[ EP: 科学に佇む心と身体 ]

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乳房を小さくする手術が失敗するとき

カテゴリ[科学に佇む2008年] 2008/07/28
◆ 現代思想 2008年5月号 アントニオ・ネグリ
●本 青土社「月刊 現代思想」
  2008年5月号 特集『アントニオ・ネグリ』


 巻末に1ページだけ載っている
■ 吉野靫 よしのゆぎ 「GIDID」
という短いコラムがミョーにひっかかる。

 ・GID(性同一性障害)と診断された。
 ・ジェンダー規範から自由でありたい/ジェンダー枠に回収されていくGIDがもどかしい
そのへんはわかる。

『お前はGIDではないと言われるなら、それも一向に構わない。私はそれ以外に、帰る場所をたくさん持っている。『逆の性』に同一化しようと汲々とすることがGIDの証明であり、覚悟であるという言説は嘘っぱちだ。当事者の持つ多様なニーズと多様な指向は、常に都合の良い方へと誘導され、縮減されていく。私は、『私は男(あるいは女)』と言わされ、男女という制度に加担させられることを拒否する」といったところである。GIDへの思い入れはなくなっていたのだが、胸が膨らんでいる体とだけは折り合いがつかなかった。そこで、利用可能なツールとして正規医療を使い、大阪医大で乳房切除手術を受けた。』

あー、体躯前部の脂肪のコブがでかい場合、邪魔でウザイことがあるんだろうね。胸のコブの有無/大小だけで特定の意味枠を押し付けられることも、生きていく上でかなーり邪魔でウザイもんね。
で、乳房のボリュームを減らす手術を受けた結果、

 ・手術が失敗し、縫合部は壊死した。
 ・やむなく提訴した。(いやいやながら提訴した)

えええええ。uhee

... 以下つづき...

〓〓〓 EP 〓〓〓

◆ 新井 祥 性別がない
●施術はどうだったのか
 縫合部壊死って、乳首が腐って落ちるアレだよね?
 新井 祥(「性別がない!」の著者/第2巻収録のエピソード)が、縫合部壊死で乳首を失った自分の体験をネタにしていたんで、
 → 『 性別が、(前置きも)ない! 両性具有の物語 』
そんなん、コブとり手術ではフツーにあることじゃないか、と思っていたんだが(乳房を小さくする手術においては、わりとよくある「悪い結果」とのこと)。それが提訴とは。リスクについてこの患者さんは納得せぬまま施療を受けたのだろうか?

●乳首はどうだったのか
 縫合部壊死って、乳首が腐って落ちるアレだよね? だとして。
 裁判沙汰にまで持ち込むほど「乳首」って重要でこだわるパーツだったのか!?と、かねてより「俺乳首いらねー」と思っていたぶんにはかなーり理解できず。
いや。「理解できず」という部分は否定ではなく、「意外」だったので。へぇー、そういう流れってのもあるんだなーと。そういえば、「性別がない!」の著者も、失敗手術を行った医師の元で「乳首の再建手術」を受けている。そうか、やっぱないとダメなのか、乳首。ase

以上は「GIDID」という短い寄稿を読んだ範囲での感想。
ネットを見てみた。

リンク 性同一性障害と診断を受け、乳房の切除手術を受けた大学院生吉野靫さんが医療ミスで皮膚壊死に
 ・縫合部が左右とも壊死
 ・壊死の危険性について事前に何度も確認したが、医師は否定した
 ・手術前夜に手術の方法を変えた
 ・皮膚のはく離範囲を広く取りすぎるなど手術に過失があった
 ・手術後に異変を感じて壊死の可能性を尋ねたが、医師は適切な対応や精神科への連絡をせず、突然壊死を告げた
リンク 医師間連携の不足で精神的苦痛を被ったとして、大阪医科大に約3300万円の損害賠償請求
 ・医師は手術前に壊死の危険性を否定した
 ・執刀医は経験不足で、手術部の血流確保が不十分だった
 ・精神科への連絡など、医師間の連携が欠けていた
「精神科の主治医は手術が施されたことすら知らず、チーム医療は名ばかり。可能な範囲で満足のいく体が欲しいという願いが裏切られ、大きな精神的苦痛を受けた」
リンク 公的医療信頼裏切る『 山本 蘭の活動日誌 』
 ・国内の公的機関は技術も対応も未熟
 ・大阪医科大は、乳房の切除手術は吉野さんが初めてだった。(!)

 これらの記事の日付は、去年2007年の3月です。つまり提訴は一年以上前の話。本年5月の『現代思想』のコラムで見る限り、まだ決着はついていないらしい。

 リンク 当事者 吉野靫 よしのゆぎさん

 ご本人は、縫合部壊死がこの手術でありがちなことを知った上で、施術前にお医者に念を押している。そのうえで「裏切られた」わけだ。こりゃしんどい。
 成功失敗がどうの以前に、サービス業としても医療としても、こういうリアクションを引き起こしてしまうのはまずいわー。でもって、GIDに限らず、遺伝医療などでも、日本は「チーム医療」(さまざまな分野の専門家が協力&連携する)がまだまだおそまつな発展途上をハイハイ中だという話は、各方面でちょくちょく見聞きするし。

●乳首は乳首はどうだったのか
 などといいつつ 乳首にこだわるヘンタイ雨崎ですが、ネット検索した範囲では、実際にはどのような縫合部壊死であったのかは確認できず。この事件をもってして乳首乳首というのは的はずれである可能性は大きいとお考え下さい。
 m(__)m

〓〓〓 EP 〓〓〓

●同一(アイデンティティ)の対象は規定されるべきか
 リンク山本蘭の活動日誌 には、こう書かれ、
『(吉野靫さんの)「男性に同化したいわけではない。ただ、個人として満足のいく体がほしい」というコメント。
これでは、性同一性障害の診断基準「A.反対の性に対する強く持続的な同一感」を満たしていないということになってしまうのでは。。。
これは、色々な意味でとってもまずいような気がします。』

およびその派生コメントがついている。

 男性への同一化という性同一性障害基準に当てはまらない(誤診?)ケースなのに、GIDの公的制度を使って手術を受けた。それは「単なる美容整形」とどう違うのか、そういうツッコミを許してしまう事態なのか。
 ヤオイ世界のノンジェンダーへの憧れとどう違うのか、そういうむちゃくちゃさ(けなしてはいない)がキテいるのか。

 自分としては、これはGIDの枠だけではなく、
 ●● 『アブダクション(宇宙人誘拐)とバカすキツネの共通点』
 → 『 豊胸手術と自殺の共通点 』
の流れで解釈したくなってくる。お悩み解決ツールとしての、身体改造(いや、身体開放か)。
 当事者にはたいへん失礼かもしれないが。bow

 男性への同一化/女性への同一化、という強迫観念?押し付け?息苦しさ?の問題も大きいからこそ、ヤオイ世界的ノンジェンダーという解決策(開放のビジョン)があるのだが。

 当事者が裁判という手段を採ったことに対する批判もあるのか。
  共感脳的には、裁判という対立ではなく共闘で運動を盛り上げて事態の改善を、のほうが良い策に思えるのかもしれない。(共闘が心地よい)
 男寄りの脳を持つ女の場合は、多様な人間と共闘するよりは、自分の有り様を相手にぶつける一騎打ちのほうが、シンプルで取り組みやすいだろう。(共闘がウザイ)
 なにより、共感(同一化に流される)傾向が低くシステム脳が勝っているからこそ、女性でもなく男性でもない、安易な自己同一化を拒むポジションで我を張っているのであって。

A●公的制度が対象にするモノ(この問題に対する外野のツッコミ)
 アノマリーの中にもさらにアノマリーがある。そういうみそっかす扱いされる者が、「立派な」アノマリーたちのために作られた/特定のお客さん向けのGID医療制度を使ったのがいけなかったのか? 

B●自分のあるべき姿と既存の枠(この問題に対する当事者の内省)
 自分の身体に美を期待するのではない身体改造欲求と比較してみた場合、手術の失敗によって失ったモノと得たモノは何なのか。
 自分は身体改造によって「どうなりたい」と未来にビジョンを投影したのか。自分の身体に美の期待を投影して「開放感」を得ようとする場合、どのような既存の物語に沿ってそれを美/開放とみなしているのか、自分の視野から切り離せるか。
 また、その行動と規範が、はたからヤオイ的ナルシスムに塗り込められて扱われるという事態があったりはしないか。

 ジェンダーアイデンティティの問題は、万人が巻き込まれる深刻にあやふやなバトルフィールド。

 ヤオイ影響を凌駕するジェンダーブレンダーが存在するならば、幸あれ。

 「最初に」施術を受ける猛者に、幸運あれ。


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メタル
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1707 #- コメントアンカー ヨシノユギ さんのコメント 【2008/08/06】 URL [編集]

こんにちは。
ちゃんと色んなソースを見て下さって、ありがとうございます。

一部壊死(乳首が落ちる)は比較的多い症例です。しかし私の場合は、縫合部が全て真皮から壊死しました。つまり左胸は、ケロイドだけが残って何もない状態、かつ、えぐれと引きつれがあります。
医師が私の質問に注意深くあり、壊死の兆候に気付いて血流回復(糸を一旦切るなど)をすれば、表層壊死で留まった可能性があります。これも被告の過失のひとつと考えています。
埼玉医科大のチームの報告では、100例以上の手術で、全層壊死を起こした事例はありません(部分壊死が1例)。主治医に執刀経験を訊ねたとき、埼玉医大で20例程度研修したと言っていましたが、私の結果を見れば、まだ執刀医となる力量はなかったのかもしれませんね。

私自身は、もはやスペースコブラのように左胸を武器にでも改造したい気分ですが、「公人」の立場では、それはなかなか言えません。
ともかく「GID医療がヤバい」ことは間違いない事実ですので、原告として、院生として、「どちらでもない」からこそ言えることを言っていくつもりです。
面白がって頂ければ祝着にございます。

1823 #MJWiGxv6 コメントアンカー 雨崎 さんのコメント 【2008/08/06】 URL [編集]

お立ち寄りありがとうございます。
当方は幸いにいわゆるナイン(死語?)で、胸に関してはブラも必要ない者です。
うかがうに、そーとーひどい結果ですね。
 久坂部羊『大学病院のウラは墓場 医学部が患者を殺す』幻冬舎新書 2006年
をモロに思い出してしまう。orz 和解もしくは決着の道はまだ遠い状態なのでしょうか。
東南アジアのほうが心的フォローでも事例経験の蓄積でもずっと上であるところを、諸般考慮して、日本の公的制度を利用なさったわけですよね。
日本で公的に施してくれる側(行政や大学病院)では、施術を受けに来る当事者に対し、コミュニケーションで気後れや拒否感を示す気配はありますか。
世間の風当たりはどうでしょうか。協力者には恵まれていますか。

・・・しかし、そこでよりによってスペースコブラが出てくるって、どんなイメージなんだ。(@_@;

1843 #- コメントアンカー ヨシノユギ さんのコメント 【2008/08/06】 URL [編集]

 お返事ありがとうございます。
 コブラは、サイコガンが格好いいじゃないですか(笑) ブラックジャックでもいいですけど。アトムやデビルマンや009など、人に近似しつつ人ではない身体について、興味を深めています。

 ところで裁判は、まだ書面交換の段階です。一般的に医療訴訟は、一審判決が出るまでに短くとも2年が平均です。特にこの裁判は先例もありませんし、手術の失敗による「損失」「逸失利益」を、裁判官にどう伝えるかが重要だと思っています。
 ご質問の公的医療の内実に関しては、現代思想3月号に掲載された拙稿「GID規範からの逃走線」に割と書きましたので、お暇ならお目通し頂ければ幸いです。

 協力者に関しては、一応、支援事務局があります。(http://www.geocities.jp/suku_domo/ )
 こちらもよろしければ、ご覧下さい。

 それにしても、凄いアクセス数なのですね。御紹介頂いて、ありがとうございました。

1942 #MJWiGxv6 コメントアンカー 雨崎 さんのコメント 【2008/08/06】 URL [編集]

うち的には、寺沢武一のジェンダー観に強い抵抗があるのでw (昔本人に会ったことがあるんだ)
しかしサイバーパンク以前のレトロキャラ連発ですね。ブリアレオスはどう?

検索は「ヨシノユギ」でサーチすれば良かったんですね。漢字で検索したので斜めアサッテの方向を閲覧してました。m(__)m
よっしゃ、「ヨシノユギ」方向でしばらくネットサーフしてみます。

2052 #MJWiGxv6 コメントアンカー 雨崎 さんのコメント 【2008/08/06】 URL [編集]

発掘しました。
『診断も受けていない人間がGID(性同一性障害)のような振る舞いをすることは、「本物のGID」の信用を下げる、というのである。おそらくここに含意されるのは、正規医療によって担保されたものが壊されることへの恐れであろう。』 〜「GID規範からの逃走線」

このパターンはアスペルガー症候群の現場でも観察されますね。診断を受けていないと発言権ももらえなかったりする。
医者が当事者の現場を理解していない例は、聴覚障害&遺伝子診断の現場などでも観察されます。
http://ep.blog12.fc2.com/blog-entry-995.html#japan

このコメントは返答を要求しているわけではなく、上掲諸文への補足的なカキコです。

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