あてに、著者である「細胞バンクの中の人」のお一人が、直々にコメントを、しかも長文のコメントを下さいました。
返答を出すべく朝からキーボードを叩いていたら、書き上げる前にさらに重ねて、長文の私信までいただいてしまいました。
私信には「半年前の記事なので、コメントを記しても閲覧者が少なく残念だ、最新記事で『細胞お世話係りの執事さんからコメントがありました』と知らせていただけるとハッピーです。」との旨の要望も記されており、それならば、と、ここに新しく一本アゲます。


『バイオ研究の舞台裏 細胞バンクと研究倫理』
ポピュラー・サイエンス
水澤 博, 小原 有弘, 増井 徹 (著)
裳華房 (2007/11) [ Amazon ] [bk1]
コメントを下さった「細胞バンクの中の人」は、水澤さん。
ご所属は
水澤 博:医薬基盤研究所・生物資源研究部・部長・細胞資源研究リーダー
コメントはこちら。
21日付け、私信の内容はこちら。(公開しても良いと許諾いただきました:2008/08/22)
ご批評いただきました『バイオ研究の舞台裏』の著者の一人、水澤です。ご批評は3月にアップされたようですが、私は昨日始めて拝見しました。もっと早く知りたかったですね、当方のHPも見てくださったようですので、お知らせいただければ良かったのにと思います。
私達の仕事はまったくご指摘のとおりで、研究の最先端の反対側に位置して、研究者なんかがやる仕事じゃないと馬鹿にされるような仕事です。私も、癌研究の一環として遺伝子突然変異の配列解析研究をやっていたものですから、この仕事に入るときに研究キャリアを潰す仕事だから止めたほうが良いというアドバイスももらっていました。
しかし、培養細胞が研究の重要な道具であり、そこに間違えがあることを正すような仕事は当時も今もあまり真面目にやりたがらない風潮があることを考えると、そこを大真面目にやってみたらどうだろうと思ったことがこれに取組んだきっかけでした。
ともあれ、国はそれに6000万円の研究費を付けるというのですから、その研究費を大真面目にこの仕事に使ってみようという実験をしたのです。
普通、研究者はこのようなつまらない仕事(と目されるものについては)お茶を濁すような仕事にしておいて、自分が興味を持っているテーマの研究に研究費を流し込むことが多いものです。その結果、日本ではなかなか本来の仕事(ここでは細胞の収集と分譲)が育たないことが多いのです。アメリカのNIHに留学させていただいて私が感じたのは、つまらないと思われるような仕事にも大真面目に取組んで、巨大な生物研究システムを構築していた姿でした(NIHはそういうシステムでした)。何故日本ではそれが出来ないのだろうと思い、それをやってみようと思ったというわけです。
特に、国立研究機関(現在は大変少なくなってきましたが)では、薬や病気の管理・監督をする研究が必要なのですが、そういうことは面白く無いからと、そういう『名目』で研究費を取っておいて、実は管理とはまったく関係が無い先端研究をやっているという場合もあるようです。検定とか、標準品とか、そうした課題が馬鹿にされる傾向にあって、細胞バンクという仕事もまったく同じような問題に直面しております。
そういう背景で、バンク事業の意味を税金を払っている国民の方に是非知って欲しいと考えて書いたのが本書でした。私の本音を見透かされたような御批評でしたので、恐れ入った次第です。
そういうわけで、ささやかな言い訳をコメントさせていただきましたが、何せ3月の記事でもう誰も興味を持って見てくださるかたもおられないようなのが残念です。
最新記事のところに『細胞お世話係りの執事さんからファイトバックがありました』ぐらいのリンクを作っておいて頂いたらハッピーです。
ともあれ、現在では細胞を1アンプル2万四千円でHS研究資源バンク経由で分譲しています。年間3000アンプル程度の分譲をしておりますので、成功しているほうだと思います。アメリカの年間10万アンプルにはほど遠いのですが、日本では理研のバンクとほぼ同じくらいです。
なお、私達は細胞資源を大量に収集することで予算の保証ももらってますから、もし先端的な研究に積極的に乗り出せば結構いい線で仕事が出来る潜在力はあると自認しています。しかし、バンクだからと安心して細胞を預けた先生方の向こうをはって先端研究することになると、預けてくださった先生方はどう思うでしょうか。やはり、私達は一歩引き下がったところで、細胞のお守りをすることが重要なのではないかというのが私の考えです。つまり執事に徹することこそ必要な要件だと思っているのです。
その一方で、iPSやESの研究が進んでいますから、再生医療に向けた利用が始まると思います。その細胞に私達が指摘しているような誤りが無いことを誰がどうやって確かめるのでしょうか。移殖医療を積極的にやりたい医師が確かめるのは良くありません。マッチポンプになりますから、嘘も出てくるだろうと考えています。実は細胞には間違いが多いし混じり物も多いという実態を市民の方々にも良く知っておいて欲しいという意図で本書を書いたということです。私達は、今後そうした問題が出ないようにガイドラインの作成をしたりする仕事にもかかわることになるだろうと思っています。
以上、ご批評への御礼方々私の考えもお知らせいたしました。今後とも宜しくお願いいたします。
以下、当方からの公開返答(レス)など。
... 以下つづき...

iPS細胞などのセンセーショナルな科学像に幻惑されている市井の人々が、見て知っておくべき大事な内容が詰まっている貴重な一冊だと思います。
●市井向けの発信経験が少ない場合、このような取り上げようをされてしまうとギョッとするかもしれませんが、巷の感想文ごっこはこんなモノなのかとご寛恕いただければ幸甚に存じます。
●当該書は一般の人でも手に取りやすい体裁の書籍であるわけで、想定される読者層にはヒーラ細胞やコンタミの問題自体を知らない人もたくさんいます。当方としても、象牙の塔内部の人間ではないわけで、内部では何が常識であるのかについては詳しくありません。内部と外部の常識の齟齬観察が趣味だったりしています。
●当方は、書籍を紹介するときは、ある程度ビビッドに方向を絞り込んでから書き記す傾向があります。やりすぎ一歩手前の誇張をかけたほうが、ネットワーカーの興味を惹きやすいし、書籍自体の印象も強く残せる。
『細胞バンクの舞台裏』の場合は、これまでさまざまなバイオ・生化学方面の書籍を拝読してきた中、こういうトーンの書き物は実際たいへん珍しかったわけで、その謙虚さ(ほめてます)を強調する方向で絞り込みをかけました。
書きように対する批判のつもりではなく、ひとつの感想文”芸”として、対象著作の特徴を引き出す演出をかけています。
●(私信で)山中氏のiPS細胞でも、なんぼか細胞の素性が疑われたのだというエピソードの紹介ありがとうございます。現場の展開に目がキラキラしてしまいます。長くその仕事にたずさわられ、おいしいエピソードはたくさんお持ちのことと思います。
裏方職人や執事さんあってこその表舞台。
興味を惹くツボ、「市井の人間が面白がるツボ」をうまく操作し表現する機会が増えれば、業界内部だけでなく、隣接分野や行政からの理解と協力をより取り付けやすくなると思います。
●しかし・・・
(私信で)預かった細胞を使って我々が研究をしてしまうと預けてくれた先生方に申し訳が立たないので、執事に徹するのが最善なのだ・・・とは、
うわー。。。
先日、

水澤さんは語りたいお話をたくさんお持ちのようです。
さらなる単著や講演会なども期待してしまいます。
私信の追記に伴い、当該エントリは多少更改を加えました。
※ 基本的に、うちは閲覧数のわりにはやたらコメントが少ないブログです。第三者からのコメントがなくても落胆しないで下さい。>水澤さん

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







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