科学者として成功する素質を備えるべく自分を磨く
自分を科学の世界で通用する商品にする
自分が高く売れそうなマーケット(分野)を選び取る
伸びが期待できない科学の分野には飛び込むな・・・
それが科学者の生きる道。

『科学者として生き残る方法』
フェデリコ・ロージ、テューダー・ジョンストン著
日経BP社 (2008/6/5) [ Amazon ] [bk1]
ええっ!? 生き残れないとどうなっちゃうの!?
まあ、そこはどうなるかは火を見るよりも明らかなんだけど、とりあえずこの本は「科学者として充分やっていきたい、失敗せずに人なみに科学者として生きていきたいという志を持つ人」にむけた、国際的視野を持つ先輩さんからの真摯で実践的なアドバイス本。
「科学者としてやっていきたい」わけではない人にとっては、「科学学徒の人生構築ってこんななのか」と科学の観察に便利なヒントをいろいろくれる、(地味だけれど)味わい深い面白本。
自分のキャリアに関心を持て。漫然と科学をするな。残業したくないヤツはヨソへいってくれ。
科学者として生き残るための三つの基本原則はこれだ。 (p.16)
1●オノレを知れ!
2●基本スキルを身につけろ!
3●隣人を知れ!
... 以下つづき...

【科学者として生き残るための基本原則その1:オノレを知れ】
科学というゲームのプレーヤーとしての自分自身を知っておく。
基本的に、この『科学者として生き残る方法』の著者さんは、研究をものすごくエンジョイしていて、日々エキサイティングに仕事なさっているらしい。

君は科学に情熱を捧げられるか?
・科学研究の世界は、チャンスに満ちており、チャンスをめぐる競争にも事欠かない世界!(p.19)
・科学者の作業は多岐に渡り、長時間労働はあたりまえ。週末にも仕事が途切れることはめったにない。(p.30)
・複数のアプローチが同時進行する活気にあふれた研究プログラムなら、毎日が驚きの連続だ。(p.30)
・いつもなんだかんだ気をそそられる作業はあるし、新しいアイデアや課題もどんどん浮かんでくる。新しい発見はしょっちゅう。刺激的でやりがいがある仕事なんだ。(p.33)
向いていない奴はあきらめろ。
・金持ちの有名人になりたいのなら、ほかの道へ行け。(p.29)
・定時勤務で終わるような仕事が好きなら、ほかの仕事へ行け。(p.30)
・安定したルーチン作業がないと不安になるようなら、科学の世界での成功を夢見るな。
・この本は、科学の世界で自力で梯子をよじ登って成功をつかもうとする人たちの役に立つべく書かれたものなのであって、9〜5時ですむという例外的な科学研究については扱わない。

・科学は競争の世界なのだから、人並み以上に研究をしないとやっていけないのだ。(p.34)
『科学者として生き残る方法』の著者は、お二方とも物理学畑の人であるわけで、
著者 フェデリコ・ロージ : イタリア出身1972年生まれ 物理学
著者 テューダー・ジョンストン:カナダ出身1932年生まれ 物理学
物理学方面は、競争や名誉、自己主張のとんがった学者が多めの分野。その影響が出ていないとはいいきれないのかも。
本書『科学者として生き残る方法』は、おおむね汎用性が高くなるように「科学研究に進む人全般向け」に記してあるようだけれど、「例外的な研究については省く」と宣言してあるように、ほかの分野では微妙に事情が違うんちゃう、めいた点がいくつか・・・。ほかの分野の先輩が記したなら、なんぼか違った内容になるのかもしれない。
将来に向けてのプランを立てるには、まず自分自身の可能性を見誤っていてははじまらない。
何をしたいのか、どんな理想を目指すのか、自分は何を心地よく感じる人間なのか、おのれを知ってから、進路を選びなさい。
この、「おのれを知れ」に関しては、「科学できるほどの知的才能があるかどうか」という面ではない。
科学の成功を支える全力投球な暮らしの形に、自分は喜んで耐えていけるのか? という、性格の部分に絞ってあるように思う。
実際の暮らしに耐えられるのか。おのれを知ってから、そのおのれがうまく活躍できるコースを選べと。

【科学者として生き残るための基本原則その2:基本スキルを身につける】
科学に必要な基本スキルって何だ?
間違いなくスポイトで液を垂らす腕前? 顕微鏡を覗くコツ?
そうではなく、科学に必要な基本スキルは
・モチベーション
・我慢強さ
・チーム能力
なんだそうだ。
役に立ちたいか、耐えられるか、協力できるか。
科学研究発表のゲームの中で、実際の研究以外で必要とされる諸般のスキル。
科学研究といえども社会的活動のうちだから、研究を進めるにあたって社会的スキルは欠かせない。
この3つの基本スキルは、身につけられる。訓練しだいで能力アップが可能。経験値を積めば達人になれる! 科学を目指すならこの3つの基本能力を伸ばすんだ!
著者は『科学者として生き残る方法』の中で
・頭がよければ科学で成功するとは限らない
・研究に必要な素質は訓練や学習で伸ばせる(p.37)
・それら訓練可能な素質によって成功した科学者はけっこういる
と鼓舞する。
・人が読みたくなるような論文を書く技術
・楽しいセミナーを構成する技術
・面接でのふるまい
・他の科学者と個別に接触して自分のプロフェッショナルな野心や自分の研究を前進させる技術
なんかも、科学での成功を大きく左右する大事なスキルだそうです。・・・エンタテイメントの才能??
研究でひらめく才能があっても、これらおもてなしの技量がダメダメだったら、科学的成功は望めない。
礼儀作法がアサッテなマッドサイエンティストが生きていける時代は終わってますか?
訓練しておきましょう。
「基本原則その1:オノレを知れ」にもつながりますが、何かのお試しプロジェクトやバイトに参加するなどして、自分に何ができて何が欠けているのかを、あらかじめ確認しておくようアドバイスされている。

【科学者として生き残るための基本原則その3:隣人を知れ】

教授、先輩、共同研究者、同僚、そしてライバルや先発の研究者たち・・・
きちんと仁義を切らないと、(科学の世界でなくてもそうなんだけど)えらいことになる。
日本、アメリカ、カナダ、ヨーロッパではそれぞれこんなに科学事情が違うんだよ、とか、科学の査読システム(ピアレビュー)はほかにもっとマシな方法を誰も思いつかないから仕方なく続いているんだよ、とか、「飽和している分野(もう人大杉で新しい発見のチャンスが無理目な分野)は選ぶな!」とかいろいろ興味深い科学業界の内情指南と実際的なアドバイスが続きます。
面白かったのは、科学業界特有の事情としての、引用仁義の話。(p.184)
科学では、論文を書くときに、関連している自他の先行する研究や論文について、引用をつけて紹介するのが通例になっている。この引用紹介をうまいことやっておかないと、「科学的に」いろいろヤバイらしい。
基本的に、科学者は、自分の研究がほかの論文で引用され紹介されていると、喜ぶ。

引用をされると、科学業界ではオリコン的存在の「たくさん引用されている論文ランキング(インパクト・ファクター)」がアップするし、何より引用は「私はあなたの研究に対して好意的です」という業界内のラブレター的な効果があったりする。引用をきっかけに、ライバル同士が協力研究者としてタッグを組み、さらに研究が進む!というケースも紹介されている。
逆に、引用を忘れたときには恐ろしいことが起きかねない。

自分の研究分野で敵を作りたければ、先行する研究者やその業績への言及を忘れるのが手っ取り早い。(p.184)
お偉い先生の論文について引用を添えるのを忘れていたために、こいつはワシを無視するのか!と就職の話がおじゃんになる!
引用の際に辛辣な論評を付け加えたりしないこと。
論文上での批判は、長い目で見て自分の業績にマイナスにならないと確信できるときのみにしたほうがいい。
引用はケチらず気前よく。ケチれば、トラブルのもとになる上、不必要な恨みを買うことになりかねない。(p.188)
特に、著者のフィールドである物理学分野には、プライドが高くとんがっている科学者がぶいぶいいわしていたりする。いったんこじれると、そのお怒り科学者が高い地位にいたりした場合、引用をどじった研究者のお先は真っ暗なことになりかねない。
はいはい真夏の怪談。

引用やレファレンス、ピアレビューなどに関連するエントリ:

1●オノレを知れ! (自分の性格はわかってますか)
2●基本スキルを身につけろ! (経験値の積み方はわかりますか)
3●隣人を知れ! (業界事情や仁義の切り方をチェックして)
ここだけを見れば、科学に限ったお話ではないですね。社会でフツーにやるための基本だ。
この本『科学者として生き残る方法』は、ツカミの冒頭部分で
「自分という商品をどの分野に投資してリターンを確保するか」
みたいな話から始めてます(科学に自分を投資する!?)。
これは欧米的事情からなのか、物理学(やバイオなどのテクノ系)業界に由来する感覚なのか、それとも科学研究に限らずリクルート業界ではどこもこんなのがアタリマエの感覚だったりするだろうか。
とりあえず、論理的でコツ豊富。読めば明るくやりがいのある未来が開けてくる感じ。
当該書の目次はこちら。
いかがですか。
当事者のみならず、親戚知人に研究者がいる人、お子さんが科学者になる可能性がある人、チェキしておくと吉かも。

![[ EP: 科学に佇む心と身体 ]](http://homepage1.nifty.com/NewSphere/transparent.gif)







次の記事 













