[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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なまエイリアンの世界:潜水調査船が観た深海生物

カテゴリ[科学に佇む2008年] 2008/09/26
 たぶんね。
 史上初めて発見された、エイリアン(地球外生物)が存在する天体からの観察報告も、きっとこんな感じなんだと思うよ。
「・・・ガガガ・・・***らしき個体が映ったのだが、ほとんど動かないまま流されていった・・・現在恒星時35時18分」
 未知の世界のナマ記録。

◆左表紙

 『潜水調査船が観た深海生物 深海生物研究の現在』
 藤倉 克則、奥谷 喬司、丸山 正編著
 東海大学出版会 (2008/03)

 [ Amazon ] [bk1]


 でかくてごつくて高価な本です。基本的に図書館でのゲットをオススメします。
 読者対象はもろ「同僚、後続の志」たちです。部外者へのサービスは僅少でエンタテイメント性は蚊帳の外。
 でも、これでもかと満載されている未知の世界の生物たち、そのリアル写真が楽しすぎます。

... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

 486ページ。
 寸法: 26.8 x 19.6 x 3 cm 。
 ずっしり。がっちり。 たいへん立派な本です。
 研究報告と、実際に「日本の潜水調査船」によって撮影された数々の生物写真が納められています。
 その写真がまた、なんとにぎやかにさまざまな。

 深海底のフリル付きスタイリー動物(スタイリースタイリー♪)、ウカレウシナマコ。
 闇の世界のブラックミッフィちゃん、フタマタエボシナマコ。
(レア生物すぎてウェブには画像はないらしいです。珍生物はこの本をゲットしないと見られないぞ!)
 吸血鬼ダコを筆頭に、ゴシックキュートな異界タコのさまざまも大小ふんだんだ。
 ギンザメ、アンコウ、ハオリムシ・・・
 海底チムニーに、これでもかとたかりまくる幽白な熱水生物たち。
 山のようなクジラの死肉に、貪色の花を咲かせる骨なし生物たち。
「ホネクイハナムシ」
鹿児島県野間岬沖に投入されたマッコウクジラ死骸の表面に集団で赤い鰓(エラ)を出し, クジラの頭骨はピンク色の絨毯で被われたように見える.

 闇に閉ざされた冷たい深海底で、巨大な死骸をひそやかに覆う、ピンクの絨毯。cuteangel

 こんなおいしいネタどもが、フルカラー画像で数百点! おおまじめな論文・調査資料モードで紹介されています。

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この箇所へのリンク【写真の質の悪さがリアル】


あとがき:
 本書で取り上げた生物の映像はできるだけありのままの深海生物の姿を選択した.

 写真は豊富ですが、プロの写真家が撮影したようなものは期待しないで下さい。ほとんどが、「もっと大きく見たい!」「もっと鮮明に見たい!」と少なからず欲求不満にかられる画質です。
 でも、たぶんこれが、リアルに実際の撮影の限度だったんでしょう。深海に潜行する潜水調査船。ハイスペックな解像度を確保できなかったり、照明も陸上のような自由なセッティングは無理。たまたま通りすがりに流れ去る生物の一瞬をとらえた画像もあるわけで、
「ヨウラククラゲ科?の一種」
 撮影された個体はきわめて不活発で, 潜水調査船が引き起こす水流の乱れに巻き込まれても, 遊泳や栄養部の収縮といった行動を見せなかった.

これがおそらく「エイリアン調査」の現場のリアル。

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この箇所へのリンク【貝殻がリアル】


p.117(スエヒロキヌタレガイについて)
本種は内棲性なので潜水調査船では生態を観察することは困難であるが, 湧水域付近の深海底にはしばしば空殻が見つかる.

(※ なお、このページには スケーリーフット:金属のヨロイをまとう珍種の巻き貝:についても記載されている)

 内棲性とは、要するに「海底の泥の中に棲んでいる」ということだと思う。「内棲性」でぐぐっても脈がないんだ、すごい「通じない」専門用語だね。
 潜水調査船は、海底の泥の中を掘って観察できるほどの高機能は備えていないので、深海調査の研究者さんたちは地下生物に関しては「死んだあとの貝殻しか見ることができない」てなことになったりするわけなんですね。生きている姿は見たことはないけれど、抜け殻は見かけるので「棲息しているのだろう」。殻や貝など、堅い部分が残らない生物は、未知未発見のまま・・・?
 外宇宙の異星の生物観察も、きっと最初はこんな調子になるんでしょう。ああワンダーランド。

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この箇所へのリンク【名所紹介がリアル】


 日本近海の各海底にある、熱水チムニー(熱水噴出口)が紹介されています。
 どこそこの噴出口は潜水調査船で近づくのは困難だ、とか、あそこのブラックスモーカーの水温はまだ測定されていないんだ、とか。
 業界うちわむけの、コアな名所紹介ですね。

この箇所へのリンク【ハオリムシのリアル】


 海底のチムニー(熱水噴出口)にわらわらと異様な花園を形成することで有名な、ハオリムシ(チューブワーム)。分泌物で作った堅いチューブの中に棲んでいて、共生菌のおかげで食事をせずに生きていられる奇怪な細長〜い生物です。
 リンク ハオリムシの画像集
 なんせ、どえらい場所(いわゆる極限環境)に棲んでいる生物なので、極端に高温な熱水や、化学成分たっぷりの鉱水、深海の高圧、などなど、ものすっごい環境でないと生きていけない特殊な生物なんだろうと思っていました。いままでは。

 しかし、なんとこのハオリムシ、ふつうに水族館で、透明なビニールパイプに入れてuhee飼ってしまえるんですね! 知らなかった!!
 リンク 深海生物飼育室 独立行政法人海洋研究開発機構
 三宅裕志氏 が、本書でその「ハオリムシを裸にする:ビニールチューブでハオリムシを飼う方法」を紹介して下さっています。おもしろい!

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この箇所へのリンク【クジラの死体がリアル】


 深海に沈んだ巨大なクジラの死骸をむさぼる、奇態な生物たち。その生物相を、研究者は鯨骨生物群集と呼んでいて、これまた定期的に潜水調査船で観察していたりするんですね。
 **年に、どこそこの海底に鯨の死体を沈めました。そしてその変化を観察しに、ちょくちょく深海を巡回していなさる。どのくらい食われたかなー、今度はどんな生物がたかっているかなー、と。
p.81
 これまで日本周辺で確認されている鯨骨生物群集は4箇所ある.  [〜中略〜] 
 最初に発見された鳥島海山のものを除いて, 鯨遺骸はいずれも人為的に海底に沈設されたものである. 特に野間岬沖の場合, 12頭ものマッコウクジラが同時に同一海域に沈設されており, このような出来事は世界にも例がない. また世界各地で知られている鯨骨生物群集の多くはヒゲクジラを基盤としているのに対し, 日本周辺では鳥島海山のものを除いて, ハクジラを基盤としている.

 これは、捕鯨とは無関係に、沿岸で自然死したクジラを曳航して沈設したものなんだろうか。それとも捕鯨した個体なんだろうか。

 死肉や骨にたかる生物の姿は、異様であり、奇態であり、そして美しくもあり。
 鯨の死体がある場所だけでしか観察されていない生物も少なくないらしい。深海を、死体のありかだけを求めて静かに彷徨う生きた亡霊たち・・・

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この箇所へのリンク【潜水調査船に乗る人のリアル】


 深海を調査するマシンは、リモコン式の無人探査船もあるけれど、やはり白眉はヒトが乗り込む有人探査。潜水調査船に乗った人の体験譚もうかがってみたいですよね。
 これに関しては、本書ではなく、先日紹介したこちらの本からご紹介。

◆藻類30億年の自然史 藻類からみる生物進化◆藻類から見る生物進化・地球・環境
 旧版2006年 「藻類30億年の自然史 藻類からみる生物進化」 井上勲著 東海大学出版会 (2006/01)
 新版 『藻類30億年の自然史 第2版 藻類から見る生物進化・地球・環境』 井上 勲 (著) 東海大学出版会 (2007/11)

 著者は「藻」の研究者なのだけれど、なんと「筆者には魚のまねをする趣味はない(p.18)」のだそうで、要するにこの著者 井上勲さんは、カナヅチ。achar2
 海藻を研究するプロとして、この点はかなり彼の心にひっかかっているらしく、
「筆者は多くの海藻が生息している姿を自分の眼で見たことがない. だから, こうして海藻ウォッチングの案内をしているつもりでも,伝えるべき何か大切な部分が抜け落ちているという不安が残る p.18」
 海の底未体験の彼が、探査船に乗り込んで深海へダイブする機会に恵まれた時の体験を、わくわくする筆致で紹介して下さっています。
p.104-105
 2001年の夏に深海探査船「しんかい2000」で深度870mまで潜航する機会があった [〜中略〜] 母船の夏島からクレーンで海面に降ろされて潜行前の5分か10分, 潜水艇は潜航の準備のために波に揺られて浮遊していた. クルーは機器類のチェックに忙しいが, こちらはまな板の上の鯉ならぬ, 波にもまれる藻屑かプランクトンの心境である. その間, 潜水艇の直径20cmほどののぞき窓が海上と水中を行き来している. 泳げない私は, 理屈でしか海中を知らない. 波のないサンゴ礁のラグーンで,水中めがねをかけて 1,2m の底をのぞき, 海藻を探すのが関の山. [〜中略〜] 落ち着いて海中を見るのは初めての体験である.科学の成果はありがたいもので,堅牢な船体に保護されながら余裕をもって,じっくりと観察できる. [〜中略〜] 
聞くと見るとは大違いである. 十分有光層の範囲内である水深 50m は, 私の目にはほとんど闇の世界だった. その中に光があり, 藻類たちが, わずかに届く光を吸収して二酸化炭素を固定しているということを, 初めて知った. 100mも潜ると, 潜水艇の放つライトの光だけが視覚を機能させる. 光束の外は漆黒の闇である. そして, ライトの中に浮かび上がったのは, これほど生物がいるのかと思わせる, おびただしい量の, 巨大な動物プランクトンの群れだった. アミ, ヨコエビなどの海産の無脊椎動物である. なるほどクジラは餌に困らないわけだ. 海の生産力の巨大さに目を見張った.

 深海には、上層からたくさんの栄養が降り落ちてきます。それぞれの深度で、それぞれに棲息する生物たちが、降りしきる栄養をどんどん取っては食っている。

この箇所へのリンク【オタマボヤが作るマリンスノー】


 深海に向かってしんしんと降りしきる海中のマリンスノー。このマリンスノーは、栄養いっぱいのエサとして、海中の生態系を支えている。
 これまた別な本からのご紹介になりますが、
◆左表紙
 『海洋プランクトン生態学』p.208で、マリンスノーの主成分が紹介されています。

 谷口 旭監修
 佐々木 洋、石川 輝、太田 尚志、服部 寛、齊藤 宏明、遠藤 宜成共編
 成山堂書店 (2008/03)


 世界中のマリンスノーを作っているのは、わずか体長数ミリの「オタマボヤ」というシンプルな生物。オタマボヤは、一日数回、特殊なカプセル(ハウス)を作っては脱ぎ捨て、作っては脱ぎ捨てします。その脱いだハウスが、マリンスノーとなってしんしんと深海に向かって沈降していく。

 リンク オタマボヤの詳しい生態 (大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻西田研究室)

 オタマボヤは、食糧である植物プランクトンを捕まえるために、自家製の濾過装置であるハウスをせっせと作っては、脱ぎ捨て続ける。彼らは、使い終わって捨てるハウスが、より深層の生物たちにとって、どんなにすごいお宝食べ物になっているかなんてことなど知ることなく、黙々と作り続けている。

 いや、オタマボヤたちにとって、なんらかの恩恵が深海からもたらされるからこそ、オタマボヤは過剰とも言えるほどのハウス生産を続けている、そんな可能性はないだろうか? 深海と上層部との互恵関係。不思議だけれど、ないとも言いきれない。人間はまだまだ海の世界を知らなさすぎる。

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この箇所へのリンク【深海から見えるのは、同僚の視点だけ?】


 はい。主題の本『潜水調査船が観た深海生物 深海生物研究の現在』に戻るとして。
 こんないざないが、さらっと書いてある。
p.385 深海生物採集用の耐圧水槽について:
この分野に興味のある読者は, 是非ともこの保圧性の水槽を用いて, 生きたまま生物を持ち帰り, 新しい生物の研究にアプローチしてほしい.

 えええええ。 興味=深海探査???
 読者=深海生物研究者だってか???
あとがき:
 本書は,表題のとおり海洋研究開発機構(JAMSTEC)が運航している有人・無人の潜水調査船が観た深海生物の各種とそれら生物の息づく背景を解説し, 深海生物学を志す人々がそのターゲットと問題点を探し出す一里塚となることを想定して編纂した.

 著した人々は、おもきし読者のことを、同僚や後輩ばかりであると想定しているような気がする。(ふつうに一般の図書館に収蔵されるということなどは想定されていないのかな?)
 読者=研究者。 そういう観点で豪勢な本を出していいという、ぜいたくな象牙の塔の世界なのかもしれない。しかし、こんなエイリアン世界のおもちゃ箱を研究者の内輪だけに独占させておくのはもったいないぞ!

 深海生物マニアは市井にもけっこういらっしゃる。
 ただ、本書を見る限り、どうやら、研究者はそれらマニアとはなんぼか距離を置きたいというか、市井の視点に違和感を感じている部分があるらしい。

あとがき:

深海における化学合成生物群集がみられる熱水や湧水環境は, 全地球の深海底のほんの数%にすぎないのに拘らず, テレビなど一般向けの記事にはその生物群集の豊かさや過酷な環境に耐える姿が報道され,「深海とはこういう所」という誤解を与えているかもしれない. [〜中略〜] 
テレビなど一般向けの記事には, シーラカンス, ダイオウイカ, チョウチンアンコウといった奇異な生物が取り上げられ,「深海生物とはこういう不思議な生物ばかり」という誤解も与えているのではないだろうかと危惧される. 本書で取り上げた生物の映像はできるだけありのままの深海生物の姿を選択した. 読者は深海生物の多くは,浅海域の生物と姿形が類似していることに気づかれるであろう. しかしながら, 彼らは深海に適応するために見た目ではわからない生態・生理機能を有しているはずである.

 いやいや、浅い海だろうが深海だろうが、「普通」の姿であろうが奇怪であろうが、なじみの薄い世界はじゅうぶん奇態で面白いのです。そして見た目フツーな生物が、どんな奇天烈な適応をしているかについても、一般人はじゅうぶん知見を楽しみます。
 → 2006/04 深海の生物学と奇怪な正しい進化の仕方

 見せて下さい、語って下さい、外に向けてあなたの仕事の楽しみを。






メタル


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* * *

→ 上掲のお話についてのコメント

0003 #- コメントアンカー 出刈茶 さんのコメント 【2008/09/28】

http://www.k4.dion.ne.jp/~kiseki/shinguu/museum/ch05s03.html

一件hitするようですyo.
底質内に潜って棲む性質、でOKのようです。

0535 #MJWiGxv6 コメントアンカー 雨崎 さんのコメント 【2008/09/28】

>出刈茶 さん
「内棲性」のwordについての話ですね。大手各サーチエンジンではhit一件のみ、語の意味を示すわけでもなく一カ所で使われているだけ。ゆえに「脈なし」(死語?)と記してみたのでございます。w
「底質内」の語も、一般には通じない専門用語にあたりますne.

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筆者:雨崎良未
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