でもじゅうぶん面白かった!


旧版2006年 「藻類30億年の自然史 藻類からみる生物進化」 井上勲著 東海大学出版会 (2006/01) [ Amazon ] [bk1]
新版 『藻類30億年の自然史 第2版 藻類から見る生物進化・地球・環境』 井上 勲 (著) 東海大学出版会 (2007/11)
「藻類30億年の自然史」をご紹介して下さいます。いろいろな研究成果がおがめます。
でも、30億年までさかのぼらなくても、今ある藻類の生態紹介だけで、じゅうぶんドンブリご飯が食えてしまうほどの、おいしいおかずになってます。
藻ですよ、藻。「モ」。
たかが「藻」の世界が、こんなに面白さ凝縮ワールドだったとは。
●巨大単細胞が生きたままストラップになっている!
●プランクトンでアートを描く!
●マイクロマシンも真似できない極微ウルトラCの魔法のヒモ!
●グレンラガンのムガンがプランクトンになった!?

【バロニア】

しょっぱな、バロニアです。
ミドリゲ目バロニア科。
かわいい!
いわゆる「藻」のイメージとはかけ離れた、すきとおったマリモ羊羹(ようかん)みたいな、キラキラツルツルまんまる生物!
こんなのが自然に「生える」んですねー!
どこにいったら見られるのかな。
... 以下つづき...

┗ツンツルまんまる!
┗これは三浦半島産だ!
あ”、バロニアはフツーに一般家庭の海水水槽で、じゃまな雑草よばわりされているではないか。
なんだなんだ、胞子で殖えまくってしまうらしい。●バロニア情報:【恐怖の雑草藻 編】
見た目、つやつやかわいいという説と、「気色悪い」という説があるようで。「キレイ」路線では、このバロニアを生きたまま小瓶に入れて売っていたりもする。
●バロニア情報:【商品 編】
近未来型タイムカプセル 携帯ストラップ | SEA GARDEN プチモチャン! バロニア | ![]() ぷちも (バロニア) <大> |
おいおい、ケータイのストラップってあり?? ・・・・ちょっと欲しいような気が。

でさ、でさ、すごいのは、これバロニアの一個一個の玉は大きさが数センチあるのだけれど、なんと、その一個一個が「一個の細胞」なんだと!
単細胞だよ。 単細胞デカスギ!!

「目に見えまくり、指でつまみまくりのチョー巨大細胞」が、こんなにフツーに雑草扱いされていたり、通販されていたりしなさるとは! おもしろい!
理科の先生、この巨大単細胞生物をおひとついかがですか?

【藻の世界は巨大単細胞のワンダーランド】
そんでもって、単細胞のサイズが「数センチ」程度で驚いていてはダメらしい。
藻の世界には、もっともっとでっかい「単細胞生物」がフツーにゴロゴロしていなさる。
p.14
カサノリの仲間はいずれも枝を茎から放射状に伸ばすのが特徴で,整然とした美しい形態を持っている.日本には他にフデノホ,ウスガサネミズタマ,イソスギナなどがあり,いずれもサンゴ礁の海域に生息する美しい海藻である. これらすべてが,1個の核を持つ巨大単細胞なのである.陸上の植物からは想像もつかない体制である.巨大細胞はカサノリ目にとどまらない.イワヅタ目とミドリゲ目(またはシオグサ目)は,巨大細胞のオンパレードである
ひえええええ。
関東の海岸に生えているオオハネモは、細胞の図体が60cm。

細胞一個が60cm。 ひえええええ。
そんでもって、その巨大単細胞の中に細胞核がワラワラワラーっとたくさんちらばっているんだそうな(多核)。まーわけわからん!
ウワサに名高い突然変異の殺し屋海草(キラー海草) 「イチイヅタ」 も、さらに輪をかけて、一個ぽっちの細胞でぐわああああと海底を覆いつくすというトンデモ生物だったりする。
まー今度、海に行かれることがありましたら、この単細胞話で盛り上がって下さい。

【極微芸術:珪藻アート】

藻の世界には、プランクトンサイズの小さな生物もたくさんいらっしゃる。
学校でも習う代表的な微細藻として「珪藻 けいそう Diatom」ってのがありますね。これがまた、顕微鏡写真(電子顕微鏡?)で立体的に撮影すると、めちゃめちゃ美しいんですよ。
未来建築か、異星人のUFOか、てなもんで。

■珪藻アート

世の中には面白いことに、この「美しい珪藻」を、ちまちまちまちま 手で(?)並べて、顕微撮影してアートにしてしまう!!なんてな奇特な人々もいらっしゃったりします。
DNAや分子並べなどいろいろあるナノアートの中でも、「生物」由来の微細アイテムを用いているこの「珪藻アート」は美的にも意味的にもたいへんグッときてしまいます。
・・・どこかでデスクトップ用の壁紙を配布してないかな。
【珪藻の南京玉簾】
珪藻は堅くて動かない植物プランクトン、というイメージがあったりしますが、わりと動き回れるプランクトンなんだそうです。
中にはウリウリと異様な動きで研究者を困惑させる珪藻もいたりする。

Bacillaria paradoxa というトンデモっぽい名前の棒状の珪藻さんは、お互いくっつき合って「いかだ状群体」を形成すると、ウリウリウリっとすべりあって、「なんきんたますだれ」のような動きをなさるんだそうな。
透明なポッキーがシンクロナイズドスイミングしているみたいだ。
ほかの珪藻もけっこう動き回るんだそうで、本書ではその動きがどうやって発生しているのか、モータータンパク質がどうの、ミオシンとアクチンがこうの・・・ではないかと推察を述べてはいるけれど、実際には未解明の謎であるらしい。

動き回る植物プランクトンといえば、ハプト藻のハプトネマ(haptonema)はもっとトンデモないシロモノだったりしている。
【ハプト藻のハプトネマ】
植物プランクトンの中には、とても興味深い「便利ヒモ」ハプトネマを持っているものがいる。
ミクロのヒモ。それが。
何かにぶつかれば一瞬で巻き縮まる。ものにくっつけばプランクトンをひっぱる移動運動を起こす。食い物をくっつけ、まとめ、口に運ぶ。しかも「なぜそんな動きが発生するのか」さっぱりわかっていない。マイクロワールドの魔法のヒモだ。
このハプトネマ(haptonema)については、挿画付きで本書の著者 井上勲氏がウェブページをこさえて下さっている。
この便利ヒモ「ハプトネマ」が食べ物を集めるときなんか、すごすぎですよ。 【著者サイトの図解】
・食べ物がハプトネマにくっつく
・くっついた食べ物がハプトネマの「根っこ」に移動して集まる
・集まった食べ物の塊は、今度はハプトネマの「先っぽ」に移動する
・ハプトネマがグインと曲がり、「先っぽ」の食べ物の塊をプランクトンの「口」に持っていく
超ミクロのヒモなのに、なんでこないな複雑な動きができるようになっているのか、しかもやることはこれだけじゃないし、おそるべし、ハプトネマ。
ハプトネマの謎が解明されることがあれば、これはマイクロマシンの開発にめちゃ使えそうですねぇ。
※ 「藻」であっても、こんなふうに「口で」「モノを取って食う」藻もありなわけなのです。

【UFOの集合体? 円石藻】
こないだ記事を巡回閲覧していたら、その中に「円石藻 えんせきそう」という呼称が出てきて、
気候変化に反応する植物プランクトン coccolithophores 円石藻
2008/04 news@nature.com Phytoplankton responding to climate change
どうやらこの海洋生物は、そんなに二酸化炭素を取り込んではくれないっぽい
2008/04 Discovery Plankton Hold Surprise for Climate Research

「円石藻とはどんなものかいな???」と画像を検索してみたら、これがやたら面白くてハマっちゃったのです。
┗石の円盤に覆われたプランクトン!
┗ 本書の著者サイトより
石の円盤は、どこかから拾ってきて装着するわけではなく、こいつは、自分の細胞の中でこしらえた石の円盤を、じわじわと体表に押し出しているのです。
石の円盤は「ヘテロコッコリス(heterococcoliths)」「ココリス」「円石 えんせき」などと呼ばれます。
┗グレンラガンのムガンみたいだね
じゅんぐりに身体の表面ににじり出てきた石の円盤に、全身を覆われた姿。ウロコどころではない。これ人間サイズで考えたらめちゃめちゃキモいやん! おもしろっ!

この石の円盤「ヘテロコッコリス」(名前も面白いよね)は、石の種類で言えばカルサイト(方解石/ほうかいせき:石灰岩のたぐい)やアラゴナイト(霰石/あられいし:方解石の親戚)なんだそうです。
うちはカルサイト好きなもんだから、よけいに惹かれまくり。

「円石」は、細胞のゴルジ体で形成されるんだそうです。ゴルジ体っていろんなことするんですねー。
円石は石ですので重いです。たくさん付きすぎていると、円石藻は沈んでいってしまう。

別の本『海洋プランクトン生態学』によれば、栄養が多い水の層にいるときは、円石藻は重石である円石をはがし落として身軽になり、それ以上沈まないようにする。栄養が少ない浅い層に上がってしまったときは、円石を増やして栄養が多い深い層に向けて沈んで行くんだそうです。
『海洋プランクトン生態学』
谷口 旭監修 佐々木 洋、石川 輝、太田 尚志、服部 寛、齊藤 宏明、遠藤 宜成共編
成山堂書店 (2008/03)
珪藻は、殻が珪酸/シリカでできているけれど、円石藻の石は、石灰石。
たまに我が家で石灰石(カルサイト)を酸に漬けて、泡じゅーじゅー出しながら溶けていくのを眺めてみたりするんですが、たぶん円石藻のココリスも酸で溶けまくると思う。
「海の酸性化」がサンゴの石灰を溶かす!と昨今問題になっているけれど、円石藻の石もふつうに酸性化で溶けるわけで、広く海洋の生態系を支えているプランクトンが、この先、海洋の酸性化で大規模に死滅してしまう可能性もあるんですね。
関連記事 追記:
ささやかなCO2削減で、なんとか大気の二酸化炭素が450ppmで安定するとしても、海洋酸性化が、珊瑚礁などの海の生態系を荒廃させる恐れ
2008/09 EurekAlert Modest CO2 cutbacks may be too little, too late for coral reefs

そのほかおいしいネタたくさんあります。
■ウズベン(渦鞭毛藻)の奇態!
■謎のヒカリモ!
■ボルボックスには上下がある!
極微のプランクトンサイズから、全長50mのジャイアントケルプまで、動き回ってモノを取って食らう獰猛なやからもいれば、ありえないほどの巨大単細胞生物もあり。藻の多様性はスゴイ。
常識はずれの生態がぞろぞろしていて興味が尽きません。
p.430
生物学を真の意味で飛躍させるには、インプリントされた、動物と植物の二界説や五界説の先入観をかなぐり捨てる意識の改革が不可欠である.
で、これらご紹介は、本書の3分の1だけです。冒頭3分の1が、藻類のオモシロ生態紹介。後半は進化研究や分類研究でけっこう専門的な記述になります。藻類のオモシロ生態紹介だけを、図解・写真豊富に新書にまとめるとかすれば、けっこうヒットしそうですよね。採取できる場所や飼い方も記してあればもっと楽しい!
本書の巻頭のカラー口絵には、藻類の多様でキュートが姿がたくさん収録されています。
2006年の旧版を拝読しましたが、翌年には更改された新版が出ています。どんなところがアップデートされたのかな。ちょっと気になりつつ。

【追記】本書については
でも少し言及しました。
その後の関連記事 追記:
2008/11 EurekAlert Discovery of giant roaming deep sea protist provides new perspective on animal evolution
深海を歩き回っているジャイアント原生生物の発見は、動物の進化に関して新しい観点を供給する
バハマ近海の海底に、ブドウサイズの原生生物による複雑な足跡が!
単細胞の生物が、多細胞動物のような痕跡を作ることが初めて示された
2008/11 PhysOrg Deep blue research digs up evolutionary past
2008/11 Discovery Single-Celled Giant Upends Early Evolution
単細胞のジャイアントは、初期の進化をさかさまにする
Gromia sphaericaの写真
「この手の巨大単細胞生物が6億年前に存在していたとしたら、彼らの痕跡化石は多細胞の左右対称動物の活動にしか見えないんじゃないか」

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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