8月26日 ヤフー/ダイヤモンド・オンライン
米TIME誌も「世界一クール」と絶賛!アフリカで売れまくる住友化学の“蚊帳”
●住友化学製、防虫剤を練りこんだ「オリセットネット」は、マラリア対策に効果的なスグレモノの蚊帳。
●タンザニア現地企業との合弁企業によって、年間1000万張りを生産中。
●主な販売先は国際機関。
●住友化学は着実にアフリカでの存在感を上げているのです。
●この工場一つで現地数万人(従業員の家族含め)の生活を支えています。
●さらにナイジェリアに大規模な蚊帳工場を建設する予定。
●蚊帳の製造販売は社会貢献が目的なので、利益は学校建設などの形で地域に還元するのです。
ふーん。マラリア対策の現場は、「経済誌」が紹介すると、こんな話になるんですね。 企業名ありき、商品名ありき、そして経済貢献、みたいな。
※ 「蚊帳」は「かや」と読みます。
室内に張る、虫よけの網テントが「蚊帳」。北海道はほとんど蚊がいないので「蚊帳」の需要は僅少ですが、本州の旧家にいた頃は「蚊帳」は就寝時にたいへんお世話になったマストアイテムでした。
さて冒頭の記事。
社会貢献が目的。
販売先は国際機関。
はい、ここで注目すべきは、販売先が、市民でも商社や卸でもなく国際機関だということですね。
実は、現地の一般市民は、「マラリア対策用の蚊帳を買えない」んです。(そういう事情は記事ではスルーされていますね) 買えない人々に、国際機関が無料で「蚊帳」を配布しているんです。
だから、「蚊帳」の買い手は国際機関。
... 以下つづき...

昔から、現地の人々は「蚊帳」なんて使っていなかったし、昔からマラリアはふつうな世界だったし、「蚊帳」というなじみのない物体に高額をかける余裕があるような裕福な世界ではない。
マラリア対策用の蚊帳を普及させるには、まずは無料で配るしかない。かといって、企業が赤字を出してまでして配布に踏み切るような英断をしてしまうと、
・蚊帳の配布が長続きしなくなる恐れ
・工場が閉鎖されると地元に大きなダメージ
ゆえに、国際機関が間に入って費用を負担し、企業側は「適正な利益は確保する」よう采配されている。
・・・記事ではその関係国際機関の具体的な名称は上がっていませんね。

【マラリア対策用の蚊帳(かや)を無料で配ろうよ】
ちょうど一年前に、関連する報道が流れていましたので軽く温故知新。
マラリア対策に、虫よけ加工を施した蚊帳(かや)を無料で配ろうよ!2007/08 EurekAlert Free distribution of insecticide-treated mosquito nets can save lives
2007/08 EurekAlert Kenyan malaria success strengthens call for free
insecticide-treated nets for all
マラリア感染率がずっと下がるよ
殺虫剤入り蚊帳=「ITN」(insecticide-treated net) を使えば、マラリアに罹る率は半分に減らせるということは、もう15年も前から知られていたのだが、実際に使ってくれている率はたいへん低いままだった。
でも、ケニアで大量に無料配布をしたところ、「ITN蚊帳」の使用率を7割近くアップさせることができました。
2004年当時は、入手できる「ITN蚊帳」は市販のものだけであり、「ITN蚊帳」を使ってくれているお子さんは1割にも満たなかった。特に、マラリア感染リスクの高い貧困層では「ITN蚊帳」を使うお子さんはわずか3%というありさま。
2005年。医療機関への助成金によって、全体の「ITN蚊帳」使用率は2.5割にアップ。
大量の無料配布は2006年に行われました。ケニヤ政府が配布した「ITN蚊帳」その数340万枚! この効果はめざましく、「ITN蚊帳」使用率は7割近くにまで達しました。
無料配布によって、たった一年でここまで使用率がアップするとはすごいことです。
でもまだ、子どもたちの3分の1は蚊帳無しで寝ていますし、ケニアだけでも毎年新たに150万人子供が生まれています。
今後もかなりの資金を必要としますが、「ITN蚊帳」のおかげでマラリアから救われる多くの命には代えられません。マラリア感染率が減ることによって、医療費の削減効果も期待できます。
※ 「ITN蚊帳」に使われている殺虫剤は、人間への毒性はとても低い。殺虫効果は3-5年持続する。
「ITN蚊帳」は、英語では「殺虫処理をされたベッドネット」みたいな表現もされていますね。
国際機関としてイギリスのWellcome Trustの名が挙がっています。

【マラリア対策の資金は、どこに消えている】
今月の経済誌の記事の前、去年のEurekAlertの記事のあと、つまり途中の今年の春に、こんな記事も流れていたのですが。
マラリアによる死者数の増加:『マラリア対策の資金は、どこに消えているんだ?』
Robert J. Novak2008/04 EurekAlert With annual deaths from malaria on the rise: Scientists ask 'where is all the money going?'
マラリア対策に費やされた数百万ドルはどこへ。
2億2000万ドル以上のマラリア対策費にもかかわらず、マラリアの罹患率が上がってきてしまっているのはなぜ。
「マラリア対策の殺虫効果付き蚊帳」が役に立つのは蚊帳の中にいるときだけだ。
医薬品の開発や「蚊帳」もいいが、感染にからむ環境要因の検証がまず肝要なのではないか。
媒体動物(蚊の撲滅、環境にやさしい殺虫剤etc.)、寄生体(マラリアの研究)、宿主(ヒトの衛生教育)。新技術も動員して、それらを統合的に見て行かねば。
蚊帳の大規模配布は2006年。 で、マラリアに感染する人は、減ってない増えている。orz
だよね。
ふつうに考えても、蚊は昼間の外出中も刺すんだもんね。
・・・安眠にはいいし、刺されずに眠れる上に無料でもらえるんなら、庶民的には歓迎だけど、大枠で見ると政策的には金の行き所として効果はどうなのかと。
冒頭の経済記事は、あくまで企業サイドから見た、マーケティング的に「有望な商品」とか「企業貢献」とかでの視点の記事だったわけだ。
・・・アフリカの人々は、ふだんどうやって蚊を殺しているんだろう?
蚊取り線香はあるんだろうか?

マラリアに関連するトリビアたち:

【追記:マラリア豆知識】
『アフリカのことがマンガで3時間でわかる本多民族がひしめく無限の大陸』
大迫秀樹, つだゆみ 明日香出版社 (2006/12)
p.144より
・世界のマラリア感染例のうち、サハラ以南のアフリカには9割以上が集中している。
・犠牲者の多くは子供。 アフリカでは、子供の死因の2割をマラリアが占めている。
・近年、ユニセフやWHOはNGOや地元コミュニティと協力して農村部への蚊帳の普及を進めている。
・マラリア蚊は夕暮れから夜間最も活発になる
ユニセフやWHOという巨大な枠で見た場合、特定の地域に限って蚊帳を厚く配布する「効果のあるマラリア対策計画」は、「管轄エリア全体として見た場合感染率が上がってしまっている」場合、資金配分とリスク管理から見てどうなのか、という話にならざるをえません。
これは「蚊帳を配るべきではない」という極端な話ではなく、さまざまなマラリア対策をほどこす中、「地球規模での感染減少を考えると、資金配分はこれで最善と言えるのか」という話です。
北海道に蚊帳を配ってがっちり効果が上がるとしても、蚊帳を配りきれない本州でばたばた死んでいたら、日本全体で見た医療政策としてそれはどうなのか、という問題です。
[[ 以上、コメントを受けての追記 ]]
【追記】その後の記事追記:
2008/09 BBC News Malaria battle given $3bn boost
巨額の応援を与えられるマラリア戦争
世界リーダーと慈善家は、ニューヨークサミットで約30億ドルをマラリア闘いに提供する
2008/11 EurekAlert Bed net usage increases, but 90 million African children still exposed to malaria
蚊帳の使用はずいぶん増えたけれど、依然として9000万人ものアフリカの子どもたちがマラリアの危険にさらされているぞ
2008/12 【日本語記事】新華社 【ケニア】蚊帳で漁を行いマラリア蔓延、漁業資源も枯渇
蚊帳が正常に使われておらず、現地ではマラリアが蔓延、さらに湖の漁業資源も激減

「効果があるとわかっているのに普及させないのはおかしい! 救わないのはひどい!」という反応をする人がいらっしゃるようですが、そういう反応をする者は
”直近の関係しか見えない女に多い”
というような指摘があります。
トリアージ(誰を救うのか、誰についてあきらめるのかという判断)をめぐる論争については、右の新書
の中の「第9章 トリアージ」に、かっちり良いまとめがありましたので、よろしければ目を通しておいてみて下さい。


『ナショナル ジオグラフィック2007年7月マラリア特集号』
『旅行者のためのマラリア・ハンドブック』

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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