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不安社会:日本の「安心」はなぜ、消えたのか

カテゴリ[科学に佇む2008年] 2008/10/23
 毎度、わずかずつバージョンアップさせながら、おりおり出版される社会心理学・紫綬褒章ゲッターの山岸俊男氏(2004年紫綬褒章受賞)の最新刊。あいかわらずの象牙の塔節(ぶし)です。

◆日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点

 『日本の「安心」はなぜ、消えたのか
 社会心理学から見た現代日本の問題点』

 山岸 俊男 (著)
 集英社インターナショナル (2008/02)
 [ Amazon ] [bk1]


 残念な造本です。どんな効用があるのかさっぱりわからないような変な挿画が入っているし。
 装丁を挿画にして、挿画を装丁にしたほうが良かったんじゃないか?
 印象的なフォントレイアウトの各章タイトルページにしたら、けっこうかっこいい本ができたと思うぞ。

 今回は、別稿→ 『社会心理学の信頼は裁判員制度を救えるか』 のためのお勉強メモになります。

EP 〓〓〓

 以下、内容についての勉強メモ。

●日本に多いのは、他人を信用しない「社会的びくびく人間」
 彼らの関係性検知能力は、リーダー格の人間が駆使するような対人関係の積極処理ツールではなく、集団内で波風を起こさずやりすごすための消極的もめごと回避ツールなのだ。現状維持用であって、状況打開用ではない。
 妥当性や論理ではなく、KY的基準で行動を測ってしまうのだ。 (p163)

... 以下つづき...

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●心理機能を道具箱とみなして説明する
 進化心理学でよく使われる、脳内ツールの比喩ですね。
 社会心理学の著者は、他者を遇する際に「人間関係検知用ツール」を使うか「信頼性検知ツール」を使うかで、どう違ってくるかを説き示す。
 ふだんから心の「人間関係検知用ツール」ばかりを使っていたなら(いつも道具箱の上にあるなら)、「信頼性検知ツール」を使うべき場合にも、安直に「人間関係検知用ツール」を使ってしまう、日本人はそういうパターンが多いのだとする。信頼度を検知して、前向きに状況を打開すべきなのに、信用度を二の次にしたまま「波風を起こすか否か」基準で物事を判断してしまう。こんなでは状況が打開できるはずもない。ずるずる現状維持が続いてしまう。(p170)

-=-=-=-=-=-=-=-=

 各種反応や機能を、「心の道具箱」として説明する手法は、2002年山岸俊男著 「心でっかちな日本人 集団主義文化という幻想」でも「第5章 だれもが皆、心の道具箱を持っている」を入れるなど、著者おなじみのお気に入りコースですね。

p.172
 本来ならば、安心社会の崩壊は既得権益を持った大人たちの危機であり、信頼社会の成立は未来ある若者たちにとっての福音であるはずです。それなのに、その若者たちが信頼社会への変化を嫌い、身の回りにある友人関係という小さな安心社会にしがみつき、その中での「平安」を求めているとしたら −− これは日本の将来にとっても、また若者たち自身の未来にとってもゆゆしいことと言わざるをえません。


と、今どきの「KY」マンセーな風潮に危惧を述べ立てて。

●いじめの有無を握る臨界質量(p191-)

 これは一昔前の 正高信男氏あたりが十八番にしていましたね。いじめを見て見ぬふりをしてしまう傍観者の人数が、一定の割合を超えてしまうと歯止めが無くなる。

●山岸氏の語りで毎度おなじみの 「マグレブ商人とジェノア商人」話は p.214 から。

●そして不安に陥った社会について、彼は、制度や手法ではなく「法」に、解決策を求める。

p.223
 信頼社会において人間が他人を信頼し、手を組もうと考えるのも、相手を信じても馬鹿を見ることがない、損をすることがないという前提がなくては始まりません。そしてその前提を維持する最大の力となるのは、やはり法制度なのではないかと筆者は考えます。
 法制度がちゃんと機能していることで、他人とビジネスをしても裏切られることがない。また、万が一、裏切られたとしても、法が正直者を守ってくれる −− 言うなれば法が社会に代わって「安心」を提供してくれることで、人々は他人と一緒に仕事ができるようになるというわけなのです。
 このような社会で生きて行くには、他人から裏切られたり騙されたりするリスクはつきものなのですが、そのリスクを計算に入れても、他者と協力関係を結ぶことによって得られるメリットのほうが大きいと考えるのが信頼社会の人々の発想です。


 ・・・法さえ作れば、信頼がついてくるのか?
 裁判員制度は制度であって、法ではないのか。
 正しい法を作る方法を、具体策の有効性をまず示さなければ、逆効果なKY放任的暴走法がフツーに作られ続けたりはしないか。
 下手に法を作らせておくと、信頼できない者を排除して安心する、そんな錯誤がよけいに強化されてしまわないか。安心社会を壊す「波風の元」っぽい特徴を持つ者を排除しさえすれば安心社会を実現できるのだという危なさ満載の妄想が、立法で濫用され続けたりはしないか。
 排除が悲劇を生むのにさ!

2008/10 【日本語記事】中央日報@韓国
  「無差別殺人を防ぐには、共同体が疎外層を受けとめて」
>南カリフォルニア大学のローレンス・フェリンカス(社会事業学)
>「人間の絆の強い社会では無差別殺人は発生しない」
>「共同体が家族の代わりをして人と人とを結びつける役割をしていく必要がある」
>「自己中心的に急変していく現代社会では疎外層を気遣うことが難しく、いじめが発生する側面があることは避けられないため、疎外層が所属を持てるようにすることが重要だ」


閑話:前世紀に作られた「オタク」というくくりは、疎外層を懐柔するのに便利な所属カテゴリーなのだという指摘があるよね。:閑話休題

※ 無差別殺人が発生するパターンについてはこちらを参照下さい。
 → 2008/08 『 「誰でもいい」大量殺人犯の王道10項目 』

※ 「排除しない」社会の効用については、先日のこちらを参照。
 ●● 『四国遍路の接待文化と祈りの研究:幸福をインストールせよ』

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 信頼社会を作る特効薬は、「法」でいいのか。

 異端者や、異質な者と、ふつうに接する経験をして育たないと、法だけじゃ無理なんじゃないか。
特定の層だけが通う学校で学んでいると・・・
2008/08 EurekAlert  Campus diversity important predictor of interracial friendships
クラスメートの多様性は異人種間の友情の重要な指標
 いろんな階層の子が通う学校なら、いろんな友達とうまくやっていけるスキルが育ちます
 マイノリティはマジョリティより友情多様性が高めですね

 社会倫理は、若いときにインストールされる。
 最初に、異端者とともに学び育つコースを経ないとダメだ。
 ええとこの子だけや、健常者だけが通うような学校でのお育ちでは、「美しい日本を」だの「指輪物語」だの、浮世離れした解決策を平気で振り回しかねないんじゃないか。

 グローバル感覚は、異人さんマイノリティさんがごっちゃくたに通う学校で、まず培うべきじゃないだろうか。信頼社会を育てたければ、異人さんやマイノリティさんを特殊学校によっこしてたらあかんのやないか。
 ・・・そういうのは教育心理学のテリトリーであって、社会心理学のあずかり知るところではない・・・のだろうか。

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 著者は、「信頼社会」と「安心社会」の対比で話を進めていくのだが、その分類に該当する見解として、『市場の倫理 統治の倫理』を挙げている。

◆市場の倫理 統治の倫理

 『市場の倫理 統治の倫理』
 日経ビジネス人文庫
 ジェイン・ジェイコブズ (著)
 日本経済新聞社 (2003/06)

〈ジェイコブズ〉1916年アメリカ生まれ。業界紙記者、フリーライターとして活躍。建築フォーラムにスタッフとして参加。邦訳書に「アメリカ大都市の死と生」など。

 「市場の倫理(商人道)」は、相手の信頼度を計算して立ち回る。
 「統治の倫理(武士道)」は、仲間達のご機嫌を読んで立ち回る。
『ジェイコブズが発見した人類社会の二種類のモラル体系:「市場の倫理(商人道)」「統治の倫理(武士道)」』(日本の「安心」はなぜ、消えたのか p.242)

 長い間、武士道に親しんだ日本人にとって、「・・するべきだ」という教育を「・・するほうがトクになる」という教育に転換するのは抵抗があることかもしれません。
 しかし、商人道のモラルを我々大人が堂々と言えるようになって初めて、日本には信頼社会が定着する −− 私はそう信じて疑わないのです。(日本の「安心」はなぜ、消えたのか p.259)


 すまん、ここで自分は、北海道大学に在籍している著者の出身地が、名古屋だということに気がついてしまった。
 名古屋人!
 ・・・名古屋人にふさわしい論理なのかもしれない。 と思ってしまった。ごめん。

 で、「信頼社会」と「安心社会」が、「市場の倫理(商人道)」と「統治の倫理(武士道)」という対比に通じるのだということになると、彼が目指すべきだとして提示する「商人道」が、
 ●● 『四国遍路の接待文化と祈りの研究:幸福をインストールせよ』
で危惧した【幸福度を低下させる「自己責任」物語や打算物語】に直結しているような気がして、みょーに信頼しづらいんですが。
 そのあたり、研究的にきれいなレベルではなく、巷の地べたレベルで「どう解釈すればいいのか」具体的に説いて欲しい。不安な者の心を見て欲しい。

EP 〓〓〓

 などなど。
 以上、 裁判員制度と社会心理学の話 を書くついでの、お勉強メモ(つまり余談)でした。





メタル


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