[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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海のカメ、河の鼈、陸の亀、亀卜

カテゴリ[科学に佇む2005年] 2005/10/29
右画
日本の民俗に於いて、「カメ」は何種類の区切りで扱われているんだろう。
「ウミガメの墓」って見たことあります?
 クジラの墓は話に聞いたことはあったけど「ウミガメの墓」は…


左◆表紙
 『海の民俗文化 漁撈習俗の伝播に関する実証的研究』
 小島孝夫編; 明石書店 2005/05 [bk1]
第五章 「漁撈習俗伝播の諸相 − 資源分布と文化受容」小島孝夫

1● 銚子市に残るウミガメの墓・ウミガメを埋葬する慣習と、明治の時代に起きた難破事故との関係を、調査と推理で解き明かす面白さ。
2● 江戸のツチクジラ漁の実態と、現代のツチクジラの漁・解体・流通・消費形態・習俗(千葉県安房地方)についてのレポートも紙数多く興味深い。捕鯨関係でウンチクしたい人にはこのくだりぜひオススメ。

挿画

左◆表紙
 「水と祭祀の考古学」
 奈良県立橿原考古学研究所附属博物館編; 学生社 2005/01 [bk1]

3● 「常世・女・井:神話の土壌」 辰巳和弘
 古墳時代の思考に大きな影響を与えた神仙思想、そしてその顕現を今に伝える水遺構。

4● 終章「飛鳥京の水まつり」 河上邦彦
 飛鳥の有名な「亀形石造物」は、「河のカメ=鼈(べつ・すっぽん)」であろうとの示唆。
 古来、カメは「何かを背負う」姿で表されるのが通例であり、それとは異なって鼈には「背負う」造形はみられないという指摘。


...以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

 カメ、亀、鼈。 陸のカメ、海のカメ。右画

[1●]のウミガメの墓にまつわる論は、着眼点も調査もいたく興味をそそられるけれど、結論がこじんまりとして物足りなさが残る。
 著者は
  ・ウミガメの埋葬は地元伝統の信仰からのみ来ているとは考えにくい
とし、かつてその地で「坂東丸」の海難事故があったという事実に行き当たり、
  ・墓石が残っていない大昔についてはまでは確認できないが、
   明治時代に起きた海難事故がウミガメ埋葬に影響しているのではないか
と説の裏付けを集めはじめる。
  ・当時の最先端漁船坂東丸の海難事故が、ウミガメの祟りだとして
   長く語り継がれたのは当事者が地元の人間ではなかったからこそ。
…そうなのか…? 地元の人間が起こした事故なら表象にはされなかった?
 そこの機序説明がはしょられていて腑に落ちにくい。
 もう少し深くうがち描くことはできないだろうか。
  ・もとより地元の荒ぶる海に対処する心的アブソーバーとして、
   ウミガメはなんらかの表象・禁食対象になるなどして明治より前の古くから
   地元習俗の中で特殊な位置に釘づけられてはいなかったか
  ・ヨソモノが乗る最新鋭の大型漁船、という、機能・流通・所属どこをとっても
   アノマリーな存在(地元の習俗体系を撹乱する存在)が、
   あんのじょう我ら地元の海神に呑みつぶされる。
   そこに、たまたま坂東丸が獲ったオサガメが、
   じつにしっくりくる記号として張り付いたのでは。
※ (オサガメ=熱帯から亜熱帯のウミガメ:そこまで行ける船は坂東丸だけだった)
 地元在来の習俗観念としっくりくる話であってこそ、伝承は長く保存される。
 突出した事件の話は、旧来の観念としっくりくる形に変形されて保存伝承されていく。
 事故の前から、ウミガメはなんらかの特殊な位置を占めていたはず。
 そして坂東丸という侵犯的存在に対して当時の地元民はどう反応していたのか。
 そういう位置関係をもっと見せて欲しかった。まあ、そこまでやると、この本の主旨からはみだしはずれてしまうのかもしれないけれど。

 民俗習俗が撹乱された現場に、妖怪や異形の動物が張り付いた例:
左サムネイル
 佐々木高弘「記憶する〈場所〉 - 吉野川流域の「首切れ馬」伝説をめぐって」(所収:「記憶する民俗社会」)
贈与関係の社会に貨幣制度が持ち込まれ、そのはざまの”特定の街路”に「首のない馬」が走る。
見事な事例の検出&美しさが目からウロコもの。


BG箱

 カメ、亀、鼈。 陸のカメ、海のカメ。右画

 十二支のラインアップにも入っていないけれど、インドでも中国でも古来種々特殊な役回りを担わされてきた動物、カメ。
 地面を支えてみたり、薬効を期待されたり、亀卜に使われたり、長寿扱いされてたり。

 しかし[3●]からすると、それらの役割も亀と「鼈(河亀)」とでは異なっていた気配。
 海亀と、淡水棲の鼈とでは、民俗観念上大きな違いがあったのではないか。
 わけもわからず混同しているのは今の我々なのか。
 昔はきっちり「チガウ動物なのだ」と弁別なされていたのか。
「水と祭祀の考古学」 「飛鳥京の水まつり」河上邦彦
  ・「一般に、亀の造形物は背に何かを乗せるという形で造形される」(p.265)
  ・中国の神仙思想からきた”蓬莱山を背負う亀”の延長
  ・「鼈とは海中の大鼇、海亀のことである。」(p.265)
  ・ウミガメは背にモノを乗せる。(ex.浦島太郎)
  ・鼈(べつ・すっぽん)=カワカメ(河亀)には「背負う」造形は見られない。
  ・大陸の河伯祭祀・信仰が酒船石遺跡の水神に混淆していると推察しうる。
  ・古代中国の天文学でも八星座中の「鼈」は水を司るとされる。
 飛鳥の水遺構に「鼈」と「河伯(中国の水神)」が表れているとする。

 河伯とカメと河童やひょうすべのつながり路線は、京極夏彦方面のおかげでけっこう一般に知られているし、詳しく付記するのも面倒なので、このへんが簡潔に。↓
ネット「河童と山童について」多田克己 (@妖怪愛好会隠れ里)
   →  河伯と「鼈」と河童のつながり
   →スッポン  カメとスッポンとウミガメが混同されていく
   →河童(カワワラワ)  河伯との混淆

BG箱

 しかしカメは何種類・いくつの区分に「意味上」分けられていたのだろう。
 民俗学の扱い範囲よりさらにさかのぼる時代の話になるだろうし、もう推察だらけになるのかな…?
 陸のカメは? 日本にはいないので特に意味上の位置はない?(いたっけ?)
 イシガメとすっぽんの、意味上の差は?
 スッポンのものだった「鼈甲」は、いつのまにかウミガメのタイマイにすり替わったって?
 亀卜に使われた甲羅はどの動物のもの?

 うあ〜。恠異学会が今春シンポやってた。uhee 本にまとまんないかな。
 ネット 東アジア恠異学会・国学院大学21世紀COEプログラム共催 シンポジウム「亀卜 未来を語る〈技〉」
ネット 神道と日本文化の国学的研究発信の拠点形成シンポジウム「亀卜 未来を語る〈技〉」
亀卜に用いた甲羅は生きているウミガメから得たものと、死んで漂着した個体から得たものがある 〜島田尚幸
 ああああよくわからない、亀卜にはウミガメを使ったと言いながら、実験には河亀を使ってるぞ… yan

 亀卜の由来や発祥は何?

ネット「古代中国 の殷時代に起こり、古代日本に伝えられた」 〜 緑 道 楽
ネット「殷代に盛んに亀卜が行われた」 〜亀博物館
 殷か…
  → 『境界を鎮める死体の山』
  → 『縄文人の世界、土偶の死体』
  → 『縄文人はガーターをはいてたの?』
  → 『白川静記念東洋文字文化研究所』
 殷って海洋民族系の習俗が強かったっけ。

クール

 カメの民俗については寡聞にしてあまりよく知らず。
 ウェブで調べるのはしんどいし…(ちかごろは検索ゴミが異常増殖していてウェブ検索がしんどいこと度々)
 ウェブより、適切な本を一冊ゲットする方がずっと手っ取り早く感じるのは気のせい?
 カメにまつわる民俗習俗についてひととおり考察してくれているような書籍はどっかに出てないだろか。

 あ。
 「飛鳥京の水まつり(2005)」の筆者・河上邦彦はそれなりに著書を出してた。
 2年さかのぼる著述になるのかな。 目次がかなり興をそそる。
左サムネイル
「飛鳥を掘る」
講談社選書メチエ 河上 邦彦 (著)
 講談社 (2003/01)  [bk1]

 陸・河・海のカメ差についての答はここには明記されてはいないかもしれないけど…。

クール

追記:2006/04
 その後、カメについていろいろ調べて続編こしらえました。
 図解もございます。
 2006/04 → 『続:海のカメ、河の鼈、陸の亀、亀卜』

●情報庫: 文化人類学 特集 人と動物 特集





メタル
[カテゴリ 科学に佇む2005年] : 2005年10月29日 
* * *

→ 上掲のお話についてのコメント

1202 #- コメントアンカー シンポ参加者 さんのコメント 【2005/12/24】

>亀卜にはウミガメを使ったと言いながら、実験には河亀を使ってるぞ… 

いきなりウミガメを用いると各種国際条約に触れてしまうため、まずは河亀で基礎的なデータを収集し、その結果をもとに関係方面へと働きかけて、最終的にウミガメを用いられたら…という展望らしいですよ。

1223 #kzzwtH4A コメントアンカー 雨崎良未 さんのコメント 【2005/12/24】

おお、なんとあっさりわかりやすい理由。
ご教示ありがとうございました。
そうか、いまどきべっこうはまずいんだっけ。すっかり忘れてた。

…となると、「ウミガメの甲羅と河亀の甲羅とでは成分や組成・構造などに大差はあるのだろうか。あぶったときのヒビの入り具合に大差はあるのだろうか」が知りたいですね。
エビを食べたいのにオキアミで我慢しているみたいな(^_^;

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