリアンとか、宇宙的陰謀論とか、nandakana「我々を含めたいきものたちは、ミクロのエイリアンであるミトコンドリアに体内からこんなに影響されている!」めいた「内なる他者」的妄想が、お客さんを惹き付けていそうに思えてあかん。

 たまにネットを歩いていると、ビミョーに「脳内ミトコンドリアを活性化!」「ミトコンドリア呼吸法!」などの、レトロな香りの言説とすれ違ったりするんだよね。その手の話を念頭に置いた人が、勇んでこの本を手におとりになられた場合、どうなんだろうなあ、投げ出すのか、それともさらに確信が深まり鼓舞されたりするのか。そんな下世話なところに興味をそそられたりする。
 
 ・・・原書のタイトルにしても「パワー、セックス、自殺」というかなりキワモノセンセーショナル路線を狙ったものなのだけれど。

 本書は、たいへんよくできた生化学+細胞化学+進化学の、科学の最新成果ご開帳本。
 内容は堅実路線の硬派な話を記しているのだが、味付けは科学冒険話や謎解きへのお誘いに近くストレートに読みやすい。
 細胞化学のおさらいから始まり、核のない細菌から核のある真核細胞への進化的飛躍の謎ときへ。多細胞生物への進化にはミトコンドリアの共生が必須であり、しかも酸素濃度の上昇やメタン細菌の条件準備など、特殊な環境条件が揃ったときのみ、それがなければ細菌を越える生物の発生イベント(つまり今の我々に至る進化コースの発生)はありえなかっただろう、そしてさまざまな面で生物の運命や機能の基盤として存在を誇示しまくるミトコンドリア。
関連記事追記:
2009/01 【日本語記事】時事通信 生物、35億年で2回大型化=「真核」出現と多細胞化で−米独チーム

 有性生殖の発生や、アポトーシスの不思議、老化に関わるミトコンドリア、そしてミトコンドリア病の謎。「もやしもん」のさらなる内奥というか、細菌の中のしくみとその科学の世界を広く分厚く楽しい記述で展開してくれる。
 訳者の技量と配慮もよく効いていて、安心してオススメできる。

... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

 ただし、いかんせん、モノは生化学がベースなんだよね。人間ドラマじゃないし、ヒトのミトコンドリアイブや生き物のおもしろ行動紹介などが出てくるわけでもない。下手すると、ナノマシン設計屋さんの「古代機械のしくみを調べるぞ!」的ノリに近いものがあったりしかねない。
 えーと、細胞のしくみや、分子生物学や、新陳代謝の調査に、すなおにロマンを感じられるかい?
 読者さんが、生物学を「生き物の研究」だと思っているレベルだったりした場合、このミトコンドリア本は、それこそ巻頭から呪文のオンパレードでさっぱり頭に入らずに投げ出してしまう可能性はある。この本の分厚さも、なんぼか手強さをかもしだしている。(ハードカバーで本文450p!)

 逆に見れば、無理して呪文のオンパレードに入っていかなければならない立場の人には、この本は頼もしい力添えになってくれるかもしれない。
 例えば。高校に上がって、生物の授業が急に「いきもののふしぎ」ではなく「ATPサイクルがどうの」という化学な呪文記号の丸暗記になって大困惑した覚えはありませんか。おもきし生化学の乾き具合に「なんじゃこりゃ!」とげっそりさせられた学生さんなんかは、その乾いた壁の奥にはこんなに面白い科学の成果が潤沢に滴っているんだよという、ハードルの向こうで君達を待っている醍醐味を、コンパクトにどさっと提示してくれている本であるわけで、
 (はい、自分は高校生物で窒息死した者です)

 「なんだよそのATPサイクルってぇ奇態な魔法陣はよぉ!」と涙目で夕日に向かって小石を投げた青春の日々。(ウソ)
 いまだに分子生物学はさっぱりわからんもんなー。w

そうだよな、この本は高校生に勧めたいゾ。
 (自分の高校時代にこの本があったら良かったろうな〜)
 しんどいかもしれないけれど、これ一冊読めば、いっぱしの「ミトコン通」になれるぞ! 高校生でも理解可能でありながら、最先端の科学知見と生物進化のミトコンドリア情報が満載だ!
 どうだ? 読んでみないか?
 学校の図書館になかったら、「この本を置いていない高校なんて!!」と嘆息しまくってやろう。

 高校の生化学にうんざりしたら、解毒&カンフルに、本書をどうぞ。
 これほど生き生きとした生化学と進化の本はなかなかございません。

EP 〓〓〓

ついでに、この本の冒頭でキャラが光っていたオモシロ生物:
  リンク ピコプランクトン - ウィキ
  リンク 最小の真核藻類である緑藻 Ostreococcus tauri

以前に記したミトコン話はこちら
 → 2006/05 『 ミトコンドリアを父さんからもらうと病気になる』
   ┗ふつうは母さんだけから、もらうんですけどね。
 → 2008/02 『 ミトコンドリアを入れ替えた人間が生まれている 』
   ┗ミトコンドリアを入れ替えないと、生きていけなかったらしい。





メタル


[カテゴリ 科学に佇む2008年] : 2008年12月01日 
* * *

→ 上掲のお話についてのコメント

0012 #a8h1Tw1o コメントアンカー 木戸孝紀 さんのコメント 【2008/12/02】

ちょうど同著者の『生と死の自然史 進化を統べる酸素』
を読んでますかなーり素晴らしいですね。
思わず大学の分子生物学の教科書をひさびさに
引っ張り出してきて見比べてしまってます。

0659 #MJWiGxv6 コメントアンカー 雨崎 さんのコメント 【2008/12/02】

それはそれは。
「生と死の自然史」の原書
Oxygen: The Molecule That Made the World
Nick Lane
タイトルは直球の「酸素」で、ミトコン本の前の2003年らしいですね。今度図書館に行ったら拾ってこよう。:-)

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